Author Archives: 良人平林

SDGインパクト基準13 | 平林良人の『つなげるツボ』

—————————————————————
■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.360 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** SDGインパクト基準13 ***
—————————————————————
前号ではSDGsの目標7(エネルギー)についてお話をしました。
再生可能エネルギーを増やすという世界的な目標への日本の状況を
お伝えしました。
本号では世界各国の動きをお話ししたいと思います。
繰り返しになりますが、SDGsは“Sustainable Development Goals”
の略で、「持続可能な開発」と日本語訳されています。

■■ 目標7 ■■
目標7. すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エ
ネルギーへのアクセスを確保する。
<7.1 2030年までに、安価かつ信頼できる現代的エネルギーサー
ビスへの普遍的アクセスを確保する。>
<7.2 2030年までに、世界のエネルギーミックスにおける再生可
能エネルギーの割合を大幅に拡大させる。>

■■ 欧州主要国の再生可能エネルギー割合 ■■
前号のとおり再生可能エネルギーの活用は日本でも進んでいます。
しかし、国内で使われる発電量全体に占める再エネの割合はまだ
18.5%にすぎません。「脱炭素化」が進む欧州などに比べると遅れを
とっているのが現状です。

日本の再生可能エネルギーの割合は、前述のとおり世界の現状と比
べると残念ながらまだ低いと言わざるを得ません。
欧州の主要国および中国、日本の発電量に占める再生可能エネルギ
ーの割合は以下のとおりです。


出典:環境NPO法人 環境エネルギー政策研究所「2019年(暦年)」

日本は2030年に再エネを国内発電量の22~24%に引き上げること
が目標です。
これに対し、欧州の主要国では、フランスで同じ2030年に40%、
ドイツは2035年に60%をめざすなど将来目標でも日本を上回る高
い水準を計画しています。この目標を見る限り、日本は今後10~20
年は再生可能エネルギーで世界主要国の後塵を拝することになりそ
うです。

■■ FITで増加した太陽光発電 ■■
まだまだ世界では低レベルの再生可能エネルギー発電量ではありま
すが、再生可能エネルギー発電比率は2010年では9.5%と日本国内
の発電量の1割にも満たない程度でしたが、この10年で2倍近くに
急増しました。なぜこんなに再生可能エネルギー発電が急増したの
かには理由があります。

2011年3月に起きた津波による東京電力福島第一原発事故では、
放射能汚染で大きな被害を出しました。この影響で各地の原子力発
電所は安全の見直しのため稼働が停止され、一時は原発の発電量が
国内でゼロになりました。火力発電により発電量を確保しましたが、
この対策は化石燃料を燃やして温室効果ガスの排出を増やすことか
ら、温暖化防止をめざす国際的な枠組みに反します。

そのため、原発に代えて再生可能エネルギーによる発電を普及させ
ようとして導入されたのが「固定価格買取制度(FIT制度)」でした。
FIT制度は再生可能エネルギーで発電した電気を、電力会社が決め
られた期間、一定の価格で買い取ることを国が保証することで、発
電コストが当初高いと見られた再生可能エネルギー発電の普及を支
えるのが狙いでした。買取価格が見通せることで事業計画が立てや
すくなり、「再生可能エネルギー特別措置法」(FIT法)が施行され
た2012年7月以降、再生可能エネルギー発電事業に参入する事業
者が急増しました。これに伴い、再生可能エネルギー発電の設備容
量が2012年以降増加したのです。

■■ 再生可能エネルギー:風力 ■■
しかし、再生可能エネルギーの発電方法については、太陽光だけで
はありません。再生可能エネルギー割合の高いデンマーク、オース
トリア、スウェーデンなどの国では、太陽光ではなく、風力による
発電を大幅に増やしCO2発生の抑制に貢献しています。
日本でもこれからは陸上、洋上を問わず風力発電に力を注いでいく
べきであるという意見が多くあります。

SDGインパクト基準12 | 平林良人の『つなげるツボ』

—————————————————————
■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.359 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** SDGインパクト基準12 ***
—————————————————————
2015年に発表された国連「SDGsアジェンダ」についてお話をして
います。
SDGsとは、
“Sustainable Development Goals”の略で、「持続可能な開発」
と日本語訳されています。

350号で17目標の全体像をお伝えしましたが、その後から一つひと
つの目標に関してお話をしています。今回は目標7についてです。

■■ 目標7 ■■
目標7. すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネ
ルギーへのアクセスを確保する。
<7.1 2030年までに、安価かつ信頼できる現代的エネルギーサービ
スへの普遍的アクセスを確保する。>
<7.2 2030年までに、世界のエネルギーミックスにおける再生可能
エネルギーの割合を大幅に拡大させる。>

近代的なエネルギーとは電気です。産業界におけるエネルギーには電
気の他、重油、天然ガス、石炭であったりしますが、我々市民が使う
現代的エネルギーは電気です。

■■ 再生可能エネルギー ■■
電気は石炭、重油、天然ガスなどから作られますので二次エネルギー
と呼ばれています。電気のもとになる、石炭、重油、天然ガスなど一
次エネルギーは総て地球の地殻から産出されています。一度使ったら
元に戻すことはできません。それに対して「再生可能エネルギー」は
何度でも使うことが出来るものです。
エネルギー供給構造高度化法では、再生可能エネルギーのことを「太
陽光、風力など、エネルギー源として永続的に利用することができる
と認められるもの」と定義しています。
石炭、重油、天然ガスなどは、化石燃料とも呼ばれています。細かく
言いますと再生可能エネルギーは、太陽光、風力の他水力、地熱、太
陽熱、大気中の熱、自然界に存する熱、バイオマスによって作られま
す。バイオマスとは植物のことで木材を燃やして得られるエネルギー
だと思えばよいと思います。
太陽光、風力などは枯渇する心配のないエネルギーです(正確には太
陽が存在する限りは)。これらのエネルギーは化石燃料と違って、地
球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出や、環境への負荷がほぼあ
りません。何度も繰り返し作ることができるため、再生可能エネルギ
ー(再エネ)と呼ばれているのです。

■■ 再生可能エネルギーの比率 ■■
日本で使われている電気エネルギーのうち、どの程度が再生可能エネ
ルギーによってまかなわれているか調べてみました。
環境エネルギー政策研究所の調査結果を示します。
2019年度、日本の発電量に占める再生可能エネルギーの割合は18.5%
です。過去6年でこの割合は6%ほど増加していることがわかります。
中でも太陽光発電の割合が1.9%から7.4%へと増加しており、再エネ
割合全体の増加を牽引しています。

再生可能エネルギーは、資源の少ない日本にとって国内で生産できる
貴重なエネルギーです。そのため、再生可能エネルギーの利用を増や
すことは、環境負荷の低減はもちろんですが、日本のエネルギー自給
率を高めることつながります。

SDGインパクト基準11 | 平林良人の『つなげるツボ』

—————————————————————
■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.358 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** SDGインパクト基準11 ***
—————————————————————
2015年に発表された国連「SDGsアジェンダ」についてお話をして
います。
SDGsとは、
“Sustainable Development Goals”の略で、「持続可能な開発」
と日本語訳されています。

350号で17目標の全体像をお伝えしましたが、その後から一つひと
つの目標に関してお話をしています。今回は目標6についてです。

■■ 目標6 ■■
目標6. すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確
保する。
<6.1 2030年までに、すべての人々の、安全で安価な飲料水の普遍
的かつ平等なアクセスを達成する。>

21世紀に入って飲み水の枯渇が心配されています。世界的に降雨の
偏りが以前に比べ大きくなっていることもあって、地域によっては今
後の心配を加速させています。
国土交通省の統計によると、日本では1日に1人あたり、およそ300
リットル近くの水が使われているそうです。日本では「飲み水に困る」
ということは夏の異常気象以外ではあまり考えられませんが、世界で
は水不足が深刻化し、清潔な水が確保できない地域が少なくありませ
ん。水不足が原因で紛争が起こる場合もあり、今、世界の水不足問題
の解決が急がれています。

■■ 水不足の現状 ■■
国連の「世界人口白書2021」によると、現在の世界総人口は78億人
です。現在、その約半分の36億人が水不足に悩まされており、今後も
増えると予測されています。この状況が続けば、2050年には約97億
人になるとされる世界人口のうち、約半数50億人もの人が水不足の影
響を受けるのではないかと予測されています。

ユニセフによると、世界の約20億人が安全に管理された飲み水の供給
を受けられていません。菌に汚染された水を飲むなどで、アフリカでは
急性の下痢などを引き起こすコレラが流行し、多くの死者を出したりし
ています。世界では、その水が危険だと分かっていながらも飲まざるを
得ない人々が多くいるのです。水不足は現在に始まった問題ではなく、
過去にも深刻な被害をもたらしてきました。国同士の紛争に発展したこ
ともあります。水資源配分の問題(湖や河川の上流地域での過剰取水)、
水質汚濁の問題(上流地域での汚染物質排出など)、水の所有権・水資
源開発の問題などが主な原因です。

■■ 水不足の要因 ■■
地球温暖化による気候変動が一つの原因となっています。温暖化は降水
量だけでなく、雨の強さや頻度も変化させています。降水パターンが激
しく変動するため、季節や月ごとで見ると、水不足に悩む地域が出てき
やすくなると言われます。雨だけではなく、気温上昇による積雪の減少
や雪解けの早まりは、春夏の水源量に大きく影響します。
工業化の進展も水不足の要因の一つです。多くの産業で水が多量に使用
されています。さらに都市化による開発などで森林伐採が進み、水を蓄
積していた森も減少したりするなど、自然の貯水機能の破壊も原因とな
っています。
「水の使用量が増えること」の背景には人口増加と産業発展があります。
先述した通り、世界の総人口は2050年には約97億人に増加すると予測
されていますが、人口が増えるほど水の使用量は増えます。水は限りあ
る資源であることを忘れずに対策を考えねばなりません。

■■ 水不足への対策 ■■
日本の水処理技術は、世界で深刻化している水不足問題の解決に役に立
つと言われています。地球上の水の97%は海水ですが、この海水を飲み
水に変える技術、すなわち淡水化技術が日本にはあります。また水の循
環システムも期待されている技術で、下水が注目されています。この下
水の浄化処理には日本が開発した膜分離活性汚泥法などが有望視されて
います。

AI(人工知能)をはじめとするICT技術も今後の水不足問題を解決に導
く鍵となっていくと言われています。例えば、AIが気象などさまざまな
データを組み合わせて水需要を予測し、配水計画をリアルタイムで自動
生成することで、常に最適な水の供給制御を可能にするといったシステ
ム構想です。

■■ 水日常生活での工夫 ■■
誰もが歯磨き、洗濯、トイレ、入浴など、生活のあらゆるところで水を
使用します。その際、使用を最低限に抑える節水を心がけることを世界
中の人々が日常的に行う仕組みが出来ることが期待されます。
一人ひとりが節水を習慣にするには何らかの工夫が必要です。世界が水
に困るようになると何らかの規制が行われるようになると思います。温
暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)の排出を抑えることと同様な動き
が将来起こるでしょう。日本では、水不足の問題は遠い国での出来事の
ように思えますが、水も自然にある資源であり、循環していることを忘
れてはなりません。

SDGインパクト基準10 | 平林良人の『つなげるツボ』

—————————————————————
■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.357 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** SDGインパクト基準10 ***
—————————————————————
2015年に発表された国連「SDGsアジェンダ」についてお話をして
います。
SDGsとは、
“Sustainable Development Goals”の略で、「持続可能な開発」
と日本語訳されています。

350号で17目標の全体像をお伝えしましたが、その後から一つひと
つの目標に関してお話をしています。今回は目標5についてです。

■■ 目標5 ■■
目標5 . ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児のエンパワ
ーメントを行う<あらゆる場所におけるすべての女性及び女児に対す
るあらゆる形態の差別を撤廃する。>

最近「ジェンダー(Gender)」という言葉を聞きます。単なる「男女、
性別、性差或いは性」とは異なる意味を持っているようです。

ジェンダーは、社会的・文化的に形成される性別、つまり、特定の社
会で共有されている価値観を元に決められる役割からくる性別のこと
です。

男は強い、女は弱いなどが一般的な社会的概念ですが、強くても弱く
ても両性は平等であるので与えられる機会も平等であることが目標5
の意味するところです。

私が子供の頃、祖母から男はお勝手(台所)に入ってはいけないと教
えられました。日本には昔から「男子厨房に入るべからず」と言われ
てきた名残りがまだ残っていた時代に育ちました。

■■ ジェンダーギャップ ■■
日本では30,40年の間に男性と女性の区別はずいぶんと是正されて
きました。「男子厨房に入るべからず」なんて言ったら笑われる時代
になっており、「イクメン」と言われる若い人にとっては、料理する
ことは当たり前になっています。

しかし、世界と比べると日本のジェンダー平等はまだランキング下
位にいます。
世界経済フォーラム(World Economic Forum:WEF)では、各国に
おける男女格差を測るジェンダーギャップ指数(Gender Gap Index:
GGI)を発表しています。

内閣府男女共同参画局総務課によると、この指数は、「経済」「政治」
「教育」「健康」の4つの分野のデータから作成され、0が完全不平
等、1が完全平等を示しています。

2021年の日本の総合スコアは0.656、順位は156か国中120位(前
回は153か国中121位)でした。前回と比べて、スコア、順位とも
に、ほぼ横ばいとなっていますが、先進国の中で最低レベル、アジア
諸国の中で韓国や中国、ASEAN諸国より低い結果となりました。

日本は、特に、「経済」及び「政治」における順位が低くなっており、
「経済」の順位は156か国中117位(前回は115位)、「政治」の順
位は156か国中147位(前回は144位)となっています。これは、
各国がジェンダー平等に向けた努力を加速している中で、日本がこ
の分野で遅れを取っていることを示しています。

経済分野では、管理職の女性の割合が低いこと(14.7%)、パートタ
イムの職に就いている女性の割合は男性のほぼ2倍であり、女性の
平均所得は男性より43.7%低くなっていることが指摘されています。

■■ エンパワーメント ■■
目標5には「エンパワーメント」という用語が使われています。
empower(エンパワー)とは、「力(権限)を与える」という動詞
ですが、その名詞形で、一人ひとりが本来持っている力を発揮し、
自らの意思決定により自発的に行動できるようにすることを意味し
ます。

エンパワーメントは、従来自由公民権運動、フェミニズムなど市民
運動の場面で使われた言葉でしたが、現在は社会、組織の中で教育、
福祉、保健医療に関しても使われるようになっています。
組織でエンパワーメントは、「権限委譲」といった意味で捉えられ、
人材育成やマネージメントに関わる言葉の一つになっています。

「権限委譲」した結果、部下が能力を発揮するようになり仕事の遂
行能力が向上すると、組織では部下が「能力を発揮」したと言いま
すが、目標5のエンパワーメントは「すべての女性及び女児」が能
力を発揮することを目標としています。

SDGインパクト基準9 | 平林良人の『つなげるツボ』

—————————————————————
■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.356 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** SDGインパクト基準9 ***
—————————————————————
2015年に発表された国連「SDGsアジェンダ」についてお話をして
います。
SDGsとは、
“Sustainable Development Goals”の略で、「持続可能な開発」
と日本語訳されています。

350号で17目標の全体像をお伝えしましたが、前回から一つひとつ
の目標に関してお話をしています。今回は目標4についての2回目
です。

■■ 目標4 つづき ■■
目標4.すべての人々への、包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、
生涯学習の機会を促進する。

前回は目標4について、開発途上国の教育機会が与えられない子供た
ちの話をしましたが、今回は日本における義務教育について話をした
いと思います。

言うまでもありませんが、教育制度は豊かな人間社会をつくるために
無くてはならないものです。教育が社会に行き渡ることによって、民
主的合意も、勤労者の雇用や、職業の選択・転換も、社会全体におい
て比較的円滑に行われることになります。

教育があってこそ、活発で自由な言論、多様で創造的な発想、多くの
人びとが参加するベース作りなどが可能となります。
 
国民一人ひとりが、教育という公共インフラについて自分で考え、自
分で発信し、たえず教育を「自分たちのもの」として改善していく努
力を続けることが重要です。

自由経済社会にあっては、競争によって個人が抑圧される、貧富に格
差が付くなどの制度的デメリットが存在しますが、そのことで教育機
会に影響がないようにしなければなりません。公共インフラとしての
基盤がしっかりしたものであれば、お金がこの世で一番大切なもので
あるという錯覚もなくなるはずです。

■■ 教育という公共財産 ■■
公共インフラには、学校教育のほか社会保障、保健所、警察、消防、
郵便、公園、上下水道、ゴミ処理、道路や交通などがあり、我々の生
活に不可欠な公共サービスを提供しています。

公共サービスは営利事業とちがって、効率性や利潤を第一目的とする
ものではなく、サービスを如何に向上させるかを意識し第一義とする
ことが重要であると認識されています。

このような公共サービスの中で教育は他の公共サービスと全く異なる
特質を持っています。

鉄道、水道などの社会資本の整備と教育サービスの違いは何でしょう
か。一番大きな違いは、対象が「人の内面」にあるということです。
他のサービスもその対象は基本的には「人」に関することですが、あ
くまでも人の外面であって人の内面にサービスの重点を置くのは教育
だけです。

■■ 教育という公共財産 ■■
公共サービスは、自我の育っていない幼児から、多くのことを経験し
た成人までが対象であり、対象ごとに特化したサービスを提供しなけ
ればならないというのも大きな特徴です。

小学校の学習指導要領には「生きる力を育む」とあります。生きる力
は多くの要素から成り立っています。集団生活や社会の中で生きてい
く為には多くのことを学ばねばなりません。

中学生になると「自分を知る」ことが学習指導要領には出てきます。
中学生にとってみると、自分は曖昧模糊としたもので、自分の思いが
第三者からどう見えるのかはなかなか見えてきません。

自分の心の動き、常に揺れ動く判断、他者からの働きかけで変わって
しまう自分の考えなど、自分とは何者かを考え始めると焦点の結ばれ
た像がどんどん離れて行ってしまいます。

■■ 学校という公共財産 ■■
学校は必ずしも学問を教えるところではありません。本質的には、生
きていく為に必要最小限の事を教えるところです。ところが、学校を
卒業しても満足に生きていくことができない、生活ができない人たち
が増えています。

微分積分ができないからと言って、生きていく上で、支障があるわけ
ではありません。しかし、挨拶ができなければすぐに困ります。学校
で教えるべき事は、「生きていく」為には、何が必要なのかということ
です。

生きるとは生命力の全体的な発揮であり、偏った部分的な発揮では豊
かな人生を送れません。私たちは食べること、眠りにつく家を持つこ
と、愛し愛されることなどを通じて、社会の中につながった基盤を持
って自己実現を図ることができ、そうしたことが生きるということで
あると思います。学校はそのことを教えていく場であると思います。

雄大な山を見たり、森の中を歩いたり、太陽の輝きを浴び、樹々がき
らめくのを見たりする時に生きていることを実感します。学校はそん
なことを教える場になってほしいと思います。