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ISO 9004:2018持続的成功を達成するための指針-21 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.241 ■□■    
**ISO9004:2018持続的成功を達成するための指針-21**
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ISO9004:2018の続きです。前回イノベーションに関して、経団連のSociety 5.0から出島作戦を紹介しました。読者の皆様から、そもそも経団連が公表しているSociety 5.0とはどういうものかという質問がありましたので以下に紹介いたします。

■□■ Society 5.0 ■□■
ISO9004は「持続的成功を達成する指針」ですが、日本においてこの概念を具体的に示しているものがSociety 5.0と言えます。
「Society 5.0」は、狩猟、農耕、工業、情報社会に続く第 5 段階の社会を定義してこう呼んでいるもので、日本政府の総合科学技術・イノベーション会議において日本が目指すべき未来社会のコ ンセプトとして提案されたものです。第 5 期科学技術基本計画( 2018 年1月22日)に初めて提案されています。

■□■ 第 5 期科学技術基本計画 ■□■
Society 5.0を提唱した第 5 期科学技術基本計画は、デジタル技術やデータによって便利になる社会を「超スマート社会」と名づけています。第 5 期科学技術基本計画では、超スマート社会は、「必要なもの・サービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供し、社会の様々なニーズにきめ細かに対応でき、あらゆる人が質の高いサービスを受けられ、年齢、性別、地域、言語といった様々な違いを乗り越え、活き活きと快適に暮らすことのできる社会」と定義し、Society 5.0の一面を具体的に示しています。
デジタル革新によって、誰もが大きな「能力」を手にすることができ、誰もが、志とアイデア次第で、社会を変えるような活動や事業が実現できるようになる社会を狙っています。社会を大きく変えられるのは、時に異端とされるような大きな夢や想像を現実のものとするという人間の力です。
Society 5.0 時代に必要になるのは、社会に散らばる多様なニーズや課題を読み取り、それを解決するシナリオを設計する豊かな想像力と、デジタル技術やデータを活用して、それを現実のものとする創造力です。デジタル革新と多様な人々の想像力・創造力を融合することで、「課題解決」を図るとともに、われわれの未来をより明るいものへと導く「価値創造」をもたらすとしています。

■□■ デジタル革新とは ■□■
革新すなわちイノベーションがデジタルの世界で進んでいます。現在も進行中の IoT、AI、ロボット及びブロックチェーンなどの技術がデータを核に社会を変えていくことをデジタル革新と呼んでいます。データの収集や伝送、蓄積、分析を低コストで大規模に行えるようになったことにより、さまざまな革新が生まれるようになっています。データによって可視化された課題やその解決法などの知識や知恵は瞬時に世界で共有され、経営課題や社会課題の解決につながります。

■□■ Society 5.0の核にあるもの ■□■
まずIoTですが、IoTはモノのインターネットと言われ、あらゆる「モノ」がインターネットに接続されることがこれから起きていきます。IoT 技術の進展によって、これからは社会のあらゆる事象がデジタルデータ化されることになり、デジタル革新の対象がモノ・ヒト・コトに広がることが急速に起きていきます。

■□■ AI(人工知能)とロボット ■□■
AI(人工知能)は 1960 年代に提唱されて以来研究が行われてきましたが、近年、大量のデータを大規模に計算できる環境が整い、深層学習(ディープラーニング)実行を何回も行うことで、人間が行ってきた業務の多くを、AI によって自動化することが可能となってきています。
このAIをロボットに組み込むロボット工学が急速に進んでおり、製造業から始まり、さまざまなサービス分野にロボットの活用が進んでいます。今後、一般家庭や職場、都市空間も含めてあらゆるところで多様なロボットが活躍し、人間が行ってきた定型的な作業は AI とロボットによって代替・支援が可能となっていくと予測されます。

■□■ ブロックチェーン ■□■
ブロックチェーンなどの分散型台帳技術は、効率的な取引や追跡可能性の向上に大きな影響を与えています。ビットコインなど暗号通貨の基盤技術として有名なブロックチェーンは、インターネット上での取引情報の共有などにおいて、高い透明性や信頼性を確保できることから、多様な分野への応用の期待が高まっています。

ISO 9004:2018持続的成功を達成するための指針-20 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.240 ■□■
**ISO9004:2018持続的成功を達成するための指針-20**
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イノベーションに関連して、経団連のSociety 5.0の中に紹介されている出島戦略を紹介したいと思います。出島と言うと長崎の出島を思い起こしますが、まさしく経営本体から離れた独立行動部署を出島と称しています。

■□■ 出島のメリット ■□■
次代を担うイノベーティブな新規事業の創出は持続的成功に欠かせません。出島のメリットは、このような次世代に欠かせない新事業を大胆に俊敏に達成させる企業活動の実現です。大企業には、人材、技術、資金などのリソースが比較的多く存在しますが、社会に大きなインパクトを与える新規事業はなかなか生み出せていないのが現状です。組織内で新商品の開発の提案がされても新規投資予算の許可が下りないことが多くあります。
イノベーションにはリスクが伴いますが、担当役員が個人的にリスクを負うことを嫌がり判断を先送りすることがイノベーションを起こりづらくしています。

■□■ 出島の作り方 ■□■
近年、オープンイノベーションの重要性に対する認識が社会に広まりつつありますが、今まで以上により大胆な体制整備が必要です。
その具体的な戦略として、会社本体と意思決定や評価制度を切り離し、物理的にも距離を置いた異質な組織を「出島」のように立ち上げる方策が考えられています。既存の組織には、複雑な承認プロセスやルール、しがらみなどが多く、迅速で大胆な取り組みには適していない場合が多いようです。
出島を作る場合は、組織本体トップの意思のもとで、出島に権限、人材、資金、技術を投入し、全権委任かそれに近い形を出島責任者に与え、自由に闊達に活動してもらうことが出島づくりに必要です。

■□■ 組織本体との競合 ■□■
イノベーションを起こすためには、ためらいがあってはならないと思います。もしイノベーションの実現に有効であるならば、出島の新事業が既存事業との間で競合することを厭わってはなりませんし、外部との提携、場合によってはM&Aも積極的に行うことが重要です。また、事業化に際して、新事業会社の経営陣や中核人材が、その会社の株式をある程度のレベルまで取得できることも重要です。現状では、社内ベンチャーを興し、成功すれば子会社化することが多いのですが、イノベーション推進者が子会社の株式を取得することまでは行われていません。

■□■ リスクとリターン ■□■
優秀な人材はリスクを負う代わりにリターンを求めます。社内ベンチャーにおけるリターンが少ないのであれば、自分で起業してしまいます。社会的にはそれでも構わないのですが、既存の大企業が自ら変革しようとするならば、その先導的な役割を担う人材には十分なリターンを与える制度の導入が必須です。
具体的には、事業が成功した場合には、IPO または他社による M&A、自社による株式の買い戻しなどを経て、数十億円レベルの資産が形成される制度設計が必要でしょう。
スタートアップして成功した場合、1,000 億円オーダーの資産を作ることも可能ですが、出島戦略でも数十億円規模の資産を得ることができるという制度設計がチャレンジ旺盛な研究者の出現を促進します。数十億円規模の資産は、出島戦略のリスクの低さに対して、十分に大きなリターンといえます。従来の社内ベンチャーの場合、資本比率によっては、親会社の承認プロセスなどにより十分なスピードが出せない場合が多いので親会社の資本比率をできるだけ低くしてマイノリティーとなる勇気も必要です。
大企業の価値は、どれだけの破壊的イノベーションを社会に生み出したかで評価すべきでしょう

ISO 9004:2018持続的成功を達成するための指針-19 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.239 ■□■
**ISO9004:2018持続的成功を達成するための指針-19**
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前回に続きISO9004:2018の革新、ISO 56002:2019「イノベーション
・マネジメントシステム」における要点と、それを超えた他の知見からの
要点をお話しします。

■□■ イノベーションプロセスの要点 ■□■

ISO 56002:2019 では、イノベーションのプロセスの要点を以下のように
説明しています。

a)特定のプロセスの優先的扱い
b)非線型的な順序
c)反復的
d)組織内の他のプロセスと独立
e)組織内の他のプロセスとの繋がり

■□■ 特定のプロセスの優先的扱い ■□■

ISO 56002:2019はマネジメントシステム規格なので、各箇条に必要と
思われるすべての要素を平面的に羅列しています。
しかし、実際のイノベーションの活動においては、あれもこれもという
平面的な取り上げ方では効果的な活動ができません。
特に力を入れなければならないプロセス、項目、要素を優先的に取り上げ、
そこにだけ重点的なエネルギーを注ぎ込んで、シャープに深く突っ込んだ
活動をする必要があると説明しています。

ここでいう特定なプロセスに何を取り上げるのかは、イノベーション
プロジェクトの責任者が深く洞察しなければならないと思います。
対象としている製品開発に必要となるネック技術などは優先的に
取り上げることになるでしょう。

先に話したハイホン、ファーウエイ、サムソンなどの新興企業と異なり
日本の企業には今までの技術蓄積があります。
場合のよってはこの技術の蓄積が邪魔になることがあります。
スタートアップ企業だと必要技術に向かってまっしぐらに研究していける
ところが、歴史のある企業はどうしても過去の蓄積との比較をして時間を
費やすという、結果からみると優柔不断な開発決定になってしまうことが
よくあります。

■□■ 非線型的な順序 ■□■

非線型の英語は non-linear です。リニア新幹線ではないですが、
真っすぐにはいかないということを強調しています。
イノベーションが創造的なものになればなるほど曲がりくねった道に
なることは必至です。

組織に内在する技術の活用と新しく開発しなければならない技術との
比率が道の曲がり具合を決めることになります。
ここで再度ポイントとなることを繰り返しますが、ボトルネック技術の
開発については、十分な洞察と経営戦略の観点からの検討が絶対に
必要になります。

■□■ 反複的 ■□■

これも重要な要点です。頂点を見ればノーベル賞を取ったイノベーションは、
繰り返し、繰り返し、根気よく実験を繰り返している研究ばかりです。
研究者本人をそうですが、周りのチームメイト、組織のトップなどすべての
人々がイノベーションには失敗してもそれに懲りず、またチャレンジする
というiterative(repeated)な精神が必要です。

■□■ 組織内の他のプロセスと独立 ■□■

イノベーションは既存の組織の中にいては効果的な活動が出来ません。
組織の中における人のつながりは見えませんが、場合によっては非常に
強いものがあります。上司との関係、同期入社者との繋がり、今まで
パートナーとして働いてきたチームメイトなどとの人間関係は
イノベーション活動のパフォーマンスに目の見えない影響を与えます。
イノベーションプロジェクトを立ち上げる時には、組織内の人と人の
繋がりから独立したチーム編成が望まれるところです。

■□■ 組織内の他のプロセスとの繋がり ■□■

しかし、イノベーションプロセスは、マーケティング、販売、知的財産、
法務、人、経理、ITなどとは同じ組織内活動であることから有機的な
つながりを持っていなければならないことは言うまでもありません。

ISO 9004:2018持続的成功を達成するための指針-18 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.238 ■□■
**ISO 9004:2018持続的成功を達成するための指針-18**
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イノベーションはどのようにして起こすのでしょうか?
前回はハイアール、ファーウエイ、サムソンなどの実情を大まかな
数字で紹介しましたが、彼らがこの20年で起こしたイノベーションを
日本でも起こそうとした場合どんな方法があるのか探ってみました。

■□■ イノベーションとは ■□■

ISO 56002:2019 では、その箇条8.3でイノベーションのプロセスを
次のように説明しています。

・機会の特定
・コンセプトの創造
・コンセプトの検証
・ソリュ-ションの開発
・ソリュ-ションの導入

まずは、どんなところに革新を起こそうとするのか決めなければなりません。
それが最初の「機会の特定」です。
次に必要なことは「コンセプトの創造」です。既存のアイディア、新しい
アイディア、潜在的なソリューション、創造性などを駆使してコンセプトを
作ります。

新規性、リスク、実現性、実行性、望ましさ、持続可能性の程度及び知的財産権
などに関してアイディア、潜在的なソリューションを評価します。
次は「コンセプトの検証」ですが、前のプロセスで創造したコンセプトを
インプットにして、例えばテスト、実験、パイロット試験および調査などを駆使して
検証をします。重要なことは、利用者、顧客、パートナーなどの目で検証する
ということです。

■□■ ソリュウションの開発 ■□■

「ソリュ-ションの開発」がイノベーション推進のカギになります。
ここでは概念から具体的なソリュ-ションを開発する、すなわち価値実現モデルを
開発することが必要です。ソリュ-ションを内部で開発するか、買収、ライセンス供与、
提携、外部委託などを通じて開発するかを慎重にかつ大胆に検討します。

さらに、宣伝、生産、供給、提携及び環境保全などソリュ-ションの実現に付帯する能力
についても計画を策定しなければなりません。
ISO 56002:2019によるとこのようなストーリになるのですが、このソリュ-ション開発の
インプットになるイノベーションのコンセプトは世界のベストプラクティスからもたらされねば
なりません。

例えば、スマホでいえば、前回話をしましたハイアール、ファーウエイ、サムソンなどが
どのような競争力を持っているのかを知らなければその上をいくイノベーションは起きません。

■□■ ソリュ-ションの導入 ■□■

価値実現モデルを含むソリューションが完成したならば、ソリューションの開始、
実施または提供などにより、利用者、顧客、パートナー及びその他の利害関係者が
ソリューションを利用できるようにします。ソリューションの導入進度、並びに利用者、
顧客、パートナー及びその他の利害関係者からのフィードバックの監視もします。

ソリューションを導入した結果は、金銭及び金銭以外の価値の実現として組織に
アウトプットがもたらされますが、目標に沿った結果が得られれば一連のプロセスは
終了したことになります。

■□■ イノベーションのプロセスの要点 ■□■

ISO 56002:2019「イノベーション・マネジメントシステム」における要点と、
それを超えた他の知見からの要点は次回お話しします。

ISO 9004:2018持続的成功を達成するための指針-17 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.237 ■□■
***ISO 9004:2018持続的成功を達成するための指針-17***
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前回からISO 9004 :2018「品質マネジメント-組織の品質-持続的成功を
達成するための指針」の箇条11の改善及び革新の話をしています。
「改善」は現状をベースに置いた活動ですが、「革新」は全く異なる基盤で
行われる活動です。

■□■ イノベーション-革新 ■□■

ISO 9004 :2018は改善及び革新の必要性を訴えています。改善はともかく
革新については、日本は相当遅れています。中国のハイアール、ファーウエイ、
韓国のサムソンなどはこの20年の間に大きく飛躍しましたが、その背景には
イノベーションを起こしたという事実があります。

例えば、ハイアールについて調べてみました。
日本の量販店では国内メーカーの製品がずらりと並び幅をきかせていますが、
実はハイアールは国内メーカーの10倍以上の製品を世界で売っています。
世界の白物家電は中国を中心に動いています。エアコンや冷蔵庫市場では、
もはや中国にはかないません。何しろ、エアコンについていえば
世界80%以上の製品が中国製になっています。

■□■ サムソン、ファーウエイ ■□■

ファーウエイは副社長がカナダで拘束され一躍有名になりましたが、
スマートフォーンでは驚異的な飛躍を遂げています。
今世界では、年間約14憶台のスマホが生産されていますが、その1位の
メーカーはサムソン、そして2位がファーウエイです。
日本では有名なアップルは3位に甘んじています。

そして驚くべきはその生産数と製造ラインの効率です。
サムソンは年間2億台、ファーウエイは1億8千万台のスマホを生産して
います。日産量に直すと、サムソン110万台/日、ファーウエイ100万台/日
というとてつもない生産をしています。
一日に100万台ものスマホをどのようにして作るのでしょうか。
サムソンは韓国国内問題で、ファーウエイはアメリカとの貿易戦争の影響で、
これらの生産量は(あるいは既に)減少していくと見られていますが、
大勢に影響は無いかもしれません。

■□■ 日本勢の生産量は? ■□■

それに対して日本メーカーはどうかと思い、日本メーカーのスマホ生産量を
これまた調べてみました。現在日本では、シャープ、ソニー、京セラ、富士通が
主な製造業者だそうです(他にもあったらすみません)。
2018年の数字になりますが、シャープが年産480万台、ソニーが380万台、
京セラ300万台、富士通250万台だそうです。なんとサムソン、ファーウエイは
日本勢の年産量をわずか3,4日でこなしていることになります

■□■ イノベーションと買収 ■□■

ハイアール、ファーウエイ、サムソンなど海外の大手メーカーは国内外の
優秀な企業を次々と買収し、技術もイノベーションして10年たてば全く違う
製造ラインを構築しているということです。中国企業躍進の筆頭といわれた
(いまはファーウエイ?)ハイアールは創業してから35年ですが、日本の
AQUA(旧・三洋電機)やアメリカのGEを買収するなどして急成長し、
いまや大型白物家電の世界シェアは10年連続して1位を占めています。

このような躍進企業を垣間見た方の話では、製造工場はIoTを駆使し、
ラインはカメラとAIで全数を識別しているという話ですが、詳しいことは
わかっていません。
ともかくもハイアール、ファーウエイ、サムソンなどの海外の新興大手メーカーは、
イノベーションにおいて日本の一歩も二歩も進んでいると思って間違いないようです。