Author Archives: 良人平林

ISO9004:2018の発行 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.151 ■□■
*** ISO9004:2018の発行 ***
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■□■ 持続的成功のガイド ■□■

ISO9004:2018は2018年4月に発行されました。ISO9001:2015の発行と比較して余り話題になりませんでしたが、組織が継続して社会から信頼を得ることに関して、いろいろと役に立つガイド規格であると思います。

昨今の製造業を中心とする品質問題の噴出にも一定の効用をもたらす内容であると思います。JIS化も検討されていますので、継続して情報入手をされ勉強されることをお勧めします。

■□■ ISO9001:2015との関係 ■□■

ISO9004:2018はISO9001:2015が発行された後に規格開発が着手されましたので、発行時期が今年になってしまいましたが、ISO9001との整合性には留意をしています。

2000年頃までは、9001と9004はペアー規格と呼ばれ、箇条ごと対比できる形で規格開発がすすめられましたが、それ以降は厳密に対比できる形での開発はされなくなりました。

9004:2018の序文には次のように書かれています。

「JIS Q 9001:2015は,組織の製品及びサービスへ信頼を与えることに重点を置いているが,この規格は,組織の持続的成功を達成する能力へ信頼を与えることに重点を置いている。」

■□■ ISO9004:2018の目的 ■□■

そもそもISO9004という規格は何を狙いとして発行されてきたのでしょうか。

ISOのマネジメント規格には、typeAとtypeBの2種類があります。

typeAは要求事項が書かれている規格で現在30余あります。

typeBは組織に推奨する位置づけで書かれたガイドで60~70位あります。

ISO9004は品質マネジメントについてのガイド規格の一つです。
ISO9004:2018 の序文には次のように狙いが書かれています。

「この規格は,JIS Q 9000:2015で記載されている品質マネジメントの原則を参照しながら,組織が,複雑で,過酷な,刻々と変化する環境の中で,持続的成功を達成するための手引を提供している。」

■□■ 新ISO9004:2018の狙い ■□■

それでは旧規格ISO9004:2009との違いはどこにあるのでしょうか。
2009年から10年経った中での規格の狙いの変化はどこにあるのかを序文から読み解いてみたいと思います。

「組織の成功に影響を及ぼす要因は長年の間、断続的に出現,進展,増大又は減少し,こうした変化への適応が持続的成功にとって重要である。例えば効率,品質,迅速性などこれまでに検討されていたであろうものに加えて,社会的責任,環境要因及び文化的要因が挙げられる。こうした要因をとりまとめることが,組織の状況の一部となる。」

ここ10年、世界のいろいろな組織は、企業の社会的責任について指針、ガイドなどを出しています。3年前には国連からSDGsなるものが出されています。SDGs(Sustainable Development Goals)については、別の機会に紹介したいと思いますが、ISOは国連の主導するSDGsの17の目標とISO規格との関連を発表しています。

■□■ ISO9004:2018の特徴 ■□■

ISO9004の特徴は、9001が製品・サービスの品質保証、品質管理にフォーカスしているのに対して、組織の品質経営に言及しているところにあります。組織が持続的に成功するには、トップをはじめ管理者の学習、リーダーシップが重要であり、トップ層のエンジンの強さが組織の改善及び革新の達成をもたらし,持続的成功に導くとしています。

また、巻末には組織が自己評価するために評価事項一覧が掲載されています。この自己評価ツールは、9004の概念をどの程度理解し、導入しているかをレビューするために役立ちます。

■□■ ISO9004:2018の構成 ■□■

ISO9004:2018規格の構造(目次)は次の通りです。

箇条1.適用範囲

この規格は,組織が持続的成功を達成する能力を高めるための手引を提供している。
この規格は, JIS Q 9000:2015で示される品質マネジメントの原則と整合している。

箇条2 引用規格

箇条3 用語及び定義

箇条4 組織の品質と持続的成功

箇条5 組織の状況

箇条6 組織の個性(identity)

箇条7 リーダーシップ

箇条8 プロセスマネジメント

箇条9 リソースマネジメント

箇条10 組織のパフォーマンスの分析と評価

箇条11 改善、学習、改革

自己評価ツール

メルマガ次号で概要を説明したいと思います。

■□■ メルマガについて ■□■

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ヒューマンエラー3 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.150 ■□■    
*** ヒューマンエラー3 ***
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■□■ 心のモード1:怒るモード ■□■

ヒューマンエラーは心のモード(状態)と強く影響していますが、そのモードの2つ目は「怒るモード」です。
怒るとは、自分の価値観と反対のことが目の前で展開される、あるいは自分の意見が無視されたり、反対されたりするなど、いずれも心の冷静さを失なわさせる感情です。

■□■ 怒るとどうなるか ■□■

怒ると日常の行動を支えている理性がなくなります。
感情が優先されますので、言動が荒々しくなり、物事の選択を直観的にすることになりエラーをしやすくなります。
怒ると、めんどうなことに、その事から離れられなくなります。

■□■ その事から離れられなくなる ■□■

離れられなくなるというのはどういうことでしょうか。
それは、怒りを感じた対象から逃げることが出来なくなり、よりその対象にのめり込んでいく状態をいいます。つまり執着心が強くなり客観性を損なわさせます。

その結果、その対象以外の事に心を向ける余裕がなくなり、何時までもその事に捕われることになります。
当然のこととして、エラーを起こす可能性が高まります。

■□■ 怒られた方もエラーをする ■□■

上司が怒ると、多くの場合部下は何も言えません。
何か言いたくても立場上今後の事を思いつつ、心の中では反論していることが多いでしょう。

心にうっぷんを秘めたまま過ごすとプレッシャーが高まり、通常しないようなことをしてしまいがちです。
結果怒られた方も正常心でいられなくなり、エラーを起こしやすくなります。

■□■ 同じ職位同士だと口論になる ■□■

お互いに主張することを言い合うと、物事の是非は別として口論にまで発展することがよくあります。
その結果、人間関係を壊すことになります。
また、相手を傷つけることにもなりますし、逆に自分も傷つくこともあります。
そのような状況に陥ると正常に仕事をすることが出来なくなります。

■□■ 取り返しのつかない判断間違い ■□■

怒っているとエラーばかりでなく、取り返しのつかない間違いをすることがあります。
特に上位者の判断間違いは組織にとって取り返しが出来ないものです。
怒ってビジネス上の判断間違いをした結果、組織全体に累を及ばしてしまいます。

忠臣蔵に出てくる浅野内匠頭(あさのたくみのかみ)の松の廊下での刃傷事件を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

■□■ エラーは続く ■□■

エラーは続くものです。怒っていると、小さなエラーでもそのこと自体、すなわち自分の行動に対しても怒りを感じ、さらに大きなエラーを誘発します。

冷静な時にはなぜエラーしたかを反省しますが、怒っている時は余裕がないため、修正しないまま同じことを行いますので、被害も大きくなります。
ヒューマンエラーを無くすためには、まず怒らないことです。

ヒューマンエラー2 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.149 ■□■
*** ヒューマンエラー2 ***
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■□■ 心のモード1:あせるモード ■□■

ヒューマンエラーは心のモードと強く影響していますが、そのモードの一つに「あせるモード」というものがあります。

あせるとは、結果を求めることだけに心がいき、結果を出すために何をしなければならないかに心が向いていないために起こる心理的現象です。

■□■ あせるとどうなるか ■□■

結果を求める心が強いと、仕事のスピードが優先されて、内容が疎かになります。

1.考えること
2.伝えること
3.確認すること
4.質を上げること
5.見直しすること

■□■ ヒューマンエラー ■□■

1~5のようなことが疎かになりますと、あせる結果次のようなことが起こります。

深く考えないことから、形だけの仕事になりがちです。最悪の場合ミスをすることになります。

あせらずに落ち着いて仕事を行うことで、しっかりとした仕事をする場合と正反対の事が起きるのです。
あせっていると、心が自分の行動に向かわず確認漏れ、ケアレスミスをしやすくなります。

■□■ 相手に思いが伝わらない ■□■

さらに悪いことに、あせっていると自分の言いたいことが相手に伝わりません。
その結果、組み作業などでミスを起こすことになります。
相手に伝えなければいけないことが整理されずに話をすることになり、相手には真意を伝えることが出来なくなります。

さらに、あせると早口で話してしまい、相手が誤解することも起きるでしょう。
噛んで含めるように話すとよく言われますが、あせっていると、とてもそんな余裕が生まれてきません。

■□■ ミスが続く ■□■

ミスは続くものです。あせっていると、小さなミスをしたときに、自分の行動に怒りを感じさらに大きなミスを誘発します。
冷静な時にはなぜミスしたかを反省しますが、余裕がない時には早く結果を得たい気持ちが優先して、修正しないまま同じことを行いますので、被害も大きくなります。

ヒューマンエラーを無くすためには、まずあせらないことです。

ヒューマンエラー | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.148 ■□■
*** ヒューマンエラー ***
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■□■ ISO9001:2015箇条8.5.1g) ■□■

ISO9001:2015箇条8.5.1g) には、「ヒューマンエラーを防止するための処置を実施する」という要求があります。この要求は、2008年版には無かった要求で、日本が繰返しISOの国際会議で求めた結果であると聞いています。

「ヒューマンエラーは、品質事故、安全事故、不祥事などにおける原因ではない、結果である」とは、私が最近知った管理者に対する警句です。

■□■ 原因を人に求めずシステムに求める ■□■

問題が起きると、管理者はつい「誰がやった」と言いがちです。
そして、本当にそこに人為的な要素が絡んでいると、その問題の原因はヒューマンエラーであるとしてしまいます。

一旦そのようにしてしまうと、原因究明はそこで終わりになってしまいます。そのような思考回路からは、問題の再発防止策の多くは、「注意をする」、「再教育をする」及び「手順書に追加する」というようなことになりがちです。

しかし、そのような是正処置では、同じような問題が、また引き起こされてしまうことは、多くの皆さんが経験済みであると思います。

■□■ 組織事故 ■□■

ここに「組織事故」という本があります。この本は、1987年に起きたチェルノブイリ原子力発電所の臨界事故をはじめ、歴史上有名になった大きな事故についてその原因に迫った著作です。

イギリスのジェームス・リーズンが作者で、日科技連出版社から翻訳版が出版されています。作者は一貫して「多くの事故には人が絡んでいる、しかしその原因は個人にではなく、組織にあることがほとんどである」として、具体的な事例を掲げ説明をしています。

個人は、ある理由のもとにその事を実行したが、決して事故を起こそうと思って行ったわけではない、そこには個人がそのことを行う必然があったのだと論理をすすめています。

個人が行ったその事は、結果として事故の要因にはなっているが、個人の行為に着目すると、いろいろなことの結果がその個人をその行為に走らせたという論理です。そして、個人の行動を分析することが、ヒューマンエラーの解析に必須なことであるとして、いろいろな事例を上げて説明をしています。

■□■ モードという誘発要因 ■□■

ヒューマンエラーについての詳細は「組織事故」を読んでいただきたいと思いますが、「モード」というものが一つのカギであると思います。

テレビの録画、録画したものの消去などで使用するボタンは、モードスイッチのon/offによって異なる働きになることを我々は知っています。

時計の時刻合わせも、モードスイッチの切り替えで、ボタンの機能が年合わせ、月、日、時、分、秒合わせと機能を変化させます。

最近のスマートフォーンのいろいろな操作は、その典型的な例になるであろうと思います。

このようなモード切替の操作においては、操作者がモードの位置を認識していないと思わぬ結果をまねきます。
テレビ、時計、スマホでしたら笑って済まされますが、これが工場の機械で起きたら大変なことです。当然のことながら、現在は工場で稼働するような各種機械装置からはモード切替の構造は排除されています。

一つのボタンはどんな状況にあっても一つの機能しか果たさないようになっています。

ただ、メンテナンス(修理、オーバーホール)の時は、稼働時とはモードが異なり、機能しなくなるボタンがありますので注意が必要です。

■□■ 心のモード ■□■

ヒューマンエラーに関しては人の心の状態が強く関係します。
上述したモードは機械にだけでなく、心にもあります。
では心のモードとは何でしょうか。

同じことをある時はYesと思い、ある時はNoと思うことは誰にもあります。
「人間の心は移り易いものである」とは、古今東西いろいろなところで言われてきたことです。

しかし、心のモード変化が例えば検査の場面で起きたら、ことは重大な結果になるかもしれません。
人の心はいろいろな状況に応じていろいろなモードがあり、それによって検査結果が変化するということは十分にあり得ます。

同じ人の中でさえモードの違いが結果に影響することがあるのですから、人と人の間でやり取りする場面を考えると、異なるモードの人同士が同じことを考えるには工夫が必要になります。

2人のモードを同じものにすることに失敗すると、ヒューマンエラーの要因が作られてしまいます。

緊急シンポジューム2 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.147 ■□■    
*** 緊急シンポジューム2 ***
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■□■ パネルディスカッション ■□■
講演に続くパネルディスカッションは次のメンバーによって行われました。

   コーディネーター  中條武志
   パネラー ・日本品質学会 会長 小原好一
        ・日本品質学会 副会長 棟近雅彦
        ・日本科学技術連盟 佐々木眞一
        ・日本規格協会 理事長 揖斐敏夫

■□■ 問題意識 ■□■
緊急シンポジュームのタイトルは、「品質立国日本を揺るぎなくするために-品質不祥事の再発防止を討論する-」というものですが、パネルディスカッションは、一連の報道に関連して、識者からの意見及び今後の方策をいただくというものでした。パネルディスカッションは、次のねらいの下におこなうということが事前に明確にされていました。

≪パネル討論のねらい≫
・一連の品質不祥事の報告書や報道の内容を見ると、日本企業の品質管理が崩壊しているという主張がなされたり、逆にコンプライアンスの問題であって品質管理の問題ではないという主張がなされたりしている。

・また、監査や罰則を強化すれば、自動化により人の要素を排除すれば、防げるという考えに沿った対策の検討が行われている。

・一連の品質不祥事について、「問題の本質は何か」、および「問題を防ぐために取り組むべきことは何か」を討論する。これらを通じて、品質管理を組織

・社会として推進・普及していく必要性を再認識する。

■□■ 問題の本質は何か ■□■
一連の品質不祥事は特定の企業の問題なのか、あるいは日本全体に関わる事なのかが議論されました。

当然のことながら、マスコミで報道されている事象は特定の企業で起きたことですが、パネラーからはその根底には日本の製造業が抱える多くの課題が関係しているとの主張に説得力がありました。

1970~80年代に世界から評価された、日本式品質管理TQC(Total Quality Control)を再度検討することがよいという主張に繋がると思います。そこでは、一人ひとりが品質保証の主役として「品質は工程で造りこむ」ということをスローガンに、その実践を再度日本製造業全体で行わなければならないと思います。

今回の問題の本質は経営層にあるという論調が強く、「問題を起こさないための仕組み構築を強化しなければならない。経営層が品質経営を真に理解し、担当者任せにせず、経営の根幹に
置かなければならない」という議論に繋がっていきました。

■□■ 今後組織に望まれることは ■□■
今後への対応については、パネル討論の核心ですが、価値観を共有する人材育成が印象に残りました。

昨今、品質管理人材の育成をしてこなかったので、徐々に組織力が衰退し、気が付けば取り返しのつかないダメージを受けるという事態になっている、いわゆる「ゆでガエル現象」が起きているとも主張がされ、長期的なビジョンに基づいた品質経営人材の育成が待ったなしであるということに同意する人が多かったように思います。

また、IoT、AI、ロボットなど先端技術の活用もあるが、根っこにあるのはそれらをコントロールする人のスキル、知恵であり、それらを忘れてはならないという議論もありました。

なお、ISO9001認証との関係では、一連の品質不祥事はISO認証審査では対応が難しいが、外部の目をなお強くして不祥事抑制に繋がる監査の研究は必要であろうという見解も示されました。

■□■ 社会全体で取り組むことは ■□■
品質管理学会では、生産革新部会でIoTを駆使した品質管理手法などを開発したい、また地方の支部活動を強化して、方針管理、日常管理、プロセス保証、小集団活動などの普及を強めていきたいという方向性も示されました。

ことは単純ではないので、社会、組織、関係する団体が連携して、オールニッポンで品質経営を普及する活動を展開したいという発言も心強く響きました。