Author Archives: 良人平林

一般社団法人日本品質管理学会声明 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.141 ■□■   
*** 一般社団法人日本品質管理学会声明 ***
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■□■ 一連の品質不祥事に対する声明 ■□■
このところ日本の産業界を脅かす品質問題の不祥事が立て続けに
起きています。

これらの不祥事に対してJSQC(一般社団法人日本品質管理学会)
から一読の価値がある声明が出されました。

お読みになっていない方も多いと思いますので、全文を以下に
転載させていただきます。

出典 http://www.jsqc.org/kinkyu.html#h291108

■□■ 声明文 ■□■

平成29年11月(第58回品質月間)
一般社団法人日本品質管理学会

今般の(株)神戸製鋼所、日産自動車(株)、(株)SUBARUによる
品質管理に関わる不祥事について、(一社)日本品質管理学会
(Japanese Society for Quality Control、以下JSQC)は、
平成29年11月2日に開催した理事会で議論し、その総意をもって、
わが国品質管理活動に関与する産官学全ての人々に、以下の3つの
声明を発することとした。

1.(株)神戸製鋼所品質関連データ改ざんに関する声明

(株)神戸製鋼所並びにその関連会社で、着実な品質管理活動を
行うべき企業としてあってはならない基礎データの改ざんが行われ、
国内外の顧客に大きな不安と不信とを与えた。

(公財)日本適合性認定協会によれば、(株)神戸製鋼所アルミ
・銅事業部門 大安工場、(株)神戸製鋼所鉄鋼事業部門 鉄粉本部
鉄粉工場、(株)コベルコ マテリアル銅管秦野工場、(株)コベルコ科研
ターゲット事業本部はISO9001を認証取得している。

このように、国民からは着実な品質管理活動を行っているとみえる企業が、
品質に関わるデータを改ざんしたことは、企業倫理にもとることはもちろん、
わが国産業競争力の重要な源泉である産業界の着実な品質管理活動の信用を
失墜させる行為である。

この70年間わが国の品質管理活動は、正しいデータに基づく品質改善の
企業文化の確立に尽力し、今日の日本品質ブランドを築き上げてきた。

今回の品質データ改ざんは、神戸製鋼グループのみならず、わが国に
おいて品質管理活動に尽力した多くの先人の努力を、無に帰す恐れの
ある行為で、残念でならない。

JSQCは、(株)神戸製鋼所に対して強い遺憾の意を表明するとともに、
神戸製鋼グループが全社的品質管理活動を再構築し、グループの信頼回復は
もちろん、わが国の品質管理活動の信頼回復に資する企業グループとして
復興することを、強く要請することとした。

さらに、虚偽の品質データが顧客に報告されるというようなことが、わが国
モノづくりの中で再発させないように、わが国の全企業の全役員・全従業員に
対して、正しい品質管理活動と正しい品質文化を定着させることを、改めて
要請するものである。

2.日産自動車(株)及び(株)SUBARUの無資格者による完成車検査に関する声明

日産自動車(株)および(株)SUBARUが、完成車検査を社内資格の無いもの
に任せたということを表明し、その品質管理活動に関して国民からの信頼を
損なう状況を発生させている。

今般の不適合事象は、わが国品質管理活動のトップランナーの一つともいえる
企業ですら、過度の生産性・コスト重視の環境下では、品質管理活動の基本で
ある日常管理活動、定められた標準に基づく品質管理活動をないがしろにする
危険性を示したものである。決して、2社だけの問題ではなく、わが国産業界
全てが総点検すべき問題と考える。

JSQCは、日産自動車(株)ならびに(株)SUBARUに対して強い遺憾の意を表明
するとともに、2社に限らず、わが国産業界全てが初心に戻り、自社の品質管理
活動を再点検することを切に要望するものである。

3.今後のわが国品質管理活動に関する声明

JSQCは、近年繰り返されているこの種の不祥事の再発防止に向けた取り組みを
学会として進めることとした。

さらに、わが国の品質管理活動に関わる産官学全ての方々に対しても、わが国
品質管理活動自体の品質向上に向けて、新たな行動の開始を呼びかけるものである。

品質重視は、先人達が苦労して築き上げ、世界からの信頼を得てきたわが国の
貴重な文化であり、将来世代に継承しなければならない

(便宜上、改行位置など調整させていただいております)

workerの日本語訳 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.140 ■□■
*** workerの日本語訳 ***
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■□■ 労働者の定義には社長もはいる ■□■
OH&SマネジメントシステムのISO化が進んでいます。
マレーシアでのISO/PC283(OH&Sマネジメントシステム)の
国際会議でISO45001がFDISへ進むことが決まりました。

労働安全衛生マネジメントシステムの会議を通じて気になる
言葉があります。それは“worker”と言う英語です。

■□■ 労働者と訳さない ■□■
ISO45001の中にはworkerという用語が随所に出てきます。
通常workerは「労働者」と訳すのですが、今回は「働く人」と
訳すのがよいのではないかと検討されています。

ISO/DIS2箇条3.3のworkerの定義は以下のようになっています。
「組織の管理下で労働又は労働に関わる活動を行う者」

ところが、定義の注記2には
「workerにはトップマネジメント(3.12),管理職及び非管理職が含まれる。」
とあり、組織に属する全員がworkerであると定義をしています。

■□■ 日本の意見は少数派 ■□■
日本からは、日本の労働安全衛生法のworkerの定義にはトップ
マネジメント、管理職は入っておらず、この定義には反対を主張
しました。しかし、国際会議ではworkerにはトップマネジメント
も含まれる、又は含めるべきであるという意見が圧倒的に多く、
日本の意見は採用されませんでした。

その背景は、組織で働く人は総て労働安全衛生の傘の下に入る
べきであり、トップマネジメント、管理職といえども安全という
システムの下では組織全員と全く同様な存在になる、或いは
なるべきであるという考えです。

■□■ JIS化国内委員会での検討 ■□■
現在、来年3月頃の国際規格発行を見越して、ISO45001の
JIS化の検討が進んでいます。

JIS国内委員会では、この用語を巡って活発な議論が交わされ
ましたが、国際的には多数決の原則を尊重してこの定義(worker)
を容認せざるを得ない、あとはJISの翻訳上の工夫で対応すべき
であるとの結論になりました。

■□■ 労働者に変わる良い日本語は? ■□■
workerの和訳案として、労働者でないものとしては次のような
ものが検討されました。

 ・労働者等
 ・ワーカー
 ・経営層・ボランティアを含む労働者
 ・勤労者
 ・就労者
 ・労働従事者
 ・管理労働者 / 実務労働者

しかし、なかなかぴったりとする和訳が見つかりません。

■□■ ILOの主張は ■□■
Workerには管理職も入るという背景には、ILOの考えもあります。
ILS(International Labor Standard)という、労働者保護の条約や
勧告を発行しているILOの条約155号では、“worker”を
“all employed”と定義しており雇用関係のあるすべての者を
広く定めているのです。

ある意味雇用されている“top management”も幹部も安全衛生の
保護対象になると考えられ、このILO条約に鑑みてこうした定義
が支持されたとも考えられます。

2015年版への移行 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.139 ■□■
    *** 2015年版への移行 ***
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■□■ ISO9001:2015への移行 ■□■

ISO9001:2015が発行されてから早くも2年が過ぎました。
IAF(International Accreditation Forum : 国際認定機関
フォーラム)からは、移行は2015年9月からの3年間で
実施しなければならないとの指針が出されていますので、
2018年8月には移行期間が終了し、旧規格ISO9001:2008は
廃止となります。

■□■ 移行審査で確認すべきこと ■□■ 
この2年間にISO9001:2008規格から2015年版への移行審査
は約4割弱進んでいると聞きますが、その認証審査の実態は
「全体の一部である」とは思いますが、次のような状況で
あると見聞します。

2015年版で大きく変わったとされる要求事項のポイントを
審査されないという話を聞きます。認証審査はサンプリング
で行いますので、当然のこととして、総てを一回の移行審査
で確認できません。

しかし、JABから示されている重点確認事項は、この機会に
審査されなければならないでしょう。

■□■ 移行への重点変更箇所 ■□■ 

JABから示されている重点確認事項は次の通りです。

1.組織の状況の強調(箇条4.1)
2.適用範囲の決定(箇条4.3)
3.プロセスアプローチの理解(箇条4.4)
4.リーダーシップの強化(箇条5.1)
5.リスクに基づく考え方(箇条6.1)
6.パフォーマンス向上の強調(箇条9.1)
7.文書化した情報
8.サービスの強化
9.外部提供者の管理
10.組織の知識
11.変更管理 など

特に1.~6.までは必須事項であると思います。

しかし、「プロセスアプローチの理解」とか「リーダー
シップの強化」について、対象箇条(4.1.1、5.1.1)の
要求事項について、ほとんど審査されなかったという話
を聞きます。

■□■ プロセスアプローチ ■□■
ISO9001箇条44.1で要求されている「QMSに必要なプロセス」
への質問が無かった、少しはあったがプロセスの順序及び
相互作用については審査されなかったという事例がいくつか
ありました。

また、プロセスのインプット、アウトプット、判断基準、
方法などについて説明する用意をしていたが肩すかしを
食らった(審査されなかった)という不満も寄せられました。

■□■ リーダーシップの強化 ■□■
社長のリーダーシップの強化が含まれている箇条5.1.1も
「社長に審査されるからと事前に進言し、勉強していただ
いていた」にも拘らず、トップインタビューでほとんど
聞かれなかったという不満の声もありました。

箇条5.1.1のトップへの要求事項とは次のようなものです。

「トップマネジメントは,次に示す事項によって,品質
マネジメントシステムに関するリーダーシップ及びコミット
メントを実証しなければならない。」

a) 品質マネジメントシステムの有効性に説明責任(accountability)
を負う。

b) 品質マネジメントシステムに関する品質方針及び品質目標を確立し,
それらが組織の状況及び戦略的な方向性と両立することを確実にする。

c) 組織の事業プロセスへの品質マネジメントシステム要求事項の
統合を確実にする。

d) プロセスアプローチ及びリスクに基づく考え方の利用を促進
する。

e) 品質マネジメントシステムに必要な資源が利用可能であることを
確実にする。

f) 有効な品質マネジメント及び品質マネジメントシステム要求事項への
適合の重要性を伝達する。

g) 品質マネジメントシステムがその意図した結果を達成することを
確実にする。

h) 品質マネジメントシステムの有効性に寄与するよう人々を積極的に
参加させ,指揮し,支援する。

i) 改善を促進する。

j) その他の関連する管理層がその責任の領域においてリーダーシップを
実証するよう,管理層の役割を支援する。

■□■ リーダーシップの強化 ■□■
組織が2015年版への移行に際して、新しい要求事項であると認識し、
社内で規格の意図を勉強し2008年版に追加しての仕組みを構築している
にも拘らず、肝心の認証審査の場面でそれらの事項の確認がされないと
なると、組織はどう思うか、明明白白であると思います。

そのような体験をした組織は、第三者認証制度の本質を誤解し、この程度
の内容で「認証書」は交付されると考えるでしょう。また、調達要件として
ISO9001認証を要求している川上組織もそのような実態を聞くに及んでは、
もはや調達要件としてISO9001認証を要求しても意味がないと考えるでしょう。

ISO45001の開発状況 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.138 ■□■
*** ISO45001の開発状況 ***
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■□■ ISO45001 ■□■
労働安全衛生マネジメントシステムのISO化が進んでいます。
来週はマレーシアで、ISO/PC283(ISO45001:OH&Sマネジメント
システム)の国際会議が開催されます。

■□■ DIS2/45001の承認■□■
ILO(国際労働機関)とISOの長い確執により労働安全衛生マネジ
メントシステムのISO化は25年ほど止まったままでした。
労働安全衛生マネジメントシステムをISO化しようという議論が
最初に起きたのは1994年のISO/TC207(環境マネジメントシステ
ム)の議論においてでした。

しかし、その当時からILOが労働安全衛生issueは自分たちの領域
であり、ISOで扱うことには反対という立場を表明していました。
以来BSIは2回労働安全衛生マネジメントシステムのISO化を提案
しましたが、結果はいつも否決でした。

そうこうするうちに、1999年にBSIが主導してOHSASグループ
(自主的なグループ約30機関が参加、日本からはJSA、JISHAも
参加)が、OHSAS18001という規格(労働安全衛生マネジメント
システムのコンソーシアム規格)を発行するになりました。

■□■ ILOとISOの覚書 ■□■
2013年、ILOとISOは相互の壁を乗り越えて労働安全衛生マネジメ
ントシステムのISO化を協働して推進しようという画期的な協定を
結びました。

これはOHSAS18001の認証数が世界で約150カ国、90,000件にまで
拡大し、ILOとしても自主的な民間国際規格を無視できなくなったと
言われています。

しかし、もともと理念が異なる2つの国際機関の間では多くの見解の
違いがあり、当初見込みの日程では国際規格が開発できず大幅に遅れ
た状態でISO45001関発が進んできました。

見解の大きな違いは、マネジメントシステムの概念についてです。
ISOは規制当局が行う、例えば「法律を守らなければならない」と
いうような直接的なパフォーマンス要求を規格の中に入れるという
ことはしません。

ILOは「法律を守らなければならない」という要求を規格の中に入
れるべきであると、開発当初主張していました。

■□■ DIS2からFDISへ ■□■
ISO/PC283は、参加国84か国、リエゾン約20機関というTC176
(品質)、TC207(環境)に次ぐ大きな専門委員会ですので、提出さ
れる原案に対するコメントも半端な数ではありません。

前回のDISに対するコメント数は約3,000件ありました。今回の
DIS2に対するコメント数は約1,600件あります。

DIS2は2017年7月の投票で採択されたのですが、これだけ多くの
コメント付きでの採択でした。

今回のマレーシア会議でDIS2原案を1,600件のコメントに基づいて
修正すべきかどうか議論しなければなりません。

■□■ 議論の機会 ■□■
筆者の経験から1週間の議論で消化できるコメント数は内容にも
よりますが、いくら頑張っても約1,000件です。ということは今回
の国際会議だけではコメント処理が終わりそうにありません。

今週の会議の後、もう1回国際会議を開催してISO45001の成立を
期するということになりそうです。

QMSの再構築 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.137 ■□■   
*** QMSの再構築 ***
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■□■ QMSの成果が出ない ■□■  

「QMS(ISO9001)構築の効果が出ていない」と感じている組織
が増えています。つい最近も中小企業の社長さんと審査について
お話しする機会がありました。

■□■ 指摘をしない審査員 ■□■

「私から見ても、どうしてもおかしいと思っています。なぜ、
審査員はこれを指摘しないのか。よほど聞こうと思いましたが、
担当者がこれでいいと言うので我慢していました。」

よほど審査員が指摘しないことについて強く感じたとみえ、
私にまでその憤懣をぶっつけてきました。

審査員にも問題があるかもしれませんが、組織にも問題があるよ
うに思います。
理由は、担当者がこれでいいと言い、社長も結局はその通りにして
いるからです。

これには後日談があり、社長の鶴の一声で審査機関を変更した
という結末もありました・・・。

■□■ QMSの成果が出ない ■□■ 

組織がISO9001の構築に取り組んでも、成果が出ない、というこ
とにはいろいろな要因が絡んでいると思われます。

ある講習会で「本業が忙しくてISOをやっていられない」という声
を聞いた時には思わず耳を疑いました。
本末転倒なこの嘆きは多くの組織の実態を表しているように思います。

「どのようにすればQMSの効果が出るのか」への答えは、ずばり
「効果が出るQMSを構築する」ことに尽きると思います。

何か禅問答のようですが、QMSは活用する組織の人々の「ニーズと期待」
に合致すれば必ず効果が出るものです。

■□■ それぞれのニーズと期待 ■□■

筆者の調査によるとトップマネジメントのQMSに対するニーズと
期待は「顧客価値創造の向上」であり、ミドルマネジメントの
ニーズと期待は「計画通りの業務推進」でした。
また、一般従業員のニーズと期待は「仕事が楽になる」ことでした。

QMSというシステムの中に浸かっている組織全員は、QMSからイン
センティブを得ることができるならば、必ずや有効にQMSを活用し、
その結果QMSは組織にとって不可欠なものになります。

その成果として、組織のプロセスとその結果(提供する製品/サービス)
は良好なパフォーマンスを示すことになります。

■□■ それぞれのニーズと期待 ■□■

ISO9001:2015「箇条1 適用範囲」には次の記述があります。

「組織が,顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項を満た
した製品及びサービスを一貫して提供する能力をもつことを実証す
る必要がある場合。」

現在QMSの効果が出ていないと思う組織は、早急に製品及びサービ
スを一貫して提供する能力を吟味すべきです。

QMSの再設計は、組織の「能力」を洗い出し、階層ごとにどのような
能力が必要とされるかを明確にし、それをインプット事項に採用する
ことです。

こうすることで、従来よりも効果の上がるシステムを構築すること
ができると思います。

特に次の2ステップを推奨します。

1.能力への「ニーズと期待」を調査する。 
2.得られた「ニーズと期待」をQMS構築のインプット事項として
必要な能力を得る。