Author Archives: 良人平林

スーパーファンド法 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.126 ■□■
    *** スーパーファンド法 ***
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■□■ 汚染防止に関する法律 ■□■

スーパーファンド法とは、1986年に制定されたアメリカの環境保護
に関する法律です。

住宅地造成などの開発行為を行う業者は、事業の推進に当たっ
て土壌汚染をした場合の補償金を一定金額積み上げておかなけ
ればならなくなりました。

もし土壌汚染が疑われる事象が発生した場合、汚染の調査や土
地の浄化は米国環境保護庁が行い、汚染責任者を特定できるま
での間、浄化費用は積み上げた信託基金(スーパーファンド)から
支出します。最終的には、浄化費用は有害物質に関与した全ての
潜在責任当事者(Potential Responsible Parties:以下PRP)が負
うべきであるというのがこの法律の骨子です。

■□■ ナイアガラ・フォールズ市 ■□■

この法律は、アメリカとカナダの国境に近いニューヨーク州ナイア
ガラ・フォールズ市のラブキャナルで1979年に起きた事件がきっ
かけで制定されました。

「ラブキャナル」とは、ナイアガラ・フォールズ市にある建設中止と
なった運河のことです。
戦後、建設中止となったこの運河跡地を購入した地元の化学メー
カーは、1950年代酸や農薬などさまざまな化学物質をこの運河に
投棄しました。

その後、この運河跡地は埋め立てられ、化学メーカーはナイアガ
ラ・フォールズ市にその土地を売却しました。購入した同市は、そ
の跡地に宅地造成を行い、住宅や小学校を建設したのです。

■□■ ラブキャナル事件 ■□■

しかし、しばらく経ってそのコミュニティには奇妙なことが起こり出
しました。

それは、生まれてくる子供に流産、奇形児が多くいるということでし
た。ラブキャナルの周辺では、降雨のたびに汚水の流出や悪臭
の発生がみられるようになり、ガンにかかったりする住民も続出し
ました。

いったい何が起きているのかを調査し、早急に対応策を講じなけ
ればならない事態にナイアガラ・フォールズ市は直面しました。

■□■ 悪臭の正体 ■□■

アメリカの住宅は多くが地下室をもっていますが、同市の調査で
は、地下室のコンクリートのひび割れから悪臭のする汚水が滲み
出している現象が確認されました。

その汚水の水質分析をした結果、多くの有害な化学物質が検出さ
れました。

この事件は、ナイアガラ・フォールズ市をこえてニューヨーク州の
問題となり、同州は政府に財政支援を要請して対策を講じなけれ
ばならないという事態までに発展しました。政府はニューヨーク州
の要請を受けて該当の土地すべてを買い上げました。

1980年、カーター大統領(当時)は非常事態宣言を発令し、ラブキ
ャナルから約900世帯の住民を転出させ、汚染地の浄化対策の徹
底を指示しました。

■□■ 誰の責任か ■□■

ラブキャナル事件の原因となった有害な化学物質を含む廃棄物
は、投棄された当時は適法な許可に基づき埋め立てられたもので
あり、化学メーカーの責任を問うことは難しい状況でした。

しかし、アメリカでは同じように過去に投棄された有害物質による
土壌・地下水汚染が相次いで発覚したため、1986年、直接関与し
たかどうかにかかわらず、過去の汚染については企業の浄化責
任を問うことができる「スーパーファンド法(包括的環境対策補償
責任法)」が成立しました。

■□■ 豊洲問題 ■□■

日本でも似たようなことが起きています。マスコミを賑わしている
築地移転、豊洲土壌汚染の問題のことです。

まだ問題は直接被害が出るまでになっていませんが、土壌が汚
染されそれへの効果的な対策が取られないまま事態が推移して
いくという展開は、ラブキャナル事件と似ています。

これ以上問題が大きくならないよう望みたいと思います。

難しいことを易しく | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.125 ■□■
*** 難しいことを易しく ***
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■□■ 分かりやすい解説 ■□■

世の中、もっと易しく説明できないのかと、いろいろなことで感じる
ことが多くあります。

例えば、経済、政治の世界に関連しては、専門家でないと本当に
は理解できないことが、マスメディアでは日常茶飯事に流されて
います。

そのためでしょうか、池上彰さんの「時事問題の世界一分かりや
すい」解説講座がもてはやされるのでしょう。

■□■ 遊びの世界でも ■□■

遊びの世界においてもそうです。私はゴルフをするのですが(ゴ
ルフはスポーツではない、遊びであるという人が多い)、ゴルフに
ついて、いろいろな方が「遠くへ真っ直ぐ飛ばすコツ」をあれこれ
説明してくれますが、実行するには困難が伴います。

実はこの1年、Uチューブをチェックしながら遠くへ飛ばす動画を
漁り、打ちっぱなしの練習場へ行ってあれこれ試してみました。

実施してみて無駄だったとはいいませんが、ほとんどは細部にこ
だわっており、一番肝心な「球を打つ」ことを教えてくれませんでし
た。

■□■ 本質は何か ■□■

ゴルフの本質は球を打つことです。ところが、Uチューブの動画解
説では体の動きの細部をいろいろと解説してくれています。

手の動き、腰の動き、頭の動き、足の動き、加えて体の重心の動
き、クラブのフェースの動きなどなど、言い出すとまだ10点以上は
上がるほどの解説が盛り沢山です。

その一つ一つを実践するうちに一番重要な本質がどこかへ行って
しまいます。球を打つためには体全体がバランスとれた動きにな
らなければなりません。

■□■ ISO9001規格の本質は何か ■□■

ISO9001規格は読んでも、難しくて何を言っているのか十分に理
解できない、ということを組織の方から時々聞きます。

この難しいと言われるISO9001規格を易しく説明することが、テクノ
ファの使命だと思っています。

例えば、プロセスを易しく説明しようとすると、次のようにいろいろ
な表現ができると思います。

・プロセスは一連の活動である。
・プロセスはアウトプットに向かっての道筋である。
・プロセスはインプットとアウトプット間で行われる付加価値をつけ
る活動である。

これらの説明は、一見易しく説明しているように見えますが、ISO9
001規格の本質をきちんと把握しているでしょうか。本質が見失っ
ていると難しいことを易しく説明したことにならないのです。

■□■ ISO9001規格の本質は何か ■□■

ISO9001規格の本質は組織能力の実証と顧客満足向上です。こ
の2つの目的は箇条1の適用範囲に書かれています。

プロセスは目的、目標を持っていなければなりません。目的、目
標を見失ったプロセスは本質を把握できていないと言わざるを得
ません。

難しいことを易しく説明する際には、必ず本質が入った説明になっ
ていなければなりません。

その意味で、プロセスを易しく説明すると次のような言い方になる
でしょう。

・プロセスは目標を達成する一連の活動である。
・プロセスは目標に向かっての道筋である。
・プロセスはインプットとアウトプット間で行われる目標達成という
付加価値をつける活動である。

目に見えない穴、目に見える突起 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.124 ■□■
*** 目に見えない穴、目に見える突起 ***
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■□■ リスクは目に見えない穴 ■□■

ISO9001:2015には、2008年版にはない、新しい要求としてリス
ク及び機会への取組み」が規定されています。

「6.1.1 品質マネジメントシステムの計画を策定するとき,組織は,
4.1 に規定する課題及び4.2 に規定する要求事項を考慮し,次
の事項のために取り組む必要があるリスク及び機会を決定しな
ければならない。

a) 品質マネジメントシステムが,その意図した結果を達成でき
るという確信を与える。

b) 望ましい影響を増大する。

c) 望ましくない影響を防止又は低減する。

d) 改善を達成する。」

ここで、リスクは「不確かさの影響」と定義されているように、計
画を作る時になんとなく心配になる事柄をいいます。

リスクは、例えれば目的を達成しようと歩いている道に開いてい
る穴のようなもので、穴が大きいと落ちて大きな怪我をすること
になります。

a)~d)はリスクと機会を決定する時の糸口を与える項目ですが、
そのリスクと機会を決定する際には、4.1で決定を要求されて
いる外部及び内部の課題を考慮しなければなりません。

■□■ 課題は目に見える突起 ■□■

ISO9001:2015には、2008年版にはない、新しい要求としての
「外部及び内部の課題」が規定されています。

「4.1 組織及びその状況の理解

組織は,組織の目的及び戦略的な方向性に関連し,かつ,その
品質マネジメントシステムの意図した結果を達成する組織の能
力に影響を与える,外部及び内部の課題を明確にしなければな
らない。」

組織の能力に影響を与える課題とは何でしょうか。まず、規格
は、組織の能力とはQMSが意図した結果を達成する能力である
と規定しています。

QMSの意図した結果を達成するには、組織の能力が必要にな
るのですが、その能力は油断しているとどんどん劣化していっ
てしまう、したがって、劣化しないように課題として捉えて解決を
しなければならない、ということがここにおける規格の意図であ
ると思います。

外部及び内部の課題は、目に見えるように明確になっていなけ
ればなりません。そうでなければ解決することはできません。

ちょうど、歩いている道の前にはっきりと見える突起みたいな、
越えなければならない障害と例えることができます。

■□■ リスクと課題 ■□■

このように、ISO9001;2015 で新しく規定された、リスクと課題は
似たようなものですが、本質は違います。

組織の想定するリスクを時々拝見する時がありますが、課題が
リスクとして取り扱われている場合が多くあります。

課題は目に見えており、それが目標を達成する上の障害になっ
ているので取り除かなければならないものです。目に見えてい
るから、どのようにすれば取り除くことができるのかが分かり、
基本的には解決することができる性質のものです。

しかし、リスクは、時、場所、人、状況などを特定することがなか
なかできません。
誰でも一度は、何かを計画するとき、何か起きそうだという不確
かなことを心配したことがあると思います。その漠然とした不安
みたいな性質のものがリスクであると思います。

ISO37001 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.123 ■□■
*** ISO37001 ***
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■□■ 企業の人権侵害を世界が監視 ■□■

海外ビジネスの現場で企業の人権侵害に関する圧力が強くなっ
ています。人権団体は「途上国での過酷労働を助長している」と
して、先進国の企業を相次ぎ批判し、不買運動も起きています。

国連は企業の人権侵害に関する責務への指導原則を策定しま
した。一般にこのテーマに関する日本企業の危機感は低く、専
門家は東京オリンピックを控え経営を揺るがしかねない事態も起
こりうるとして警告しています。

■□■ 国連「ビジネスと人権に関する指導原則」 ■□■

国連は2011年ハーバード大学ジョン・ラギー教授が中心となっ
て「企業には人権を尊重し保護する責務がある」として「ビジネス
と人権に関する指導原則」を纏め、人権理事会において全会一
致でこの原則を採用しました。

人権はかっては国家の問題でしたが、多国籍企業の影響力が
高まり、今では企業も責任を負うべきであるという国際合意が出
来上がっています。

■□■ 欧米の法規制 ■□■

欧米では、企業活動による人権侵害を防ぐための法律が次々と
生まれています。アメリカでは、カリフォルニア州で2012年「サプ
ライチェーン透明化法」が施行されました。これは、企業が一次
取引先に対して過酷な労働を強いることがないように求めていま
す。

イギリスでは2015年「過酷労働防止法」が制定され、現代の奴
隷防止法であると言われています。これは、一定規模以上の企
業に対して、人権侵害の予防策を取締役会で承認することを求
め、それをウエブサイト上で公表することを義務づけしたもので
す。公表を怠った企業には罰金を科す規定も盛り込まれていま
す。

■□■ 日本での企業の人権問題 ■□■

2015年「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングは、中国に
おいて下請けの過酷労働を人権団体から批判されました。

「人権の尊重は指導してきたが、人権団体は我々の気が付かな
い点までも調べていた」と同社の新田幸弘執行役員は話してい
ます。

2011年には日立製作所が東南アジアの下請け工場での過酷労
働を問題にされています。

また日産自動車は2012年ブラジル企業との間での調達で企
業責任を問われています。

■□■ 日本における法的規制 ■□■

日本には、まだ企業の人権問題に特化した法律はありませんが、
2015年に導入された、コーポレートガバナンス(企業統治指針)
では、株主以外のステークホルダーとの適切な協働を求め、グ
ローバルな社会・環境問題への対応に注意を促しています。

その他、サービス残業、最低賃金、男女差別、同一労働・同一
賃金など企業の従業員、下請けへの一層の配慮を求める動き
が強くなっています。

■□■ 贈賄防止マネジメントシステム規格 ■□■

表題に掲げたISO37001は企業の人権問題に関係するものとし
て注目されます。この規格は企業の贈収賄を防止するためのも
ので、「贈賄防止マネジメントシステム規格
(Anti – bribery management systems standard )と呼ばれるも
のです。

日本ではあまり知られてきませんでしたが、海外では頻繁に起
きる贈賄事件に対して、企業への法的規制が各国で打ち出され
てきています。ISOではそれらに関連して自主的に贈賄防止のマ
ネジメントシステムを構築する基準を作成する活動を開始し、現
在ではDIS(国際規格原案)の段階まで規格の開発が進んでい
ます。

■□■ 各国の贈賄防止法的規制 ■□■

海外における贈賄防止に関する法規制で代表的なものは、アメ
リカの不正(腐敗)行為防止のための法律「米国海外腐敗行為
防止法(FCPA)」です。

またイギリスにおいては「英国贈収賄防止法(UKBA)」が成立し
ています。

日本企業は、グローバル展開に伴いこれら海外の贈収賄防止
法を知っている必要があります。ただ、知るだけでなく、海外従
業員を含め、贈賄行為を決して行わない倫理を組織内に継続的
に徹底させていく必要があるでしょう。

組織の能力 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.122 ■□■   
     *** 組織の能力 ***
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■□■ 11か所に「(組織の)能力」 ■□■

前回、ISO9001:2015 には11か所に「(組織の)能力」という用語
が出てくるとして、それらが繋がっているというお話しをしました
。また、「組織の能力」については、具体的なものに置き換える
というお話しもしました。

■□■ 4.1の注釈の意味 ■□■

4.1には注記が3つあります。今回はその内から、注記1につい
てお話ししたいと思います。
「注記1 課題には,検討の対象となる,好ましい要因又は状態,
及び好ましくない要因又は状態が含まれ得る。」

注記1は「組織の能力に影響を及ぼす、外部・内部の課題」につ
いて参考になることを述べています。普通、課題と言えば「好ま
しくない要因又は状態」を考えると思います。しかし、この注記1
では「好ましい要因又は状態も含まれ得る」と書かれています。
なぜでしょうか?
 
■□■ 組織の能力とは ■□■

現在組織が存在し得ているのはどうしてなのか、組織の中にい
る方はあまり考えたことがないと思います。

しかし、誰かが創業し長年にわたって市場に存在しているという
ことは、何か優れていること、魅力のあること、他社にはないも
のが存在しているからではないでしょうか。

誰しもそのような疑問を漠然とは考えたことはあったと思います
が、まじめに?きちんと考えたことはないのではないでしょうか。

例えば、

・NO.1の製品を持っている
・トップシェアである
・古い歴史がある
・社会に名が知れている
・有為な人材がいる
・国際的に活躍している
・卓越した技術がある
・豊富な資金を有している  など

■□■ 後に続く要求事項 ■□■

箇条4.1で決定したことは、その後の箇条の要求事項に繋がり
影響を与えますので、ここは組織内で一度ブレーンストーミング
などをして適切な答えを得ておくと成果に結び付くと思います。

ちなみに、「組織の能力に影響を与える外部・内部の課題」は、
箇条4.3、箇条6.1.1要求事項における考慮事項になっています。
また、箇条9.3.2マネジメントレビューにおけるインプット事項にも
なっています。

■□■ 好ましい要因又は状態 ■□■

組織が今市場シェアでトップに立っているということは好ましい
状態です。この好ましい状態を続けていくということはこの組織
にとって一つの課題になり得るのです。

なぜ組織は市場シェアでトップに立っているのでしょうか?それ
は、競争相手に対して何かで差別化していることの結果にほか
なりません。それは何でしょうか?その答えが「組織の能力」で
す。

先に上げた;

・有為な人材がいる
・卓越した技術がある

等でしょうが、本当は他にもその答えがあるかもしれません。

例えば;

 ・引き渡し後のサービスが優れている
 ・困ったことに相談に乗ってくれる
 ・スピードが速い

などかもしれません。

■□■ 把握できないと維持できない■□■

市場シェアNo.1の理由、即ち本当の組織の能力を把握できない
と、その能力は意識されず、当然のこととして忘れ去られている
ことになり、現在のレベルを維持できなくなるでしょう。すなわち
、将来市場シェアNo.1の座を明け渡す可能性が高まることに
なります。

ここに本当の組織の能力を把握する意味があるのです。好まし
い現在の状況、なぜそうであるのかの要因が外部・内部の課題
の対象になり得ることはお分りになったことと思います。