Author Archives: 良人平林

特別採用(トクサイ)を考える10 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.458 ■□■
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*** 特別採用(トクサイ)を考える10 ***
-公差設計3-
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公差設計においては、数多くある部品同士が完全に(100%)互換
性を持つことは厳しすぎるとして、ある確率で互換性のないこと
を認めることが普通です。完全に互換性があることにこだわるよ
りも、例外的に一部の組合せが犠牲になったほうが経済合理性か
らみて有利になるからです。ただ、部品公差を大きくした後にお
いても、完成品の公差には大きな影響を与えないということは重
要なことです。

■■ 経済合理性 ■■
経済合理性とは「経済的な価値基準に沿って論理的に判断した場
合に、利益があると考えられる性質・状態」とGoo辞書には出て
います。ここで注意が必要なのは、「価値基準」がいろいろ解釈さ
れうるということです。特別採用を考えるときには2つの価値基
準があります。一つは買い手側の価値基準です。すでに合意され
ている規格から外れている製品を購入するには、リスクを考えな
くてはなりません。リスクがどの程度あるのかを判断するには時
間も知的労力もかかります。そのリスクと天秤にかけどちらが重
いかを測るものが値引きと顧客納期です。
もう一つは売り手側の価値基準です。規格外れ品を廃棄する費用
がどのくらいかが基準となります。廃棄する費用と天秤にかけど
ちらが重いかを測るものが規格見直し(公差計算など)の知的労
力です。買い手側、売り手側両者の価値基準においてそれぞれに
利益有りと判断されたときに特別採用は成立します。

■■ 公差設計を考える ■■
部品公差をゆるめた結果、部品がすべて公差内であっても、多量
にある部品を無差別に組み合わせたとき、公差外のもの、すなわ
ち不良品が生ずる可能性が増えることに注意をしなければなりま
せん。設計当初の部品の寸法の公差設計について調査しておくと
よいでしょう。以下は日本機械学会の機械工学便覧からの引用で
す。
「公差設計には、各構成部品に対しての公差設定、ある部分の組
み立てユニットに対して各部品のペア部品の公差設定、また各部
品の組み立て後における終局の長さの公差設計などがある。終局
の長さの公差設計については、一種の変動のかさなりとみて、各
部品の公差を直角に足した値を組立後の公差として考えることが、
工作の際の指定公差に対する実際寸法の変動の確率からみて望ま
しい。たとえば部品Aの公差を±aとし、部品Bの公差を±bと
し、この二つの組立後における終局の長さの公差を考えてみる。
部品Aの長さがA+aであることは1,000個に1個くらい、部品
Bの長さがB+bであることも1,000個に1個くらいの割合でし
か起こらないとすれば、このように長いものどうしが組合される
確率は、1/1,000,000しかないことになる。すなわち、終局の公
差を単純に足して((+a)+(+b))という寸法にすると、100万
個に1個ぐらいにしか起きないまれな場合となり、あまりに用心
しすぎると言える、そこで、100万個に1、2個ぐらいの例外は
許すとして、終局の長さの公差を考えると直角に足す方法による
のが、実用的によい基準を与えてくれるのである。ただし、この
方法は各成分が公差の範囲内で独立に変動するという仮定の上に
たって導かれたものである。
直角に足す方法とは、例えば二つの部品の公差が±0.3mm.
±0.4mmだった場合に、終局の長さの公差は、直角三角形の作図
によるか、または、0.3の二乗に0.4の二乗を足してルートで開
いて±0.5mmという値を得る。三点以上の部品の場合も同様な方
法で行われる。
【引用】機械工学便覧 日本機械学会 1966年 改定4版 」

■■ 公差設計まとめ ■■
公差を考えることは製品設計の一部ですが、製品設計で最初に手
がけるものは機能設計です。製品の使用目的を明確にすることの
中から所定の機能を実現すること、あるいは求められる役割を果
たすことを明確にします。機能設計の考え方の基準となるものは、
製造可能であるという当たり前のことですが、最終的に重要なこ
とは消費者が満足するというところに在ることは言うまでもあり
ません。
機能設計の次に行われるのが、生産設計です。構成部品の要素の
公差の設定、最適材料の選択、設計の単純化、現行規格部品、現
用機素の大幅利用、工作上からみた設計構造が何らかの設計変更
によって製品の品質を向上させ、製作を容易にさせ、また経済性
の向上などにわたって生産上有利になるように考えます。公差設
計はこの生産設計の中に含まれます。新製品企画の主として最初
に描かれた機能設計を詳細にかつ批判的に検討し、検討結果をも
とに詳細設計する、というのが製品設計の流れです。
今回の「公差設計のまとめ」として次のようなことを記しておき
ます。公差設計には、基本的に2つの方法があります。
 (1)完全互換性の方法(積み重ねによる考え方)→ Σ計算
 (2)不完全互換性の方法(統計的な考え方)→ √計算
【参考文献】 公差設計入門 栗山弘 2023年 日経ものづくり

特別採用(トクサイ)を考える9 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.457 ■□■
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*** 特別採用(トクサイ)を考える9 ***
-公差設計2-
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「特別採用」の話がいつの間にか「公差設計」の話になっていま
すが、それは、公差設計を知らないと特別採用の判断ができない
ということからきています。特別採用は上下限界線から外れた製
品を救おうという買い手側と売り手側の交渉ですが、外れた数値
が製品にどのような影響を及ぼすのか、どのくらいのリスクがあ
るのかを分析するうえで、当初の「公差設計」を知ることは必須
なことです。

■■ チャンピオンデータ ■■
私はかって生産技術者でしたので、開発者/設計者の心情はよく
わかりませんが、開発者が自分たちの優秀性を誇示するために
チャンピオンデータを設計に出してきた、設計者はもっと規格を
緩めても製品はできると交渉しても開発者は決して譲らない、後
発メーカーが追従できないよう厳しい公差での高機能製品を世の
中に出すことで競争力確保をしなければならない、という一点張
りで、結局、経営幹部も開発者側に同調して製造サイドには厳し
い物作りを課したという話を時々聞きました。このトップラン
ナーの考え方が社内で通った結果、製造泣かせの寸法公差が採用
されることになったわけですが、時代を経て製造諸条件がいろい
ろ変化してくると、当初実現できていた部品作りが不可能になっ
てきたというのが昨今よく聞く話です。世の中、いろいろな要素
(人、設備、材料、作業環境他)ことが大きく変化してくると、
設計当初の厳しさでモノを作れなくなったという話は説得力のあ
る話です。同じような話は昨年(一社)日本品質管理学会から発
行された「テクニカルレポート品質不正防止2023年」にも掲載
されています。これ位ならば大丈夫だろうとデータを改ざんして
製品を納入してしまうという安易な道を選んでしまうというのが
昨今の品質不正の隠れた話です(と私は思っています)。

いささか繰り返しの話になりますが、改めて公差の概念を確認し
たいと思います。公差の概念は、近代工業において大量生産が世
界的に広まったと並行して深まったと言われています。ISOに代
表されるように、グローバルな産業構造において、工業製品の互
換性は、輸出入において買い手、売り手お互いに最低限必要なこ
とでした。互換性とは、ある特定の部品群は管理された規格内の
モノであれば、どの部品と交換しても「問題は発生しない」とい
うことです。しかし、繰り返し述べてきたように、すべての部品
を基準寸法通りに作ることは不可能です。そこで、ある確率で許
容できる正確さ(反対である不正確さ)の限界を明確にして、そ
の限界内のものを作るように努力することが買い手側、売り手側
の共通な利害一致になると考えられるようになりました。

■■ 公差の概念と不完全互換性 ■■
公差を決めるということは、基本寸法からのズレの許容しうる限
界を決めることですが、その際、量産品を一つの集団としてとら
えてそのバラツキを考察することが必要です。管理された集団の
バラツキはどんな要素から生じるのかを各種誤差の偶然性(組合
せ)について考察します。ある集団のバラツキを分析し、その分
析結果から偶然現象を解析する方法が統計学です。公差を設定す
るには、上記のような統計的手法を選択することが必然的な流れ
でした。こうした統計的考察は、公差の計算法において「不完全
互換性」とよばれる考えを生み出しました。これは、組立品の主
要部の寸法を、ある一定の公差内に収めようとするとき、互換性
の要求を完全に満たすようにするには、部品の公差は必然的に厳
しくしなければならないが、逆に部品の公差を少しゆるめても、
組立品寸法が公差外に出る割合(あるいは可能性)がきわめて小
さい場合は、必ずしも互換性を完全に満たすことにとらわれずに
部品公差を決めるという考えです。

(つづく)

特別採用(トクサイ)を考える8 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.456 ■□■
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*** 特別採用(トクサイ)を考える8 ***
― 公差設計 ―
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最近「公差設計」という言葉を聞かなくなりました。この言葉は
戦後日本が物つくりで世界の頂点に立った頃、産業界で盛んに設
計者向けに教育していたカリキュラムにあった言葉です。モノは
一つとして全く同じようには作れません。多量にモノを生産する
ときに悩まされるのはいろいろな要素がバラツクということです。
例えば、機械は経時変化してだんだんと劣化していきます。原材
料も調達先によりますが、同じ成分、寸法、構造のものは手に入
りません。人のスキルの変化も考えなければなりません。

■■ 公差設計とは ■■
「公差」とは、部品個々の寸法のバラツキを容認できる範囲のこ
とをいいます。公差は2つの側面を持っています。一つは、設計
者側からの側面です。もう一つは、公差を受け入れる製造側から
の側面です。「公差」は、この2つの側面を考えながらトータル
で経済的になることを考慮して決めます。公差を厳しくすれば設
計上は自由度が増しますが、製造は厳しい管理をしなければなり
ません。場合によっては全数選別をしなければならないかもしれ
ません。逆に公差を緩くすれば設計の自由度はなくなり、ある制
限下でしか機能を果たさせることがなくなりますが、製造では条
件を広くして製造することができます。設計者には、製品仕様
(設計)と製造条件及びコスト(製造)を考慮したバランス感覚
が求められ、設計者は物つくりのトータル的視点から公差を設定
しなければなりません。このトータル的視点から「公差(許容範
囲)」を設定する方法の一つが、統計学的手法を活用する「公差
設計」です。

■■ 幾何的寸法許容差設定 ■■
ISO 9001セクター規格IATF16949には公差設計の要求がありま
す。自動車部品を設計するには次のスキルを必要であるとされて
いますが、その中にある「幾何的寸法許容差設定及び表示法(G
D&T)」がそれです。ちなみにその他の要求されているスキルは
以下のようです。
1. 品質機能展開(QFD)
2. 製造設計(DFA)
3. 価値工学(VE)
4. 実験計画法(DOE)
5. 故障モード影響解析(FMEA)
6. 有限要素解析(FEA)
7. 立体モデル法
8. シミュレーション手法
9. コンピュータ支援設計(CAD)/コンピュータ支援エンジ 
ニアリング(CAE)
10.信頼性工学計画

完成品性能がある範囲に入るためには、組立主要寸法がある範
囲に入ることが要求され、そこから各部品の公差が割り付けら
れます。完成品からは出来るだけ厳しい公差を要求したい(小
型、性能等)のですが、部品側からは逆に公差をゆるめて欲し
い(コスト上)ということですが、そうしますと(公差を大き
くすれば)完成品の不具合の確率が増加する関係になります。
IATF16949でも設計者の意図と、製造上の条件の関係を分析し
トータルコスト等を総合的に判断したバランスの良い公差を設
定することを求めています。

■■ 日本における公差設計 ■■
腕時計業界では精密部品を大量に扱っていますが、1960年頃、
日本独自の腕時計を開発するにあたり、「公差設計」を盛んに
研究、活用し、超小型・薄型かつ高品質で競争力あるウォッチ
を商品化していきました。腕時計業界以外でも、工業製品の新
規開発においては限界設計のために「公差設計」は不可欠であ
り、「公差設計」を採用している企業が多く、「公差便覧」とい
った本も1960年前後に出版されていました。その後、日本の
国際競争力が上がるにつれて、公差設計は「標準化」が進み、
従来設計されたものを使用することが多くなり、各種工業会で
「公差設計」が研究されることはあまり見られなくなりました。
また設計現場にCADが導入され、ソフトの指示で設計者が公
差を決めることも普及し、「公差設計」の伝承は半ば途絶えま
した。ただし、当時盛んに公差設計を活用した設計者は定年に
なっているとはいえ長寿命時代に入ってリスキリングする人も
増えてきていると聞きます。

■■ 公差設計を理解しないと不正を根治できない ■■
失われた30年の中で頻発する品質不正は、「良いものが作れな
くなった」、「20年、30年と同じ公差で物を作っている」こと
が大きな要因です。良いものが作れなくなったので、その原因
を特定し手を打つのが王道ですが、それができないためデータ
改ざんという不正に走る、経営層も暗にそれを知っていて見過
ごすという事象が多くの組織に起きています。製品開発当初の
設計がどんな公差設計のもと行われたかの後輩設計者への伝承
が行われていないところに日本産業界の脆弱性があります。
(つづく)

特別採用(トクサイ)を考える7 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.455 ■□■
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*** 特別採用(トクサイ)を考える7 ***
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最近特別採用という制度がほとんど使われなくなっていると聞き
ます。使われても正しく使われなくなっており、場合によっては
品質不正の代名詞のように言われるようになっています。「特採」
と漢字で表現するときは正しい使い方、「トクサイ」とカタカナ
で表現するときは不正な使い方を示すとまである会社の第三者委
員会報告書には書かれています。特別採用は「買い手と売り手の
合意」がなければ成り立ちません。

■■ 特採を成立させる4つの条件 ■■
前号で特採を成り立たせるための要素には次の4つがあると述べ
ました。
1.取り決められた規格から外れた寸法/幾何学的形状/他の特性
2.買い手側の規格外れの検証
3.買い手側の環境保護の考え
4.売り手側の値引き
今回は2について述べたいと思いましたが、これには交差設計、
工程能力という設計本来の話が付いてまわりますので、まずは簡
単である3、4を先に述べたいと思います。

■■ 3.買い手側の環境保護の考え方 ■■
「環境保護」という言葉を使いましたが、日本で長らく大事にさ
れてきた「もったいない」という精神のことを言っています。
「大量に廃棄される部品がもし使用できるとしたら」資源の有効
利用の観点から積極的に活用しようという気持ちが買い手側にあ
るかどうかということを言っています。
昔イギリスに駐在していたころ、ウエッジウッドという有名な陶
器がカタログの値段よりも安く売られていてびっくりしたことが
あります。今では日本でもセカンドショップという店が当たり前
になっていますが、40年前は日本にはまだそのような概念の店は
ありませんでした。その陶器はいわゆる傷物で、絵の色が褪せて
いるとか、形がくずれている(ごくわずか)とかで、人によって
はそのくらいの傷ものならば使おうという気持ちになるのです。
自分もその部類の人間だったと昔を振り返って思い出します。

■■ 4.売り手側の値引き ■■
買い手と売り手が特採について合意するもう一つの条件が「値引
き」です。日常製品と工業製品とでは話が違うとおっしゃる方も
いると思いますが、ここでは原理原則のお話しをしているという
ことでお許しください。
工業製品であってもウエッジウッドと同様に「傷ものを買う」と
いう話になると、値段を下げて取引するということがビジネスの
上では常識になります。どのくらいの値引きをするのかは、特別
採用に至るいろいろな状況、それに続く買い手と売り手の交渉に
よりますので、それぞれの個別案件ということで、ここでー般的
なお話しはできません。さらに、買い手側にも自分たちの顧客と
約束した納期がありますので、一概に特採を断るということも得
策ではありません。

■■ 2.買い手側の規格外れの検証 ■■
さて、4つの条件の説明で残ってるのが「2.買い手側の規格外
れの検証」です。売り手から「〇〇規格が〇〇外れていますが使
用できませんか」と依頼されたとき、使用できるかどうかを検証
するには「規格がどのような条件で決められたか」を知らなくて
はなりません。最近の「特別採用制度がほとんど使われていない」
という背景には4条件のうちの2番目がネックになっていること
はほとんどの特採ケースで聞く話です。規格が標準に基づいて決
められている場合は、買い手も根拠がはっきりとしていることか
ら検証も比較的容易にできますが、設計には標準が無く組織自身
が決めなければならない特性が多くあります。買い手の特性を実
現するうえで設計が決めなければならない規格に関する技術上の
要素が「公差設計」、「工程能力」の2つです。次回はこの2つに
ついて話を進めることにしたいと思います。
(つづく)

特別採用(トクサイ)を考える6 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.454 ■□■
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*** 特別採用(トクサイ)を考える6 ***
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特別採用は「買い手と売り手の合意」がなければ成り立ちません。
成り立たせるための要素には主に次のことがあります。
1.取り決められた規格から外れた寸法/幾何学的形状/他の特性
2.買い手側の規格外れの検証
3.買い手側の資源保護の考え
4.売り手側の値引き

■■ 取り決められた規格とは ■■
1から順に説明していきたいと思います。1でいう「取り決めら
れた規格」とは、買い手と売り手が合意した規格のことを意味し
ます。製品の特性で買い手と売り手が合意しなければならないも
のには次のような項目/特性があります。ここに上げた特性はハー
ド製品に代表的なもので、サービスも含めるとさらに多くの特性
が挙げられると思います。
(1)製品寸法(長さ、高さ、厚み、角度)
(2)幾何学的形状
(3)色彩、触覚、傷、バリ、外観など感覚特性
(4)機能(出力、動き、強度、耐久性、信頼性、環境保護特性など)

■■ 買い手と売り手の特性についての合意 ■■
買い手と売り手が以上のような特性について一つ一つ合意しない
で済むように近代社会には「標準/規格」があります。例えばJIS
規格を設計に採用すれば買い手と売り手は製品のその特性を検討
しなくても合意できるということで、産業界にはなくてならない
標準という基盤が存在します。
こうした標準の存在は近代国家には無くてはならないもので、産
業界のビジネスにおいては買い手と売り手の合意が迅速に図れる
ということが標準化のメリットであると言えます。JISは日本の
国家規格ですが、国際規格として存在するのが有名なISO規格で
す。ISOはマネジメントシステムで有名になりましたが、本来の
機関の使命は工業標準規格の開発、合意、維持、改定/修正など
を世界的に行うことです。これ以外にも団体・協会機関が決めた
規格があります。例えばUL規格ですが、UL規格はアメリカの
保険組織団体が火災を起こさない材料を規定したいということで
プラスチック難燃性を1910年ころに規格に規定したものが始ま
りと言われています。もっと有名な規格としてはアメリカのMIL
スタンダードがあります。MIL規格はアメリカ軍が使用する金属
材料などを特に強度の面から規定したものが始まりです。JIS規
格には、戦後海外のMIL規格やISO規格がそのまま採用されて
いるものが多くありますが、これは海外との貿易において必須な
動きでした。日本の中でもいろいろな工業会が自主的に決めてい
る標準がありますが、これらが社会に認められるようになると
JIS規格に採用されるということになります。

■■ 買い手と売り手の特性についての合意 ■■
このように世界で標準とされている規格を売り手が自社製品規格
に採用する場合は、買い手も根拠がはっきりとしていることから
仕様の合意は比較的容易にされることになりますが、製品設計で
は標準が無く組織自身が決めなければならない特性が圧倒的に多
くあります。製品開発、設計の現場では、できるだけ標準化され
ている特性を活用しようとしますが、競争相手との差別化を考慮
すると組織独自の特性を決めなければなりません。買い手の期待
する特性を実現するうえで設計上重要な要素は「工程能力」と
「公差設計」の2つです。最近の技術者の動向を見て気になるの
はこの2つの訓練特に公差設計の訓練を受けていない人が多くい
ることです。製品設計するときの規格の決め方を知らなければ
「特採申請」というプロセスを行うことはできません。特に買い
手に特採を納得してもらう説明はできません。このことは買い手
側の技術者についても同じことで、公差設計の基本を知らなけれ
ば、「特採を受け入れる」という判断はできないことになります。
(つづく)