Author Archives: 良人平林

医療のマネジメントシステム | 平林良人の『つなげるツボ』

■□■ 平林良人の『つなげるツボ』 Vol.8 ■□■
 
  *** 医療のマネジメントシステム ***

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テクノファ代表取締役の平林です。

今回は近年話題になっている「医療のマネジメントシステム」
について話をさせていただきます。

宜しくお願いいたします。

■□■ 医療の世界にQMS ■□■

マネジメントシステムは医療の世界にどうして必要なのでしょ
うか。

医療の世界にQMSが必要ではないかとの投げかけは、10年
くらい前からありました。

ここ10年、医療のミスは多くのマスコミに取り上げられ、一
つの大きな社会問題となっています。

組織がマーケットに期待される製品(サービスを含む)を提供
するためには、固有技術とそれを活かす管理技術の双方が必要
ですが、このことは医療の世界においても全く同じです。

医療の質、安全を実現するためには、医療における固有な業務
を可視化、構造化、標準化することが必要ですし、それらの標
準化された業務を組織全体に応用する質マネジメントシステム
モデルの構築が必要なのです。

昨年、東大病院の永井前院長に医療の質についてお話を伺った
ことがありますが、全国の病院でどの位の医療ミスが起きてい
るか、その全貌はまだ十分に見えているとは言えないようです。

医療ミスの定義、医療組織への周知、データ収集、データ分析
などが徹底されないと医療ミスの統計はきちんと取れません。

■□■ QMS-H 研究会 ■□■

3月7、8日と東京大学で行われたQMS-Hシンポジウムの
発表会を聴いてきました。QMS-Hとは“Quality centered
Management System for Healthcare ”の略で正式には「医療
における質中心経営管理システムと導入推進のモデル開発研究
会」というものです。

東京大学飯塚悦功教授が主査、早稲田大学棟近雅彦教授が副査
をつとめている研究会で、多くの病院と大学との産学連動の研
究会です。

月1回、大学で参加病院と研究者の会合が持たれ、医療QMS
モデル開発についての議論と進捗状況が検討されています。

■□■ こんな研究が行われている ■□■

今回の発表は以下のようなものでした。

● QMSの新規導入・推進
  -大久野病院(慢性期療養型病院、174床)
  -仙台医療センター(急性期総合病院、698床)
  -前橋赤十字病院(急性期総合病院、592床)
  -武蔵野赤十字病院(急性期総合病院、611床)
● QMSの継続的導入・推進
  -(株)麻生 飯塚病院(急性期総合病院、1165床)
● QMSの再構築
  -城東中央病院(急性期総合病院、233床)
  -(株)日立製作所水戸総合病院(急性期総合病院、21
5床)

今回のシンポジウムは、病院が質のよい医療を提供するために
はQMSに基づく業務の進め方の研究が必要であるとして、そ
の経過と結果の発表を上述の7病院と大学の両者が行ったもの
です。

QMSに基づく業務の進め方については、次のような研究発表
がありました。
  与薬実施手順書、処方箋監査マニュアル、院内感染対策標
準、クリニカルパスの文書体系・管理について

また、業務で使用する資源についての研究発表では次のような
ものがありました。
  輸液ポンプ、人口呼吸器、ストレッチャー、与薬カート、
自動検査装置などの設備管理、精度管理について

■□■ QMSの構築 ■□■

これらの発表で分かったことは、QMS(Quality centered Ma
nagement System)の構築においては、まず最初に主要業務のプ
ロセスフローチャート(PFC)を作成することが大切である
ということでした。

業務をフローチャートにして関係する者が共有するということ
は、製造業では当たり前ですが、病院ではこれから推進してい
こうという動きです。

まず、病院では標準化という概念が希薄です。理由は、状態の
異なる患者さんを相手にするのだから、工業製品と違って標準
化なんかできないという思いがあるのです。

標準化とは次のことをいいます。
 ・単純化する
 ・少数化する
 ・秩序化する

複雑で、ばらばらなものが無秩序にあったら、どんなものでも
うまくいくはずはありません。

■□■ プロセスフローチャート(PFC) ■□■

病院の業務の可視化、といっても対象はたくさんあります。そ
の業務を構造化し、標準化していくとなると容易ならざる仕事
です。

でも「隗よりはじめよ」と足元の業務からPFCを作成した発
表が多くありました。実際にPFC作成を行ったのは実務をこ
なしている看護師の人たちです。

標準化に取り組むといってもこれまで実際の経験のない人たち
ですから、困惑したことと思いますが、毎日の多忙な業務の中
で困難を極めながらもPFC作成にチャレンジした若い人たち
の姿は感動的でさえありました。

このような事ができたのは、病院長の強いリーダーシップがあ
ったからで、「本当に医者を巻き込むのですか?」と問うと、
「Yes」とはっきり応えてくれるトップがいてくれたからできた
という話でした。

全部で7つの病院と大学の発表を聞いたのですが、私が産業界
で経験したことと全く同じことが遅れてではありますが、やっ
と医療の世界に及んできたのかと感激を覚えました。

今回のシンポジウムに参加して、我々が関係している産業界も
医療の世界もQMSということでは強く繋がっているのだなぁ
と改めて感じました。

ISO/TC176(品質保証)東京総会 | 平林良人の『つなげるツボ』

■□■ 平林良人の『つなげるツボ』 Vol.7 ■□■
 
  *** ISO/TC176(品質保証)東京総会 ***

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テクノファ代表取締役の平林です。

今回は2月23日~28日東京で開催されたISO/TC176(品質保証)
の話をさせていただきます。

ところで、前回「今年は名古屋で生物多様性国際会議(COP
10)が開かれる」と書きましたが、来年(2010年)の誤りで
した。お詫びして訂正させていただきます。

では、今回も宜しくお願いいたします。

■□■ 日本では3回目の総会 ■□■

TC176の第26回総会が有楽町の東京国際フォーラムで1週間開か
れました。世界各国から200人くらいの代表が集まりました。

ホスト国の代表として挨拶された東京大学飯塚先生は、「日本
は今回で3回目のホスト国を務めることになる、いかに日本が
ISOを好んでいるかの証拠である、と同時にクレージである」と
いって参加者を笑わせました。

クレージ(crazy)には、夢中になると言う意味と頭がおかしい
という意味の2つがあるから皆が笑ったのですが、前回のホス
ト国経験は2000年の京都総会です。

カナダから来た私がよく知っている委員によると、京都総会で
の晩餐会には舞妓の踊りも披露され好評だったということです
(私も参加していたのですが、記憶は彼方のものになってしま
いました)。

200人規模の国際会議となると、会場代とイベント代(レセプ
ション、夕食会、通信費など)での経費は数1,000万円単位にな
るそうです。

また準備も大変です。ざーっと挙げてみても次のような準備を
しなければなりません。
・会議日程の周知
・会議会場の手配
・滞在ホテルの手配
・会議中休憩場所、お茶手配
・会議用コンピュータ、プロジェクタ、FAX、コピーの手配
・会議周辺の英文地図
・案内役(学生アルバイト)手配
・緊急時対応
・通信
・伝言体制など

まだまだあるのでしょうが、経済的に余裕のある国、あるいは
経済状況の良い時でないとホスト国を務めることはなかなかで
きません。

■□■ 世界的不況の影響? ■□■

今回の参加者は200人と言いましたが、この数は例年の総会参加
者の数を下回ります。

理由は幾つか考えられますが、一つは世界的な不況と円の高騰
であろうといわれています。特に円の高騰については、つい昨
年の総会時(2008年5月、セルビア)では1ドル115円だったも
のが、90円になってしまったわけですから、海外からくる人た
ちには経済的負担が大きかったようです。

次に考えられるのが、ISO9001:2008規格が一段落して、大きな
目玉がなくなったということもあります。

今回の総会でのメイントピックスは次のようなものでした。
・ISO/DIS9004:2008規格を審議してFDISにする。
・ISO19011規格改正の審議をする。
・ISO9001:2008中小企業へのガイドブックを改正する。
・ISO9000:2005規格改正の審議をする
・ISO16949(自動車セクター規格)の改正の審議をする。
・その他

その他には、
ISO10001(品質マネジメント-顧客満足-組織のための行動規
範の指針)
ISO10002(品質マネジメント-顧客満足-組織における苦情処理
の指針)
ISO10003(品質マネジメント-顧客満足-組織における紛争解決
の指針)
ISO10004(顧客満足の測定及び監視、CD又はDISの作成段階)
ISO10005(品質マネジメントシステム-品質計画書の指針)
ISO10007(品質マネジメントシステム-構成管理の指針)
ISO10012(計測マネジメントシステム-測定プロセス及び測定
機器の要求事項)
ISO10014(品質マネジメント-財務的及び経済的便益を実現す
るための指針)
ISO10018(品質マネジメントシステム-マネジメントシステム
における人々の参画及び力量、WD2段階)
ISO10019(品質マネジメントシステムコンサルタントの選定及び
そのサービスの利用のための指針)
IWA2(品質マネジメントシステム-ISO 9001:2000の教育分野へ
の適用の指針)
IWA4(品質マネジメントシステム-地方自治体におけるISO 900
1:2008の適用の指針)
peoples、time/agilityなどの見直し、改正審議などが入ってい
ます。

■□■ オブザーバーが一番多かったのはISO9001 ■□■

総会へはスポンサーとなった日本の関係機関からオブザーバー
の出席が許されました。全部で40人くらいの参加がありました
が、一番人気があったのはISO9001(future revision) でした。

ISOのルールで規格改正から3年間は規格内容を修正することは
できません。したがって、昨年改正されたばかりのISO9001規格
についての議論は、今後どうあるべきかというビジョンに関す
るものとなりました。

ビジョンの議論では、ISO9001規格の内容に含んだほうがよい
と思われる内容として、例えばIT(情報技術)の活用、サプライチ
ェーンマネジメント、リスクマネジメント、CSR(Corporate Social
Responsibility)との連携など、いろいろな意見が出されました。

しかし、今回の総会での議論はあくまでも今後のISO9001規格の
あるべき姿へのブレーンストーミングであって、ここで議論された
ものは集約されたものではなく、従ってそのまま次期ISO9001規格
へ反映されるものではありません。

このように多様な議論が交わされた結果、委員の意見だけでなく
ISO9001規格の利害関係者からも意見を聞いた方がよいのではな
いかという意見も出されました。

利害関係者とは 誰かということになりますが、第三者審査登録を
受けた組織だけではないと思います。 受審組織に加え、消費者、
政府、規制当局、経営者、従業員、株主なども利害関係者です。

■□■ マネジメントシステムの必要性 ■□■

経営者は売上が伸び利益が上がっているうちはそれでよいと考
え、マネジメントシステムの構築の必要性を感じないことがあ
ります。

しかし、本当にマネジメントシステムは必要ないのでしょうか。
議論のなかでは、良い状況にあるときほどマネジメントシステ
ムを構築しておくべきではないかという意見が多かったように
思います。

逆に周りがやっているから自分たちも構築しなければ社会的ス
テイタスが維持できないと考えて、つい形式的なマネジメント
システムを構築してしまうケースもあるようです。

実質のない、形骸化したマネジメントシステムを構築しても百
害あって一利なしであるという意見が多かったと思います。

また、世界的大不況の環境下にあって、マネジメントシステム
構築どころではない、まずは注文をとってこなければならない
という意見も聞かれました。

それに対していやいやこういう時期だからこそマネジメントシ
ステムを見直すべきであるという意見もありました。

マネジメントシステムの有効性・有効活用については
テクノファのセミナーが参考になります。

「平林良人によるマネジメントシステムの有効性向上術」
http://www.technofer.co.jp/training/iso9000/tm01.html

「QMS組織活性化のための組織風土改善コース」
http://www.technofer.co.jp/training/iso9000/tq81.html

しばらくはこのような議論、意見交換がされていくであろうと
思います。猶予期間3年間のなかで次期ISO9001規格のフレーム、
DS(Design Specification)を作成し、2015年の完成を目指して
規格作りをしていくことになりそうです。

ただ、これからはISO9001単独では議論が進みません。
ISO14001規格(環境マネジメントシステム)、ISO27001規格
(情報セキュリティマネジメントシステム)などと整合(規格の構造、
用語の定義、共通要素の統一など)を取って規格作りを進めてい
くことが既に決められています。

多様性の波 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』 Vol.6 ■□■
  *** 多様性の波 ***
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テクノファ代表取締役の平林です。

今回は8年続いている東京大学非常勤講師について話をさせていただき
ます。

宜しくお願いいたします。

■□■ 多様化が進む大学 ■□■

私は2002年春から東京大学大学院新領域創成科学研究科において、環境
プランニング基礎講座を担当するようになりました。実際に教えている
のは環境マネジメントシステム、ライフサイクルアセスメント、排出権
取引、環境プランニングなどです。

大学で環境関係の講座が新設されてから久しいのですが、今や全国の大
学に環境関係の講座があるといってよいと思います。

担当している学生数は年々増加していまや140人となっています。昨年の
私の担当クラスでは140人中32人が女性でしたし、留学生も10%くらいお
り、欧米、東南アジア、中南米と出身国もさまざまです。

中には、一度社会に出てまた大学に戻って研究をしているという社会人
兼学生のような方もおり、学生の多様化にはめざましいものがあります。

私のやっている講座は選択科目ですから、いろいろな専攻の生徒がきま
す。理系も文系も一緒に授業を受けています。したがって、教える内容
は理系の人が退屈しないよう、かつ文系の人が難しくないように気をつ
かっています。

学生の専攻は、昨年の例でいいますと、Sustainability Science、海洋
技術環境学、環境システム学、国際協力学、自然環境学、社会文化環境
学、先端エネルギー工学、人間環境学、複雑理工学、メディア環境など
相当に広範な人材が集まってきます。

■□■ 本郷でMOTプロジェクトがスタート ■□■

なぜ私が東京大学の非常勤講師になったか、そして今日まで8年続いて
いるのかは、大学の多様化に深く関係しています。

2002年、環境プランニング学会の板生清副会長(当時東京大学教授、NP
O法人WINの会理事長)から、文部科学省が新しいプロジェクト「MOT」を
各大学から募集をすることになった、ついては東京大学大学院としてそ
れに応募したいという話がありました。

当時、アメリカではMOT(Management Of Technology) という科学技術者
育成プログラムがMBA(Master of Business Administration)の理系版
として流行っておりました。

MOTとは、「技術に立脚する事業を行う企業・組織が、持続的発展のため
に、技術が持つ可能性を見極めて事業に結びつけ、経済的価値を創出し
ていくマネジメント」です。

株式会社テクノファでは、ISO14001環境マネジメント関連講座の多様化
の一つとして、「環境プランナー」という資格講座を当時展開しており
ました。

この講座が板生先生の目にとまり、MOTプロジェクトへの協力を要請され
たことから非常勤講師を勤めるようになりました。

■□■ 環境プランニングとは ■□■

環境プランニング学会(山本良一会長)では、組織固有の環境に関する
計画を作ることを「環境プランニング」と呼んでいます。

環境プランニングを定義すると次のようになります。
「組織の置かれている経営的、技術的、管理的な固有の状況を考慮して、
組織が地球環境の視点から長期的に取り組むべき課題を明かにし、それ
に対する対応策を計画(プラン)すること。」

世界の人口の増加に伴って世界で消費されるエネルギーは急増していま
す。この急増するエネルギーの大半は、地殻から掘り出されたものです。
人類はその繁栄の過程で、地球の地下資源を掘り出し、エネルギーとし
て又材料として大量に消費してきました。

その結果、二酸化炭素や硫黄酸化物、窒素酸化物などが大気中に排出さ
れ、大量の化学物質が水中や土壌に蓄積されることとなりました。
かつては無限と思われた地球の自然浄化能力が限界に達し、バランスの
とれた自然の循環の輪が断ち切られつつあります。

このような状況のもと、21世紀に存在する組織は環境に焦点を当てて、
自社の環境問題への取組みを明確にすることが求められています。この
取組みは、その場のその場の断片的な活動では不充分です。組織のトッ
プは長期的な方針、目標を策定し、従業員をはじめとする利害関係者に
組織の進むべき方向をはっきりさせなければなりません。

この方針、目標は、世の中で広く言われている一般的な環境情報に基づ
くスローガン的なものでは説得力はありません。「ビジョンを描くこと」
からなお一歩進めた組織固有な方針、目標を含んだ、自分たちに何が
できるか、自分たちだからこそできるという組織固有の計画(プラン)
でなければなりません。

【テクノファ環境プランナー関連講座】
http://www.technofer.co.jp/training/consulting/indexplan.html

■□■ 柏の葉キャンパス ■□■

講座を担当して3年経った2005年、東京大学の環境専攻関係のキャンパ
スは、本郷から千葉県柏に移転しました(最寄り駅:「柏の葉キャンパ
ス」(つくばエクスプレス))。その関係で新領域創成科学研究科も柏
に移動し、秋葉原から「つくばエクスプレス」に乗って約30分間電車に
揺られていくことになりました。

いまでこそ駅前に「ららぽーと柏の葉」ができましたが、移転した当時
は国立がんセンターがあるだけで駅前に何もないところでした。

学生も東京大学なのに東京じゃないと言っていました。その代わり施設
はすばらしいものです。最新の映像装置、音響装置、遠距離通信装置な
どが装備されています。

柏に来て本郷より学生の数が増えました。一クラス140人というのは東大
では大きな規模です。それだけ「環境プランニング」は人気のある講座
だといえると思います。

■□■ 今様東大生 ■□■

何も今に限らないかもしれませんが、授業で眠る学生がいます。それも
講師の目前で堂々と眠ったりしています。私の同僚の講師は「一人も眠
らせないこと」を講師信条にしています。

彼によると眠らせないコツは次のようなものだそうです。
 ・面白い話をする。
 ・考えさせる。
 ・質問をする。
 ・大きな声で話をする(眠っている学生の近くで)。

彼は一人でも眠る学生が出ると、今日は「負けた」といって落ち込みま
す。
140名もいますから大変です。私は、いろいろな学生がいていい、今は多
様性の時代だからと訳けのわからない理屈で彼を慰めています。

昨今の世界同時不況もアメリカ一極主義、多様性のなかったことが原因
の一つであると言われているのですから。

そういえば今年は名古屋で生物多様性国際会議(COP10)が開かれ
るそうです。

皆様の周りのいろんなところで多様性が確認できるようになってはいませ
んか?

英語を聴くむずかしさ | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』 Vol.5 ■□■
  *** 英語を聴くむずかしさ ***
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テクノファ代表取締役の平林です。

再びISO国際会議についての話題です。

昔(50年ほど前)、小学校で「世界中の人が同じ言葉で会話ができる日が
いつかくる」というお話を先生から聞きました。

先生のお話では、その言葉は「エスペラント語」というもので、ヨーロッパの人
が提案している言葉だということでした。

それから50年、今日国際会議で使用されている言葉は英語です。あのエスペ
ラント語はどこへいってしまったのでしょうか。

今回も宜しくお願いいたします。

■□■ 4つの英語能力 ■□■

国際会議では英語が聴けないと参加していても効果が半減します。英語能力
には次の4つがあります。

1.聴く能力
2.話す能力
3.読む能力
4.書く能力

4つの能力のなかでもっとも苦労するのが「聴く能力」です。私もその能力
向上に関していろいろな経験をしてきました。

よく言われるように、赤ちゃんは両親の話を聴くことからコミュニケーション能力
を発達させていきます。自分の孫を観察していてそのことの真実は身をもって
納得するところです。

言葉はその意味する行動と一体となった体験から、はじめてその意味を理解
することができると思います。ところが、我々大人の脳は既にいろいろな言葉が
ある意味をもってインプットされているので、なかなか行動と結びついた理解
に達することができません。

例えば、“go”と“come” というやさしい英単語の本当の意味がなかなか
身につかないのです。“I am coming to you.”(今向かっています。)という
表現は、行動と一体にならないとなかなか身につかないのです。

■□■ 相手の英語が分からない ■□■

国際会議で相手の言っていることが分からないと致命的です。当然きちんと
した意思疎通ができないことになります。

私が国際会議で経験してきた英語は、昔学校で習ったものとはだいぶ異なった
ものでした。

いろいろな国の人がいるから当然でしょうが、同じ単語でも聴こえ方が全く
違うのです。一口で「方言」と言っても、これほどの違いがあるのかと国際
会議に出席した2000年当初は途方に暮れたものでした。

私にとって一番聴きづらかった英語はネイティブの人(英国、アメリカなど
の人)の英語でした。特にスコットランド出身、ウエールズ出身の人の英語
は英語とは思えないものでした。

反対に聴きやすかった英語はネイティブでない人が話す英語でした。例えば、
ドイツ人、イタリア人、フランス人の話す英語です。

しかし、これらは一般的な傾向であって、聴きやすさに一番影響する要素は
その人個人のクセだと思います。

 
■□■ 聴くことをどのように学ぶのか ■□■

私は国際会議での経験を通じて、実践的な英語においては文法はあまり重要
ではないということを学びました。ここでいう文法とは、我々が学校で習った
受験英語のようなものを意味します。

勿論、主語、述語の順序のような最低限のルールは守らなければなりませんが、
これらは中学で学んだもので十分です。

このように文法には困りませんでしたし、読み、書きも大丈夫でしたが発音の
違いはいまでも戸惑うことがたびたびあります。

あるとき、「なっとー」と聴こえました。日本語でいう納豆にそっくりです。
しかし、その時の話題の前後関係から、とても納豆の話しが出てくるとは
思えません。

確認してみると、北大西洋条約を意味する“NATO”でした。日本ではナトー
と発音しますが、西洋ではネイトーと発音します。それがナットーと聴こえ
たのです。

“NATO”をナトーと思っている頭には、ネイトーと聴いても“NATO”である
とは絶対に気が付きません。
すでに日本語になっている英語を聴く場面が結構ありますが、これは聴くとき
に注意が必要です。ほとんどの日本語になっている英語は、ネイティブが発音
すると異なる聴こえ方になるからです。

結局、一つ一つの言葉についてネイティブがどのように発音し、どのように
聴こえてくるのかを経験によって体得するしか能力向上の秘訣はなさそうで
す。

「あるとき急に英語が聴こえるようになる」といったような英会話学校の宣伝
どおりのことは、私にはありませんでした。

■□■ 耳から入る言葉の誤解 - 日本語でも同じ ■□■

あるとき日本でラジオを聴いていると、「しゅんじゅうしゅぎ」という言葉に
ぶつかりました。そのときのラジオ番組の話題は昨今の世界金融不況でした。

「春秋主義」とはなんだろうとおもって、辞書を引きました。かろうじて
「春秋時代」がのっていました。「中国の時代区分の一つ。紀元前770年ころか
ら・・・」いわゆる中国の戦国時代のことを指す言葉だとあります。

どうも世界金融不況とは結びつきません。2,3日気になっていましたが、
あるとき新聞を読んでいて「新自由主義」という言葉が目に飛び込んできました。

新自由主義(neoliberalism:ネオリベラリズム)とは、今回の世界金融不況
の原因と目される「経済(金融)は市場の自由、合理性にまかせよう」という欧米の
考え方をいうのだそうです。

丸の内にある複合商業施設「オアゾ」。最初、その名を聴いたときは、「?
オアゾ?はて、何?どんな意味?」と思いましたが、これが何と、「オアシ
ス」を意味するエスペラント語oazo(オアーゾ)に由来しているとか。私は、
50年前の小学校の先生のお話を思い出しました。

シンポジウム「つくる」より | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』 Vol.4 ■□■
  *** シンポジウム「つくる」より ***
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テクノファ代表取締役の平林です。

今回はISO国際会議から離れて、先週(1月19日)、日本経済新聞社本社ビル
で開催されたシンポジウム「つくる」のパネリストとしての経験を話させて
いただきます。

■□■ 「本物」とは ■□■

日経産業新聞からのお誘いで、シンポジウム(公開討論会)「つくる」のパ
ネリストを務める経験をしました。パネリストというのは、公開の席で自分
の意見をいう者のことをいいますが、ある程度の準備を必要とします。

そのシンポジウムに与えられたテーマは「本物をつくる」というものでした。

モデレータ(moderator:司会をすると共に発言者の調整をする)は、東京大
学のY先生が務められました。

まず、本物とは何かが問題となりましたが、 Y先生は「本物」を次のように
定義されました。

本物とは、顧客の“真のニーズ・潜在ニーズを満たす”ものである。

■□■ 真のニーズとは何か ■□■

シンポジウムに与えられたテーマは「本物をつくる」ですから、本物とは何
かがパネラーの間に共有できないと「つくる」ところにまで議論が進みませ
ん。

本物の定義でいわれた「真のニーズ」とは何でしょうか?

そもそも顧客はなぜ製品を買うのでしょうか。製品を買った顧客は、当然そ
の製品から提供される「サービス」を期待しているのではないか、と議論は
進んでいきました。

コンピュータを買う人は、コンピュータがデータを蓄積してくれる、メール
を発信してくれるなどのいろいろなサービスを期待しています。

コンピュータという箱が欲しくて買うわけではない、コンピュータというハ
ードではなくそこからもたらされるサービスを買うのだと議論ははずんでい
きました。

■□■ サービスとは奴隷である ■□■

同じくパネリストとして参加された一橋大学のK先生によると、サービス
(service)という言葉はスレーバリー(slavery:奴隷であること)の派生
なのだそうです。

すなわち、製品は顧客に何らかのサービスをしなければならないが、そのサ
ービスは奴隷であるがごとく主人のために徹底して尽くさなければならない、
顧客がいままで「ありそうでないと感じていたサービス」を、現実に提供す
ることが真のニーズに応えることであろうというお話でした。

テクノファのように、「ISOマネジメントシステム研修」を製品としているの
であれば、その製品であるサービスは徹底して顧客の欲しいもので
なければならないということです。

テクノファの本物の研修をご紹介します。

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最新情報09/01/ 27 「ISO9001新旧規格対比解説コース」 参照
このセミナーは、大好評の「ISO9001 2008年版規格はこう変わった!」を
全面リニューアルした本物の解説コースです。

でも、顧客の要望にもいろいろあります。顧客の要望はどのようにバラつい
ているのでしょうか、要望をいろいろなジャンルに分類して、それぞれの顧
客の要望に合ったサービスとは何なのかを分析することも大変重要になって
きます。

それらのことを徹底して追及してはじめて真の顧客ニーズ・潜在ニーズが把
握でき、それらを「つくる」ことが次の議論となっていきました。

■□■ 本物をつくるとは ■□■

さて、真のニーズを把握することができたとして、それら「本物をつくる」
にはどうしたらよいのかと議論は進みました。

真のニーズを把握できても、つくるプロセスを正しく行わなければ、本物は
つくれないことになってしまいます。

ここで、Y先生から、「本物をつくる」ことの定義が提案されました。

本物をつくるためには真の顧客ニーズを把握して、それをデザイン(設計)
しなければならない。デザインとは「要求達成手段の指定」である。そして、
デザインされたものを心を込めて実現することが、「本物をつくる」ことで
あるというものでした。

真の顧客ニーズを掴んだ最近の例で言うと、ユニクロのヒートテック(下着)
がそうではないか、「ありそうでないもの(1000円位と安価にもかかわらず
汗をかいても寒くならない)」が製品化されたとしてパネリストである
シーメンスのMさんから紹介がありました。

「そういえば」とパネリストのオムロンAさんがいうには、「ホンダのカブ
とか、グリコのポッキーも本物ではないでしょうか、なんといっても
何十年も顧客から愛されていますから」

私は今回のシンポジウムを終えたとき、何となくデジャヴ「deja vu:既視体
験」感に襲われました。

家に帰ってはじめて一連のストーリーは、ISO9001規格に書かれていることだ
と気が付きました。本物をつくることはISO9001マネジメントシステムにつな
がっていたのです。