Category Archives: つなげるツボ

特別採用(トクサイ)を考える9 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.457 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
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*** 特別採用(トクサイ)を考える9 ***
-公差設計2-
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「特別採用」の話がいつの間にか「公差設計」の話になっていま
すが、それは、公差設計を知らないと特別採用の判断ができない
ということからきています。特別採用は上下限界線から外れた製
品を救おうという買い手側と売り手側の交渉ですが、外れた数値
が製品にどのような影響を及ぼすのか、どのくらいのリスクがあ
るのかを分析するうえで、当初の「公差設計」を知ることは必須
なことです。

■■ チャンピオンデータ ■■
私はかって生産技術者でしたので、開発者/設計者の心情はよく
わかりませんが、開発者が自分たちの優秀性を誇示するために
チャンピオンデータを設計に出してきた、設計者はもっと規格を
緩めても製品はできると交渉しても開発者は決して譲らない、後
発メーカーが追従できないよう厳しい公差での高機能製品を世の
中に出すことで競争力確保をしなければならない、という一点張
りで、結局、経営幹部も開発者側に同調して製造サイドには厳し
い物作りを課したという話を時々聞きました。このトップラン
ナーの考え方が社内で通った結果、製造泣かせの寸法公差が採用
されることになったわけですが、時代を経て製造諸条件がいろい
ろ変化してくると、当初実現できていた部品作りが不可能になっ
てきたというのが昨今よく聞く話です。世の中、いろいろな要素
(人、設備、材料、作業環境他)ことが大きく変化してくると、
設計当初の厳しさでモノを作れなくなったという話は説得力のあ
る話です。同じような話は昨年(一社)日本品質管理学会から発
行された「テクニカルレポート品質不正防止2023年」にも掲載
されています。これ位ならば大丈夫だろうとデータを改ざんして
製品を納入してしまうという安易な道を選んでしまうというのが
昨今の品質不正の隠れた話です(と私は思っています)。

いささか繰り返しの話になりますが、改めて公差の概念を確認し
たいと思います。公差の概念は、近代工業において大量生産が世
界的に広まったと並行して深まったと言われています。ISOに代
表されるように、グローバルな産業構造において、工業製品の互
換性は、輸出入において買い手、売り手お互いに最低限必要なこ
とでした。互換性とは、ある特定の部品群は管理された規格内の
モノであれば、どの部品と交換しても「問題は発生しない」とい
うことです。しかし、繰り返し述べてきたように、すべての部品
を基準寸法通りに作ることは不可能です。そこで、ある確率で許
容できる正確さ(反対である不正確さ)の限界を明確にして、そ
の限界内のものを作るように努力することが買い手側、売り手側
の共通な利害一致になると考えられるようになりました。

■■ 公差の概念と不完全互換性 ■■
公差を決めるということは、基本寸法からのズレの許容しうる限
界を決めることですが、その際、量産品を一つの集団としてとら
えてそのバラツキを考察することが必要です。管理された集団の
バラツキはどんな要素から生じるのかを各種誤差の偶然性(組合
せ)について考察します。ある集団のバラツキを分析し、その分
析結果から偶然現象を解析する方法が統計学です。公差を設定す
るには、上記のような統計的手法を選択することが必然的な流れ
でした。こうした統計的考察は、公差の計算法において「不完全
互換性」とよばれる考えを生み出しました。これは、組立品の主
要部の寸法を、ある一定の公差内に収めようとするとき、互換性
の要求を完全に満たすようにするには、部品の公差は必然的に厳
しくしなければならないが、逆に部品の公差を少しゆるめても、
組立品寸法が公差外に出る割合(あるいは可能性)がきわめて小
さい場合は、必ずしも互換性を完全に満たすことにとらわれずに
部品公差を決めるという考えです。

(つづく)

特別採用(トクサイ)を考える8 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.456 ■□■
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*** 特別採用(トクサイ)を考える8 ***
― 公差設計 ―
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最近「公差設計」という言葉を聞かなくなりました。この言葉は
戦後日本が物つくりで世界の頂点に立った頃、産業界で盛んに設
計者向けに教育していたカリキュラムにあった言葉です。モノは
一つとして全く同じようには作れません。多量にモノを生産する
ときに悩まされるのはいろいろな要素がバラツクということです。
例えば、機械は経時変化してだんだんと劣化していきます。原材
料も調達先によりますが、同じ成分、寸法、構造のものは手に入
りません。人のスキルの変化も考えなければなりません。

■■ 公差設計とは ■■
「公差」とは、部品個々の寸法のバラツキを容認できる範囲のこ
とをいいます。公差は2つの側面を持っています。一つは、設計
者側からの側面です。もう一つは、公差を受け入れる製造側から
の側面です。「公差」は、この2つの側面を考えながらトータル
で経済的になることを考慮して決めます。公差を厳しくすれば設
計上は自由度が増しますが、製造は厳しい管理をしなければなり
ません。場合によっては全数選別をしなければならないかもしれ
ません。逆に公差を緩くすれば設計の自由度はなくなり、ある制
限下でしか機能を果たさせることがなくなりますが、製造では条
件を広くして製造することができます。設計者には、製品仕様
(設計)と製造条件及びコスト(製造)を考慮したバランス感覚
が求められ、設計者は物つくりのトータル的視点から公差を設定
しなければなりません。このトータル的視点から「公差(許容範
囲)」を設定する方法の一つが、統計学的手法を活用する「公差
設計」です。

■■ 幾何的寸法許容差設定 ■■
ISO 9001セクター規格IATF16949には公差設計の要求がありま
す。自動車部品を設計するには次のスキルを必要であるとされて
いますが、その中にある「幾何的寸法許容差設定及び表示法(G
D&T)」がそれです。ちなみにその他の要求されているスキルは
以下のようです。
1. 品質機能展開(QFD)
2. 製造設計(DFA)
3. 価値工学(VE)
4. 実験計画法(DOE)
5. 故障モード影響解析(FMEA)
6. 有限要素解析(FEA)
7. 立体モデル法
8. シミュレーション手法
9. コンピュータ支援設計(CAD)/コンピュータ支援エンジ 
ニアリング(CAE)
10.信頼性工学計画

完成品性能がある範囲に入るためには、組立主要寸法がある範
囲に入ることが要求され、そこから各部品の公差が割り付けら
れます。完成品からは出来るだけ厳しい公差を要求したい(小
型、性能等)のですが、部品側からは逆に公差をゆるめて欲し
い(コスト上)ということですが、そうしますと(公差を大き
くすれば)完成品の不具合の確率が増加する関係になります。
IATF16949でも設計者の意図と、製造上の条件の関係を分析し
トータルコスト等を総合的に判断したバランスの良い公差を設
定することを求めています。

■■ 日本における公差設計 ■■
腕時計業界では精密部品を大量に扱っていますが、1960年頃、
日本独自の腕時計を開発するにあたり、「公差設計」を盛んに
研究、活用し、超小型・薄型かつ高品質で競争力あるウォッチ
を商品化していきました。腕時計業界以外でも、工業製品の新
規開発においては限界設計のために「公差設計」は不可欠であ
り、「公差設計」を採用している企業が多く、「公差便覧」とい
った本も1960年前後に出版されていました。その後、日本の
国際競争力が上がるにつれて、公差設計は「標準化」が進み、
従来設計されたものを使用することが多くなり、各種工業会で
「公差設計」が研究されることはあまり見られなくなりました。
また設計現場にCADが導入され、ソフトの指示で設計者が公
差を決めることも普及し、「公差設計」の伝承は半ば途絶えま
した。ただし、当時盛んに公差設計を活用した設計者は定年に
なっているとはいえ長寿命時代に入ってリスキリングする人も
増えてきていると聞きます。

■■ 公差設計を理解しないと不正を根治できない ■■
失われた30年の中で頻発する品質不正は、「良いものが作れな
くなった」、「20年、30年と同じ公差で物を作っている」こと
が大きな要因です。良いものが作れなくなったので、その原因
を特定し手を打つのが王道ですが、それができないためデータ
改ざんという不正に走る、経営層も暗にそれを知っていて見過
ごすという事象が多くの組織に起きています。製品開発当初の
設計がどんな公差設計のもと行われたかの後輩設計者への伝承
が行われていないところに日本産業界の脆弱性があります。
(つづく)

特別採用(トクサイ)を考える7 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.455 ■□■
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*** 特別採用(トクサイ)を考える7 ***
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最近特別採用という制度がほとんど使われなくなっていると聞き
ます。使われても正しく使われなくなっており、場合によっては
品質不正の代名詞のように言われるようになっています。「特採」
と漢字で表現するときは正しい使い方、「トクサイ」とカタカナ
で表現するときは不正な使い方を示すとまである会社の第三者委
員会報告書には書かれています。特別採用は「買い手と売り手の
合意」がなければ成り立ちません。

■■ 特採を成立させる4つの条件 ■■
前号で特採を成り立たせるための要素には次の4つがあると述べ
ました。
1.取り決められた規格から外れた寸法/幾何学的形状/他の特性
2.買い手側の規格外れの検証
3.買い手側の環境保護の考え
4.売り手側の値引き
今回は2について述べたいと思いましたが、これには交差設計、
工程能力という設計本来の話が付いてまわりますので、まずは簡
単である3、4を先に述べたいと思います。

■■ 3.買い手側の環境保護の考え方 ■■
「環境保護」という言葉を使いましたが、日本で長らく大事にさ
れてきた「もったいない」という精神のことを言っています。
「大量に廃棄される部品がもし使用できるとしたら」資源の有効
利用の観点から積極的に活用しようという気持ちが買い手側にあ
るかどうかということを言っています。
昔イギリスに駐在していたころ、ウエッジウッドという有名な陶
器がカタログの値段よりも安く売られていてびっくりしたことが
あります。今では日本でもセカンドショップという店が当たり前
になっていますが、40年前は日本にはまだそのような概念の店は
ありませんでした。その陶器はいわゆる傷物で、絵の色が褪せて
いるとか、形がくずれている(ごくわずか)とかで、人によって
はそのくらいの傷ものならば使おうという気持ちになるのです。
自分もその部類の人間だったと昔を振り返って思い出します。

■■ 4.売り手側の値引き ■■
買い手と売り手が特採について合意するもう一つの条件が「値引
き」です。日常製品と工業製品とでは話が違うとおっしゃる方も
いると思いますが、ここでは原理原則のお話しをしているという
ことでお許しください。
工業製品であってもウエッジウッドと同様に「傷ものを買う」と
いう話になると、値段を下げて取引するということがビジネスの
上では常識になります。どのくらいの値引きをするのかは、特別
採用に至るいろいろな状況、それに続く買い手と売り手の交渉に
よりますので、それぞれの個別案件ということで、ここでー般的
なお話しはできません。さらに、買い手側にも自分たちの顧客と
約束した納期がありますので、一概に特採を断るということも得
策ではありません。

■■ 2.買い手側の規格外れの検証 ■■
さて、4つの条件の説明で残ってるのが「2.買い手側の規格外
れの検証」です。売り手から「〇〇規格が〇〇外れていますが使
用できませんか」と依頼されたとき、使用できるかどうかを検証
するには「規格がどのような条件で決められたか」を知らなくて
はなりません。最近の「特別採用制度がほとんど使われていない」
という背景には4条件のうちの2番目がネックになっていること
はほとんどの特採ケースで聞く話です。規格が標準に基づいて決
められている場合は、買い手も根拠がはっきりとしていることか
ら検証も比較的容易にできますが、設計には標準が無く組織自身
が決めなければならない特性が多くあります。買い手の特性を実
現するうえで設計が決めなければならない規格に関する技術上の
要素が「公差設計」、「工程能力」の2つです。次回はこの2つに
ついて話を進めることにしたいと思います。
(つづく)

特別採用(トクサイ)を考える6 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.454 ■□■
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*** 特別採用(トクサイ)を考える6 ***
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特別採用は「買い手と売り手の合意」がなければ成り立ちません。
成り立たせるための要素には主に次のことがあります。
1.取り決められた規格から外れた寸法/幾何学的形状/他の特性
2.買い手側の規格外れの検証
3.買い手側の資源保護の考え
4.売り手側の値引き

■■ 取り決められた規格とは ■■
1から順に説明していきたいと思います。1でいう「取り決めら
れた規格」とは、買い手と売り手が合意した規格のことを意味し
ます。製品の特性で買い手と売り手が合意しなければならないも
のには次のような項目/特性があります。ここに上げた特性はハー
ド製品に代表的なもので、サービスも含めるとさらに多くの特性
が挙げられると思います。
(1)製品寸法(長さ、高さ、厚み、角度)
(2)幾何学的形状
(3)色彩、触覚、傷、バリ、外観など感覚特性
(4)機能(出力、動き、強度、耐久性、信頼性、環境保護特性など)

■■ 買い手と売り手の特性についての合意 ■■
買い手と売り手が以上のような特性について一つ一つ合意しない
で済むように近代社会には「標準/規格」があります。例えばJIS
規格を設計に採用すれば買い手と売り手は製品のその特性を検討
しなくても合意できるということで、産業界にはなくてならない
標準という基盤が存在します。
こうした標準の存在は近代国家には無くてはならないもので、産
業界のビジネスにおいては買い手と売り手の合意が迅速に図れる
ということが標準化のメリットであると言えます。JISは日本の
国家規格ですが、国際規格として存在するのが有名なISO規格で
す。ISOはマネジメントシステムで有名になりましたが、本来の
機関の使命は工業標準規格の開発、合意、維持、改定/修正など
を世界的に行うことです。これ以外にも団体・協会機関が決めた
規格があります。例えばUL規格ですが、UL規格はアメリカの
保険組織団体が火災を起こさない材料を規定したいということで
プラスチック難燃性を1910年ころに規格に規定したものが始ま
りと言われています。もっと有名な規格としてはアメリカのMIL
スタンダードがあります。MIL規格はアメリカ軍が使用する金属
材料などを特に強度の面から規定したものが始まりです。JIS規
格には、戦後海外のMIL規格やISO規格がそのまま採用されて
いるものが多くありますが、これは海外との貿易において必須な
動きでした。日本の中でもいろいろな工業会が自主的に決めてい
る標準がありますが、これらが社会に認められるようになると
JIS規格に採用されるということになります。

■■ 買い手と売り手の特性についての合意 ■■
このように世界で標準とされている規格を売り手が自社製品規格
に採用する場合は、買い手も根拠がはっきりとしていることから
仕様の合意は比較的容易にされることになりますが、製品設計で
は標準が無く組織自身が決めなければならない特性が圧倒的に多
くあります。製品開発、設計の現場では、できるだけ標準化され
ている特性を活用しようとしますが、競争相手との差別化を考慮
すると組織独自の特性を決めなければなりません。買い手の期待
する特性を実現するうえで設計上重要な要素は「工程能力」と
「公差設計」の2つです。最近の技術者の動向を見て気になるの
はこの2つの訓練特に公差設計の訓練を受けていない人が多くい
ることです。製品設計するときの規格の決め方を知らなければ
「特採申請」というプロセスを行うことはできません。特に買い
手に特採を納得してもらう説明はできません。このことは買い手
側の技術者についても同じことで、公差設計の基本を知らなけれ
ば、「特採を受け入れる」という判断はできないことになります。
(つづく)

特別採用(トクサイ)を考える5 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.453 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
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*** 特別採用(トクサイ)を考える5 ***
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特別採用の対象にはけっしてならない事案が国土交通省に報告され
ました。今年2月、ガソリンエンジンに関する豊田自動織機からの
報告がそれです。エンジン内部の相互作用を制御するエンジンコン
トロールユニット(ECU: Engine Control Unit)に特別なソフトウ
エア(試験用)を組み込んでいたというものです。

■■ フォルクスワーゲン(VW)の品質不正 ■■
ECUに組み込むソフトウエアに関する不祥事には、過去に例があり
ます。2015年、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)がディーゼル
エンジンの制御システムに、米環境保護庁(EPA)の排出規制を違
法に回避するソフトウエアを使用していた問題を覚えておられる方
も多いと思います。窒素酸化物(NOX)排出量を試験データでは規
制値以下に低減しておき、実際の通常走行時には規制値の10~40
倍ものNOXを排出していたという事例です。

VWは2012年ころから新規エンジン開発を進めてきましたが、
ディーゼルエンジンを制御するソフトウエアに違法な”切り替え操
作”を組み込みました。排ガスの試験では「試験用」の制御ソフト
ウエアにより、排ガスレベルを基準値以下に抑える一方で、道路上
走行時には“切り替え操作”を作動させ窒素酸化物(NOx)を低減さ
せる触媒の働きを弱めることをしていました。触媒の働きを弱める
ことで、出力特性や燃費が向上しますが、その代りに排ガスに含ま
れるNOxの量は、基準値の10?40倍に増加します。この事実が米
環境保護庁(EPA)の調査によって明らかになりました。

■■ 米環境保護庁(EPA)の排出規制 ■■
このVW事件と同様な問題が今回の豊田自動織機で起こったのです。
EPAデータ確認の中で、同社は申請済みのデータに疑義があると気
づき、2021年5月に外部の弁護士に事実関係の調査を依頼したそう
です。その結果、ガソリンエンジンだけでなくディーゼルエンジン
にも違法なことが行われていることが明らかになったとのことです。
その内容は劣化耐久試験における法規違反と、排出ガスの規制値の
超過であり、2023年3月、豊田自動織機は自らその事実を公表しま
した。そして、それから10か月、特別調査委員会の調査した結果が
今回の国土交通省への報告になったということです。

■■ 原因はなんでしょうか ■■
2月16日発行の日経クロステックには次のように記されています。

「原因としてまず挙げられるのが、技術力の不足だ。本来は使うこ
とを許されていない試験用ECUを使ってまで劣化耐久試験に臨んだ
にもかかわらず、排出ガスの規制値を超過した産業車両用エンジン
がある。この事実から、法規が要求する水準の排出ガスの浄化性能
を備えた産業車両用エンジンを開発する上で、豊田自動織機は十分
な技術力を備えていなかったと判断せざるを得ない。そして、本来
はキャッチアップすべき排出ガスの規制強化を軽視し、劣化耐久試
験が義務化された当初から不正を行っていた事実から、法規に対す
るコンプライアンス(法令順守)意識の低さも、不正につながった
と考えられる。不正の発生を許した理由については2点挙げられる。
1つは、属人的な法規解釈となっていたことだ。豊田自動織機には
認証業務を担当する専門部署が存在せず、エンジン開発部門の適合
グループの社員が認証業務を行っていた。これでは個人の力量に依
存するため、押さえるべき法規知識の抜けや漏れ、解釈の間違いな
どが生まれた可能性がある。同社で専門部署である「法規渉外認証
室」や「法規認証管理部」が出来たのは2021年になってからだ。
もう1つは、けん制機能が働かない、いわゆる「お手盛り」の認証
試験を行っていたことである。豊田自動織機では適合グループが認
証業務を担っていた。すなわち、部署は違っていても同じ部門内で
エンジンの開発設計と認証試験が行われていたことになる。

引用:豊田自動織機のエンジン不正、10の追究 | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)」

■■ さらに分析すると ■■
日経クロステックでは、原因として3つをあげていますが、いずれ
も事の起きた状況を説明しているものであって、本当の原因に近づ
けていません。もう少し掘り下げないと真因に近づけないと思いま
す。真因に近づくには、「なぜなぜ5回分析」が有効です。
以下に「なぜなぜ5回分析」の入り口を考えてみます。ただし、こ
の「なぜなぜ5回分析」は、あくまでも筆者の推測で、実際に分析
を行うには現地、現物の事実確認が必要です。
1.技術力が不足していた → なぜ技術力が不足していたのか 
→必要な技術力を分析していなかったからである。
2.属人的な法規解釈となっていた → なぜ属人的な法規解釈と
なっていたのか → 組織としての法規解釈を行っていなかっ
たからである。
3.けん制機能が働かなかった → なぜけん制機能が働かなかっ
たのか → 同じ部門で実施、チェックを行っていたからである。

(つづく)