Category Archives: つなげるツボ

トヨタ物語21 | 平林良人の『つなげるツボ』

—————————————————————
■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.419 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** トヨタ物語21 ***
—————————————————————
近年に起きた品質不正の話をしている時期に書棚を整理していま
したら、50年も前のトヨタ大野耐一氏の講演録が出てきました。
品質不正とあまりに対照的なトヨタ創成期の物語を読むと多くの
示唆が得られると思いトヨタ物語を話させていただいています。
以下はすべて大野氏の話です。。

■■ 個人技とチーム・プレーの相乗効果 ■■
「自働化」をどのように進めるかは、各生産現場の管理・監督者
の知恵のだしどころである。肝心な点は、機械に人間の知恵を付
けることであるが、同時に「作業者=人間の単なる動きを、いか
にニンベンの付いた働きにするか」である。トヨタ生産方式の2
本の柱ともいうべき「ジャスト・イン・タイム」と「自働化」の
関係をどのように言ったらよいであろうか。私は、これを野球に
たとえるなら、「ジャスト・イン・タイム」とはチーム・プレー
すなわち、連携プレーの妙を発揮させることであり、「自働化」
とは選手1人1人の技を高めることであると考える。
「ジャスト・イン・タイム」によって、生産現場の各工程に当た
る、グラウンドの各野手は、必要なボールをタイミングよくキャ
ッチし、連携プレーでランナーを刺す。全工程がシステマチック
に見事なチーム・プレーを展開することができる。生産現場の管
理・監督者は、さしずめ野球でいえば監督であり、打撃・守備・
走塁コーチである。強力な野球チームは、常にシステム・プレー
というか、どんな事態にも対応できる連携プレーをマスターして
いるものだ。「ジャスト・イン・タイム」を身につけた生産現場と
は、連携プレーのうまい野球チームにほかならない。
一方の「自働化」は生産現場における重大なムダであるつくり過
ぎを排除し、不良品の生産を防止する役割を果たす。そのために
は、平生から各選手の能力に当たる「標準作業」を認識しておき、
これに当てはまらない異常事態、つまり選手の能力が発揮されな
いときには、特訓によってその選手本来の姿に戻してやる。これ
はコーチの重大な責務である。
かくして「自働化」によって「目で見る管理」が行き届き、生産
現場すなわちチームの各選手の弱点が浮き彫りにされる。その結
果、直ちに選手の強化策を講じることができる。
ワールド・シリーズや日本シリーズで優勝するチームは、必ずと
いってよいほど、チーム・プレーよし、個人技もよしである。そ
のパワーの原動力は両者の相乗効果のなせる業である。同様に、
「ジャスト・イン・タイム」と「自働化」の両立した生産現場は、
どこよりも強力な体質をもつにいたる。

■■ 原価低減が目的  ■■
生産効率、管理効率、経営効率など、効率なる言葉がしばしば使
われるが、なぜ現代の企業が「効率」を追求するかといえは、そ
れは企業目的の根幹ともいうべき、「原価の低減」を実現するた
めである。トヨタに限らず製造企業の利益は、原価を低減してこ
そ得られるものである。かかっただけの原価に利潤を上のせして
値段を決定するような「原価主義」の考え方は、最終的なツケを
消費者に回すようなもので、いまの自動車企業にとって、縁のな
い状況である。
われわれの製品は自由競争市場において、冷厳なる消費者の目に
よって選別されている。製品の原価がいくらかかったかというこ
とは、消費者には関係のないことである。その製品が消費者にと
って価値あるものかどうかが問題なのである。かりに高すぎる原
価から導き出された高い価格を設定したとしても、消費者にソッ
ポを向かれてしまうだろう。社会性の強い製造企業にとっては、
自由競争市場で生き残るためには、原価の低減こそ至上命令なの
である。
高度経済成長時代、量の関数の下でのコスト・ダウンはだれにも
できたが、低成長時代の現在、いかなる形のコスト・ダウンとい
えども、容易にはできない。もはやコスト・ダウンには奇策はな
い。人間の能力を十分に引き出して、働きがいを高め、設備や機
械をうまく使いこなして、徹底的にムダの排除された仕事を行な
うというごく当り前の、それでいてオーソドックスかつ総合的な
経営システムが要請されている。
「徹底したムダの排除」というトヨタ生産方式の基本思想を支え
る2本の柱について述べてきたが、この生産システムは、日本の
風土から生まれるべくして生まれたものであり、しかも世界的に
低成長経済時代を迎えた現在、どんな業種にでも効果の発揮でき
る経営システムであると思う。

トヨタ物語20 | 平林良人の『つなげるツボ』

—————————————————————
■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.418 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** トヨタ物語20 ***
—————————————————————
私が諏訪精工舎に勤めていた頃、トヨタの大野耐一氏が会社に招
聘されて、我々社員は彼の講演を聞く機会を得ました。その時
(1970年代)の講演録からお話をさせていただいています。話
はトヨタ生産方式の生まれたころの発想に及んでおり、かんばん
方式、そして人偏のついた自動化へと進んでいきます。以下はす
べて大野氏の話です。

■■ 機械に人間の知恵を授ける ■■
トヨタ生産方式のもう1つの柱とは「自働化」である。「自動化」
ではない。ニンベンの付いた「自働化」である。スイッチさえ押
せば、自動で動く機械は多い。最近は機械が高性能になり、ある
いは高速化しているので、なにかちょっとした異常が起きた場合、
たとえば、機械の中に異材が混入する、スクラップ詰まりをする
と、設備や型が破損するし、タップなどが折損するとネジなし不
良が出はじめ、何10、何100という不良の山をまたたくまに築
いてしまう。

このような自動機械では、不良品の量産を防止することもできず、
また機械の故障を自動的にチェックするはたらきも組み込まれて
いない。そこでトヨタでは、単なる自動化ではなく、「ニンベン
のある自働化」を強調してきたのである。
「ニンベンのある自働化」の精神は、トヨタの社祖である豊田佐
吉翁(1867~1930年)の自働織機の発明を源としている。佐吉
翁の自働織機は、経糸が1本でも切れたり、横糸がなくなったり
した場合、すぐに機械が止まる仕組みになっている。すなわち、
「機械に良し悪しの判断をさせる装置」をビルト・インしてある
のだ。したがって、不良品が生産されることがない。

■■ 自動停止装置付の機械 ■■
「ニンベンのある自働機械」の意味は、トヨタでは「自動停止装
置付の機械」をいう。トヨタのどこの工場においても、ほとんど
の機械設備には、それが新しい機械であれ古い機械であれ、自動
停止装置が付いている。たとえば、「定位置停止方式」とか、「フ
ルワーク・システム」とか、「バカヨケ」その他、もろもろの安
全装置が付加されている。機械に人間の知恵が付けられてあるの
だ。
この自動機にニンベンをつけることは、管理という意味も大きく
変えるのである。すなわち人は正常に機械が動いているときはい
らずに、異常でストップしたときに初めてそこへ行けばよいから
である。だから1人で何台もの機械が持てるようになり、工数低
減が進み、生産効率は飛躍的に向上する。

これを別な面からみてみると人が常についていて異常のときに機
械の代わりをすることは、いつまでたっても異常がなくならない
ということである。古来、日本には「臭いものにはフタをする」
という諺があるが、材料や機械に内在する問題が管理監督者の知
らないところで繕われていては、いつまでたっても改善が進まな
いし、原価は安くならない。異常があれば機械をとめるというこ
とは問題を明らかにするということでもある。問題がはっきりす
れば改善もすすむ。

■■ 機械を止める ■■
私はこの考え方を発展させて、人手作業による生産ラインでも異
常があれば、作業者自身がストップボタンを押してラインを止め
るようにした。自動車は安全性を重視しなければならない製品だ
から、どの工場のどのライン、どの機械をみても正常・異常の別
が明確になっており、きちんと再発防止の手が打たれることが不
可欠である。それで私は、これをトヨタ生産方式を支えるもう1
本の柱としたのである。

トヨタ物語19 | 平林良人の『つなげるツボ』

—————————————————————
■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.417 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** トヨタ物語19 ***
—————————————————————
私が諏訪精工舎に勤めていた頃、トヨタの大野耐一氏が会社に招聘
されて、我々社員は彼の講演を聞く機会を得ました。その時(1970
年代)の講演録からお話をさせていただいています。前回、大野氏
は「私はものごとをひっくり返して考えるのがすきだ。」と講演で
述べたところで終えましが、この逆に考えるとこころが大野氏の大
きな特徴です。まさしく真骨頂と呼べる発想だと思います。講演は
トヨタ生産方式のコアの部分、すなわち世の中で有名になった「か
んばん方式」へと続いていきます。

■■ 逆転の発想 ■■
私はものごとをひっくり返して考えるのがすきだ。生産の流れは、
物の移動である。そこで私は物の運搬を逆に考えてみたのである。
従来の考え方は「前工程が後工程へ物を供給する」ことであった。
自動車の生産ラインの上では、材料が加工され、部品となり、部
品が組み合わさってユニット部品となり、最後の組立ラインへ流
れていくなかで、すなわち、前工程から後工程へ進むにつれて、
自動車の体を成していくのである。

この生産の流れを逆にみてみた。いま「後工程が前工程に、必要
なものを、必要なとき、必要なだけ引き取りに行く」と考えてみ
たらどうか。そうすれば、「前工程は引き取られた分だけつくれば
よい」ではないか。たくさんの工程をつなぐ手段としては、「何を、
どれだけ」欲しいのかをはっきりと表示しておけばよいではない
か。それを「かんばん」と称して、各工程間を回すことによって、
生産量すなわち必要量をコントールしたらどうか、という発想と
なった。

いろいろトライした結果、最終的には製造工程のいちばんあとの
「総組立ライン」を出発点として、組立ラインだけに生産計画を
示し、組立ラインで使われた部品の運搬方法も、これまでの前工
程から後工程へ送る方式から、「後工程から、必要なものを、必
要なときに、必要なだけ、前工程に引き取りに行き、前工程は引
き取られた分だけつくる」というやり方を追求することとした。
これにもとづいて、最終の組立ラインに生産計画を示し、必要な
車種を必要なときに必要なだけ欲しいと指示することによって、
組立ラインで使われる各種の部品を前工程へ引き取りに行くとい
う、後工程引き取りの運搬管理方法に逆転させれば、製造工程を
前へ前へとさかのぼり、粗形材準備部門まで連鎖的に同期化して
つながり、ジャスト・イン・タイムの条件を満足させることにな
るわけである。

■■ かんばん方式 ■■
これによって、管理工数も極度に減少させることができる。この
ときに、引き取り、あるいは製造指示の情報として使われるのが、
前にも触れた「かんばん」である。「かんばん」については後に
詳しく言及するが、ここで、トヨタ生産方式の基本の姿を知って
おいてもらいたいのである。トヨタ生産方式の基本思想を支える
のは、これまで触れてきた「ジャスト・イン・タイム」と、つぎ
に触れる「自働化」であり、「かんばん」方式は、トヨタ生産方
式をスムーズに動かす手段なのである。

トヨタ物語18 | 平林良人の『つなげるツボ』

—————————————————————
■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.416 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** トヨタ物語18 ***
—————————————————————
トヨタ物語18をお届けします。私が諏訪精工舎に勤めていた頃、
トヨタの大野耐一氏が会社に招聘されて、我々社員は彼の講演を
聞く機会を得ました。その時(1970年代)の講演録からお話を
させていただいています。以下はすべて大野氏の話です。

■■ トヨタ生産方式の2本柱 ■■
トヨタ生産方式の基本思想は「徹底したムダの排除」である。しかも、
つぎのようなそれを貫く2本の柱がある。
 (1) ジャスト・イン・タイム
 (2) 自働化
「ジャスト・イン・タイム」とは、たとえば、1台の自動車を流れ作業で
組み上げてゆく過程で、組み付けに必要な部品が、必要なときにそのつど、
必要なだけ、生産ラインのわきに到着するということである。その状態が
全社的に実施されれば、少なくともトヨタ自工においては、物理的にも財
産的にも経営を圧迫する「在庫」をゼロに近づける事が出来るであろうと
考えたのである。生産管理の面からいってもそれは理想の状態である。
しかし、自動車のように何千個もの部品から成り立っている製品では、す
べての工程を合わせると、その数は膨大なものとなる。それらすべての工
程の生産計画を一糸乱れずに「ジャスト・イン・タイム」の状態にもって
いくことは至難の業である。
生産現場の計画は、変更されるためにあるようなものである。生産計画が
変更される要因を考えてみると、予測の狂い、事務管理上のミス、不良や
手直し、設備故障、出勤状況の変化など、無数にある。これらの要因によ
り、前工程で問題が発生すれば、後工程では必ず欠品などが生じ、好むと
好まざるとにかかわらず、ライン・ストップかあるいはまた計画変更をせ
ざるをえなくなるのである。

■■ 正常と異常の区別 ■■
このような現状を無視して、各工程に生産計画を示すと、後工程とは無関
係に部品が生産され、一方では、欠品がありながら、不要不急な部品の在
庫が山ほどたまるという事態が生ずる。これでは生産の効率は悪くなり、
企業効率を低下させる結果を招く。さらに悪いことには、生産現場の各ラ
インにおいて、正常と異常の状態の区別がつかなくなることである。異常
処理が遅れたり、現実に人が多くてつくり過ぎているのに、それに対して
改善することもできなくなってしまう。そこで、必要なものを、必要なと
きに、必要なだけおのおのの工程が供給を受けるという「ジャスト・イン・
タイム」の条件を満たすためには、かえって生産計画をおのおのの工程に
指示したり、前工程が後工程へ運搬するという従来の管理方法では、うま
くいかないのではないかと考えた。

■■ 常識の反対を考える ■■
必要なものを、必要なときに、必要なだけ供給する「ジャスト・イン・タ
イム」をどのようにしたら実現できるかを私は考え続けた。私はものごと
をひっくり返して考えるのがすきだ。生産の流れは、物の移動である。そ
こで私は物の運搬を逆に考えてみたのである。
従来の考え方は「前工程が後工程へ物を供給する」ことであった。自動車
の生産ラインの上では、材料が加工され、部品となり、部品が組み合わさ
ってユニット部品となり、最後の組立ラインへ流れていくなかで、すなわ
ち、前工程から後工程へ進むにつれて、自動車の体を成していくのである。

トヨタ物語17 | 平林良人の『つなげるツボ』

—————————————————————
■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.415 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** トヨタ物語17 ***
—————————————————————
今回からトヨタ物語に戻りたいと思います。私がセイコーエプソン
の前身の諏訪精工舎に入社して数年後のことですが、トヨタの大野
耐一氏が会社に招聘されて、我々社員は彼の講演を聞く機会を得ま
した。その時(1970年代)の講演録からお話をさせていただきます。
以下はすべて大野氏の話です。
日本がJapan as No.1と称される「ものづくり大国」への道をひた
すら歩んでいた頃の話で「品質不正」話の後には一服の清涼剤とし
て耳に心地よいのではないかと思います。

■■ アメリカに追いつけ ■■
私はアメリカのまねがすべていけないといっているのではない。自
動車王国のアメリカから学んだものは多い。QC(品質管理)とか
TQC(総合的品質管理)などのすばらしい生産管理技術や経営管理
技術をアメリカは生み出し、日本はそれらを導入して成果をおさめ
た。IE(インダストリアル・エンジニアリング)もまたしかりであ
る。しかし、これらの技術はあくまでアメリカの風土から生まれた
こと、つまりアメリカ人の努力によって生み出されたものであるこ
とを、日本人は、しかと踏まえておかなくてはいけないと思う。

昭和20年8月15日、この日は日本敗戦の日であり、新たなる出発
のときでもあった。当時のトヨタ自工社長の豊田喜一郎氏(1894~
1952年)は「3年でアメリカに追いつけ。そうでないと日本の自動
車産業はなり立たんぞ」と言われた。そのためにはアメリカを知ら
なければならなかった。アメリカに学ばなければならなかったはず
である。昭和12年ごろ、私は当時、豊田紡績の紡績現場にいたが、
ある人から、日本とアメリカの工業の生産性は1:9であると聞い
た。最初、その人がドイツへ行ったとき、ドイツ人は日本人の3倍
の生産をしていると言っていた。そしてドイツからアメリカへ行っ
たら、ドイツとアメリカが1:3だった。だから、日本とアメリカ
とは1:9だということになったのである。アメリカ人が1人でや
ることを、日本人は9人もかかっていると聞いて、大いに驚いた
ことを記憶している。

■■ 日本の生産性 ■■
昭和20年、進駐軍が上陸して間もなく、マッカーサー元師によっ
て日本の生産性はアメリカの8分の1であることを知らされた。そ
れでは戦争中に9分の1から8分の1になったのかなと思ったが、
とにかく豊田喜一郎社長は、3年で追いつけという。3年で生産性
を8倍なり9倍あげるのはたいへんなことではないか。100人で
やっている仕事を10人でやらなければだめではないか。しかも、
8分の1とか9分の1というのはあくまでも平均値であって、ア
メリカでもっとも発達している自動車産業に比べれば8分の1程
度ではむろんないだろう。しかし、アメリカ人が体力的に10倍の
力を出しているわけでもあるまい。日本人は何か大きなムダなこと
をやっているにちがいない。そのムダをなくすだけで、生産性は
10倍になるはずだと考えたのが、今のトヨタ生産方式の出発点で
あった。