Category Archives: つなげるツボ

番外編_日経品質管理文献賞受賞2 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.432 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** 番外編_日経品質管理文献賞受賞2 ***
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ジャニーズ問題、ビックモータ問題など社会を騒がすいろいろ
な問題に共通していることは、誰かが知っていたということで
す。学校におけるいじめの問題も同じです。知っていたが、見
て見ぬふりをする、この点が品質不正防止TRでも本質的な問
題としてレポートの核心になっています。

■■ なぜ見て見ぬふりをするか ■■
2015年から、様々な分野において品質不正(製品及びサービス
の提供において、標準、契約、法令等から逸脱した行為を行う品
質保証の観点から容認できない事象)の報道を聞くことが多く
なりました。
これら品質不正の原因や対策については、多くの議論がなされ
てきましたが、人の行動、人の評価、組織風土・文化、TQM
(Total Quality Management:総合的品質管理)との関係が適
切に理解されていないのではないか、そこに見て見ぬふりをす
る要因が見えてくるのではないかと思います。本テクニカルレ
ポートは、このような社会の状況を踏まえ、品質不正の防止に
役立つと考えられる技術情報を事実に基づきまとめたものです。

■■ 制定までの経過 ■■
本テクニカルレポートは次のような経過を経て制定に至りました。
1. 開発の決定
2020年11月の標準委員会で、「TQMの指針」と合わせて「テク
ニカルレポート 品質不正防止」開発の決定がなされました。
2.原案作成委員会(WG)
平林を含む9名の専門家によるWGにより、精力的な検討が行わ
れました。2021年4月から2022年8月にかけ、Web会議システ
ムを活用し原案完成までの計18回の会合が開催されました。
3.審議委員会
2022年9月「品質不正防止」CDが完成し、様々な産業分野の代
表と品質管理の専門家からなる審議委員会が結成されました。
審議委員会は合計3回の開催となりました。
4.パブリックコメントの募集と対応
2022年10月25日~11月27日の期間でパブリックコメント募
集を行い、73件と多くのコメントをいただきました。原案作成
WGおよび審議委員会でいただいたコメントに対する処置を検
討し、最終原案が作成されました。
5.理事会での承認
2023年1月11日の標準委員会において様式を確認し、2023年
1月26日の理事会に制定を提案、承認されました。

本規格の作成に当たっては、多くの著作者、(一財)日本規格協会、
(株)日科技連出版社、および丸善出版(株)に引用文献として
ご協力いただきました。また多くの方々にパブリックコメントを
通して貴重なご意見を頂戴しました。

(一社)日本品質管理学会がこれまでに発行してきたJSQC規格
の主なものは次のとおりです。その多くはJIS規格になっています。
JSQC-Std 11-001:2022 TQMの指針
JSQC-Std 21-001:2015 プロセス保証の指針
JSQC-Std 22-001:2019 新製品・新サービス開発管理の指針
JSQC-Std 31-001:2015 小集団改善活動の指針
JSQC-Std 32-001:2013 日常管理の指針
JSQC-Std 33-001:2016 方針管理の指針
JSQC-Std 41-001:2017 品質管理教育の指針
今回受賞した「JSQC-TR 01-001 テクニカルレポート 品質不正防
止」もこれらの領域に属し、深く関係しています。

番外編_日経品質管理文献賞受賞 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.431 ■□■
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*** 番外編_日経品質管理文献賞受賞 ***
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今までロンドン物語を連載してきましたが、今回から数回は
番外編をお送りいたします。
2023年度日経品質管理文献賞が「JSQCテクニカルレポート
品質不正防止原案作成委員会」に授与されることになったと
の連絡が委員長であった平林に飛び込んできました。全く予
期せぬまさしく寝耳に水の連絡に吃驚しました。
11月8日に経団連会館で表彰されるので出席するようにとの
連絡もその後頂きました。これらの一連の連絡はデミング賞
委員会からもたらされました。

■■ デミング賞 ■■
皆さん、デミング賞をご存じでしょうか。
デミング賞(Deming Prize)は、アメリカの統計学者である
エドワーズ・デミング博士の業績を記念して1951年に創設さ
れたTQM(総合的品質管理)に関する表彰制度です。TQM
の進歩に功績のあった民間団体および個人に授与されている
世界最高ランクの賞であり、(一財)日本科学技術連盟により
運営されているデミング賞委員会が選考を行っています。
表彰者は経団連会長となっています。

■■ デミング賞を受賞できる組織 ■■
デミング賞は次の3項目を実現している応募組織に授与され
ます。
A) 経営理念、業種、業態、規模及び経営環境に応じて、
明確な経営の意思のもとに積極的な顧客指向の、さら
には組織の社会的責任を踏まえた経営目標・戦略が策
定されていること。また、その策定において、首脳部
がリーダーシップを発揮していること。
B) A)の経営目標・戦略の実現に向けて、TQMが適切に
活用され、実施されていること。
C) B)の結果として、A)の経営目標・戦略について効果
を上げると同時に、将来の発展に必要な組織能力が獲
得できていること。

■■ 日経品質管理文献賞 ■■
デミング賞委員会はデミング賞とは別に、日経品質管理文献賞
を審査、決定していますが。その連絡は以下のようなものでした。
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一般社団法人日本品質管理学会
テクニカルレポート品質不正防止
原案作成委員会 様

デミング賞委員会事務局です。
今般、10月3日に開催のデミング賞委員会において、
下記の文献について、
2023年度日経品質管理文献賞の受賞が
決定いたしました。誠におめでとうございます。
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■■ 11月8日経団連会館での授賞式 ■■
授賞式はメインであるデミング賞を中心に日経品質管理文献賞
も同日に行われます。私がたまたま原案作成委員会の委員長で
したので、恐縮ですが9名の委員を代表して授賞式に臨む予定
です。
当日は式典の様子をライブ配信するそうですので、お時間のあ
る方は視聴していただくと良いと思います。
ライブ配信は2023 年11 月8 日(水)13:00~17:25の
予定です。
下記URLにアクセスするように案内が送られてきましたので
ご参考にURLを記載します。
https://youtube.com/live/u_1PIOzn7-s

ロンドン物語8 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.430 ■□■
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*** ロンドン物語8 ***
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8日間の滞在中、私は久しぶりにイギリスのテレビを見ました。
30年前の赴任時代は毎日時間があればTVを見ていましたが、
それは英会話を上達させるにはTVを見ることが一つの有力な
手段であると思っていたからでした。

■■ 英語が聞き取れない ■■
私のエプソン赴任時代はイギリスにはテレビ局は4つしかあり
ませんでした。BBCが1と2の2局、ITVとチャンネル4
という民放が2局あるばかりでした。しかし、今回の旅行で思
い知ったのですが、多くのチャンネルがあり、それもヨーロッ
パ大陸のチャンネルもあって20くらいの選択肢があり、時代
の変化を感じました。
テレビを見て愕然としたのは内容が聞き取れないことでした。
30年前はこんなはずはなかったと思いながら、はたと気が付
いたのは、この30年間ISO規格作成で海外出張した時以外
ほとんど英語を使っていなかったことです。

■■ BBCと民放 ■■
多くのチャンネルは、日本と同様、民放であって、それ故に多
くのコマーシャルが入り見づらく感じました。民放もどこかで
BBCとつながっているらしく、日本の民放同士のような競争
はほとんど感じられず、やっている内容もBBCよりドラマが
多いという程度でさしたる違いは無いように思われました。
BBCと民放の違いはコマーシャルがあるかないかという程度
のことで、内容に大きな違いを感じなかったのは、私の英語力
の故だったかもしれません。それでも、今回も日本のテレビと
は全く異質の世界がそこにあり、全く違った感覚で短い8日間
を過ごしました。

■■ 100年経っても変わらない ■■
 私がイギリスに住んでいたのは、1986年から1992年
にかけてのことですので、当時のテレビの話は旧聞に属すると
思いますが、今回改めてあまり違っていないと感じました。
イギリスは、風景や家並みを見るとわかると思いますが、100
年経ってもほとんど変わらない国です。もちろん、習俗も制度
もほとんど変わらないというお国柄であると思って、30年前
に経験したテレビ番組について少しお話をしようと思います。

■■ テレビ番組の6つの領域 ■■
海外に行ってその国のテレビを見ると、もっとも手っ取り早く
その国の国情を知ることができます。もちろん、ある程度の語
学力あっての話です。イギリスに限らずどこの国でもテレビ番
組は次の6つの領域に分かれると思います。
1.ニュース報道番組
2.政治討論番組
3.ドラマ番組
4.音楽番組
5.コメディー、バラエティ番組
6.スポーツ、自動車レースなどの番組

テレビはわざわざ出かけて行かなくてソファに座ったままいろ
いろな経験ができます、特にスポーツなどは現地へ行けば遠く
にしか見えない場面をクローズアップして見せてくれます。
もちろんお金もかかりませんし、時間的にも余裕というおつり
までがきます。

■■ 語学の練習 ■■
海外でさらに良いことには、新しい単語や表現を知り、「こう
いう時はこんなふうに使うのか」と現地でなくては経験でき
ないニュアンスを会得できます。さらに、自分でも口真似を
して、いわばシミュレーションをしてみると発音や話の呼吸
(イントネーション)を知ることができます。
若いころは、いつも「テレビなんか見て遊んではいけない」
という、なにか強迫観念みたいなものがあり、なんとなくう
しろめたい思いで見ていましたが、イギリスでは「英語の勉
強の為」と胸を張って納得して見ている自分がいたことを思
い出しました。

ロンドン物語7 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.429 ■□■
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*** ロンドン物語7 ***
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ロンドンで新しいものとして目に付いたものに路上に駐車中の自動
車への充電の風景がありました。日本でもEV用の設備がガソリン
スタンドなどで見かけるようになりましたが、公道の街燈から充電
しているという風景は日本では見られないものでした。

■■ 街燈からの充電 ■■
ロンドンの中心から西に1Kmくらいのところに英国科学博物館、
自然科学博物館、アルバートホールなどがあり一日掛けて見て回
ったのですが、その周辺を歩いていましたら街燈に充電アウトプ
ット装置があり、EV(テスラ)が繋がっていました。今回はそ
の光景を見ていただこうと思います。
a.街燈に自動車が接続されている
b.自動車はテスラ
c.近づいてみると
d.ドイツジーメンスの設備

■■ 街燈に自動車が接続されている ■■
ロンドンの住宅地は、道路の両側が駐車できるようなっていると
ころが多く、いろいろな車種を見ることが一つの楽しみです。路
上駐車の許可をどのように得るのかは居住者でない我々には分か
りませんが、多くの車は止めてある前のアパート居住者の所有し
ている車ではないかと思います。
もう30年以上前になりますが、不用意に空いているスペースに
自分の車を駐車してタイヤに頑丈なロック金具を付けられて往生
したことがあります。今でこそ日本でも緑色のユニフォームを着
た駐車違反を見つける専任者が定期的に街を巡回していますが、
ロンドンでは30年前から同様な制度が運用されていました。
路上駐車の車に電線ケーブルがつながっている風景が今回の話題
です。

(写真 1)

■■ 自動車はテスラ ■■
近づいてみると車はテスラでした。テスラは日本でも売られてい
ますが、販売店はなく、インターネットで注文すると聞いていま
す。500万円以上する買い物もインターネットで行う時代になっ
たのですね。

(写真 2)

■■ 近づいてみると ■■
遠くからは細い線としか見えなかったものが近づいてみると電線
ケーブルでした。車から出ている電線の先は道路の端に立ってい
る街燈です。ちょうど背の高さの半分位のところから電線が出て
います。

(写真 3)

■■ ドイツジーメンスの設備 ■■
街燈の差込口の蓋を開けるとラベルが貼ってありました。そのラ
ベルにはドイツのジーメンスのロゴマークが描かれていました。
このジーメンスの充電方式は欧州全域で使用されているCombo
(コンボ)方式というものだそうです。もう30年くらい前にな
りますがIECで電気自動車の充電方式を巡って規格の主導争いが
起きました。当時日本が提案したのがCHAdeMO(チャデモ←お茶
でも飲んでる間に)方式と呼ばれるものでした。欧州はロンドンで
見たCCSと呼ばれるCombo(コンボ)方式を提案し、日本方式
と欧州方式の規格のどちらが性能が良いのかの競争の様子がマス
コミで報じられていたことを思い出しました。ちなみに米国テス
ラは独自のNACS方式を採用しているそうです。欧州とは異なり
ますが、北米には現在約3万基の充電設備があるとのことですが、
充電方式シェアはNACS50%、CCS30%、CHAdeMO15%というの
が2023年の最新数字だそうです。

(写真 4)

ロンドン物語6 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.428 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
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*** ロンドン物語6 ***
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今年(2023年)8月に孫娘とその父親、そして家内と一緒にロン
ドンへ行って来ましたが、その目的はコロナ3年の空白期間後英
国はどう変わったかを実際に感じたいと思ってのことでした。孫
娘は昔(といっても6年前)の旧友に会ったりしていましたが、
私はセイコーエプソン時代(30年前)の思い出をたどっていまし
た。8日間はあっという間に過ぎてしまいました。

■■ 思いもしない昔の古傷 ■■
ここまで、ロンドンでの変化の体験をお話してきましたが、それに
しても英国のEU離脱は改めて大きな出来事であったと思います。
英国がEUを離脱するにあたっては、思いもしない昔の古傷(カト
リック系とプロテスタント系の住民が激しく対立し、約30年間に
3,000人以上の死者が出た)に触れることになりました。北アイル
ランド紛争は、1998年の「ベルファスト和平合意」により終止符
が打たれ、北アイルランドの帰属を巡って続いた紛争は合意により、
英領北アイルランドとアイルランドの約50キロに及ぶ境界線での
国境管理が廃止されました。北アイルランドは、アイルランド島全
域と同じルールで運営されることになり、英国内でも特殊な位置づ
けになりました。ところが、英国のブレグジットにより、国境で検
問が導入される可能性が出てきて、2018年には北アイルランドで新
たな反英国組織が車を爆発させる事件まで起き、テロ再燃の懸念が
高まりました。

■■ 英国のブレグジットにより何が起きたのか ■■
英国領北アイルランドとアイルランドとは、同じ島にあり陸地の国
境管理を厳格に実施することは、北アイルランド紛争の時代を想起
させることになります。一般に国が異なれば国境では、人に対する
国境検問及び物品に対する税関検査等、ハードな国境管理が行われ
ます。しかし、北アイルランドとアイルランド問題では、これを如
何に回避するかという課題が一貫して浮上していたのです。人の自
由移動の枠組み「共通往来地域」が英国とアイルランド両国にEU
加盟前から存在していましたので、これはブレグジット後も維持さ
れることであり問題はありませんでした。しかし、物品の動きにつ
いては、英国がEUの関税同盟から離脱すると同時に、何も手を打
たなければハードな国境管理が出現することになります。

■■ どんな議論がされたのか ■■
いま現在ロシアとウクライナが戦っていますし、同じような国同士、
あるいは民族同士の戦いは、結果、双方に被害を及ぼし最終的には
住んでいる人々を不幸にします。北アイルランド問題も一歩間違え
ると同じ轍を踏む恐れがありました。しかし、彼らは時間をかけて
いろいろな議論を辛抱強く続けました。
北アイルランド国境問題の英国とEU間の交渉は難航を極めました。
メイ首相は、20カ月の移行期間中に、EUとの間で交渉する特別な
税関・通商合意により、英国とEUの全境界で円滑な往来が実現さ
せることで、アイルランド国境を通過する物品に対して厳格な検査
を行う必要性は生じない、と主張しました。しかし、アイルランド
はEUの支持を受け、この将来的な通商協議が失敗に終わった場合
に備えた「保険」(バックストップ)を求めました。理論的にはアイ
ルランドをEU関税同盟から離脱させることが出来れば、物の自由
移動を北アイルランド限定で解決するという「禁じ手」が有り得る
のですが、これにはアイルランドが反対します。
英国は、ハードな国境管理の回避を英国とEUの将来の関係協定で
達成しようとする(先延ばし)、一方、EUは離脱協定の段階で解
決策を先に明確にすべきであると考えました。メイ首相は、厳格な
国境管理を回避するのに必要な「代替的な取り決め」が取り交わさ
れるまでの間、英国はEUの関税同盟内にとどまるとしましたが、
EU側は、北アイルランドのみが関税同盟にとどまるべきだと主張
しました。

■■ 目的は一緒であると言いながら・・・ ■■
英国とEU間には、北アイルランドでのハードな国境を回避すると
いう目標で一致しながら、それをどの様に達成するかという方法論
に於いて根本的な相違が明確になってきました。英国は、「北アイル
ランドは英国の不可欠な一部であることを完全に尊重する」ことを
前提に、次の3つのオプションの約束を表明しました。

(A)英国はアイルランド島の南北協力及びハードな国境管理を回
  避する。
(B)これが不可能な場合、英国はアイルランド島の特殊な状況に
  取り組むため特殊な解決策を提案する。
(C)解決策が合意に至らない場合、英国は、現在又は将来に於いて、
  南北協力、1998年ベルファスト協定の保全を維持する。

 以上のオプションは、英国とEU間の妥協の産物でした。EUは、
離脱協定で用意すべきはバックストップとしてのオプションCであ
り、オプションA及びBは将来の関係協定の交渉で取り組まれるべ
きであるとしましたが、英国側は、離脱協定で用意すべきはオプシ
ョンA及びBであるとしました。示されたオプションは、まさに同
床異夢の合意でした。