Category Archives: つなげるツボ

品質不正への有効な対策1 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.409 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
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*** 品質不正への有効な対策1 ***
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前回お話ししたように、2023年5月9日「JSQC TR 12-001テク
ニカルレポート品質不正防止」講習会が開催されました。当日は、
171名の方が熱心に参加されました。

■■ 品質不正防止講習会 ■■
当日はZOOM開催でしたので、対面での質疑応答は出来ないこと
からチャットで質問をお受けしました。全部で22件の質問が寄せ
られましたが、ここではその内から幾つかの質問に対して平林が
考える回答をご紹介したいと思います。
【質問】
規格(テクニカルレポート品質不正防止)箇条4.1.2には、 第三
者報告書で説明されている再発防止対策について、3組織以上の
報告書に記載されたものを紹介いただいています。表面的な対策
にとどまらず、何故そのような不具合(不正)が行われるように
なったのかにまで踏み込んで対策を考えることが大切との平林様
のコメント、同感です。このTR発行に至る一連の活動の中で3
組織に採用された対策について、第三者報告書に記載された中で
これは特に有効そうな対策だと感じられたものがあれば、ご紹介
頂くこと可能でしょうか。私ども(日本)は戦後の産業界を品質
の面でリードし,デミング賞のバックボーンとなるTQM(TQC)
を長らく発展させてきました。第三者報告書の価値を品質に関わ
る我々がどう理解しておくのかとの話にもなりますが。

■■ 有効な対策は ■■
ここでは、当日私がお答えしたことを補強してお答えしたいと思
います。
【回答】
今回明らかになった不正の特徴の一つは長期にわたっているとい
う事です。一連の不正は箇条4.3図1のように、組織ごと「根の
深さ」が異なります。
一番「根が浅い」のは,適正な製品・サービスの提供がいろいろ
な要因で実現できず、標準(作業標準,技術標準,顧客要求事項
など)から意図的に逸脱している段階です。ここでの有効な対策
は「適正な製品・サービスの提供を阻害している要因を取り除く」
ことです。例えば、設備をメンテ或いは入れ替える、人員を補強
する、力量を見直す、TQM/ISOなどを見直すなどが考えられます。

2番目に根が浅いのは、本来はブレーキを掛けるべき人・部門が
見逃がしていることです。ここで本質的な対策を取らないと根は
どんどん深く成長します。どうして、見て見ない振りをして見逃
すのかを関係者で徹底的に議論し、要因分析をして根本原因を除
去することです。

3番目までくると「根は深い」と言わざるを得ません。組織が消
極的にではあっても品質不正を容認する段階です。そして最も根
が深い4番目は、もはや組織の中で誰もブレーキを掛けずに部門
を超え,または他の製品・サービスにまでまん延している段階で
す。3,4番目は草の根ではありませんが、除草剤などでは根治で
きません。草の周りを掘って根の伸びている土中深くまで穴を掘
り続け、すべての根っ子を取らないとまたいつしか目を出し成長
することになります。

このように有効な対策は不正の拡大状況に依ります。発生(発生
原因)、見逃し(見逃し原因)、容認(容認原因)、まん延(まん
延原因)に区分して要因/原因分析、それに対する対策を考える
ことが基本であると思います。

■■土中深く穴を掘りすべての根っ子を取る ■■
三菱電機の最終報告書(第4報 2022/10月)に記載されている
対策をご紹介します。以下は発生原因への対策にはなりませんが、
見逃し/容認/まん延原因への対策の一つにはなると思われます。
しかも、将来への不正発生の抑制にもなります。

1.フォレンジック手法(Forensics:鑑識捜査)
2016年4月1日から2021年8月15日までに在任していた取締
役及び執行役の電子メールデータ合計3,619,181件についてキー
ワードチェックをした。
2.リニエンシー手法(Leniency:司法取引)
5万人超の全社員へのアンケート用紙に「今回の調査で品質に関
わる不適切な問題を自主的に申告した場合、社内処分の対象にな
りません。逆に後から関与が明らかになった場合は処分の対象に
なります。」と明記したとあります。その結果、2,000件以上の申
告があったと記されています。

再び品質不正について | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.408 ■□■
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*** 再び品質不正について ***
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トヨタ物語から一転して品質不正の話に戻ります。(一社)日本品
質管理学会(JSQC)では、2023年5月9日「JSQC TR 12-001
テクニカルレポート品質不正防止」講習会を開催しました。ZOOM
ミーティングにより行われましたが、171名の参加を得ました。
多分今までの講習会で最大の参加者であったかと思います。

■■ テクニカルレポート作成の趣旨 ■■
私はこのJSQC TR 12-001テクニカルレポートのワーキンググルー
プのリーダーをさせていただきましたので、若干作成にかかわる話
をさせていただきます。
このテクニカルレポートは、2015年から2021年にかけて社会的に
明らかになった品質不正について,製造業を中心に、組織で“なにが
起きているのか”、“どうして起きたのか”、“どうすれば良いのか”を
扱っています。
JSQCは戦後の産業界を品質の面でリードし,デミング賞のバック
ボーンとなるTQM(TQC)を長らく発展させてきました。
次に掲げるのはJSQCがいままでに発行してきた規格です。
JSQC-Std 00-001:2018 品質管理用語
JSQC-Std 11-001:2022 TQMの指針
JSQC-Std 21-001:2015 プロセス保証の指針
JSQC-Std 22-001:2019 新製品・新サービス開発管理の指針
JSQC-Std 31-001:2015 小集団改善活動の指針
JSQC-Std 32-001:2013 日常管理の指針
JSQC-Std 33-001:2016 方針管理の指針
JSQC-Std 41-001:2017 品質管理教育の指針
JSQC-Std 89-001:2016 公的統計調査のプロセス-指針と要求事項
その多くはJISに採用され、日本産業界の製品・サービスの品質保
証に貢献してきました。今回のTR 12-001 「テクニカルレポート
品質不正防止」は、この延長にある技術情報としての規格です(TR
も広義の意味では規格)。

■■ 改めて品質不正とは ■■
製品・サービスを顧客に提供するに際に,標準,契約,法令等から逸
脱した人の意図的な行為によって引き起こされた事象を「品質不正」
と言っています。品質保証の観点から容認できない事象の多くは、
組織内からではなく組織の外、例えば規制機関の立ち入り調査、他
社事例からのチェックなどにより発見され、マスコミにより報道さ
れるというケースがほとんどです。残念ながら組織の内部で発見さ
れることなく、組織の自律性が見られないのが品質不正の特長です。
品質不正の原因や対策については,多くの議論がなされていますが,
本テクニカルレポートは,このような社会の状況を踏まえ,品質不
正の防止に役立つと考えられる技術情報をまとめたものです。今回
の「テクニカルレポート(TR)」は 規格(JSQC-Std)」と異なり、
「諸般の理由から,規格にすることは困難であるが,技術的報告書
として提示することにより,多くの関係者の便益が期待できると考
えられるもの」という範疇に入るものです。本テクニカルレポート
に記されているのも,要求事項や推奨事項ではなく,関係者が当該
の問題に取り組むに当たって考慮するとよい情報という位置づけに
なっています。

■■ テクニカルレポート作成のステップ ■■
テクニカルレポート(TR)は次のようなステップで作られました。
1. 開発の決定
2020年11月の標準委員会で,「TQMの指針」と合わせて「テク
ニカルレポート 品質不正防止」開発の決定がなされた。
2.原案作成委員会(WG)
9名専門家と平林のリーダー10名によるWGにより,精力的な検
討が行われた。2021年4月から2022年8月にかけ,Web会議シ
ステムを活用し原案完成までの計18回の会合が開催された。
3.審議委員会
2022年9月「日常管理の指針」原案が完成し,様々な産業分野の
代表と品質管理の専門家からなる審議委員会が結成された。審議委
員会は合計3回の開催となった。
4.パブリックコメントの募集と対応
2022年10月25日~11月27日の期間でパブリックコメント募集
を行い,73件と多くのコメントをいただいた。原案作成WGおよ
び審議委員会でいただいたコメントに対する処置を検討し,最終原
案が作成された。
5.理事会での承認
2023年1月11日のJSQC標準委員会においてコメントへの対応、
様式を確認し,2023年1月26日のJSQC理事会に制定を提案,承
認された。

本規格の作成に当たっては,(一財)日本規格協会,(株)日科技連出
版社,および丸善出版(株)から引用文献にご協力いただきました。
また,多くの方々にパブリックコメントを通して貴重なご意見を頂戴
いたしました。

トヨタ物語16 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.407 ■□■
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*** トヨタ物語 16 ***
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今回の話は1970年頃に私が聞いた大野耐一氏(当時副社長)の
講演(講演録)記録からです。ここに書かれている時代は、第二
次世界大戦前の1920年代であり、トヨタが織機メーカから自動
車メーカへと変身し始めた頃の回想録です。

■■ アメリカの世相 ■■
1920年代、フォード繁栄の時期のアメリカの世相をのぞいてみ
る。自動車製造に限らず生活全般において、われわれの動きは速
すぎるのだろうか。苛酷な労働により労働者がすっかり消耗して
いるとか、いわゆる進歩というものが、別の何かを犠牲にして達
成されているとか、また効率という名のもとで、生活の優雅な面
がしだいに破壊されつつあるとかいうことが、しばしば言われて
いる。
今日、生活にバランスが欠けており、またこれまでも、ずっとそ
うであったということは、否定できない。最近になるまで、たい
ていの人々は暇がなく、またあっても、それをいかに利用すべき
かを知らなかった。われわれにとって重大な問題の一つは、仕事
と娯楽睡眠と食事のバランスをとることであり、突き詰めると人
間と病気と死についての原因を究明することである。

■■ どちらがより良いか ■■
確かに社会は昔よりも速く動いている。より正確にいえば、より
速く動かされている。しかし、舗装されていない道を4時間もか
かって辛抱強く歩くのと、自動車で20分で行くのと、いったい
どちらが楽でどちらが辛いであろうか。目的地に着いたときに、
旅行者はどちらがなお元気でいるだろうか。またどちらが時間と
気力の節約になるであろうか。さらに近い将来には、自動車では
数日かかる旅行も、飛行機では1時間で行けるようになるだろう。
そうなったとき、われわれは神経的に参ってしまうのだろうか。
現在、われわれはすべて神経衰弱になりつつあると言われている
が、こうした状態は、現実に起こっているものなのか、それとも
単に本に書かれているだけのものなのか。労働者の神経は疲労し
きっているということが、さまざまな書物で述べられているが、
実際に労働者自身の口から聞いた者がいるのだろうか。(中略)
あの「効率」ということばが憎まれるのは、効率ではないことま
でが、効率という仮面をかぶってきたからである。効率とは、ま
ずい方法をやめて、われわれが知り得るかぎりでの最もよい方法
で仕事をするという簡単なことである。それは背中にトランクを
背負って丘を登るよりも、トラックで運ぶことである。それは労
働者がより多く稼ぎ、より多く所有し、より安楽に暮らせるよう
に、かれらを訓練し、かれらに力を与えることである。1日数セ
ントのために、長時間働く中国のクーリーより、自分の家や自動
車をもっているアメリカの労働者のほうが恵まれている。一方は
奴隷であり、他方は自由人である。

■■ 1980年頃の話 ■■   
半世紀前と現在とでは、大きな変化が生まれている。中国の事情
などは大変化している。私は最近(1977年9月15日~9月28日)、
中国の工業を見てきたが、熱心に近代工業化を進めようとしていた。
私はヘンリー・フォード1世の時代から、私どもが戦後、トヨタ
生産方式に着手し現在にいたるまで、そして中国が新たに目ざす
工業の下で、普遍的な要素としてフォードの指摘した真の「効率」
というものがあると思うのである。
「効率とは、まずい方法をやめて、われわれが知り得るかぎりの
最もよい方法で仕事をするという簡単なことである」とへンリー・
フォード1世は指摘する。「効率」とはけっして量とスピードの関
数ではない。フォードの問題提起にもあるように、「われわれの動
きは速すぎるのだろうか」という命題を自動車産業について考えて
みると、量とスピードを二大ファクターとして効率を追求してきた
ことは否定できないことであるが、トヨタ生産方式は終始、つくり
過ぎを押える、常に市場ニーズに対応できるつくり方をしてきた。

高度成長時代には市場ニーズが旺盛のために、つくり過ぎのロスが
表面化しなかったが、低成長時代にはつくり過ぎがいやが応でも露
呈してくる。そのムダこそ量とスピードのみを追求する結果である。
トヨタ生産方式の特徴として「ロットを小さく、段取り替えをすみ
やかに」ということを説明したが、実はこの考え方の基本には、生
産の流れをつくることによって、どっしりと根を下した「より速く、
よりたくさん」の既成観念を変革していく意図がある。
実を言えば、トヨタ自工内部においても、プレス部門、樹脂成型部
門、鋳造部門、鍛造部門などは、組立ラインや機械加工の流れのよ
うに、全体の生産の流れのなかにしっかりと定着させることはなか
なかむずかしい。
たとえば、大型プレスの「段取り替え」作業も訓練によって3分と
か5分とか、他社に比べると驚くべき時間に短縮されているが、今
後、流れを完成させていくにつれ、そのスピードを「より遅く」し
ても十分に間に合う状態をつくり出すことができる。
トヨタ生産方式は、量とスピードを追求するあまり、いたずらにロ
スを生み出してしまうマス・プロダクションとマス・セールスへの、
いわばアンチ・テーゼである。

トヨタ物語15 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.406 ■□■
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*** トヨタ物語 15 ***
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トヨタ創業時の話を聴くと近年の品質不祥事の話と大きなギャッ
プを感じます。竹がまっすぐ成長する青年と葉が枯れだした老木
との違いのごとくです。下記の記述は1970年頃に私が聞いた大野
耐一氏(当時副社長)の講演記録からです。

■■ 逆転の発想と企業家精神 ■■ 
ヘンリー・フォード1世のこの著作『今日、そして明日』(Today
and Tomorrow)は、彼の絶頂期の1926年にアメリカで公にされ
ているが、じつはこの1926年はアメリカの自動車市場にとって
大転換期に当たっている。この変化の内容については後に触れる
が、要するに、この時期はヘンリー・フォード1世の絶頂期であ
ると同時に、皮肉なことには「明日」にはGMに追い上げられ、
下降期に入っていくのである。この1926年という年は日本の大
正15年に当たり、偶然にも豊田佐吉翁の豊田式自働繊機の完成
時期である。
ヘンリー・フォード1世は総合産業といわれる自動車産業を完成
した人だけあって、自動車に使われるあらゆる資材に関して詳し
く知っていた。鉄鋼についても、種々さまざまの金属類、非鉄金
属類についても、また繊維関係についても、すべて自分の手で事
業化しただけに、単なる知識ではなく、体で覚え込んでいたとい
ってよい。
そのヘンリー・フォード1世が既成の概念にとらわれることなく、
ものごとを弾力的に考えるよう、自らの経験を語っているなかに
次の織物の話がある。

■■ ヘンリー・フォード1世の経験 ■■
紡績と織布の技術は、長い年月を経て伝えられてきたもので、ほ
とんど神聖化されているといってもよいほど、数多くのしきたり
で取り囲まれている。織物工業は動力を最もはやくとり入れた工
業の1つであったが、また幼年労働者を使用した最初のものであ
った。多くの織物業者は、低コストの生産は低賃金でなければ不
可能であると頭から信じている。この工業がこれまでに達成した
技術的業績には著しいものがあるが、誰でもしきたりにとらわれ
ないまったく自由な立場で、この産業に入っていけたかどうかは、
また別の問題である。
古いしきたりで神聖化してしまっている織物工業に佐吉翁の自働
織機は1つの変革を与えたにちがいないのだが、この時期はもっ
と前であったろう。
ともかくヘンリー・フォード1世の発想と具体的な事業展開には
目を見張らされる。
われわれは、日々の生産に、1日10万ヤード以上の綿布と25,000
ヤード以上毛織物を使用する。(中略)当初、われわれは綿布を使
用しなければならないことを当然のこととしていた。それ以前に
は、自動車の幌や人造皮革の基礎原料に木綿以外のものを使用し
たことは一度もなかった。それで手始めに1基の紡績機械を入れ
て、実験を始めた。だが、しきたりにとらわれるということがな
かったので、実験開始後まもなく、「綿布はここで使用できる最良
の材料なのだろうか」という疑問が生じてきた。
そうこうしているうちにわれわれは、これまで綿布を使っていた
のは、綿布が最上の布であるからではなく、綿布が最も入手しや
すかったからだということがわかった。麻布は、綿布よりも強い
はずであった。なぜなら、布の強さは織維の長さによって左右さ
れており、亜麻の織維は今までに知られている中でいちばん長く
かつ最も強いものの一つであったからである。綿はデトロイトか
ら数1,000マイルも離れたところで栽培されなければならなかっ
た。
(中略)
亜麻はミシガン州とウィスコンシン州で栽培することができるの
で、すぐ使用できる状態で手近に供給をうけることが可能である。
しかし麻布の生産には、木綿にもまして多くのしきたりがあり、
非常に多くの手作業が不可欠であると考えられていた。この国で
はこれまで麻布の生産を手広く行なうことのできるものはいなか
ったのである。
(中略)
われわれはデイアボーンで実験を開始し、その結果、亜麻が機械
によって処理できるということを証明した。この事業はすでに実
験段階を過ぎ、その採算の可能性が実証されるに至っている。

■■ 最良の材料なのだろうか ■■
私はフォードの着目した「綿布はここで使用できる最良の材料な
のだろうか」というところに興味をひかれる。
なにごとでもそうだが、人間はフォードの指摘するとおり、長い
間のしきたりで動いてしまう。それは個人生活の場では許される
かもしれないが、工業の場にある企業のなかでは悪いしきたりは
排除していかなければならない。
ヘンリー・フォード1世の旺盛なる企業家精神の一端を、亜麻の
栽培から工業生産に乗せていく件でまざまざと感じる。
現状に甘んじているところからは、一片の進歩たりとも生まれて
こない。生産現場の、改良・改善についても同じことで、ただ漫
然と歩いていたのでは、疑問符1つさえ投げかけることはできま
い。
私はいつも物事をひっくり返してみるようにしてきたが、フォー
ドの文章を読むと、見事な逆転の発想を再三やっていて大いなる
刺激を受ける。

■■ 量とスピードからの脱却 ■■
いま私が読んでいるこのヘンリー・フォード1世の著作『今日、
そして明日』は1920年代、いまから半世紀も前に書かれたもの
であることを忘れないでほしい。その時期がヘンリー・フォード
1世にとってどのような意味をもっていたか。その後、フォード
の人生は挫折と復帰、成功と失敗を繰り広げつつ舞台を去ってい
くのだが、この著をものした時期は、ヘンリー・フォード1世の
経営が頂点に達し、高い展望台に立って今日を見、明日を見通す
ことができた幸せの日々であった。
私は、現在あるアメリカの大量生産方式、そして日本も含めて世
界に根付いてしまったアメリカ型の大量生産方式は、ヘンリー・
フォード1世の本意ではなかったのではないかという疑念を長い
間いだいてきた。そのために、私はヘンリー・フォード1世の思
想の原点をつねに求めている。

トヨタ物語14 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.405 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
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*** トヨタ物語 14 ***
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依然として品質不祥事が無くなりません。ソーシャルメディアが
以前よりも大きく取り上げないだけで、品質データ改ざんに関す
る不祥事は相変わらず起きています。ちょうど水の底に溜まって
いる泥のようなもので、かき混ぜると見えてくるような様です。
品質不正18社の調査報告書に書かれている要因、原因について
の話はまだ半分ですが、真逆の明るい話?をしたいと思います。
Vol.399からの続きの「トヨタ物語」です。下記の話は1970年
代に私が聞いた大野耐一氏(当時副社長)の講演記録からです。

■■ オイル・ショックで目が覚めた ■■
1973年秋のオイル・ショックをきっかけとして、世間はトヨタ
生産方式に強い関心をもち始めたようである。なにしろ、オイル・
ショックの影響は政府、企業、個人生活いずれに対しても大きか
った。翌年の日本経済はゼロ成長に落ち込み、産業界全体が、一
時は、恐怖のどん底に沈んだ感があった。
不況のために、多くのほうぼうの 会社が非常に苦しんでいたとき
に、トヨタは減益になったものの他社よりも多くの利益を確保で
きたので、世間で注目されるようになった。トヨタという企業は
ショックに強いつくり方をしていると……。
私はオイル・ショックのずっと以前から、トヨタ式の製造技術、
トヨタ生産方式とは何かについて、会う人ごとに話してきたつも
りだったが、その当時はあまり興味をもってもらえなかった。
オイル・ショック以後、1975年、1976年、1977年と時間の経過
とともにトヨタの利益が上がり、他社との格差が大きくなるにつ
れて、トヨタ生産方式が注目され出した。

■■ 生産方式はアメリカ式でよかった? ■■
日本が1973年まで持続してきた高度経済成長時代には、企業の
生産方式はアメリカ式でよかった。ところが、高度成長がとまり、
成長率が低くなってくると、アメリカ式の計画的な量産方式では
やっていけなくなる。日本の工業は、たとえば設備であろうが工
場レイアウトであろうが、みんなアメリカをまねてやってきた。
たまたま2桁の成長率があった時分は、計画的量産方式にのって
非常によかった。
ところが、高度成長がストップし、しかも減産になったとき、従
来の大量生産方式では採算が合わなくなることは目に見えていた。
戦後の1950年、1951年、私どもは自動車の量が現在のように多
くなるとは想像もしていなかった。それよりずっと以前に、アメ
リカでは、自動車の種類が少なくて量産によって原価を安くする
方法が開発され、それがアメリカの風土の中にしみ込んでいたが、
日本ではそうではなかった。
私どもの課題は、多種少量生産でどうしたら原価が安くなる方法
を開発できるか、であった。ところが日本は、昭和1960年から
15年ものあいだ、経済の面で非常な高度成長を遂げたために、
アメリカ式と同じやり方をしても、量産効果が相当いろいろの面
で出た。

■■ 日本人でなければ開発できない ■■
アメリカ式の量産方式をいたずらにまねていたのでは危険である
ことを、私どもは、1950年、1951年から一貫して念頭において
きた。多種少量で安くつくる、これは日本人でなければ開発でき
ないことではないか。そして、その日本人による生産システムの
開発は、いわゆる大量生産方式をも凌駕できるはずだと考え続け
てきた。トヨタ生産方式は、多種少量で安くつくることのできる
方法である。多種大量であればなおさら結構である。要するに、
オイル・ショック以後の低成長時代、コストをいかに安くするか
をめぐって、トヨタ生産方式が世間からクローズ・アップされて
きているように思う。

■■ 「低成長」は恐い ■■
オイル・ショックをきっかけにして世に広まった「安定成長」
または「低成長」なる言葉を、私は冷静に受けとめている。かつ
ての高度成長時代、景気の波は2、3年の好況と、せいぜい半年
の不況というサイクルを描いた。ときには、3年もの好況が続い
たこともあった。「低成長」とは、まさにこれまでの逆のサイク
ル、いや、それ以上に厳しい時代を意味すると思う。経済成長率
6~10%の好況はせいぜい半年ないし1年であり、2、3年は数
パーセントの微成長、悪くすれば1年や2年はゼロ成長以下に落
ち込むことも覚悟しなければならない時代にすでに突入している
と考えている。自動車産業もそうだが、日本の産業界はおしなべ
て、つくれば売れる時代に慣れきってきた。そのために、多くの
経営者の気持ちも量の関数に染まりきっている嫌いがある。
自動車産業では、「マクシー・シルバーストーン曲線」なる語が
しばしば使われてきた。コスト・ダウンの程度にはもちろん限界
はあるが、つくる量がふえるとそれに比例して自動車のコストは
著しく低減していくというこの量産効果の原理は、高度成長期に
いかんなく実証され、自動車産業の関係者の心に染みついてはな
れない。ロットをできるだけ大きくして量産効果をねらう生産方
式、たとえばプレスの動きひとつを例にとってもそうだが、同じ
金型で単位時間内にできるだけたくさん打ち続けるという、生産
方式が通用しない時代に入ったのである。いや、この生産方式は、
通用しなくなっただけでなく、それがあらゆる種類のムダを生み
出していることを知らなくてはいけない。