Category Archives: つなげるツボ

トヨタ物語18 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.416 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
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*** トヨタ物語18 ***
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トヨタ物語18をお届けします。私が諏訪精工舎に勤めていた頃、
トヨタの大野耐一氏が会社に招聘されて、我々社員は彼の講演を
聞く機会を得ました。その時(1970年代)の講演録からお話を
させていただいています。以下はすべて大野氏の話です。

■■ トヨタ生産方式の2本柱 ■■
トヨタ生産方式の基本思想は「徹底したムダの排除」である。しかも、
つぎのようなそれを貫く2本の柱がある。
 (1) ジャスト・イン・タイム
 (2) 自働化
「ジャスト・イン・タイム」とは、たとえば、1台の自動車を流れ作業で
組み上げてゆく過程で、組み付けに必要な部品が、必要なときにそのつど、
必要なだけ、生産ラインのわきに到着するということである。その状態が
全社的に実施されれば、少なくともトヨタ自工においては、物理的にも財
産的にも経営を圧迫する「在庫」をゼロに近づける事が出来るであろうと
考えたのである。生産管理の面からいってもそれは理想の状態である。
しかし、自動車のように何千個もの部品から成り立っている製品では、す
べての工程を合わせると、その数は膨大なものとなる。それらすべての工
程の生産計画を一糸乱れずに「ジャスト・イン・タイム」の状態にもって
いくことは至難の業である。
生産現場の計画は、変更されるためにあるようなものである。生産計画が
変更される要因を考えてみると、予測の狂い、事務管理上のミス、不良や
手直し、設備故障、出勤状況の変化など、無数にある。これらの要因によ
り、前工程で問題が発生すれば、後工程では必ず欠品などが生じ、好むと
好まざるとにかかわらず、ライン・ストップかあるいはまた計画変更をせ
ざるをえなくなるのである。

■■ 正常と異常の区別 ■■
このような現状を無視して、各工程に生産計画を示すと、後工程とは無関
係に部品が生産され、一方では、欠品がありながら、不要不急な部品の在
庫が山ほどたまるという事態が生ずる。これでは生産の効率は悪くなり、
企業効率を低下させる結果を招く。さらに悪いことには、生産現場の各ラ
インにおいて、正常と異常の状態の区別がつかなくなることである。異常
処理が遅れたり、現実に人が多くてつくり過ぎているのに、それに対して
改善することもできなくなってしまう。そこで、必要なものを、必要なと
きに、必要なだけおのおのの工程が供給を受けるという「ジャスト・イン・
タイム」の条件を満たすためには、かえって生産計画をおのおのの工程に
指示したり、前工程が後工程へ運搬するという従来の管理方法では、うま
くいかないのではないかと考えた。

■■ 常識の反対を考える ■■
必要なものを、必要なときに、必要なだけ供給する「ジャスト・イン・タ
イム」をどのようにしたら実現できるかを私は考え続けた。私はものごと
をひっくり返して考えるのがすきだ。生産の流れは、物の移動である。そ
こで私は物の運搬を逆に考えてみたのである。
従来の考え方は「前工程が後工程へ物を供給する」ことであった。自動車
の生産ラインの上では、材料が加工され、部品となり、部品が組み合わさ
ってユニット部品となり、最後の組立ラインへ流れていくなかで、すなわ
ち、前工程から後工程へ進むにつれて、自動車の体を成していくのである。

トヨタ物語17 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.415 ■□■
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*** トヨタ物語17 ***
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今回からトヨタ物語に戻りたいと思います。私がセイコーエプソン
の前身の諏訪精工舎に入社して数年後のことですが、トヨタの大野
耐一氏が会社に招聘されて、我々社員は彼の講演を聞く機会を得ま
した。その時(1970年代)の講演録からお話をさせていただきます。
以下はすべて大野氏の話です。
日本がJapan as No.1と称される「ものづくり大国」への道をひた
すら歩んでいた頃の話で「品質不正」話の後には一服の清涼剤とし
て耳に心地よいのではないかと思います。

■■ アメリカに追いつけ ■■
私はアメリカのまねがすべていけないといっているのではない。自
動車王国のアメリカから学んだものは多い。QC(品質管理)とか
TQC(総合的品質管理)などのすばらしい生産管理技術や経営管理
技術をアメリカは生み出し、日本はそれらを導入して成果をおさめ
た。IE(インダストリアル・エンジニアリング)もまたしかりであ
る。しかし、これらの技術はあくまでアメリカの風土から生まれた
こと、つまりアメリカ人の努力によって生み出されたものであるこ
とを、日本人は、しかと踏まえておかなくてはいけないと思う。

昭和20年8月15日、この日は日本敗戦の日であり、新たなる出発
のときでもあった。当時のトヨタ自工社長の豊田喜一郎氏(1894~
1952年)は「3年でアメリカに追いつけ。そうでないと日本の自動
車産業はなり立たんぞ」と言われた。そのためにはアメリカを知ら
なければならなかった。アメリカに学ばなければならなかったはず
である。昭和12年ごろ、私は当時、豊田紡績の紡績現場にいたが、
ある人から、日本とアメリカの工業の生産性は1:9であると聞い
た。最初、その人がドイツへ行ったとき、ドイツ人は日本人の3倍
の生産をしていると言っていた。そしてドイツからアメリカへ行っ
たら、ドイツとアメリカが1:3だった。だから、日本とアメリカ
とは1:9だということになったのである。アメリカ人が1人でや
ることを、日本人は9人もかかっていると聞いて、大いに驚いた
ことを記憶している。

■■ 日本の生産性 ■■
昭和20年、進駐軍が上陸して間もなく、マッカーサー元師によっ
て日本の生産性はアメリカの8分の1であることを知らされた。そ
れでは戦争中に9分の1から8分の1になったのかなと思ったが、
とにかく豊田喜一郎社長は、3年で追いつけという。3年で生産性
を8倍なり9倍あげるのはたいへんなことではないか。100人で
やっている仕事を10人でやらなければだめではないか。しかも、
8分の1とか9分の1というのはあくまでも平均値であって、ア
メリカでもっとも発達している自動車産業に比べれば8分の1程
度ではむろんないだろう。しかし、アメリカ人が体力的に10倍の
力を出しているわけでもあるまい。日本人は何か大きなムダなこと
をやっているにちがいない。そのムダをなくすだけで、生産性は
10倍になるはずだと考えたのが、今のトヨタ生産方式の出発点で
あった。

品質不正への有効な対策6 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.414 ■□■
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*** 品質不正への有効な対策6 ***
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前回、問題の発生(今後発生するかもしれない問題も含めて)に続
いて行うことは、起った時の「状態」の確認、把握であると言いま
した。第三者委員会報告書に書かれている8項目の要因は、私の観
点からは要因ではなく、品質不正の起きた時の「状態」を記述して
いるのではないかと思います。

■■ 状態の把握 ■■
状態とは、読んで字の如くある状況における様態を言います。辞書
には「事物が、その時にそうなっている、ありさま」と出ています。
品質不正が起きた状態はどのようにして把握するのでしょうか。多
くの第三者委員会報告書には関係者とのインタビューによって状態
(報告書では要因と言っている)を把握したと書かれています。
「状態の把握」には、起きたことに関する周辺情報を集めることが
必要ですので、関係者のインタビューは必ず行われなければなりま
せん。しかし、特定の人のインタビューですと答える人の意識、認
識及び先入観などに拠ることになりますから、必ずしも事実を捉え
たものとは言えないリスクがあります。そこで多数の人のインタビ
ューにより、人によるバラツキを考慮に入れた把握が必要になりま
す。
例えば8項の最初に出てくる「コンプライアンス意識がない」とい
うということは、まさしく不正が起きた時、それを見逃した時、あ
るいは拡大させたときの状態を表現していると思います。多くの人
にインタビューして、当時の時を思い出していただき包括して表現
しています。

■■ 観察の必要性 ■■
事実を把握するために「観察」が必要です。これには、目で見る観
察も、科学的な測定・分析(フォレンジック:法的な証拠を見つけ
るための鑑識捜査392号参照)も含まれます。人が何を考えどうい
うつもりで何をしたか(人の思考プロセス)についても上手な「質
問」によって、どんな状況でどんなことが起きたのかを知ることが
可能になります。品質不正の代表的な状態は今まで説明してきたも
の(5項)を含め次の8項であると言えます。
1.コンプライアンス意識がない。(401号)
2.品質保証部門が機能不全を起こしている(402号)。
3.人が固定化され、業務が属人化されている(403号)。
4.収益偏重の経営がされている(404号)。
5.監査が機能していない(411号)。
6.工程能力がないのに生産している。
7.管理がされていない。
8.教育がされていない。

■■ 要因の抽出 ■■
次のステップに行きますが、それが「要因の抽出」です。要因を
抽出する基本は、「比較(何が違い、何が同じか)」と「変化(い
つから何が変わったか)」ではないかと思います。
前回、四季の変化を例に挙げて状態が時間の経過と共に変ってい
くことをお話ししました。不正が起きたときの状態を比較すると
変化を知ることが出来ます。起きた不正の状態は基準と比較して
どんなことが言えるのか、すなわち基準に照らして変化を観察す
ることで要因の抽出が出来ます。不正の状態を知るためにどんな
基準を使うか検討します。四季の変化を例に挙げれば、春を基準
にすると夏は暑い、秋は同じ、冬は寒いなどと気温の程度を比較
でき、その変化がどうして起きるのかを解明することで要因を抽
出します。変化はどんな力で起きたのかを洞察することで「要因」
が浮かび上がってきます。四季の変化で状態が変わるのは、例え
ば「地球と太陽の位置関係」であるといった具合です。水の状態
は氷、水、蒸気と変化しますが、要因は環境の温度です。

品質不正への有効な対策5 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.413 ■□■
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*** 品質不正への有効な対策5 ***
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品質不正が行われる組織には不正が行われる構造があると言いまし
た。これに関係して、品質不正を防止する行動にも構造があります。
前回に引き続き、品質不正発生の要因分析を行うときにより真因に
近づくことができる、すなわち要因分析がより効果的に行えること
になると思われる構造についてお話をします。

■■ 状態と要因 ■■
第三者委員会報告書を読むと多くの組織が品質不正の要因であると
上げている項目は、要因ではなく「状態」であると思います。要因
とは読んで字の如く「因果関係における原因の要素」のことです。
辞書には「物事の成立に必要な因子、ファクター」と出ています。
まだ原因とは決めつけられない原因候補です。一つの原因にはこれ
と思われる候補が沢山あり、原因を形づくると思われる要素を要因
と呼んでいます。
411回でもお話しました第三者委員会報告書で説明されている要因
は次のように8項目に集約されます。
1.コンプライアンス意識がない。(401号)
2.品質保証部門が機能不全を起こしている(402号)。
3.人が固定化され,業務が属人化されている(403号)。
4.収益偏重の経営がされている(404号)。
5.監査が機能していない(411号)。
6.工程能力がないのに生産している。
7.管理がされていない。
8.教育がされていない。
しかし、これら8項目は要因ではなく、品質不正の起きた「状態」
を記述しているのではないかと思います。状態とは、これまた読ん
で字の如くある状況における様態を言います。辞書には「事物が、
その時にそうなっている、ありさま」と出ています。品質不正発生
のありさま、すなわち品質不正を取り巻く景色を表現していると考
えてみたいと思います。自然の景色を考えてみましょう。冬でした
ら雪景色になりますし、春は桜色の景色になります。夏はそして秋
はと景色は春夏秋冬いろいろ変化します。この景色はどのような力
で変化しているのでしょうか?この景色をさせる力、メカニズムを
構成するものが要因であると私は理解しています。

■■ 品質不正防止の活動の構造 ■■
筆者の考える品質不正を防止する活動の構造は次の通りです。
 ●状態 →要因 →原因

411号では以下のように表現しました。
 ■問題の発生(今後発生するかもしれない問題も含めて)
  ↓
 状況の把握
  ↓
 原因の理解
  ↓
 対応策(応急処置,再発防止,未然防止)
書き進めていくうちに次のように修正するのが良いと考えるように
なりました。

 ■問題の発生(今後発生するかもしれない問題も含めて)
  ↓
 「状態」の把握
  ↓
 対応策(応急処置)
  ↓
 「要因」の抽出(VTA andなぜなぜ分析)
  ↓
 「原因」の特定(発生原因、見逃し原因、拡大原因)
  ↓
 対応策(原因の排除 →フォロアップ)

(つづく)

品質不正への有効な対策4 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.412 ■□■
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*** 品質不正への有効な対策4 ***
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JSQC品質不正防止講習会で出された質問に関してお話をしていま
す。第三者委員会報告書で説明されている次のことは、もう一歩掘
り下げて真因に近づけていくべきであると思います。

■■ 個々人が認識しても・・・ ■■
組織には組織の運営スタイル(マネジメントスタイル)があります。
・外に発信しない内向き企業
・内部コミュニケーションの悪い組織
・意思決定がエライひとの顔色で決まる組織
・まともな組織文化・風土の欠如している企業
・危機感のない組織
・問題を隠す組織
・改善意欲のない組織など
思いつくまま「悪い例」を上げてみましたが、このような運営をし
ている組織においては、たとえ個々人が問題を認識しても、その問
題意識は埋没してしまい、いつしかいろいろな問題を起こすことは
容易に想像がつきます。

■■ 品質不正を起こす組織の構造 ■■
一般に問題を起こす要因には、技術、マネジメント、人、組織風土・
文化など多様な面があります。組織が提供する製品・サービスに固
有の技術がなければ問題は山積するでしょう。ここで技術と言って
いるのは、単にテクニカルな方法のことではなく、目的達成のため
の実現方法という広範意味です。技術にはミスを防ぐにはこの原則
を守るのがよい、この手順に従うのがよいというようなルール、原
則,教訓なども含みます。こうした技術があっても、それらの技術
を現実に組織で適用するためのマネジメントシステムを有していな
ければ問題が起きます。責任権限、業務手順、技術基盤などが整備
されていないと、先端技術・知識があっても組織のものになりませ
ん。さらに、そのマネジメントシステムにおいて行動する人間の意
欲、知識・技術、技能が適切に発揮されないと問題が起きるでしょ
う。単なる事象が問題になるには経緯があります。ある事象が発生
し、それを見逃し、周囲に拡大していき、問題として誰かの目に留
まり、しかし組織が適切に処置をせずについに大きく火を噴くこと
になります。何が発生原因で、どう見逃され、どう拡大されてしま
ったかという構造を分析をする必要があります。

マネジメントからの見方で、組織のプロセスのどこに不備があるか
という見方も品質不正を起こす組織の構造を理解するために有効で
す。方針設定、目標展開、構想(企画)、計画策定、実現運用、チェ
ック・監視測定、アフターサービス……というプロセスのどこに問
題があるかという見方です。いろいろ挙げましたが、問題・不備が
どこにどのようにあるか理解し適切に対応するために、このような
“問題発生の構造”の全貌を理解する必要があります。

■■ 品質不正要因分析の構造 ■■
構造に関連して言うならば、品質不正の要因分析にも辿るべき構造
があります。今まで見てきた多くの品質不正の要因は実は状態であ
って要因ではありません。また要因が上げられてもその中から結果
に大きく貢献している原因を探し出さなければなりません。すべて
の要因を分析しなければならないというトラウマから逃れることも
必要です。要因を分析する目的は、再発を防止するために大きく貢
献している原因を探し出し撲滅することにあります。処罰のためで
も、データ集計のためでもありません。したがって、撲滅する意味
のある原因を探し出す構造を把握しておくべきです。問題噴出にい
たる因果連鎖の一部が、他の事象においても再現するかもしれない
教訓的な事例であるとより効果的です。
ここで筆者の考える品質不正の要因分析の構造は次の通りです。
●状態 →要因 →原因
次回にその内容の説明をさせていただきます。
(つづく)