Category Archives: つなげるツボ

品質不祥事 6 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.379 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** 品質不祥事 6 ***
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「品質不祥事」についてお話をしています。
You tube「超ISO」の品質不祥事シリーズに沿ってお話をさせてい
ただいています。前々回から第三者委員会調査報告書についてお話を
していますが、今回はその3からです。

■■ 第三者委員会調査報告書 ■■
私が読んだいくつかの製造業の品質不祥事の「第三者委員会調査報
告書」を紹介します。我々が興味を持つのは、(1)どんなことが起き
たのか、(2)なぜ起きたかの2点です。「第三者委員会調査報告書」
は少ないものでも100ページ、多いものだと1,000ページを超えま
すので、ここでは(2)に焦点を絞って報告書に記載されたままを簡潔
に紹介します。

3.S重機械工業  2019年3月
<原因の究明を行った結果>
(1)製品・サービスに関する要求事項(法令、仕様)の軽視
1) 法令(業法)上の要求事項に対する理解・認識不足
事業部門における業法の理解・認識が不足しており、特定自主検査、
定期検査に関係する法令(道路運送車両法、労働安全衛生法、建築
基準法)の要求事項に対する理解・認識不足によるものであった。
2) 顧客仕様の軽視
顧客仕様から外れていても、「この程度仕様から外れていても製品
性能が出ているから問題ない」、「顧客からクレームを受けていない
ので品質上は問題ない」などと判断して、顧客仕様を軽視して、顧
客仕様から外れている検査データを書き換える不適切行為が見受け
られた。
顧客仕様を顧客との契約事項として守るべきものであるとの意識が
希薄であり、顧客仕様を軽視し、仕様外れのデータを書き換えてい
る事案も一部にあった。
3) 顧客との仕様自体が曖昧・不明確
顧客仕様書と顧客に提出した検査要領書の記載内容に差異があり、
その差異について顧客への確認を怠り、これを放置した結果、顧客
の仕様についての社内の部門間の認識に違いがあるケースがあった。
サービスにおいても、顧客との契約において、点検等の数値基準自
体が顧客と確認されていないことがあった。当該部門において顧客
との仕様自体が曖昧・不明確となっていることが、検査データの書
き換え等の不適切な記載の原因の一つとなっていた。
4) 要求事項(法令、仕様)を軽視した結果の虚偽記載
検査・測定の結果(測定データや故障の状況)を、検査成績書等に
おいて書き換える不適切行為が見られたが、こうした、検査成績書
等に虚偽記載を行い、顧客や行政に提出することについて、当事者
の多くは問題であると認識していなかった。

(2)品質に関わる仕組みの不備 - 不適切な検査等を許す品質
管理プロセスの不備
1) QMSの不備:品質保証部門は、不適合品の最終判断を行う部
門であり、品質保証部門長は出荷停止の強い権限、強い牽制・監視
機能を有しているが、品質保証部門長自らが、書き換えられた検査
データを承認している事案があり、品質保証部門の牽制・監視機能
は働いていないと言える。
2) 品質管理の手順書と実作業の相違等の不備:業務プロセスや業
務手順に関する詳細の社内規程(業務規程、検査要領書、手順書、
業務基準、業務マニュアル等)が整備されていなかったり、手順書
と実作業の相違、手順書等において検査・測定方法が曖昧であるな
どの不備があった。
3) 技術的問題への不十分な取り組み、問題解決の先送り:技術部
門においては、仕様外れや測定値の実績のバラツキなどを技術的に
分析し、仕様に入るように製造方法の改善を行うとか、仕様の見直
しについて顧客と協議するなどを長年にわたって対応していなかっ
た。又、従来の測定器では測定困難な測定項目が出てきていても、
技術的な対応方法の検討は先送りされていた。
4) 自らの工程能力の把握の軽視:自らの工程能力が低いことを把
握しないで、当該製品について顧客と仕様を取り決め、長年にわた
り、仕様外れに対して、技術的な検討に基づく製造方法の改善によ
り工程能力の改善を図ることや、顧客との仕様見直しの協議を行う
ことを怠ってきた。
5) 検査測定システムの不備
今回の不適切な検査の事案においては、以下のとおり検査測定シス
テムの不備が見受けられた。
・検査機器の数量不足
・製品の構造・機構の変更に応じた測定可能な検査機器への更新の
怠り
・測定器具の測定誤差等検査測定システムの精度向上への取り組み
の不足
・手書き、転記による検査記録の作成、保存のガイドラインの不備

(3)業務品質の管理・監督体制の脆弱さ
1) 品質監査体制の脆弱さ
QMS監査では品質保証書類の不備確認のための生データとの照合
迄は実施していなかったので、今回発覚したような不適切行為を検
出することは困難であった。
2) 業法の管理・監査体制の脆弱さ
今回不適切行為が発覚した各事業部門においては、業法管理の担当
部門や担当者を選定しておらず、事業部門として、当該業法に関す
る遵守事項を認識し、管理体制を構築し、管理することが十分には
出来ていなかった。

(4)サービスに関する品質確保に向けた体制や取り組みの不備
事業部門から独立もしくは機能分担した関係会社においてサービス
業務を遂行する場合、サービス事業においては、提供するサービス
について顧客との仕様の取決めが不明確な場合があり、このことが、
不適切行為の原因の一つともなっていた。

(5)現場任せでバランスを欠いた事業運営・組織運営
1)品質の優先度の低さ
納期やコスト優先、効率優先の対応の結果、製品やサービスの品質
の優先度が低くなっていた。
2)小規模事業・機種等の管理
小規模事業・機種等については、当該事業・機種を担当する一部の
担当者任せとなっており、事業部門のトップや幹部、共通管理部門
等による管理監督や当該部門への支援・指導は行き届いていなかっ
た。
3) 小規模事業・機種等やサービス事業における資源配分
リソースの不足が見られた。員の不足に加えて、教育が不十分、施
設、設備、検査・測定機器等が整備されていない場合があった。
4) 孤立化し閉鎖的な組織風土
組織が縦割り組織となっており、個々の組織は孤立化し、営業・技
術・製造・品質保証等の関係部門の連携した対応や関係部門間のコ
ミュニケーションは不足し、閉鎖的な組織風土となっていた。外に
目が向かず、外部情報を元に自らを振り返ることや、外部や第三者
からのチェック・確認・フィードバックを受けることも少なかった。
5) 上司の管理監督が不十分な事業・組織運営
上司による管理監督が不十分なケースが多く見られた。製造・技術・
品質保証部門間の不適合情報のやりとりが担当者ベースのやりとり
となり、各部門の管理者が関与した不適合品の判断が十分なされて
いない、仕様外れに対してスタッフから上司への相談・問題提起が
あっても管理者が適切に受け止めず本質的な対処にまで至っていな
い、上司が業務の実態を把握しておらず業務のスケジュール管理・
人員配置計画・顧客等に提出の報告書作成について各担当者任せに
している、など現場の担当者任せの業務実態が浮き彫りになった。
各現場の管理者自体が現場の実態を掌握していないために、今回発
覚したような不適切行為の実態が事業部門のトップや幹部に報告さ
れることもなく、事業部門のトップや幹部が今回発覚した不適切行
為を把握することもなかった。
6)属人化、人事の固定化
業務が標準化・マニュアル化されておらず、属人化しており、その
業務の担当者しか当該業務の詳細が分からないようになっていた業
務実態があった。他部門との人事ローテーションが少なく、人事が
固定化し、長期間に亘り、同じ人が同じ業務を担当するようになり、
当該業務に、第三者や他部門によるチェックがかかっていなかった。
これらの属人化、人事の固定化が、不適切行為が長期にわたり発覚
しない主要な要因ともなっていた。

(6)コンプライアンス最優先の経営方針の不徹底
当社グループにおいて、コンプライアンス最優先の経営方針につい
ては、十分には徹底されていない。法令の理解不足に加えて、顧客
仕様を遵守する意識が不足し、品質や性能には問題がないとの認識
の下で、検査データ等の書き換えが常態化していた。又、データの
書き換えそのものが虚偽記載となるが、虚偽記載という認識自体も
薄い場合が多かった。コンプライアンス最優先の経営方針の当社グ
ループの隅々までの徹底を欠く中で、納期やコスト優先、効率優先
で対応してきた結果、今回の不適切な行為を実行・継続してきたも
のと考えられる。

品質不祥事 5 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.378 ■□■
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*** 品質不祥事 5 ***
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「品質不祥事」についてお話をしています。
You tube「超ISO」の品質不祥事シリーズに沿ってお話をさせてい
ただいています。前回から第三者委員会調査報告書についてお話を
していますが、今回はその2からです。

■■ 第三者委員会調査報告書 ■■
私が読んだいくつかの製造業の品質不祥事の「第三者委員会調査報
告書」を紹介します。我々が興味を持つのは、(1)どんなことが起き
たのか、(2)なぜ起きたかの2点です。「第三者委員会調査報告書」
は少ないものでも100ページ、多いものだと1,000ページを超えま
すので、ここでは(2)に焦点を絞って報告書に記載されたままを簡潔
に紹介します。

2.N自動車 2018年9月
(1) 現場管理の不在
 管理・監督者(工長)は自ら抜取検査の知見を身につけ現場を管
理・監督するのではなく、抜取検査の実施を現場の完成検査員に委
ねており、現場の管理が有名無実化していた。

(2) 完成検査員に対する不十分な教育
 抜取検査に従事する完成検査員候補者に対して、統計的手法を用
いた抜取検査の基本的な考え方や Xbar R管理図を用いた日常管理の
目的及び意味等の教育を行っていなかった(規定では72時間の教育
を行うことになっている)。代わりにOJTの中で不適切な抜取検査の
方法が先輩の完成検査員から後輩の完成検査員に伝授されていた。

(3)完成検査員の人員不足
 抜取検査を行う完成検査員の人員数は十分なものではなかった。
完成検査員の所要は、抜取検査において、 NG が発生しないこと
を前提として算出されていた。

(4) 不十分な設備
 車両製造工場においては、排出ガス検査に使用する設備に不具合
があり、試験条件等を整えるのが容易でない状況にあった。設備の
不具合が放置されたことは、完成検査員において、自らの不適切な
抜取検査を正当化する口実を与えるものであった。

(5) N社における車両製造工場管理の在り方
 2008年にN社九州のNPV (Net Present Value) が、 O工場のそ
れを上 回ったことから、O工場で生産されていた小型乗用車「 NOTE 」
の生産が 九州工場に移管された。車両製造工場関係者にとっては、
TdC ※ 等のコスト削減によって NPVを改善し、製造車両を獲
得することは雇用維持から極めて重要な意味を持っていた。それが、
TdCを改善するために、極力少数人員、その他で車両製造工場を操
業しなければならないとの発想につながった。
※ N社では、車両製造工場のコスト管理に当たって、「TdC(Total
delivered Cost)」と呼ばれる指標を用いている。TdCは、自動車1台
につき、部品の調達から車両製造工場での製造、完成検査を経て、
ディーラーに納車するまでに要する全てのコストのことをいう。
TdCは、労務費、原材料費、共通経費、共通固定費等を積み上げる
ことで算定している。
 ア NGが発生することを想定しない人員配置
 イ 完成検査員の教育を行う人員が配置されない。
 ウ 工場の現場から抜取検査を担当する技術員が置かれなくなった。
 エ 工場において極力設備投資を控えた。
 オ 基準書の不備

(6)車両製造工場のマネジメント層の在り方
 ア 製造工場において、将来を見越した人材育成ができていなかった。
 イ 車両製造工場のマネジメント層が、抜取検査の現場と十分なコ
  ミュニケーションをとることができておらず、実態を把握でき
  ていなかった。
 ウ 抜取検査の現場においてどのようなリスクが存在するのか、具体
  的に把握できていなかった。

(7)コンプライアンス体制について:マネジメント層が十分に行っ
ていなかった。
 ア コンライアンス遵守に向けた強い姿勢を明確に示し、従業員が
  その業務の意義や目的を正確に把握し、仕事に気概を持って取り
  組むことができるよう、不断の教育・訓練を施していない。
 イ 現場の従業員を適切に管理する管理者層を配置し、当該管理者
  層が現場の問題を正確に把握するとともに、マネジメント層と共
  有する仕組みを整えていない。
 ウ 業務に内在するリスクについて正確に把握し、当該リスクに応
  じて、管理体制を構築していない。
 エ 内部監査の内容や密度を決定しておらず、そのため監査部門が
  リスクに着目した監査を行っていない。
 オ 現場の作業観察をしていない。現場に存在するリスクを作業観
  察の過程で把握していない。上が行わないから現場の管理者層も
  現場のリスクを把握しておらず、またできる状況にはなかった。

(8)不合理な検査規格
 車両製造工場において、一部、不合理な検査規格が存在し、それが
測定値の書換え等の不適切な抜取検査を引き起こす原因となっていた。

(9)完成検査軽視の風潮
 製造工程の精度が飛躍的に向上するとともに、製造工程において品質
保証するとの考え方で生産ラインが構築されているため、完成検査
において保安基準や諸元値を満たさない車両が製造される可能性が低
くなったという事情が存在する。

品質不祥事 4 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.377 ■□■
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*** 品質不祥事 4 ***
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「品質不祥事」についてお話をしています。
You tube「超ISO」の品質不祥事シリーズに沿ってお話をさせてい
ただいています、今回から第三者委員会調査報告書についてお話し
します。

■■ 第三者委員会調査報告書 ■■
近年の品質不祥事には「第三者委員会調査報告書」がつきものに
なっています。「第三者委員会」は私の知る限り、最初は上場企業
の財務諸表の改ざんなど企業の会計、財務の不祥事が発覚した時
に、身内だけでは調査が十分でないということで、第三者に詳細
な調査を依頼する目的で始まりました。
2000年ころから「第三者委員会」の存在が一般に知られるように
なりましが、委員の多くは、弁護士、公認会計士の方がほとんど
でした。最近はちらほらと品質専門家も第三者委員会に招かれる
様になりましたが、まだ少数です。
2012年から「第三者委員会調査報告書」のWEBへの公開がされ
るようになり、2014年には「第三者委員会報告書格付け委員会」
が発足しています。この委員会は、民間の「第三者委員会の調査
報告書に対する格付け」を行う弁護士グループが立ち上げた組織
です。

■■ 格付け委員会取り扱い事案 ■■
2014年から「第三者委員会報告書格付け委員会」が扱った主な
「第三者委員会調査報告書」には、次のようなものがあります。
・提携ローン業務適正化に関する特別調査委員会(みずほ銀行)※
参照:みずほ銀行暴力団融資事件
・第三者委員会(リソー教育)※参照:リソー教育#不祥事
・慢性骨髄性白血病治療薬の医師主導臨床研究であるSIGN研究
に関する社外調査委員会(ノバルティスファーマ株式会社)※
参照:ノバルティス#白血病薬研究(SIGN研究)への関与
・朝日新聞社第三者委員会(朝日新聞社)※参照:朝日新聞の慰安
婦報道問題
・第三者委員会(労働者健康福祉機構)※関連:障害者の雇用の促
進等に関する法律
・内部調査委員会(ジャパンベストレスキューシステム)※不正
会計
・第三者委員会(東芝)※参照:東芝#不正・隠蔽行為東芝粉飾決算
事件
・「免震積層ゴムの認定不適合」に関する社外調査チーム(東洋ゴ
ム工業)※参照:TOYO_TIRE#不祥事
・第三者委員会(王将フードサービス)※参照:王将フードサービ
ス#不祥事、王将社長射殺事件
・特別調査委員会(三菱自動車工業)※参照:三菱自動車工業#燃費
試験の不正事件
・社内調査委員会(東亜建設工業)※参照:東亜建設工業#不祥事
・日本オリンピック委員会調査チーム(日本オリンピック委員会)
※関連:2020年東京オリンピック構想、ラミーヌ・ディアック、
竹田恆和#不祥事
・第三者委員会(DeNA)※参照:ディー・エヌ・エー#「WELQ」
に始まるキュレーションサイトの問題
・第三者委員会(富士フイルムホールディングス)※海外子会社の
不正会計
・弁護士チーム(日産自動車)※参照:日産自動車#無資格者検査問題
・神戸製鋼所 ※参照:神戸製鋼所#アルミ製品データ改竄
・第三者委員会(雪印種苗)※関連:種苗法
・日本大学アメリカンフットボール部における反則行為に関する第三
者委員会(日本大学)※参照:日本大学フェニックス反則タックル
問題
・第三者委員会(東京医科大学)※参照:東京医科大学#女子受験生・
三浪以上に対する一律減点
・毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会(厚生労働省)※参照
:毎月勤労統計調査#統計不正調査問題
・外部調査委員会(レオパレス21) ※参照:レオパレス21#施工不備
問題
・第三者委員会(関西電力)※参照:関西電力#関西電力幹部らの金品
受領・便宜供与問題
・第三者委員会(ジャパンディスプレイ)※不正会計

■■ 品質不祥事再三者委員会調査報告書 ■■
このように「第三者委員会調査報告書」は上場企業の不適切な会計処
理の調査が主でしたが、次第に企業、役所、大学などの社会的不祥事
にまでその対象が広がり、その動きに呼応して品質不祥事についても
多くの企業が発表するようになりました。私が読んだいくつかの製造
業の品質不祥事の「第三者委員会調査報告書」を紹介します。我々が
興味を持つのは、(1)どんなことが起きたのか、(2)なぜ起きたかの2
点です。「第三者委員会調査報告書」は少ないものでも100ページ、
多いものだと1,000ページを超えますので、ここでは(2)に焦点を絞っ
て報告書に記載されたままを簡潔に紹介します。
1.神戸製鋼 (2018年3月)
<直接的原因>
[1] 工程能力に見合わない顧客仕様に基づいて製品を受注・製造して
いたこと。
[2] 検査結果等の改ざんやねつ造が容易にできる環境であったこと。
[3] 各拠点に所属する従業員の品質コンプライアンス意識が鈍麻して
いたこと。
<根本的原因>
[1] 収益偏重の経営と不十分な組織体制
 (1)本社の経営姿勢:本社は収益力の拡大を狙い各拠点もこれに従っ
て利益目標を高く設定した。
 (2)本社による統制力の低下:各拠点における現場の「生の声」を十
分に吸い上げなかった。
 (3)経営陣の品質コンプライアンス意識の不足:不適切行為を実行又
は認識していた者が執行役員となった。結果、不適切行為がなお
継続されていることを認識しながら是正しなかった。
 (4)事業部門における監査機能の弱さ:経営効率を高めることから拠
点ごとに完結した品質体制が整備・運用されていた。「品質の問題
は工場一任」といった工場優位の風潮が生まれ管理部署の統制力が
低下した。
[2] バランスを欠いた工場運営と社員の品質コンプライアンス意識の低下
 (1)工程能力に見合わない顧客仕様等に基づく製品の製造
 (2)生産・納期優先の風土
 (3)閉鎖的な組織(人の固定化)
 (4)社員の品質コンプライアンス意識の鈍麻
 (5)本件不適切行為の継続:不適切行為の対象製品等が当該事業部門に
おける年間売上げの数%にも達し、その規模自体が不適切行為の中
止・是正を躊躇させた。
[3] 本件不適切行為を容易にする不十分な品質管理手続
 (1)改ざん又はねつ造を可能とする検査プロセス:容易に検査結果を
改ざん又はねつ造することができる検査プロセスが採用され、不
適切行為を行う動機を有する者に不適切行為に及ぶ格好の機会を
提供することになった。
 (2)単独かつ固定化した業務体制
 (3)社内基準の誤った設定・運用

品質不祥事 3 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.376 ■□■
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*** 品質不祥事 3 ***
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2017年から2021年までに継続的に社会を揺るがした「品質不祥事」
についてお話をしています。この間に起きた20事例について前回は
6番目の事例「医薬品」までお話ししました。今回は7番目から始
めます。You tube「超ISO」の品質不祥事シリーズに沿ってお話を
させていただいています。

■■ いま組織に何が起きているのか ■■
前回に引き続き品質不祥事の概要をお伝えします。ここに記してい
る概要は該当組織の発表、並びに新聞情報をもとにしています。近
年、社会的に話題になった品質不祥事はゆうに100を超えると思い
ますが、多くの業界で不正が行われている実態を知るために、でき
るだけ特定の業界に偏らないようにしたいと思います。暫く残りの
13事例の概要、すなわち不正の羅列になりますがご辛抱ください。

7.化学
・全7事業所, 127製品中42製品で品質検査データを検査せず捏
造していた。
・発覚後子会社を調べたら, 22社32品目でデータ改ざんや規定方
法以外の手順での不正検査が発見された。
・顧客との約束の検査を行わずにデータ書き込みしたことに, 社長
は本社の悪しき習慣が伝播したと話す。
・しかし, 社長記者会見後も一部で不正が継続された。

8.電機
・鉄道用空調装置架空のデータを自動で生成する専用プログラムを
1980年代から使い品質データをねつ造していた。
・明らかに組織的な不正行為であるとして社長は引責辞任した。
・「顧客との関係より自分たちの論理を優先する業務の進め方が問
題だった」(引責辞任した社長の弁)。

9.自動車
・無資格検査員による完成検査, 加えて燃費・排ガスデータの改ざ
んを行っていた。
・品質不正は製造2工場全体で行われていた。
・社長が処置完了と会見で発言した後も現場では同様の検査が継
続していた。
・両不正で約53万台をリコールした。
・社内調査, 弁護士等による第三者, 国交省による調査などに応対
できず社長は引責辞任した。

10.設備製造
・ゴミ焼却炉内部の耐火壁を支える金属部材「耐熱鋳鋼アンカー」
に含まれる炭素やニッケル, クロムの値がJIS規格を満たしていな
かった。
・購買担当者が, 過去の試験結果を転記したり改ざんの数字を書い
たりした成績表を20年間にわたり捏造した。
・不適合品は2005~2019年に, 国内外88社へ約10万個が出荷さ
れた可能性があるが,「安全性に問題はない」という。

11.研究所
・国内献血由来の血漿分画製剤の全製品について, 承認書と異なる
製造方法により製造されていることが判明した。
・いん蔽工作などが次々と明らかになり, 該当組織は2016年1月
18日から5月6日まで110日間業務停止処分となった。

12.セラミック
・米国のUL(アンダーライターズ・ラボラトリーズ)に提出する
認証試験および確認試験用の材料に組成の異なる「偽のサンプル」
を提供,合格して認証を取得していた。

13.油圧機器
・建物の免震・制振装置で性能検査記録のデータを改ざんした
(2003年1月~2018年9月まで986件)。

14.医薬品
・医薬品メーカーは加速試験や長期保存試験を無断で省略
(2009年ごろには既に行っていた)。
・出荷試験不適合ロットを廃棄処分せずに出荷していた(2011年
から手を染めていた)。 いずれもGMP省令違反である。

15.建設
・杭工事で品質データの転用や加筆などの改ざんが行われた。
・過去10年に請け負った物件3,040件のうち2,376件の調査が終
わった段階で, 約1割のデータ偽装が確認された。

16. 販売
・中央卸売市場で競り人2人が不正の取引を行った不正が発覚した。
・市場で販売取引の業務を担う会社社長は会見し, 「生産者,市場関
係者,各方面に多大な迷惑と心配をお掛けした」と謝罪した。

17.教育
・大学入学試験において,女子や多浪生らを不利に扱った不正が行
われていた。
・2013~2016年度の入試では109人が合格ラインを上回りなが
ら不合格になっていた。

18.介護
・有料老人ホーム施設長は資格のない介護職員に医療行為をさせ
ていた。
・医師法違反(無資格医業)容疑で逮捕された。

19.航空機
・航空機エンジン整備で資格のない従業員が検査をしていた
(エンジン整備と部品を合わせて約1万4,000件)。
・検査不正は常態化しており、2018年4月に内部告発があった
ものの, 見過ごされていた。

20.市場調査
・世論調査で, 業務を委託された業者が実際には電話せず不正に
データを入力していた。
・データを不正に入力, 捏造していたのは委託された業者から
再委託された業者であった。

品質不祥事 2 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.375 ■□■
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*** 品質不祥事 2 ***
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近年報道が相次ぐ産業界の品質不祥事問題は、日本の産業界が長ら
く大事にしてきた「高品質なもの作り」という強みが失われつつあ
ることを意味します。1980年にはハーバード大学のアズラ・ボー
ゲル教授が「Japan as No、1」という著作を発表し、世界の工業製
品の品質について、日本製品の品質の良さを称えてから40年以上
経ってしまいました。

■■ いま組織に何が起きているのか ■■
You tube「超ISO」の品質不祥事シリーズ1回目では、国際競争力
の現状をお話しした後で「組織に何が起きているのか」と題して、
品質不祥事調査の概要をお話ししています。これは日本品質管理学
会のワ-キング・グループ活動の一環として行ったものです。 
・調査期間 2015年~2021年 
・対象 製造業、建設業、サービス業、行政、大学
この期間で大体100件くらいの品質不祥事が発覚しています。製造
業が圧倒的に多いのですが、建設業、サービス業でも起きています。
サービス業に入れてよいのか迷うところですが、行政でも大学でも
起きています。
中には品質不祥事とは言えない犯罪に近いものまでが起きています。
ここでは、明らかに品質不祥事と思えるもの45事例について話を
進めていきます。品質不祥事とは何かという定義を決めないまま議
論を進めることに異を唱える方がいらっしゃるかもしれませんが、
お許しください。
私は、とりあえず(1)法律、(2)行政からの規制、(3)JISなどの規格、
(4)認定基準、(5)契約、協定、さらに広く(6)社会規範などに違反する
ことが組織の製品・サービス提供において行われること考えていま
す。
もしお時間があれば定義をご提案していただければ幸いです。

■■ 45事例の概要 ■■
45事例の詳細については機会を改めてご説明できると思いますが、
ここでは45事例に特徴的なことをお話ししたいと思います。
1.長い間行われている。
 45事例それぞれの不適切行為の行われてきた期間をしらべると
そのほとんどが複数年以上に渡っています。長い場合は40年、50
年も行ってきたというものまであります。
2.部門全体で行われている。
最初は現場のグループで始めたことが段々と部門全体で行われる
ようになっています。しかし、最初から部門全体で行われたものも
ありますし、規模の小さい組織では最初から組織ぐるみで行われて
います。
3.ある程度続けると止められなくなる。
 不適切な行為を途中で止めようとしても、いままでと整合性が取
れなくなりグループや部門の判断では止められないケースがほとん
どです。
 調査期間で発覚した品質不祥事のほとんどは、内部告発によって
明るみに出ており、組織が自律的に公表した例は多くありません。
4.組織経営、業績にマイナスの影響を与えている。
 品質不祥事を起こした組織の多くが、その後売り上げの減少、利
益の減少、顧客離れなどのより社会的な信用を失っています。
5.多くの仕組みが形骸化している。
 内部通報制度、業務監査制度、ISO内部監査制度、法的規制遵守、
認証制度運用など多くのルールが組織内で有効に活用されていませ
ん。

■■ 品質不祥事の概要 ■■
 45事例の中から時期の古い順に20事例程どんな不祥事が起きた
のかを簡単に記載します。
1.化学メーカー
・汎用樹脂などの検査結果を入力しなくても、規格を満たす数値が
ランダムに表示される不正なシステムを使っていた。
・品質不正は1970年代から始まっていたとみられる。
・社長は「ここまで広がるとは想定していなかった。品質保証への
意識が私を含めた経営陣の間で低かった。反省している」と謝罪し
た。
・発覚当時、不正に関わっていたのは品質検査担当部署を中心に、
グループ全体で数十人にのぼった。
2.行政
・国の28機関で障碍者雇用数を計約3,700人分データ改ざんして
いた。
・40年以上行われていた。
3.鉄鋼
・品質検査データの改ざん、及び捏造を長年にわたり多くの職場で
行っていた。
・対象は7事業部門、12子会社の43の事業に及んでいる。
・40年以上行われていた。
4.自動車
・無資格検査員による完成検査を6工場で行っていた。
・加えて燃費・排ガスデータの改ざんを6工場で行っていた。
・社長会見で「処置完了」と発言した後も2度に渡り現場では同様
な検査が不正検査が継続していた。
・両不正で約130万台のリコールが行われた。
・40年以上行われていた。
5.金属材料
・子会社2社で改ざん指南書による会社ぐるみでの検査データ改ざ
んが行われていた(子会社社長は辞任した)。
・しかし、その後他の子会社3社でも検査データの改ざんが発覚、
さらにその後本社においても改ざんが発覚し、本社社長も辞任した。
・40年以上行われていた。
6.医薬品
・爪水虫などの治療薬に睡眠導入剤成分が混入により200人超に健
康被害が発生した。
・40年以上前から検査データを捏造しており、約8割の製品で虚偽
の製造記録を作成していた。
・立ち入り調査用に虚偽の記録を作成していた。
・薬機法に基づき過去最長となる116日の業務停止命令処分が下さ
れた。