Category Archives: つなげるツボ

品質不祥事 1 | 平林良人の『つなげるツボ』

—————————————————————
■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.374 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** 品質不祥事 1 ***
—————————————————————
今回から品質不祥事を取り上げます。昨今の品質不祥事は、日本の
産業界において、2017年の神戸製鋼の問題から始まり、直近の日野
自動車の問題まで、5,6年継続的に続いています。実は同じような
品質不祥事の問題が2003,4年当時、食品業界を中心に社会に発覚
しました。

You Tubeで「超ISO」を検索してください。私が投稿した「品質不
祥事」4回シリーズが掲載されています。今回の品質不祥事シリー
ズでは、皆さんと品質不祥事についていろいろな側面を議論してい
きたいと思っていますので、よろしくお願いいたします。

■■ 20年過ぎても解決されない品質不祥事 ■■
2004年当時、品質不祥事を起こした会社の社長がテレビの前で頭を
下げる光景を何度も見てきました。そして、20年近く経った今、ま
た同じ光景を目の当たりにしています。何とかならないのでしょう
か、どうして20年もの間、問題は解決されなかったのでしょうか、
我々はISO9001規格を中心に、品質保証、品質管理の勉強をしてき
ていますが、ISO9001は品質不祥事に対しては無力なのでしょうか、
知っているという事とやれるということは違うと言いますが、まさ
しく品質不祥事はその実例と言っていいのでしょうか。

■■ 科学技術の発展と品質不祥事 ■■
我々は急速に進化するテクノロジー革命の時代に突入していますが、
デジタル化、AI、ブロックチェーン、生命科学、宇宙開発、エネ
ルギー革命などの科学進歩は著しいにもかかわらず、組織の行動メ
カニズムに関しては驚くほどに解明がなされていません。社会に存
在する組織は、それぞれが固有な文化を持ち、固有であるがゆえに
組織の文化は「組織の風土」と呼ばれて、その特質、特徴は千差万
別です。したがって、品質不祥事は組織固有の問題故に、個別事象
として扱われ、品質不祥事の共通性についての分析はあまりされて
きませんでした。

■■ 日本の社会的風土 ■■
しかし、今日の品質不祥事は、調査してみると、組織文化が多くの
品質不祥事の要因に影響していることに気が付きます。戦後の日本
は、組織の全員が自分の業務を改善するという欧米人には考えられ
ない集団主義を武器に、全社挙げての実践により日本国産業界を大
きく躍進させました。集団主義の文化には仲間と協調することが何
より大切という意識が常に根底にありました。個人が集団から離れ
た動きをすると集団からは戻るような力が働き、それでも戻らない
と村八分にされてしまうという社会文化が日本にはあると言われて
います。
文化は国ごとに特徴がありますが、個人主義文化の欧米とは異なり、
集団主義文化の日本では、品質不祥事を論じるときにはこの文化の
特質を強く意識することが必要です。仲間と協調することは正しい
方向に向かうと大きな力になりますが、誤った方向に向かうととん
でもないことになるという事をもう一度噛み締めなければなりませ
ん。

■■ 国際競争力の低下 ■■
品質不祥事は、40年余にわたる国際競争力低下の要因の一つになっ
ていると思います。品質不祥事は国全体の問題と捉えて一刻も早く
手を打たないと後日後悔することになると思います。人の行動原理
と組織文化とがからむ品質不祥事は、実験を行うことはもちろん、
組織文化を解明するデータを集めることも困難、不可能です。しか
し、「品質不祥事」を引き起こす要因は何か,どんな対応策があり得
るのか、我々は組織を注意深く観察して事実に基づく答えを見つけ
る努力をしなければならないと思います。同時に、事象の一つひと
つにとらわれずに、不祥事の全体像を俯瞰して、総合的な見地から
の現実的解決に結びつく方法論を提案する必要もあると考えます。

次回からは、産業界の内部で何が起きているのか、どんなメカニズ
ムで品質不祥事が起きるのか、なぜ内部で解決されずに外部から指
摘されて初めて対応を取ることになるのかなどを考えてみたいと思
います。

SDGインパクト基準26 | 平林良人の『つなげるツボ』

—————————————————————
■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.373 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** SDGインパクト基準26 ***
—————————————————————
2015年に発表された国連「SDGsアジェンダ」についてお話をして
います。
SDGsとは、
“Sustainable Development Goals”の略で、「持続可能な開発」
と日本語訳されています。

今回は目標17です。

■■ SDGsのターゲット ■■
ここまでSDGsの16目標について、私なりの説明をさせていただい
てきました。実は17の目標の下には169のターゲットがあります。
ターゲットとは具体的な実行項目のことですが、それぞれの17目標
の下に平均して10個くらいの実行項目があるとお考え下さい。
目標1~16までは、私自身が関係していて、興味のあるターゲット
あるいはその中に出てくるキーワードなどを選んでお話をしてきまし
た。企業においても同様で、目標17の中から関係するものを選び、
かつターゲットの中からも関係するものに焦点を当てることがよいと
思います。
今回はSDGs17の目標の最後になりますので、目標17については
ターゲットまでお示ししたいと思います(目標17のターゲットは19
項目もあります)。出典(日本語訳)は外務省のホームページからです。
少々硬い文章で、出てくる用語も日常使用していないものもあり、退
屈かもしれませんが、SDGs17の目標の構造を知っていただくために
掲げます。

■■ 目標17 パートナ―シップ ■■
目標 17. 持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・
パートナーシップを活性化する。
<資金>
17.1 課税及び徴税能力の向上のため、開発途上国への国際的な支援
なども通じて、国内 資源の動員を強化する。
17.2 先進国は、開発途上国に対する ODA を GNI 比 0.7%に、後
発開発途上国に対する ODA を GNI 比 0.15~0.20%にするという
目標を達成するとの多くの国によるコミットメ ントを含む ODA に
係るコミットメントを完全に実施する。ODA 供与国が、少なくとも
GNI 比 0.20%の ODA を後発開発途上国に供与するという目標の設
定を検討することを奨励する。
17.3 複数の財源から、開発途上国のための追加的資金源を動員する。
17.4 必要に応じた負債による資金調達、債務救済及び債務再編の促
進を目的とした協調的な政策により、開発途上国の長期的な債務の
持続可能性の実現を支援し、重債務貧困国(HIPC)の対外債務への
対応により債務リスクを軽減する。
17.5 後発開発途上国のための投資促進枠組みを導入及び実施する。
<技術>
17.6 科学技術イノベーション(STI)及びこれらへのアクセスに関
する南北協力、南南協力及び地域的・国際的な三角協力を向上させ
る。
また、国連レベルをはじめとする 既存のメカニズム間の調整改善や、
全世界的な技術促進メカニズムなどを通じて、相互に合意した条件
において知識共有を進める。 17.7 開発途上国に対し、譲許的・特
恵的条件などの相互に合意した有利な条件の下で、環境に配慮した
技術の開発、移転、普及及び拡散を促進する。
17.8 2017 年までに、後発開発途上国のための技術バンク及び科学
技術イノベーション能力構築メカニズムを完全運用させ、情報通信
技術(ICT)をはじめとする実現技術の利用を強化する。
<能力構築>
17.9 すべての持続可能な開発目標を実施するための国家計画を支援
するべく、南北協力、南南協力及び三角協力などを通じて、開発途
上国における効果的かつ的をしぼった能力構築の実施に対する国際
的な支援を強化する。
<貿易>
17.10 ドーハ・ラウンド(DDA)交渉の結果を含めた WTO の下で
の普遍的でルールに基づいた、差別的でない、公平な多角的貿易体
制を促進する。
17.11 開発途上国による輸出を大幅に増加させ、特に 2020 年まで
に世界の輸出に占める 後発開発途上国のシェアを倍増させる。
17.12 後発開発途上国からの輸入に対する特恵的な原産地規則が透
明で簡略的かつ市場アクセスの円滑化に寄与するものとなるように
することを含む世界貿易機関(WTO)の決定に矛盾しない形で、す
べての後発開発途上国に対し、永続的な無税・無枠の市 場アクセス
を適時実施する。
<体制面>
政策・制度的整合性
17.13 政策協調や政策の首尾一貫性などを通じて、世界的なマクロ
経済の安定を促進する。
17.14 持続可能な開発のための政策の一貫性を強化する。
17.15 貧困撲滅と持続可能な開発のための政策の確立・実施にあた
っては、各国の政策空間及びリーダーシップを尊重する。
<マルチステークホルダー・パートナーシップ>
17.16 すべての国々、特に開発途上国での持続可能な開発目標の達
成を支援すべく、知識、専門的知見、技術及び資金源を動員、共有
するマルチステークホルダー・パートナーシップによって補完しつ
つ、持続可能な開発のためのグローバル・パートナーシップを強化
する。
17.17 さまざまなパートナーシップの経験や資源戦略を基にした、
効果的な公的、官民、市民社会のパートナーシップを奨励・推進す
る。
<データ、モニタリング、説明責任>
17.18 2020 年までに、後発開発途上国及び小島嶼開発途上国を含
む開発途上国に対する能力構築支援を強化し、所得、性別、年齢、
人種、民族、居住資格、障害、地理的位置 及びその他各国事情に
関連する特性別の質が高く、タイムリーかつ信頼性のある非 集計
型データの入手可能性を向上させる。
17.19 2030 年までに、持続可能な開発の進捗状況を測る GDP 以
外の尺度を開発する既存の取組を更に前進させ、開発途上国におけ
る統計に関する能力構築を支援する。

■■ 最後にお詫びを  ■■
今回のSDGsシリーズでの目的は表題にありますように「SDGイン
パクト基準
」の解説でした。しかし、その前提となるSDGs17の目
標の説明を始めたところ、当初思っていたより多くの回数を重ねる
結果となりました。
国連(正確にはUNDP)では、SDG認証を計画しています。
その基準になるのがSDG インパクト基準ですが、これはこれでま
た20回程度回数を重ねることになりそうですし、認証制度の全貌
もこれから発表される予定と聞いていますので、一旦SDGから離
れて、次回からは品質不祥事についてあれこれ気の向くまま綴っ
ていこうと思います。

SDGインパクト基準25 | 平林良人の『つなげるツボ』

—————————————————————
■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.372 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** SDGインパクト基準25 ***
—————————————————————
2015年に発表された国連「SDGsアジェンダ」についてお話をして
います。
SDGsとは、
“Sustainable Development Goals”の略で、「持続可能な開発」
と日本語訳されています。

今回は目標16です。

■■ 目標16 平和 ■■
目標16. 持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、す
べての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて
効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する。
<16.1 あらゆる場所において、すべての形態の暴力及び暴力に関
連する死亡率を大幅に減少させる。>

目標も最後の2つになりました、最後の2つ「平和」(16)と
「パートナシップ」(17)は今まで述べてきた目標を統括する目標
です。

366号(目標11)でもお話ししましたが、ここには「包摂的(ほう
せつてき)」という言葉がキーとして登場します。
Goo辞書によると;
1.一定の範囲の中につつみ込むこと。
「知識はその中に―されている」〈倉田・愛と認識との出発〉
2.論理学で、ある概念が、より一般的な概念につつみこまれるこ
と。特殊が普遍に従属する関係。例えば、動物という概念は生物と
いう概念に包摂される。

■■ 平和で包摂的な社会  ■■
平和で包摂的(インクルージョン)な社会とは、誰もが平和(暴力
の無い)で社会に何らかの形で参画する機会を持ち、排除されない
ことを意味します。
包摂の英語は“inclusion”ですが、入れる、全体に纏める、包み込む
などの意味があり、すべての人を平和な社会に入れ込むことが目標
16の基本的な概念になります。
SDGsは「誰一人取り残さない」(leave no one behind)を合言葉
にしていますが、この概念が包摂的、すなわち誰も排除せず全員を
社会に参画させるように包み込むという意味につながるのです。包
摂の反対は排除ですが、弱い立場に置かれた人は、就業・雇用の機
会に恵まれなかったり、貧困に直面したり、社会の中に置き去りに
され、必要な支援や制度を受けられないということが起きます。
自分はそんなことはないと今は思っていても、誰もがある日突然弱
い立場になることがあります。例えば、水害にあい住んでいる家を
押し流されたというように、誰でもいろいろな災害に遭遇する可能
性があります。そのような状況では、弱い立場になった貴方に対し
て従来には考えられなかった受け入れ難いことが起こり得ます。

■■  包摂的な制度  ■■
日本国憲法第25条には、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度
の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社
会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければなら
ない」とあります。
「弱い立場になった貴方に対して従来には考えられなかった受け入
れ難いことが起こり得ます」といいましたが、そうさせないための
社会的な制度が必要です。目標16には「包摂的」という言葉が2
度出てきますが、2番目の包摂的な制度は、誰をも包み込む社会的
制度を目標にしているのだと思います。
憲法25条の言う「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」に
応える制度がそれだと思いますが、よくセーフティネットという言
葉を耳にします。
社会的制度を網の目のように張ることで、国民全員が安全で安心な
生活を送れる仕組みのことです。また、ナショナルミニマムという
言葉があります。国が保障する国民の生活の最低水準を意味してい
ます。

■■  すべての形態の暴力及び暴力  ■■
一番ひどい暴力は戦争です。いまウクライナで起きていることをみ
ると国連の無力さを痛感します。さりとて目標16を諦めるわけに
はいきません。個人あるいは一企業だけでは目標16を達成するこ
とはできませんが、目標16を達成するために個人も一企業も努力、
協力することで戦争抑止の大きなうねりを作り出し早く戦争のない
世界を作り出していかなければなりません。

日本国憲法の前文には次のようにあります。
【日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動
し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、
わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為に
よって再び戦争の惨禍が起ることのないようにすることを決意し
ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そ
もそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は
国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利
は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法
は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の
憲法、法令及び詔勅を排除する。
日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高
な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信
義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した
。われ
らは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除
去しよう
と努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたい
と思う。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免か
れ、平和のうちに生存する権利を有する
ことを確認する。
われらは、いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視
してはならないのであって、政治道徳の法則は、普遍的なものであ
り、この法則に従うことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係
に立とうとする各国の責務であると信ずる。日本国民は、国家の名
誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓
う。】

SDGインパクト基準24 | 平林良人の『つなげるツボ』

—————————————————————
■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.371 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** SDGインパクト基準24 ***
—————————————————————
2015年に発表された国連「SDGsアジェンダ」についてお話をして
います。
SDGsとは、
“Sustainable Development Goals”の略で、「持続可能な開発」
と日本語訳されています。

今回は目標15です。

■■ 目標15 森林、砂漠、陸地 ■■
目標15.陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可
能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・
回復及び生物多様性の損失を阻止する。
<15.1 2020年までに、国際協定の下での義務に則って、森林、
湿地、山地及び乾燥地をはじめとする陸域生態系と内陸淡水生態
系及びそれらのサービスの保全、回復及び持続可能な利用を確保
する。>

■■ 森林破壊 ■■
国連の報告によると、2015年以降、毎年東京都と同じくらいの大
きさの天然林/森が、50個くらい面積にして約10万平方キロメー
トルが消滅しているそうです。この森林破壊は、特に熱帯を中心
とした開発途上国という限られた地域で起きています。
ここではWWF(World Wide Fund for Nature:世界自然保護基金)
の資料から報告させていただきます。
2010年から2030年までに起こる森林破壊が急速に進む原因は、
さまざまな開発行為です。開発途上国で生産される農作物や木材、
紙、また採掘される石炭や金属などは、日本をはじめとする世界
中の国々で利用されています。WWFでは、このままの勢いで森
林破壊が続けば、今残されている天然林も遠からず地球上から消
失してしまうと危惧しています。
今危惧されていることをもう少し詳細にお伝えします。
・世界の陸地の31%は森林が占めている(約40億ヘクタール)。
・しかし、既に約半分の森林が消失しており、約20%が消失の危
 機にあり、天然林はわずか15%しか残らない。
・このまま森林破壊が続けば100年以内に熱帯雨林がなくなる。
・世界森林面積65%を有する118ヵ国では森林が火災によって
 毎年1,980万ヘクタールが消失している。
・パーム油のプランテーション開発が原因でボルネオ島の森林
 は既に約半分消滅している。
・森林破壊により世界の温室効果ガス排出量が約15%増加して
 いる。

森は、木材や薬の原料、農作物の原種の供給など、世界中の人た
ちの暮らしに恵みをもたらしてくれます。また、林業、森林管理
などに携わっている人は、現在世界中で約2億5,000万人いると
推定されています。森林破壊はこうした人たちの生活も奪う深刻
な人権問題でもあります。世界で起きている森林破壊には、日本
も深く関係しています。日本人が暮らしの中で利用しているさま
ざまな産品や原料などは、時に世界の森を破壊する形でつくられ
ているためです。

■■ 野生生物への影響 ■■
森林の面積は上述のとおり地球の陸地の約3割を占めており、こ
こには、これまで発見されている野生生物種の半分以上が生息し
ています。森林の消失は、多くの野生生物を絶滅の危機に追いや
る大きな原因です。現在、森林をすみかとする世界の野生生物の
うち、絶滅の危機が高いとされる種の数は、1万4,000種以上に
のぼります。これらの生きものは、森以外の環境にすむ他の野生
生物とも共生の関係や食物連鎖でつながっているため、その絶滅
はさらに多くの命の危機にも繋がるのです。
森林破壊の結果、すみかであった森林を追われた野生生物が、人
里などに姿を現し、人との遭遇事故を引き起こす例も多発してい
ます。事故により、人の命が犠牲になることもあれば、希少な野
生生物が害獣として殺されてしまうことも珍しくありません。

■■ 気候変動への影響 ■■
近年、世界各地で深刻な被害をもたらしている、大雨や干ばつな
どといった異常気象にも、森林破壊は深く関わっています。森林
を形成している樹木が、生長の過程で、空気中の二酸化炭素を取
り込み、大量に蓄えているためです。
2007~2016年にかけては、人が行うすべての活動を通して放出
された二酸化炭素量のうち、約29%に当たる量を、主に森林が吸
収してきたことが推測されています。火災や伐採によって、樹木
の中に蓄えられていた二酸化炭素が、大気中に放出されると、異
常気象の大きな原因とされる気候変動(地球温暖化)が助長され、
水害や森林火災の長期化といった被害をもたらすことに繋がりま
す。こうした脅威が引き起こされているにも関わらず、地球に残
された森林のうち、適切な保護区などに指定されている地域は17
%に過ぎず、森林を守るには、不十分と言わざるを得ません。

■■ 感染症への影響 ■■
新型コロナウイルス感染症などの動物由来感染症の拡大には、森
林破壊が深くかかわっています。森林が破壊されることで、さま
ざまな病原体を持っている野生生物が外界に出てきて人や家畜と
接触するためです。森に暮らす何百万という野生生物種は、その
体内に、未だ解明されていないウイルスや細菌などを持っていま
す。もともと、特定の生物種の中にだけに存在していたウイルス
は、森林破壊によって、宿主動物と共に森の外に顔を出すように
なり、人と接触するようになるからです。このような形で新たな
ウイルスが人に伝播するよう変異し、人の生活圏内での感染につ
ながることが危惧されています。
森が失われることをきっかけに、動物から動物へ、動物から人へ、
そして人から人へと、新たな感染症が拡大してしまえば、その影
響は国境を越えて世界中に広がり、人々の暮らしを危険にさらす
ことは容易に想像できます。

SDGインパクト基準23 | 平林良人の『つなげるツボ』

—————————————————————
■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.370 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** SDGインパクト基準23 ***
—————————————————————
2015年に発表された国連「SDGsアジェンダ」についてお話をして
います。
SDGsとは、
“Sustainable Development Goals”の略で、「持続可能な開発」
と日本語訳されています。

今回は目標14です。

■■ 目標14 海洋汚染の防止 ■■
目標14.持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、
持続可能な形で利用する。
<14.1 2025年までに、海洋堆積物や富栄養化を含む、特に陸上
活動による汚染など、あらゆる種類の海洋汚染を防止し、大幅に削
減する。>

海がいろいろな恵みを人類に与えてきたことは常識であり、地球の
生命を維持する上で不可欠な要素であるが故にSDGs14に取り上
げられているのだと思います。ところが、近年この海がいろいろな
要因により汚染され、しかも汚染の度合いがこれ以上許されないレ
ベルにまでなっていることが国際的に報じられています。
日本では、環境省が平成23年に「海洋生物多様性保全戦略」を定
めていますので、最初はこの戦略の一部を紹介します。本保全戦略
は、生物多様性条約における国際的な目標や我が国の「海洋基本法
(2007 年 4 月成立)」及び「海洋基本計画(2008 年 3 月閣議決
定)」を踏まえ策定されています。

■■ 海洋生物多様性保全戦略 ■■
本保全戦略は、海洋の生態系の健全な構造と機能を支える生物多様
性を保全して、海洋の生態系サービス(海の恵み)を持続可能なか
たちで利用することを目的としています。そのため、主として排他
的経済水域までの我が国が管轄権を行使できる海域を対象とし、海
洋の生物多様性の保全及び持続可能な利用について基本的な視点と
施策を展開すべき方向性を示しています。我が国周辺の海域には、
深浅の激しい複雑な地形が形成されているとともに、黒潮 や親潮
などの海流と列島が南北に長く広がっていることがあいまって、多
様な環境が形成され、多くの海洋生物が生息・生育しています。

■■ 海洋に流れ出るプラスチック ■■
このような海洋生物多様性の保全を脅かさせているものの一つにマ
イクロプラスチックの問題があります。世界経済フォーラム(本部
:ジュネーブ)では,海洋に流出するプラスチックごみの量は,
2050年には海に生息する魚の量を上回ると予測しており,プラス
チックごみの海洋への流出を防ぐ対策の強化の必要性を指摘してい
ます。
ここでは農水省の論文を参考にします。マイクロプラスチックとは
海洋に流出したプラスチックのうち,大きさが 5mm以下の小さな
ものをいい,私たちの身の回りのプラスチック製品の原料である樹
脂ペレットや化粧品に含まれるスクラブ剤などが洗面所や風呂場か
ら流れ出たもので、近年,世界各地の海域でこうした微細なマイク
ロプラスチックの浮遊が確認され、その数は推計 5兆個以上あると
言われています。日本周辺の沖合海域でもマイクロプラスチックの
漂流が確認されています(H26年度日本の沖合海域における漂流・海
底ごみ実態調査,環境省)。これらのマイクロプラスチックは比重が
1以下で水に浮くという特徴をもっているため, 海に流れ出ると
海洋を浮遊・漂流し続け,世界中の海へと広がっていきます。化粧
品に含まれるマイクロビーズは肌の汚れや古くなった角質を除去す
る効果があるとされており(いわゆる,スクラブ剤),多くの化粧品
に添加されています。もともとはスクラブ剤にはクルミやアプリコ
ットなどの天然の素材が使用されていましたが,2000年前頃から,
安価で,粒径が同じプラスチック製のビーズが普及し始めました。
マイクロビーズの大きさは 1mm以下 (数十~数百 μm) の小さ
な微粒子であり,一本の化粧品の容器 (100g前後)に数十万個から
数百万個のマイクロビーズが入っているそうです。化粧品に入って
いるマイクロビーズはあまりに小さいため,消費者の家のバスルー
ムや洗面所から下水処理施設のフィルターを通過して川や湖,海へ
と流れ込んでいきます。アメリカの五大湖(エリー湖)でも,多い
場所で 1平方 km当たり 60万粒のマイクロビーズが回収されて
います。プラスチック製のマイクロビーズには海洋を長時間浮遊し
て空気と触れる間に空気中に希釈されて拡散している殺虫剤や難燃
剤など有害化学物質を吸着し高度に濃縮する性質があり,そのマイ
クロビーズを食べた魚が体内に有害物質を蓄積し、更にそれを食べ
る人間に深刻な影響を与える可能性が指摘されています。

■■ アメリカの規制 ■■
このため、アメリカ連邦議会は, 2015年末に,洗顔料や歯磨き粉
などに含まれるプラスチックビーズの使用を禁じる法案 (「マイク
ロビーズ除去海域法」という法案)を可決し,2018年 7月からは
微粒子を含む製品の販売を禁止しました。こうした政府の決定を受
けて,米国の化粧品 メーカーの「ジョンソン・アンド・ジョンソ
ン」,「プロクター・アンド・ギャンブル」 (P &G),英国「ユニリ
ーバ」,仏国「ロレアル」などは,プラスチック製スクラブを天然の
果物の種子などに相次いで転換していく考えを発表しました。日本
でも,行政,化粧品メーカーともに,化粧品へのプラスチックマイ
クロビーズの使用を禁止する方向に動いています。マイクロプラス
チックはミクロな微粒子のため,一旦流入が起こると回収除去する
ことはほとんど不可能ですので、早急に,プラスチックマイクロビ
ーズの使用禁止が必要です。欧州では北海の養殖場のムール貝やフ
ランス産のカキの身から微小プラスチックが見つかり、マイクロプ
ラスチックが海の生態系を壊し,海産物を通じ人間の健康に悪影響
を与える恐れが指摘されるようになっています。