Category Archives: つなげるツボ

ナラティブ内部監査28 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.324■□■
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** ナラティブ内部監査28***
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ナラティブ内部監査実践のための第3ステップ「内部監査員、被
監査者の共同作業の基盤を作る」について話を進めています。
第3ステップは下記1~6に分けて5までの説明をしてきました。
1.コミュニケーション
2.自己理解
3.他者理解
4.よく聴く
5.よく伝える(アサーション)
6.個人と組織の共生

■ 6.個人と組織の共生  ■
今回から6.個人と組織の共生についてお話をしたいと思います。
元モービル石油の取締役人事部長で「個人と組織の共生」という
著作を表わした横山哲夫先生(故人)は、人生の仕事には2種類
ある、一つは報酬を伴うJOBであり、もう一つは報酬を伴わな
いWORKである、と述べています。
しかし、自営業の方も含め多くの人は、人生の大半を何らかの組
織で過ごしていると思います。そうであるからには、個人が組織
においてどのように時間を使い、どのような成果を上げ、どんな
満足感を得ることができ、どんな達成感を感じていけるかは、個
人にとって極めて重要なことです。
また、組織にとってみても、個人がいかに組織の目標に向けての
成果に貢献してくれるのかについては、これまた極めて重要なこ
とです。
つまり、個人と組織の双方にとってそれぞれの目標を達成するこ
とは重要なことのわけですが、では、それぞれの目標を同じもの
にすることはできるのでしょうか。

■ 目標とは何かを考える  ■
前の段落で述べましたが、人生には報酬を伴うJOBという仕事
があり、もう一つ報酬を伴わないWORKという仕事があります。
前者には報酬を得るという条件がありますので、組織が個人の目
標をそのまま受け入れるとは限らず、多くの場合自分の目標とは
異なることを行うことになるでしょう。後者のWORKの目標は、
個人が自分の人生において行いたいことですから、自身が思うよ
うに目標を決めることが出来ます。

目標とはあることを成したいときに作成する計画の中に織り込ま
れるものです。例えば、我が家を建てたいとします。ただ我が家
を建てたいと願っていても家は建ちません。願望を具体化するに
は、計画を作成する必要があります。この計画の中に目標が出て
きます。いわゆる5W1Hに沿って考えると良いと思います。

■ 我が家を建てる5W1H  ■
5W1Hは人がコミュニケーショをとるときに話を分かり易くす
るツールとして広く使われていますが、計画を作る際にも有効
です。
早速「我が家を建てる」5W1Hを考えてみましょう。
 ・When(いつ) :2022年中
 ・Where(どこ) :川崎市内
 ・Who(だれ) : 自分
 ・What(なに)  :一戸建ての家
 ・How(どのように):住宅メーカに依頼
 ・Why(なぜ)  :家族が増え手狭になった
「目標とはあることを成したいときに作成する計画の中に織り込
まれるもの」と前項で言いましたが、この例では、「When(い
つ):2022年中」と「Where(どこ):川崎市内」及び「What
(なにを):一戸建ての家」が目標になると思います。では
「Who(だれが):自分」とか「How(どのように):住宅メー
カに依頼」は、目標ではなく何になるのでしょうか。
これらは、目標を達成するための手段、方法だと思います。すな
わち、目標を掲げるときにはその達成手段も一緒に考えられるこ
とが必要だということです。

■ 目標による管理  ■
皆さんも聞いたことがあると思いますが、MBOという経営の
ツールがあります。正式には、Management by Objectives(目
標による管理)と言われ、組織における上司と部下が協力して
共通の目標を明らかにし、その期待される成果に対するそれぞ
れの責任領域を明らかにするためのツールです。JOBにおけ
る個人の目標は、組織の目標と必ずしも同じにならないと言い
ましたが、このツールを活用して、共通の業務目標を作ります。
そして、この目標を基準にして業務を遂行し、各人の業績評価
の指針に活用するというものです。

■ 目標による管理の狙い  ■
MBOのおける組織の狙いには、次の3つがあります。
(1) 個人の毎日の仕事を目標に向かって正しく方向づけること。
 単に目標を上司と部下とで話し合って決めるだけでなく、
 どのようにして目標を達成させるのかについても話し合う
 ことが大切である。
 目標は個人の毎日の仕事にまで分解されることも必要である。
(2) 個人に組織目標達成のために「ベストをつくしたい」という
 気持ちを起こさせること。
 個人が組織の目標を正しく理解し、インセンティブなどの組
 織サポートがあると、個人に強いmotivationを与えることが
 出来る。
(3) 目標達成活動を通じて個人の能力を育成し、組織を活性化す
 ること。
 次の目標に向けて個人の能力向上のキャリアウランを作成す
 ることも推奨される。

ナラティブ内部監査27 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.323 ■□■
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** ナラティブ内部監査27 ***
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ナラティブ内部監査実践のための5ステップ(下記)のうち、
第3ステップについて話を進めています。
・第1ステップ : 今行っている内部監査をレビューする。
・第2ステップ : どのような内部監査を行いたいか、行うべき
         かを組織内でコンセンサスを得る。
・第3ステップ : 内部監査員、被監査者の共同作業の基盤を作る。
・第4ステップ : 発見された課題(不適合、観察事項、気づき
         事項)などを問題解決する。
・第5ステップ : 問題解決したことを水平展開、歯止めして改善
         する。さらに、改善したことを革新へのインプ
         ットにする。

■ 第3ステップの共同作業の要素 ■
これまで、第3ステップについて、下記1~4までの説明をしてき
ました。
1.コミュニケー ション
2.自己理解
3.他者理解
4.よく聴く
5.よく伝える(アサーション)
6.個人と組織の共生

今回は、5.よく伝える(アサーション)について、話をしたい
と思います。前回「よく聴く」の要素の一つに、自己一致がある
と話しましたが、よく伝えるにもこの「自己一致」が一つのポイ
ントになると思います。「4.よく聴く」と「5.よく伝える」
の双方に関係する「自己一致」は会話において重要な要素である
ということが言えると思います。

■ よく伝える一歩は分かりやすく ■
よく伝えることの要諦は、まず分かりやすい、理解しやすいとい
うことです。自分の言いたいことが相手に伝わったか、伝わらな
かったかを考えるに当たって、反対の立場になって考えてみます。
もし、早口で、日常使われない言葉で、筋の通らない話を聞かさ
れたらどんな感じになるかを想定してみてください。当然「何を
言っているのか分からない」ということになると思います。
従ってよく伝えることの原則にはまず次の3つがあると思います。
もちろん、これ以外にもあると思います。
(1) 話すスピードを適切にする(早くもなく、遅くもなく)。
  勿論声の大きさも大切である。
(2) お互いに意味の通じる用語を使う。
  もし、専門用語などをどうしても使わなければならない場
  合は、意味を説明し、相手が納得してから使うとよい。
(3) 話の要点を纏めて話をする。特に何が要因でその結果何が
  起きたという因果関係を意識して話しをすると伝わりやすい。

■ 「アサーション」 ■
自分のことをうまく伝えるには「アサーション」ということを意識
すると良いと言われています。Assertionとは、辞書を引くと、
「自己主張,自分の意見をはっきり述べること」と出てきますが、
「アサーション」はより良い人間関係を構築するための「コミュニ
ケーションスキルの一つ」である、と言われています。
アサーションは、「人は誰でも自分の意見や要求を表明する権利が
ある」ということに基づく適切な自己主張のことです。自己主張す
ると伝わらないばかりか、逆に相手を刺激して伝わるものも伝わら
ないという方もいると思います。
ここでの要点は「適切な自己主張」です。ここで「適切な」とある
ことがポイントです。ただの自己主張とは違います。ただの自己主
張とは次のようなものです。
・ファクト(Fact)に基づかない。 
・感情が入っている。
 -競争心
 -功利心
 -嫉妬心
 -名誉欲
・論理的でない。

「適切な自己主張」は上のような要素を排除して、自身の主張を明
確に述べることです。明確に主張を述べないと、相手にはよく伝わ
りません。一方的に自分の意見を押し付けるのでも、我慢するので
もなく、お互いを尊重しながら率直に自己表現ができるようになる
には、それなりのトレーニングが必要です。

ナラティブ内部監査26 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.322 ■□■
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** ナラティブ内部監査26 ***
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前回から「4.よく聴く」についてお話をしています。
ナラティブ内部監査で活用すべき傾聴の手法の一つに、内部監査
員と被監査者の両者が信頼関係を築く一つの方法としてラポール
の形成があります。ラポールを形成するには、内部監査員と被監
査者の相方が積極的に聴くという意識を持ち、実践することが大
切です。誰でも相手が自分の話に身を乗り出して聴いてくれれば
うれしい気持ちになるものです。

■ 積極的傾聴の3つの条件 ■
傾聴という言葉があります。ここに用いられている「聴」という
字の意味は前回説明させていただきました。門構えの「聞」と違
って、「聴」は大変エネルギーのいる行動であり、積極的に相手
の言わんとする所を把握することがポイントです。しかし、積極
的に傾聴するには、相手のことを理解するだけでなく、自分自身
のことも理解し相手の方に混乱を与えないことも必要な要素です。
積極的な傾聴には、自分自身のことも含めて次の3つのコツがあ
ります。それは、受容的態度、共感的理解、そして自己一致です。

(1)受容的態度
受容とは、相手の話に評価や解釈や判断を加えずに、ありのまま
受け入れるということです。たとえ、相手の話が間違っていよう
と、自分の考えと異なっていようと、あるいはまどろっこしい話
だろうと、いったんそのまま受け取るということです。話し合い
とはピンポンのようなものですが、相手が打ってきたボールが右
にこようが、左にこようが、真ん中にこようが、受容的態度では
そのまま打ち返します。東京オリンピックで見たように右にそれ
るように、左にそれるようには打ち返しません。相手の打ってき
た玉が自分にとっては好ましくなく受け取りたくない玉なので打
ち返さないということはしません。失敗してもいいですから、そ
のまま受け取って打ち返します。できればどんな球が来ても受け
取れるスキルを持っていることがいいのですが、傾聴のスキルが
向上しないとなかなかそのまま受け取ることは難しいものです。
しかし、できるだけ受け取るように努力をします。受容は自分自
身にも当てはまることで、自分自身をありのまま受け入れること
を「自己受容」といいますが、自己受容ができていなければ相手
を受容することも難しくなります。

(2)共感的理解
共感的理解とは、相手の話を自分の思考の仕組みで理解するので
はなく、相手の思考の仕組みで理解することです。人間は誰でも
その人なりの思考回路と仕組みを持っています。それは、その人
の価値基準であったり、人生観であったり、キャリア観であった
り、人間観であったり、経験であったり、さまざまです。それら
は1人ひとり異なります。それがその人の個性であり、多様性で
もあります。話し手は、自分の思考回路で判断したこと、あるい
は感じたことを話します。したがって、相手の気持ちや考えを正
確に理解するということは、相手の思考回路でその気持ちや考え
を理解するということであり、それができなければ、相手のこと
を正しく理解することはできません。
その際、パラフレージングは、相手の思考回路を確認するうえで、
すなわち共感的に理解する上で効果を発揮します。しかし、その
ためには受容が前提になります。相手の思考回路を受け入れるこ
とができなければ、共感的に理解することはできないからです。

(3)自己―致
自己一致とは、自分に対して誠実であることです。自己不一致の
場合を考えてみると理解しやすいので、自己不一致の例をあげて
みます。誰かに同意を求められたときに、嫌な顔をしながら「い
いですよ」と言っているような場合を自己不一致といいます。こ
の場合、自分の気持ちと言動がー致していないところに注目しま
す。人との話し合いにおいて、自分の気持ちに対して不誠実な言
動をとってしまうと、その時の話題によりますが相手は論理と言
動の不一意な話に混乱をきたす場合があります。表情や態度と言
動がまったく逆のメッセージを送ることは、自己不一致と言って
相手を混乱させます。本当に言いたいことを言っていないという
場合も自己不一致です。
受容、共感的理解、自己一致はそれぞれが別物ではなく、お互い
がつながっており、関連しています。この3つが自分の中で統合
されていると、話し合いにおける相互理解が進むことになります。

ナラティブ内部監査25 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.321 ■□■
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** ナラティブ内部監査25 ***
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前回まで、ナラティブ内部監査で活用すべき重要と位置づけられ
る「他者理解」を3回にわたって述べてきました。その前は、ま
た3回にわたって「自己理解」について述べました。都合6回に
わたって自己理解、他者理解をお話したことになりますが、ここ
にナラティブ内部監査の神髄があります。内部監査員と被監査者
の両者が自己理解をすることで、お互いを他者理解することが出
来るようになります。これは何も内部監査に限らずコミュニケー
ションの神髄ですが、ナラティブ内部監査には特にこの自己理解、
他者理解が内部監査員と被監査者の両者に求められます。
それでは、今回からは自己理解、他者理解した後、「4.よく聴
く」についてお話しします。

■□■ よく聴く ■□■
ある方から、「聴」という字は、耳へんに+目と心で構成されて
いると教えていただきました。ただ、目が横に寝ているが・・・
という「おまけ」がついていますが、と分かりやすく説明してい
ただきました。
「門構えの聞く」と「聴く」とは、おなじ発音でも意味が異なる
のですよ、と解説していただきました。
「聞く」は音が自然と耳に入ってくることを言うそうです。例え
ば、道を歩いていて鳥のさえずりが聞こえてくるという場合に使
用されます。それに対して、「聴く」は積極的、能動的に音を取
り込むことを意味します。音を取り込むとは少し奇妙な表現です
が、相手の発する言葉の中身を吟味することを「聴く」の本質で
あると考えればよいと思います。
この相手の言わんとする意味の本当のところを理解することは事
前にそれなりの準備をしておかなければなりません。

■□■ 積極的に聴く ■□■
「よく聴く」をさらに一歩深めると、「積極的に聴く」という表
現が相応しくなりますが、この積極的に聴くということは大変エ
ネルギーを要する行動です。ドラッカー語録に次のようなものが
あります。
「人の話には、事実と要望と感情が交錯している」。従って、し
っかり積極的に聴こうとすると、この3つの部分を聴き分ける努
力が必要になります。自分自身が話をするときにも、事実と要望
と感情が交錯しているということ、を認め自覚している必要があ
ります。
自分では事実だと思っていたことがいつの間にか自分自身で脚色
し、あたかも事実のように話をするという経験は多くの人が持っ
ているのではないでしょうか。

■ラポールの構築(受容関係の構築)■
会話をする場面では、相互が信頼して話す気になることがまず大
切です。そのためには、まずは相互の間に信頼関係を構築するこ
とが必要です。内部監査で監査員と被監査者とが信頼関係を構築
することが良い、いやすべきであるという認識を監査員と被監査
者が持つことが期待されることですが、そのために用意しなけれ
ばならないことがいろいろあります。
まず、内部監査の目的が被監査者にとって受け入れられることが
必要です。自分の仕事を批判するような雰囲気があれば相互の信
頼性は構築できないでしょう。目的が組織の改善にあり、そのた
めには内部監査員と被監査者が協力してネタを探し、課題を解決
するという共通の問題意識を持つと相互の信頼は構築しやすくな
ります。
組織全体に内部監査の位置づけを前述のように明確にするとラポ
ールは構築しやすくなるでしょう。そのためには、トップの理解
が必要になりますが、このトップの理解については場を改めてお
話ししたいと思います。

■ うなずいたり、あいづちを打ったり、 ■
内部監査員は、相手の言わんとしていることを正確に理解しよう
とするには、うなずいたり、あいづちを打ったり、エコーイング、
パラフレージングなどを応用すると良いと言われています。
うなずいたり、あいづちを打ったりしたことぐらいで、相互信頼
性が本当に高まるのかと懐疑的な方も多いと思いますが、実践し
てみるとその効果が分かると思います。
日常の会話の中で、私的な会話はそうではないかもしれませんが、
仕事の上ではあまりうなずいたり、あいづちを打ったりしていな
いことに気づく方が多いのではないでしょうか。
ましてや、エコーイング、パラフレージングなどを意識している
方はそう多くはないと思います。ここで、エコーイング、パラフ
レージングの説明をしますと、エコーイングとは相手の言葉の一
部をそのまま自分の返事の中に入れ込むことを言います。パラフ
レージングは、相手の言葉の一部を言い換えて自分の返事の中に
入れ込むことを言います。
前者の効用は、相手は自分の発した言葉を相手が言ってくれたこ
とで無条件に好印象を持つというところにあります。後者の効用
な、相手に私はこう受け止めましたよ、というメッセージを与え
ることが出来るというところにあります。受け止め方が合ってい
れば、相手は喜ぶでしょうし、そうでなければ相手は「それは違
う、こうこうだ・・・」と言って、次の話題へと2人の会話が進ん
でいく効用があります。

ナラティブ内部監査24 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.320 ■□■
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*** ナラティブ内部監査24 ***
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前回から、ナラティブ内部監査で求められる、3.他者理解につ
いての話をしています。
他人と違うところを個性といいますが、人の個性は、持って生ま
れた性質、考え方、利点、欠点、感情の表現、喜怒哀楽の感じ方・
感覚
、体格、風貌、容姿、話し方など、いろいろな観点から表現
します。
中でも「喜怒哀楽の感じ方・感覚」は人それぞれ大きく異なりま
す。強い・弱い感覚、寒い・暑い感覚、食べ物の好き嫌い・嗜好
などの違いは、みな感覚の違いからきています。
人にはいろいろな個性があることを理解すると、他人の思い・感
覚を「自分にはすべて分からない」ということが分かります。
このことが「他者理解」で一番大切なことであると思います。

■□■  不愉快、愉快  ■□■
喜怒哀楽の感じ方・感覚が人によって違うということから、何が
心地よくて、何を不快と思うかは、人によって異なります。
ジャズの好きな人がいれば、クラシックの好きな人も、また演歌
の好きな人もいます。駅前で楽器をかき鳴らす若者たちを好まし
いと感じる人が居ると思えば、眉をひそめる人もいます。要する
に人による感じ方、感覚はマチマチなのです。

これが音楽ではなく、仕事のこととなると単純に喜怒哀楽の感じ
方・感覚の違いであるとは片づけられなくなります。仕事におけ
る出来事や状況に応じての判断基準は、人の感じ方、感覚ではあ
りません。それはその仕事の目的から決められてきます。その決
められたことに対しての受け止め方は人によってマチマチです。
仕事上での行き詰まりに対して「絶望的だ」と言う人もいれば、
おなじ出来事に対して「これからが勝負だ」と思う人もいます。
働き方改革でパワハラが社会的問題になっていますが、会社など
で上司が注意した言葉に「自分を否定された」と傷つく人もいれ
ば、同じ言葉に「励ましてもらえた」と肯定的に受け取る人もい
ます。

■□■  誰にでも当てはまるコミュニケーション  ■□■
私にも経験がありますが、自分の発した言葉や行為が思いがけず
他者を傷つけ、職場の上司の逆鱗に触れることがあります。私に
は全くそんなつもりはなくても、相手は私に傷つけられたと思っ
ているわけです。
多くの人はこのような経験をすると、相手をまた傷つけるのでは
ないかと恐くなり、他者の顔色をうかがうようになります。
その結果、本心からのコミュニケーションが成り立たなくなりま
す。もちろんパワハラを容認するつもりは全くありません。しか
し、私には本当のコミュニケーションが成り立たなくなることを
心配します。

確かに「人の気持ちを理解する」「他者の痛みを分かる」ことは、
人と人が円滑に意思を疎通し平和に暮らしていく上で大切なこと
です。しかし、人の「受け取め方」はさまざまである以上、誰に
でも当てはまるコミュニケーション法はないと思います。
状況によっては誰かを傷つけることもあり得ることを理解し、そ
れでも他者を理解する努力をし続けなければなりません。

■□■  他者理解と他者優先  ■□■
ここまで述べてきたように、他人を理解することは思ったよりも
難しいということです。
他者が何を考え、どんな価値観を持っているのかは、お互いを相
当に知り合えた後でないと分かり合えず、どのような状況で傷つ
くかをあらかじめ知ることはできないからです。

基本的に人は他者の気持ち(痛み)は理解できないと心得ておか
なければなりません。
その前提に立って、お互いに何とか他者を
理解しようと試みる努力こそが尊いと思います。
「人の気持ちを分かれ」と安易に言う人がいますが、他人の気持
ちは簡単に理解できるという思い込みがその人にはあると思いま
す。この思い込みはある意味危険なものです。人と人は簡単に理
解し合えるものではありません。もしそれほど簡単なら、世の中
どうしてこれほど人間関係の行き違い、トラブルが絶えないので
しょうか。しかし、誰もが「自分を分かって欲しいが、でも分か
ってもらえない」という悩みを持っています。日本では多くの人
が幼いころから「他人の気持ち」を分かるように言われ続けまし
た。これは「他者理解」ではなく、「他者優先」です。イギリス
での経験からいうと、この社会的風土は極めて日本に独自のもの
です。
日本ではその場の空気を読むことが重要であると思われています。
確かに多くの人が和やかに談笑しているときに場違いな発言をす
ることは避けなければなりません。でも自分を抑えても他者を優
先することは他者理解につながりません。
自分の「本音」「本心」すなわち、自己理解があって初めて他者
理解が出来るというのは、このことを言っているのです。自分の
気持ちを抑えて他人と接すると真のコミュニケーションは成り立
ちません。