Category Archives: つなげるツボ

PCR検査と検定・推定 | 平林良人の『つなげるツボ』

————————————————————
■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.267 ■□■    
*** PCR検査と検定・推定 ***
————————————————————
ここまでお話ししてきた内部診断のお話から又少しわき道に入りたい
と思います。今回はPCR検査について第264号に続いてお話をします。
今年3月頃から今日まで盛んに新型コロナウイルスのマスコミ報道で、
「PCR検査」が話題になっています。今回の騒ぎの中で、検査と聞いて
品質管理を学んできた人には関心を持った方が多かったのではないで
しょうか。

■□■ 検定・推定とは ■□■
品質管理の勉強に登場する統計学にはいろいろな解析法がありますが、
基本的な解析法として重要なものに検定があります。検定は、例えば
「データの分布は従来と同じである」という母集団についての考えを
検証することです。また、推定は検定と並んで重要な解析法ですが、
考えたことがどの範囲にあるかを確認することです。

検定には2種類の誤りがあると教わりますが、一つが「あわてものの
誤り」であり、もう一つが「ぼんやりものの誤り」と言われるものです。
「あわてものの誤り」は、「想定した通りである」にも拘わらずそれを
否定する確率です。「ぼんやりものの誤り」は「想定した通りでない」
のに「想定した通りである」としてしまう確率です。

 ■□■ PCR検査の感度 ■□■
ここでは、PCR検査の検定・推定をしようとするものではありません。
メルマガ264号のPCR検査について、その続きをお話しします。
PCR検査を国民全員に実施すべきであるという議論がありますが、
これは到底のこと現実的ではありませんし、適切な事とは言えません。
PCR検査には2種類の感度があります。分かり易く感度1及び感度2
(医療の世界では特異度)と呼ぶことにします。感度1はコロナウイルス
保有者を正しく陽性者として検出する確率です。現在70%位と言われて
います。感度2はコロナウイルスを保有していない人を陽性者として
検出してしまう確率です。現在は1%位と言われています。

■□■ 日本の「感染率」は約0.14% ■□■
日本のコロナウイルス感染者は、2020年6月24日時点で延べ17,968人
です。日本の人口1.2億人で割りますと、1万人に1.4人ということに
なります。しかし、隠れ感染者が10倍はいると言われますので、それを
加味しますと、日本における新型コロナウイルスの今までの「感染率」
は約0.14%ということになります。

新型コロナのPCR検査の感度1を70%、感度2(≒特異度)を1%
程度であると仮定します。
日本国民全員にPCR検査を実施すると想定した場合、総人口1.2憶人
の0.14%すなわち168,000人が感染者と計算されます。残りの
119,832,000人は感染していないことになります。1.2憶人全員のPCR
検査の結果は、PCR検査の感度1は70%ですから、168,000人の感染者
のうち117,600人は陽性者になりますが、残りの50,400人は陰性と判定
されることになってしまいます。

■□■ 感染していないのに陽性と判断される率 ■□■
さて、119,832,000人は感染していないと計算しましたが、この人達
も全員が検査を受ける想定で話を進めています。PCR検査の感度2は
1%(特異度は99%)ですから、感染していないにもかかわらず
1,198,320人もが陽性と判断されてしまいます。
実際に感染している168,000人の内の117,600人と、感染していない
119,832,000人の内の1,198,320人の合計1,315,920人が陽性者と
して判定されることになります。
しかし、この中で実際に感染していたのは117,600人だけですので
検査結果が陽性になった人の内、わずか9%しか本当の感染者が
いない、ということになります。

■□■ そしてどうなる ■□■
実際にはコロナに感染していない約90%の人が病院、ホテル、
自宅に2週間隔離されることになります。さらに、その家族、隣人、
職場関係者も濃厚接触者とされてPCR検査を受けなければなら
ないかもしれません。

一方、コロナに感染しているにも関わらず、検査結果が陰性と出た
30%の人達は、自由に動き回って社会に感染を拡大させてしまいます。

「生産技術プロセス」診断- 内部診断11 | 平林良人の『つなげるツボ』

————————————————————
■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.266 ■□■    
***「生産技術プロセス」診断- 内部診断11 ***
————————————————————
After コロナ、withコロナ、new normal など新しい言葉が次
から次へとマスコミに登場します。
いずれもコロナウイルス終息後の世界への対応を促す言葉です。
今回の内部診断(内部監査)の対象は、前回の設計プロセスに
続いて生産技術プロセスです。

■□■with コロナ■□■
withコロナとは、コロナと伴に、すなわちコロナと共存していく
ことを意味しています。当面ワクチンは開発・普及しないでしょう
からここ1,2年はコロナウイルスに感染する危険があることを
承知の上で生活をしていく必要があります。

生活スタイルの変化はある程度あると思います。例えば、より多く
の時間自宅で過ごす、外出回数は買い物を含め極力減らす、買いだ
めをするのでストックルームが欲しくなるなどいろいろな事が予測
されます。

生産技術的に見てこれらの変化に対応すべきことが、自社の製品・
サービスの中にあるかどうかが、診断の視点になります。
当然のことですが、その際には自社の生産技術の分課分掌規程を確
認しておく必要があります。

■□■ 生産技術の業務 ■□■
自社の生産技術の分課分掌規程を確認すれば、多くの製造会社には、
以下のようなものが書かれていると思います。
・要素技術の開発
・製造方法改善
・新規設備の導入
・生産ラインの設計
・生産ラインの監視など

生産技術は、製造業において材料から製品完成するまでの一連の
加工の技術を担当しますが、サービス業においても提供サービスが
品質を保ち効率的に提供されるしくみを考える業務が必要です。
サービス業では特に「生産技術」とは言いませんが、サービスが
顧客の期待を上回る価値を提供できるようにするための工夫は競争
力確保のために必要です。そのような機能が組織には必要である
こと、その機能が組織にどのように存在しているかを診断ではっ
きりさせるとよいでしょう。

■□■ コロナと生産技術 ■□■
withコロナのような短期的な観点からは診断であまり特筆すべき
事柄は出てこないかもしれませんが、コロナ後の中長期的視点か
ら見ると随分景色が変ってきます。
afterコロナの社会の関心事は次のようになると多くの方が言っ
ています。
・安全、安心の確保
・衛生意識の向上
・人との接触距離の感覚変化
・働き方の見直し-在宅勤務
・SNS(ソーシャルネットワークシステム)拡大
もし、このような変化が起きるとするならば、生産技術の役割も
大きく変化することが診断で浮かび上がってくるのではないで
しょうか。

■□■ 予想される診断結果 ■□■
今回の新型コロナウイルスの終息後、多分1.5年くらいの後の世界
を見定めての生産技術の診断では次のような結果が得られるのでは
ないかと予想します。
 1.生産ラインの見直し(サービスではサービス動線の見直し)
   ・従業員同士の距離の見直し
   ・安全、安心のより一層の確保
 2.工場入退室時の消毒(サービスにおいては顧客へも要請)
   ・場所、設備
 3.新設備導入のチェックリスト見直し
 4.要素技術開発のネタ模索

「設計プロセス」診断 – 内部診断10 | 平林良人の『つなげるツボ』

—————————————————–
■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.265 ■□■    
*** 「設計プロセス」診断 – 内部診断10 ***
—————————————————–
新型コロナウイルス後の世界は、今までと一変するということを
言う識者が増えています。予測も含めてこれからの変化を注視して
いく必要があります。そしてこれからの変化に備える意味で、
この機会に自組織の内部診断(内部監査)を行ったらどうで
しょうか。前回は企画プロセスについてお話しをしましたが、
今回は設計プロセスについてお話しします。

■□■ プロフィットセンター‐設計プロセス ■□■
設計プロセスは、扱う製品及びサービスによって組織に極めて
固有なものです。設計プロセスは、その固有な部分に、高度な思考、
方法、スキルが要求されるプロセスです。
内部診断する際には、いくつか事前にデータを収集しておくこと
が望ましいと思います。
収集するデータは、今までの設計実績が分かる次のようなものが
良いと思います。
 ・設計した製品及びサービス
 ・設計した人のキャリア
 ・設計審査(デザインレビュー:DR)記録
 ・製品化又はサービス実現化の状況
 ・製品化又はサービス実現化におけるトラブル
 ・設計基準書
 ・設計審査基準など

■□■ 設計審査の診断 ■□■
設計プロセスの診断で特に重要な対象は「設計審査(デザインレビュー:
DR)」です。DRは、設計者がもしかすると見落としているかもしれ
ない事柄を、関係する他の部門の経験豊かな人に確認してもらう制度
です。例えば、設計した部品が工場の機械能力では作れない、建築物
を立てるのに必要なクレーンが取付け道路狭隘で入らない、時間間隔
が少なくサービス提供に無理があるなど関係する他部門の視点で見て
もらい、実現に難がないかどうかチェックをしてもらいます。
したがって、審査する人は関係部門の中で経験豊かで技術、技能に
優れた人が望ましいことになります。

■□■ 設計検証の診断 ■□■
DRと同様の設計プロセスの診断視点として、「設計検証」があります。
単純なもの(例えば、単一の部品)の設計ですとミスは比較的少ない
のですが、組合せの部品点数が多くなるとA部品の穴とB部品の突起が
寸法上合わないというようなことが起きます。設計者は十分に気を付け
て仕事を進めますが、どんな人にも勘違いは付き物ですので、重要該当
箇所は設計課の他の人が再確認のためのチェックを行います。
ここでのポイントは検証用のチェックリストです。図面の総ての箇所を
チェックすることは事実上不可能ですので、重要な個所を選びリスト
化します。この重要箇所のリスト化は、経験ある設計部署のベテランが
複数集まって行うことが推奨されます。

■□■ ISO9001:2015設計・開発 ■□■
ISO9001では、設計審査(レビュー)、設計検証について箇条8.3.2
「設計・開発の計画」で次のように要求しています。

設計・開発の段階及び管理を決定するに当たって,組織は,次の事項を
考慮しなければならない。
a) 設計・開発活動の性質,期間及び複雑さ
b) 要求されるプロセス段階。これには適用される設計・開発のレビューを含む。
c) 要求される,設計・開発の検証及び妥当性確認活動
d) 設計・開発プロセスに関する責任及び権限
e) 製品及びサービスの設計・開発のための内部資源及び外部資源の必要性
f) 設計・開発プロセスに関与する人々の間のインタフェースの管理の必要性
g) 設計・開発プロセスへの顧客及びユーザの参画の必要性
h) 以降の製品及びサービスの提供に関する要求事項
i) 顧客及びその他の密接に関連する利害関係者によって期待される,設計・開発プロセスの管理レベル
j) 設計・開発の要求事項を満たしていることを実証するために必要な文書化した情報

PCR検査 | 平林良人の『つなげるツボ』

—————————————————–
■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.264 ■□■    
   ***PCR検査 ***
—————————————————–
これまでお話してきた内部診断から少しわき道に入りたいと思います。
今回は「PCR検査」についてお話をします。
今年3月頃から盛んに新型コロナウイルスのマスコミ報道で、「PCR検査」
が話題になっています。今回のコロナ騒動の中で、品質管理を学んできた
人の多くは、検査と聞いては関心を持ったのではないでしょうか。

■□■ PCR検査の実施数 ■□■
諸外国に比べて、日本ではどうしてPCR検査の実施数が上がらないのか、
政府は一日2万件の検査を行うと言うが遅々として進まない、何が原因
なのか、官僚の保守的体質なのか、縦割り行政のためなのかとTV、
新聞紙上などで連日話題になっています。
しかし、毎日繰り返されるこれらの「PCR検査」の議論について、私は
少し違う観点からコメンテイターの話を聞いていました。「検査」という
言葉を聞いて、TQM(Total Quality Management:総合的品質管理)に
おける重要な活動(プロセス)を連想して聞いていました。TQMでは製品
品質の保証の要素として、検査については1960年代からいろいろな方法が
各種講座、講義で教えられてきました。

■□■ 製造業における検査 ■□■
TQMでは、主に製造業における検査を扱ってきましたが、思いついただけ
でも次のような多くの種類があります。

 ・ 抜取検査
 ・ 全数検査
 ・ 工程内検査
 ・ 巡回検査
 ・ 官能検査
 ・ 受入検査
 ・ 最終検査
 ・ 出荷検査
 ・ 持込検査
 ・ 出張検査
 ・ 非破壊検査
 ・ 破壊検査

ここでこれらの検査の内容についてお話しするつもりはありませんが、
検査については、それぞれの目的別に多くの種類があることを改めて認識
したいと思います。
今回の新型コロナウイルス感染防止においても、PCR検査の他、抗体検査、
抗原検査などいろいろな種類の検査の話が出てきています。

■□■ 品質は工程で作りこむ ■□■
TQMには「品質は工程で作り込め」という有名な教訓があります。この教訓
に続いて、TQMでは「検査は愚の骨頂である、コストはかかるし100%の
信頼性を保証できない」として、検査はできるだけ少なくすることが良いと
教えられました。
この教えは、工程即ちプロセスを事前に分析、評価、運用、監視することで、
プロセスからのアウトプットを100%良品とすることを最優先にするという
意味を強調しています。そして、このことを「プロセス保証」と呼んでいまし
た。プロセス保証は日本品質管理学会規格(JSQC規格)にまとめられています。
この指針はJISQ9027「プロセス保証の指針」として日本語のみならず、英文
にもなっています。

■□■ 検査の前にプロセス保証を ■□■
検査は必要ですが、検査をする前にプロセス保証を徹底すべきであるという
TQMの教えはコロナ感染防止においても応用できるものだと思います。
コロナ問題においては、検査よりはプロセス保証、すなわち「手洗い・うがい」、「
マスク装着」、「3密」などをもっと強調すべきです。検査はその後に言うべき話
ではないかと感じます。そして、プロセス保証と検査の関係の話を流布すべきです。

企画プロセスの診断―内部診断9 | 平林良人の『つなげるツボ』

—————————————————–
■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.263 ■□■    
*** 企画プロセスの診断―内部診断9 ***
—————————————————–
新型コロナウイルスの緊急事態宣言が解除された後の世界がどう変わるか、
各企業の企画プロセスにおいてはその先取りが求められます。マスコミでは
Afterコロナにおけるニューノーマル(新常態)についての議論が始まっています。
国も新しい行動様式を提案しています。このような議論の中に企画プロセスの
診断の視点があります。ISO附属書SLで言えば、箇条4.1「組織及びその状況
の理解」になります。

■□■ 新常態を探る企画プロセス ■□■
今回のような状況下における企画プロセス診断の目の付け所は、「新常態」を
企画業務の中にどのように入れ込んでいるかがポイントであると思います。
まず言えることは「安全、安心」です。今後予測される第2波、第3波に備える
意味でも、またその後の世界も含めて安全、安心はこれからの企業活動に最も
求められるポイントだと思います。
感染症の恐ろしさを知った人々が求めるものはすべてに優先しての安全、安心
でしょう。自社の製品及びサービスにこれまであまり考えられなかった「安全、
安心」の観点はないでしょうか。

■□■ 個人情報と公共監視 ■□■
いままであまり議論されてこなかった個人と公共のすみ分けについても対応
する知恵が求められます。今回マイナンバーが機能しなかった反省からマイ
ナンバーに紐づく個人情報の扱いについてどのような範囲にまで活用を検討
するのかウオッチしていくことが必要でしょう。個人の情報を国が監視する
ことに対する嫌悪感がマイナンバーの国全体の活用レベルを低くしてきまし
たが、金融口座との紐づけは今回のような事態においては便利なツール
と言えます。

個人と公共、便利と制約、自由と束縛などは、1か0の両極端ではなくその
間の適切な位置づけが今後の知恵の出しどころと言えるかもしれません。
今回の世界中の政治家に突き付けられた「感染予防か経済活性か」もこの
ような矛盾する課題のバランスを問う恰好なテーマとなっています。

■□■ 新しい生活様式 ■□■
緊急事態宣言が解除された後の行動変容、生活様式を国が呼びかけています。
大きな事柄から小さな事柄まで様々なことが取り上げられていますが、
消費者庁では事業者ごとに81職種別のガイドラインを発表しています。
例えば、銀行には「インターネットバンキングの仕組みを利用する」、自治体
には「公民館の来館者名簿を作成する」といった具合です。飲食事業者に対し
ては、「パーテーションでテーブルを区切る」、「大皿で出さない」、「客の正面
に従業員を立たせない」というガイドが掲載されています。

更に一般消費者に対しては、「人との間に距離を保つ」、「不要不急の外出はし
ない」、「離れて歩く」などできるだけ人と接触しない生活をガイドしています。
以上のような事から言えることは、今後の生活は従来に比べてシンプルになる
ということです。

■□■ 企画プロセス診断の視点 ■□■
この時期に行う「企画プロセス」の内部診断は、次のような視点から行う
ことが望ましいと思います。
 ・分課分掌規程について
-規定に沿った業務をしているか。
-規定は最新化されているか。
 ・新型コロナ後の変化について
  -今後の人々の生活変化、そこからくる顧客価値にはどのようなものがあるか。
  -新しい製品及びサービスに対応する組織の能力について。
 ・附属書SLについて(組織の状況)
-リスク及び機会を明確にしているか。
-意図する成果を明確にしているか。