Category Archives: つなげるツボ

標準化―ISO 9001-9 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.215 ■□■    
*** 標準化―ISO 9001-9 ***
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ISO 9001を組織がどのように利用するのか、そして適用させようとするのかは、
一つに組織がどのように自身の現状を分析し、どこを強化したいのか、
またどこを改善したいのかを検討し、方向性を出す中から決まってくるものです。

前回から、箇条7.2「力量」について考えています。

■□■ 網羅的に考えるわな ■□■

「品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性に影響を与える業務を行う人」
を上げなさいと言われ、組織に存在する人全員がそうです、と答える方がいたとしても
規格の要求には沿っています。

しかし、それでは冒頭言いました「自身の現状を分析し、どこを強化したいのか、
またどこを改善したいのかを検討」し、成果を上げるISO 9001の活用には
なりません。

確かに、組織を網羅して俯瞰すれば全員の人が何らかの業務を行い、何らかの
QMSのパフォーマンスに影響を及ぼしていると思います。
しかし、ここはトップから現場までの日常活動の大きさで業務をみて、QMSの
パフォーマンスに与える影響を考えるべきです。

よく、鳥の目と虫の目の両方を持つことが良い、と言われますが、
箇条7.2に関しては虫の目が必要です。
さらに言えば、日常の業務も虫の目で「見える化」されていることが大切です。

■□■人々が力量を備えていることを確実にする■□■

箇条7.2「力量」b)には「適切な教育,訓練又は経験に基づいて,それらの
人々が力量を備えていることを確実にする。」と要求されています。

a)で「品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性に影響を与える
業務を行う人に必要な力量」を明確にして、次にその力量があることを求めて
います。

力量とは、「知っていてかつできること」を意味しますので、b)の要求を
確実にするためには、担当する業務を実践してみてもらうことが確実です。
しかし、現在操業している組織の担当者に、いまさら力量があることを
実践で確認するなど現実的ではありません。

■□■ 力量を備えていることを確認する ■□■

力量があるのかを実践で確認する場面は、次のような場合ではないでしょうか。

  -新入社員教育後の配属
  -社外からの中途採用者の採用
  -組織経験者の配置転換

その他、現業職の人に対しても次のような観点で力量があるのかを確認する
場面があります。 

  -品質問題の要因となった業務の是正処置
  -新しい機械の導入
  -改善のための作業改善
  -加工方法の変更

■□■ 該当する場合には,・・・ ■□■

箇条7.2「力量」c)には「 該当する場合には,必ず,必要な力量を身に付ける
ための処置をとり,とった処置の有効性を評価する。」とあります。

ここで、該当する場合とは、必要とされる力量が十分でないと判断された場合です。
その場合には、注記にあるような処置を取り、処置後の評価をすることが求められて
います。

注記には次のようにあります。
「適用される処置には,例えば,現在雇用している人々に対する,教育訓練の提供,
指導の実施, 配置転換の実施などがあり,また,力量を備えた人々の雇用,
そうした人々との契約締結などもあり得る。」

■□■ とった処置の有効性を評価 ■□■

何事においても、行ったら評価をしなければなりません。評価のない活動は
「香りのしないコーヒー」みたいなものだ、とどこかで聞いたことがあります。

まさしく、評価こそがその活動にメリハリをつけ、今後に繋げるキーとなる活動で
あると思います。
私は、評価は「やってみてもらう」ことがポイントだと思っています。

標準化―ISO 9001-8 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.214 ■□■    
*** 標準化―ISO 9001-8 ***
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今回もISO 9001箇条4.3にある「適用可能性」について述べていきたいと
思います。ISO 9001を組織がどのように利用するのか、そして適用させよう
とするのかは、一つに組織がどのように自身の現状を分析し、どこを強化
したいのか、またどこを改善したいのかを検討し、方向性を出す中から
決まってくるものです。

前回は箇条9.1「監視,測定,分析及び評価」を考えてみましたが、今回は、
箇条7.2「力量」について考えてみたいと思います。

■□■ 箇条7.2力量の要求事項 ■□■

箇条7.2「力量」には、「組織は,次の事項を行わなければならない。」と
あって、その次に「a) 品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び
有効性に影響を与える業務をその管理下で行う人 (又は人々)に必要な
力量を明確にする。」とあります。

a)の他にもb)、c)、d)と3つの要求がありますが、一つずつ考えて
いきたいと思います。
まず、「その管理下で行う人」とは誰でしょう。
「その」は「組織の」と読み替えられるので、組織のなかで誰かの管理の元、
QMSのパフォーマンス及び有効性に影響を与える業務を行う人を明確にする
必要があります。

■□■ 箇条7.2力量の要求事項 ■□■

「管理下」とありますので、社長の管理下、部長の管理下、課長の管理下と
多くの管理下の人々が組織にはいます。
組織は、力量への要求事項を分析して、どのようにこれらの要求事項を組織に
活用しようかと検討することが望まれるところです。当然のことですが、
組織に良い結果をもたらす活用を検討することになります。

もし、ここで社長の管理下というと部長クラスの人々が対象となります。
部長の管理下というと課長クラスの人々が対象となるでしょう。
課長の管理下というと現場第一線で働く人々が対象となるでしょう。
ここでは現場第一線の人々の力量を検討したいと思います。

■□■ 影響を与える業務 ■□■

「品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性に影響を与える業務」
とは何でしょうか。QMSの傘の下に入るすべての業務がQMSのパフォーマンスに
影響を与えると単純に考えがちですが、影響には大、中、小とあります。

日常業務を分析することと同じで、影響を与える業務も管理できる
大きさにまで分解する必要があります。この業務を行う人は例えば;

 1.工場で製品の製造をしている人
 2.工場で製品の検査をしている人
 3.工場で機械の保全をしている人
 4.工場でものを運搬している人
 5.営業している人
 6.企画をしている人
 7.設計している人
 8.生産技術を担当している人
 9.購買を担当している人
10.クレームを処理する人
11.品質データを処理する人
12.輸送する人
13.教育する人

など、組織の多くの人が上げられます。

■□■ 重点志向か網羅志向か ■□■

1~13まで例を上げてみましたが、まだまだあると思います。
ここで、踏み止まって考えてみたいのですが、「品質マネジメント
システムのパフォーマンス及び有効性に影響を与える業務」を
上げろと言われたら多くの人が網羅的に上げるのではないかと
思います。

私は個人的には重点志向で上げることがよいと思っています。
重点的にと言っても「重点とする根拠は何ですか?」と
聞かれそうですが、ここで役に立つのがギャップ分析です。

1~13までの自社の現状をデータに基づいて以下の分析を
してみたらどうでしょうか。

 ・過去3年くらいの間で問題となった品質問題
 ・1~13までの業務との因果関係

このギャップ分析の結果を見て、当面(2,3年)力量の見直し、
強化を必要とする業務、人を特定することが望まれます。

■□■ 次回は以下を検討します ■□■

b) 適切な教育,訓練又は経験に基づいて,それらの人々が
  力量を備えていることを確実にする。
c) 該当する場合には,必ず,必要な力量を身に付けるための
  処置をとり,とった処置の有効性を評価する。
d) 力量の証拠として,適切な文書化した情報を保持する。

標準化―ISO 9001-7 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.213 ■□■    
*** 標準化―ISO 9001-7 ***
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ISO 9001箇条4.3にある「適用可能性」について述べています。
例えば、箇条9における監視、測定はどんな対象に対して行うのかは
組織が決めることですが、どのように決めるかの方法に「ギャップ分析」
があります。

ギャップ分析は「正当性」を示す方法の一つでもあります。
正当性とは、箇条4.3に記述されている組織が勝手に“監視、測定を
適用しない”と決めてはいけないことを要求しているキーとなる言葉です。

■□■ ギャップ分析の例2 ■□■

先週に引き続きISO 9001:2015箇条「9.1.3 分析及び評価」に関する
ギャップ分析をした例を示します。

AをISO 9001要求事項、Bを組織の実態とします。また、
ギャップがある場合は○(適用する)、
ギャップがない場合は×(適用しない)、
ギャップが少しある場合は△(適用する)
で示します。
先週はa)~d)まで行いましたので、その続きe)から始めます。

e) リスク及び機会への取組みの有効性 、
(分析)組織では「事業リスク」として次のようなものを上げている。

 1.地震の発生
 2.火災の発生
 3.取引先の倒産
 4.不良品の市場への流出
 5.取引先からの不良品の流入
 6.原材料の供給切れ
7.運送業者の事故

これら1~7について、起こるかもしれない頻度と起きた結果の
影響の大きさを見積り、リスクへ対応の優先順位を決めている。
リスクは、いつ、どこで、どのような状況下で起きるのか予測
できないので、万が一起きた時にどのように対応するのかの
手順を策定してある。

一方、機会については、箇条「9.3.2マネジメントレビューへの
インプット」及び箇条「9.3.3 マネジメントレビューからの
アウトプット」に,「 改善の機会の決定と処置」があり、これに
対応して適切に運用している。

(結論)△ AとBの間にギャップがあるかどうかは、
箇条「6.1リスク及び機会への取組み」の解釈次第であるので、
次の要求事項を吟味して、一部でも対応する必要があるか
どうかを決定する。

「次の事項のために取り組む必要があるリスク及び機会を決定
しなければならない。
a) 品質マネジメントシステムが,その意図した結果を達成
できるという確信を与える。
b) 望ましい影響を増大する。
c) 望ましくない影響を防止又は低減する。
d) 改善を達成する。」

f) 外部提供者のパフォーマンス 、
(分析)毎月の品質会議で「購買先の評価」を報告している。
評価項目は次のとおりである。

・受入検査率
・納期遵守率
・支給品への対応状況

(結論)× AとBの間にはギャップはない 
→ 既に該当のISO9001要求事項は実施しているので、
新たに行うことはしない。

g) 品質マネジメントシステムの改善の必要性
(分析)箇条「10.3 継続的改善」には次の要求がある。

「 組織は,品質マネジメントシステムの適切性,妥当性
及び有効性を継続的に改善しなければならない。 組織は,
継続的改善の一環として取り組まなければならない必要性
又は機会があるかどうかを明確にするために,分析及び
評価の結果並びにマネジメントレビューからのアウトプットを
検討しなければならない。」

組織では、e)で述べたように「リスク及び機会」における
機会を、品質マネジメントシステムの改善にまで広げて
運用している。

(結論)× AとBの間にはギャップはない 
→ 既に該当のISO9001要求事項は実施しているので、
新たに行うことはしない。

標準化―ISO 9001-6 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.212 ■□■    
*** 標準化―ISO 9001-6 ***
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ISO 9001箇条4.3にある「適用可能性」について述べています。
例えば、箇条9における監視、測定はどんな対象に対して行うのかは
組織が決めることですが、どのように決めるのかの方法に
「ギャップ分析」があります。

ギャップ分析は「正当性」を示す方法の一つでもあります。
正当性とは、箇条4.3に記述されている組織が勝手に“監視、測定を
適用しない”と決めてはいけないことを要求しているキーとなる言葉です。

■□■ Vol.209における「~するために」 ■□■

組織が監視、測定することができる対象は、無限に近いといって
いいほど多くあります。
Vol.209では、規格にはたくさんの「~するために」という表現が
あると述べました。いま話題にしている監視、測定についても
次のように書かれています。

「9.1.3 分析及び評価 :
組織は,監視及び測定からの適切なデータ及び情報を分析し,
評価しなければならない。 分析の結果は,次の事項を評価するために
用いなければならない。

a) 製品及びサービスの適合
b) 顧客満足度
c) 品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性
d) 計画が効果的に実施されたかどうか
e) リスク及び機会への取組みの有効性
f) 外部提供者のパフォーマンス
g) 品質マネジメントシステムの改善の必要性」

■□■ ギャップ分析の例 ■□■

「9.1.3 分析及び評価」に関するギャップ分析をした例を示します。

AをISO 9001要求事項、Bを組織の実態とします。また、ギャップが
ある場合は○(適用する)、ギャップがない場合は×(適用しない)、
ギャップが少しある場合は△(適用する)で示します。

a) (分析)毎月の品質会議で「製品及びサービスの適合」状況を確認している。
確認のために、品質管理部では監視、測定データを収集しグラフ化して製品
及び・サービスの適合状態を見える化している。
 (結論)× AとBの間にはギャップはない 
  → 既に該当のISO 9001要求事項は実施しているので、新たに
    行うことはしない。

b) (分析)毎月の品質会議で「顧客満足度」状況は確認している。
現状は、顧客からの要望、苦情、クレームなどをまとめている。
しかし、積極的に顧客の声を収集していないので、販売店チャンネルを
活用することを考える。
 (結論)△ AとBの間には少しギャップがある 
  →顧客満足度のデータを収集することを検討し、実行する。

c) (分析)現状は、「品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性」
を評価することは行っていない。どんな情報、データを収集することで品質
マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性を評価するのかを検討する。
 (結論)○ AとBの間にはギャップがある 
  →品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性に関しての監視、
   測定をどんな対象に対して行うのを検討し、実行する。

d) (分析)現状は、「計画が効果的に実施されたかどうか」は評価している。
事業部長方針が各部門に展開され、課実行計画により各種課題の達成、
各種問題の解決に向けて業務を行い、その結果は四半期ごとに評価している。
 (結論)× AとBの間にはギャップはない 
  → 既に該当のISO9001要求事項は実施しているので、新たに行うことはしない。

9.1.3 分析及び評価 のe) リスク及び機会への取組みの有効性 、
f) 外部提供者のパフォーマンス 、g) 品質マネジメントシステムの改善の必要性に
ついては、来週ギャップ分析してみたいと思います。

標準化―ISO 9001-5 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.211 ■□■    
*** 標準化―ISO9001-5 ***
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前号から箇条9の要求を組織に適用させる場合に、どのような例が
あるのかについて述べています。
マネジメントシステムは、組織経営のいろいろな要素を結び付け、
目的を達成するために組織が一体となって活動するための仕組み
ですから、規格の要求をどのように組織に適用させるかは大切な
問題です。

箇条9.1は「組織は,a) 監視及び測定が必要な対象を決定しなければ
ならない」と要求しています。

■□■ 箇条9の適用可能性 ■□■

組織が監視、測定することができる対象は、無限に近いといって
いいほど多くあります。前号では主要プロセスについての監視、
測定の例を上げましたが、支援プロセス、経営プロセスにも監視、
測定の対象例を考えてみましょう。

まず支援プロセスについてですが、支援プロセスにおいても組織が
目的を達成するためにどんな指標を監視、測定しなければならないかの
視点から対象を決めます。

-人事プロセス
 ・従業員数(入社、退社、総人数)
 ・総労働時間(過重労働防止)
 ・社員保有資格
 ・総教育時間
 ・社員モチベーション

-総務プロセス
 ・安全に関する指標(無災害時間、災害度数、重篤災害、休業災害、
  ヒヤリハット件数)
 ・環境に関する指標(公害に関する数値、CO2排出量、エネルギー
  使用量(源単位)
 ・設備補修費
 ・車両点検
 ・福利厚生費

-経理プロセス
 ・売上
 ・費用
 ・利益
 ・各種財務指標

-ITサービスプロセス
 ・サーバー稼働
 ・シャットダウン時間(ウイルス、セキュリティ)
 ・ホームページアクセス数

―法務プロセス
 ・内部通報件数
 ・コンプライアンス相談件数
 ・法規通達件数

■□■ 経営プロセスへの適用 ■□■

次は、経営プロセスについてですが、経営者が関心を持つ事象を監視、
測定することになります。
組織全体の姿を適切に捉える指標にはいろいろあります。

-売上高総利益率
-総資本経常利益率
-自己資本比率
-労働分配率
-株主数
-品質コスト
-クレーム数
-顧客満足度

■□■ 箇条4.3にある記述は? ■□■

ISO9001:2015 箇条4.3には次の一節があります。「組織が自らの
品質マネジメントシステムの適用範囲への適用が不可能であることを
決定したこの規格の要求事項全てについて,その正当性を示さなければ
ならない。」
“・・・and provide justification for any requirement of this
International Standard that the organization determines
is not applicable to the scope of its quality management system.”

“organization determines is not applicable:組織が適用できないと決めた”
ことは、適用しなくてよいが、その場合はなぜ適用しないのかの正当性を
示すことが必要です。

■□■ 正当性はどう示すのか? ■□■

正当性を示す一つの方法にギャップ分析があります。
箇条9でいえば、監視、測定をどんな対象に対して行うのかは組織が決める
ことであると言いました。でも組織が勝手に監視、測定はこれだけでよいと
適用する対象を決めたのでは、正当性を示したことになりません。
ではどのようにギャップ分析をすることがよいのでしょうか?
次回に述べさせていただきます。