Category Archives: つなげるツボ

品質経営を考える1 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.459 ■□■
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*** 品質経営を考える1 ***
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ここまで特採、そして公差設計について述べてきましたが、改め
て日本における品質経営の弱体化について考えてみたいと思いま
す。産業界、特に上場企業で広く認識されている割には一般には
あまり知られていないものにCGコードがあります。CGコード
とは、「コーポレート・ガバナンス・コード」のことで、10年く
らい前にイギリスが作ったスチュワードシップコードから導入さ
れた制度です。
今回「品質経営」の話になぜCGコードを持ち出したかというと、
上場企業の日常業務に絶大な影響力を持っているからです。これ
については後続のメルマガでお話していきます。

■■ CGコードとは ■■ 
CGコードの発端は、2013年アベノミクス第三の矢における「日
本再興戦略Japan is Back」でした。2008年のリーマンショック
以降、金融機関による投資先の経営監視が不十分であったことの
反省から、イギリスではスチュワードシップコードが作成されま
した。スチュワードシップコードは機関投資家が投資をする際に
機関投資家自身のガバナンスをしっかりと管理し、投資家から集
めたお金、あるいは公的資金(例えば年金など)の運用の在り方
に間違いがないようにすることを目的として検討されました。
CGコードは、企業が株主や顧客、従業員、地域社会等の立場を
踏まえたうえで、自身の経営を適正に行うための制度です。
スチュワードシップコードが企業の外部にいる機関投資家の行動
規範であるのに対し、CGコードは企業を対象とした行動規範で
あるといえます。
政府は2014年日本版スチュワードシップコードを策定しました。
と同時にCGコードを策定することを閣議決定しました。2015年
CGコードが策定され、かつ 会社法を改正し(監査等委員会設
置会社の新設、社外取締役を置くことが相当でない理由の開示等)
を追加されました。同年金融庁に 「スチュワードシップコード
及びCGコードのフォローアップ会議」が設置されています。

■■ 上場企業に重要視されている規範 ■■
CGコードは、金融庁/東証(日本取引所グループ)によって運用
されていますが、法律ではないので強制力はありません。しかし、
株主総会における「議決権行使助言会社の議決権行使基準に使わ
れている」ことから、上場企業には無視できない行動規範となっ
ています。そのため、CGコードへの適合は上場企業にとって是
非の問題でなく「受け入れるか、いつ受け入れるか」を明確にし
なければならない切実な課題となっています。上場企業のどこの
代表取締役も「株主総会」を乗り切るためにCGコードは最も重
要な文書であると位置付けしています。
株主総会での議決権行使を機関投資家に助言する(賛成する、反
対する)代表的世界組織は2社あり、いずれも米国本社/日本拠
点の組織です。
株主総会議案の分析をして議決権行使助言をしています。
 ・ISS(Institutional Shareholder Services Inc.)
 ・グラス・ルイス

■■ 議決権行使助言会社の活動 ■■
例えば、2023年、ISSとグラス・ルイスの2社は議決権行使助言
基準を公表しました。いずれもCGコードと整合します。
 ・ISS:取締役会に女性取締役がいない場合、経営トップの取締
役(社長、会長)信任に対し原則反対
 ・グラス・ルイス:取締役選任に関する「取締役会の独立性」と
「ジェンダー・ダイバーシティ」基準を厳格化
上場会社(特にSR/IR担当者)や機関投資家(金融機関・年金基金
・資産運用会社)は、株主総会議案の賛否に影響を及ぼすため 助
言に高い関心を寄せます。最近ではメディアで助言会社がどこどこ
の会社の議案に賛成推奨したとか反対推奨したとか報道されること
もあり、個人株主も助言会社の動向に注目しています。

■■ 6月は株主総会の季節 ■■

以下はhttps://www.businesslawyers.jp/articles/1169からの引用です。

「6月の株主総会シーズンが到来しています。本稿は、株主総会を
目前に控え、議案の賛成率に大きな影響を与え得る議決権行使助言
会社および機関投資家の議決権行使基準を紹介し、その比較・分析
をするものです。
2021年は、3月に改正会社法が施行され、6月にコーポレートガバ
ナンス・コード(以下「CGコード」といいます)が改訂されまし
た。」

2022年4月4日に東京証券取引所の市場区分が変更され、新たに
プライム市場、スタンダード市場およびグロース市場の3つとなり
ました。特に、プライム市場の上場会社は、他の市場区分の上場会
社よりも高度なガバナンス体制が求められ、機関投資家の中にも、
そのような市場区分ごとに異なる内容の議決権行使基準を設定する
ものが現れています。
特に、独立社外取締役の選任については、機関投資家の議決権行使
基準においても、CGコードの原則4-8と同様に、プライム市場の
上場会社に対し、取締役総数の3分の1以上を求めるものが一般的
となりつつあります。

(つづく)

特別採用(トクサイ)を考える10 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.458 ■□■
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*** 特別採用(トクサイ)を考える10 ***
-公差設計3-
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公差設計においては、数多くある部品同士が完全に(100%)互換
性を持つことは厳しすぎるとして、ある確率で互換性のないこと
を認めることが普通です。完全に互換性があることにこだわるよ
りも、例外的に一部の組合せが犠牲になったほうが経済合理性か
らみて有利になるからです。ただ、部品公差を大きくした後にお
いても、完成品の公差には大きな影響を与えないということは重
要なことです。

■■ 経済合理性 ■■
経済合理性とは「経済的な価値基準に沿って論理的に判断した場
合に、利益があると考えられる性質・状態」とGoo辞書には出て
います。ここで注意が必要なのは、「価値基準」がいろいろ解釈さ
れうるということです。特別採用を考えるときには2つの価値基
準があります。一つは買い手側の価値基準です。すでに合意され
ている規格から外れている製品を購入するには、リスクを考えな
くてはなりません。リスクがどの程度あるのかを判断するには時
間も知的労力もかかります。そのリスクと天秤にかけどちらが重
いかを測るものが値引きと顧客納期です。
もう一つは売り手側の価値基準です。規格外れ品を廃棄する費用
がどのくらいかが基準となります。廃棄する費用と天秤にかけど
ちらが重いかを測るものが規格見直し(公差計算など)の知的労
力です。買い手側、売り手側両者の価値基準においてそれぞれに
利益有りと判断されたときに特別採用は成立します。

■■ 公差設計を考える ■■
部品公差をゆるめた結果、部品がすべて公差内であっても、多量
にある部品を無差別に組み合わせたとき、公差外のもの、すなわ
ち不良品が生ずる可能性が増えることに注意をしなければなりま
せん。設計当初の部品の寸法の公差設計について調査しておくと
よいでしょう。以下は日本機械学会の機械工学便覧からの引用で
す。
「公差設計には、各構成部品に対しての公差設定、ある部分の組
み立てユニットに対して各部品のペア部品の公差設定、また各部
品の組み立て後における終局の長さの公差設計などがある。終局
の長さの公差設計については、一種の変動のかさなりとみて、各
部品の公差を直角に足した値を組立後の公差として考えることが、
工作の際の指定公差に対する実際寸法の変動の確率からみて望ま
しい。たとえば部品Aの公差を±aとし、部品Bの公差を±bと
し、この二つの組立後における終局の長さの公差を考えてみる。
部品Aの長さがA+aであることは1,000個に1個くらい、部品
Bの長さがB+bであることも1,000個に1個くらいの割合でし
か起こらないとすれば、このように長いものどうしが組合される
確率は、1/1,000,000しかないことになる。すなわち、終局の公
差を単純に足して((+a)+(+b))という寸法にすると、100万
個に1個ぐらいにしか起きないまれな場合となり、あまりに用心
しすぎると言える、そこで、100万個に1、2個ぐらいの例外は
許すとして、終局の長さの公差を考えると直角に足す方法による
のが、実用的によい基準を与えてくれるのである。ただし、この
方法は各成分が公差の範囲内で独立に変動するという仮定の上に
たって導かれたものである。
直角に足す方法とは、例えば二つの部品の公差が±0.3mm.
±0.4mmだった場合に、終局の長さの公差は、直角三角形の作図
によるか、または、0.3の二乗に0.4の二乗を足してルートで開
いて±0.5mmという値を得る。三点以上の部品の場合も同様な方
法で行われる。
【引用】機械工学便覧 日本機械学会 1966年 改定4版 」

■■ 公差設計まとめ ■■
公差を考えることは製品設計の一部ですが、製品設計で最初に手
がけるものは機能設計です。製品の使用目的を明確にすることの
中から所定の機能を実現すること、あるいは求められる役割を果
たすことを明確にします。機能設計の考え方の基準となるものは、
製造可能であるという当たり前のことですが、最終的に重要なこ
とは消費者が満足するというところに在ることは言うまでもあり
ません。
機能設計の次に行われるのが、生産設計です。構成部品の要素の
公差の設定、最適材料の選択、設計の単純化、現行規格部品、現
用機素の大幅利用、工作上からみた設計構造が何らかの設計変更
によって製品の品質を向上させ、製作を容易にさせ、また経済性
の向上などにわたって生産上有利になるように考えます。公差設
計はこの生産設計の中に含まれます。新製品企画の主として最初
に描かれた機能設計を詳細にかつ批判的に検討し、検討結果をも
とに詳細設計する、というのが製品設計の流れです。
今回の「公差設計のまとめ」として次のようなことを記しておき
ます。公差設計には、基本的に2つの方法があります。
 (1)完全互換性の方法(積み重ねによる考え方)→ Σ計算
 (2)不完全互換性の方法(統計的な考え方)→ √計算
【参考文献】 公差設計入門 栗山弘 2023年 日経ものづくり

特別採用(トクサイ)を考える9 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.457 ■□■
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*** 特別採用(トクサイ)を考える9 ***
-公差設計2-
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「特別採用」の話がいつの間にか「公差設計」の話になっていま
すが、それは、公差設計を知らないと特別採用の判断ができない
ということからきています。特別採用は上下限界線から外れた製
品を救おうという買い手側と売り手側の交渉ですが、外れた数値
が製品にどのような影響を及ぼすのか、どのくらいのリスクがあ
るのかを分析するうえで、当初の「公差設計」を知ることは必須
なことです。

■■ チャンピオンデータ ■■
私はかって生産技術者でしたので、開発者/設計者の心情はよく
わかりませんが、開発者が自分たちの優秀性を誇示するために
チャンピオンデータを設計に出してきた、設計者はもっと規格を
緩めても製品はできると交渉しても開発者は決して譲らない、後
発メーカーが追従できないよう厳しい公差での高機能製品を世の
中に出すことで競争力確保をしなければならない、という一点張
りで、結局、経営幹部も開発者側に同調して製造サイドには厳し
い物作りを課したという話を時々聞きました。このトップラン
ナーの考え方が社内で通った結果、製造泣かせの寸法公差が採用
されることになったわけですが、時代を経て製造諸条件がいろい
ろ変化してくると、当初実現できていた部品作りが不可能になっ
てきたというのが昨今よく聞く話です。世の中、いろいろな要素
(人、設備、材料、作業環境他)ことが大きく変化してくると、
設計当初の厳しさでモノを作れなくなったという話は説得力のあ
る話です。同じような話は昨年(一社)日本品質管理学会から発
行された「テクニカルレポート品質不正防止2023年」にも掲載
されています。これ位ならば大丈夫だろうとデータを改ざんして
製品を納入してしまうという安易な道を選んでしまうというのが
昨今の品質不正の隠れた話です(と私は思っています)。

いささか繰り返しの話になりますが、改めて公差の概念を確認し
たいと思います。公差の概念は、近代工業において大量生産が世
界的に広まったと並行して深まったと言われています。ISOに代
表されるように、グローバルな産業構造において、工業製品の互
換性は、輸出入において買い手、売り手お互いに最低限必要なこ
とでした。互換性とは、ある特定の部品群は管理された規格内の
モノであれば、どの部品と交換しても「問題は発生しない」とい
うことです。しかし、繰り返し述べてきたように、すべての部品
を基準寸法通りに作ることは不可能です。そこで、ある確率で許
容できる正確さ(反対である不正確さ)の限界を明確にして、そ
の限界内のものを作るように努力することが買い手側、売り手側
の共通な利害一致になると考えられるようになりました。

■■ 公差の概念と不完全互換性 ■■
公差を決めるということは、基本寸法からのズレの許容しうる限
界を決めることですが、その際、量産品を一つの集団としてとら
えてそのバラツキを考察することが必要です。管理された集団の
バラツキはどんな要素から生じるのかを各種誤差の偶然性(組合
せ)について考察します。ある集団のバラツキを分析し、その分
析結果から偶然現象を解析する方法が統計学です。公差を設定す
るには、上記のような統計的手法を選択することが必然的な流れ
でした。こうした統計的考察は、公差の計算法において「不完全
互換性」とよばれる考えを生み出しました。これは、組立品の主
要部の寸法を、ある一定の公差内に収めようとするとき、互換性
の要求を完全に満たすようにするには、部品の公差は必然的に厳
しくしなければならないが、逆に部品の公差を少しゆるめても、
組立品寸法が公差外に出る割合(あるいは可能性)がきわめて小
さい場合は、必ずしも互換性を完全に満たすことにとらわれずに
部品公差を決めるという考えです。

(つづく)

特別採用(トクサイ)を考える8 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.456 ■□■
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*** 特別採用(トクサイ)を考える8 ***
― 公差設計 ―
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最近「公差設計」という言葉を聞かなくなりました。この言葉は
戦後日本が物つくりで世界の頂点に立った頃、産業界で盛んに設
計者向けに教育していたカリキュラムにあった言葉です。モノは
一つとして全く同じようには作れません。多量にモノを生産する
ときに悩まされるのはいろいろな要素がバラツクということです。
例えば、機械は経時変化してだんだんと劣化していきます。原材
料も調達先によりますが、同じ成分、寸法、構造のものは手に入
りません。人のスキルの変化も考えなければなりません。

■■ 公差設計とは ■■
「公差」とは、部品個々の寸法のバラツキを容認できる範囲のこ
とをいいます。公差は2つの側面を持っています。一つは、設計
者側からの側面です。もう一つは、公差を受け入れる製造側から
の側面です。「公差」は、この2つの側面を考えながらトータル
で経済的になることを考慮して決めます。公差を厳しくすれば設
計上は自由度が増しますが、製造は厳しい管理をしなければなり
ません。場合によっては全数選別をしなければならないかもしれ
ません。逆に公差を緩くすれば設計の自由度はなくなり、ある制
限下でしか機能を果たさせることがなくなりますが、製造では条
件を広くして製造することができます。設計者には、製品仕様
(設計)と製造条件及びコスト(製造)を考慮したバランス感覚
が求められ、設計者は物つくりのトータル的視点から公差を設定
しなければなりません。このトータル的視点から「公差(許容範
囲)」を設定する方法の一つが、統計学的手法を活用する「公差
設計」です。

■■ 幾何的寸法許容差設定 ■■
ISO 9001セクター規格IATF16949には公差設計の要求がありま
す。自動車部品を設計するには次のスキルを必要であるとされて
いますが、その中にある「幾何的寸法許容差設定及び表示法(G
D&T)」がそれです。ちなみにその他の要求されているスキルは
以下のようです。
1. 品質機能展開(QFD)
2. 製造設計(DFA)
3. 価値工学(VE)
4. 実験計画法(DOE)
5. 故障モード影響解析(FMEA)
6. 有限要素解析(FEA)
7. 立体モデル法
8. シミュレーション手法
9. コンピュータ支援設計(CAD)/コンピュータ支援エンジ 
ニアリング(CAE)
10.信頼性工学計画

完成品性能がある範囲に入るためには、組立主要寸法がある範
囲に入ることが要求され、そこから各部品の公差が割り付けら
れます。完成品からは出来るだけ厳しい公差を要求したい(小
型、性能等)のですが、部品側からは逆に公差をゆるめて欲し
い(コスト上)ということですが、そうしますと(公差を大き
くすれば)完成品の不具合の確率が増加する関係になります。
IATF16949でも設計者の意図と、製造上の条件の関係を分析し
トータルコスト等を総合的に判断したバランスの良い公差を設
定することを求めています。

■■ 日本における公差設計 ■■
腕時計業界では精密部品を大量に扱っていますが、1960年頃、
日本独自の腕時計を開発するにあたり、「公差設計」を盛んに
研究、活用し、超小型・薄型かつ高品質で競争力あるウォッチ
を商品化していきました。腕時計業界以外でも、工業製品の新
規開発においては限界設計のために「公差設計」は不可欠であ
り、「公差設計」を採用している企業が多く、「公差便覧」とい
った本も1960年前後に出版されていました。その後、日本の
国際競争力が上がるにつれて、公差設計は「標準化」が進み、
従来設計されたものを使用することが多くなり、各種工業会で
「公差設計」が研究されることはあまり見られなくなりました。
また設計現場にCADが導入され、ソフトの指示で設計者が公
差を決めることも普及し、「公差設計」の伝承は半ば途絶えま
した。ただし、当時盛んに公差設計を活用した設計者は定年に
なっているとはいえ長寿命時代に入ってリスキリングする人も
増えてきていると聞きます。

■■ 公差設計を理解しないと不正を根治できない ■■
失われた30年の中で頻発する品質不正は、「良いものが作れな
くなった」、「20年、30年と同じ公差で物を作っている」こと
が大きな要因です。良いものが作れなくなったので、その原因
を特定し手を打つのが王道ですが、それができないためデータ
改ざんという不正に走る、経営層も暗にそれを知っていて見過
ごすという事象が多くの組織に起きています。製品開発当初の
設計がどんな公差設計のもと行われたかの後輩設計者への伝承
が行われていないところに日本産業界の脆弱性があります。
(つづく)

特別採用(トクサイ)を考える7 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.455 ■□■
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*** 特別採用(トクサイ)を考える7 ***
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最近特別採用という制度がほとんど使われなくなっていると聞き
ます。使われても正しく使われなくなっており、場合によっては
品質不正の代名詞のように言われるようになっています。「特採」
と漢字で表現するときは正しい使い方、「トクサイ」とカタカナ
で表現するときは不正な使い方を示すとまである会社の第三者委
員会報告書には書かれています。特別採用は「買い手と売り手の
合意」がなければ成り立ちません。

■■ 特採を成立させる4つの条件 ■■
前号で特採を成り立たせるための要素には次の4つがあると述べ
ました。
1.取り決められた規格から外れた寸法/幾何学的形状/他の特性
2.買い手側の規格外れの検証
3.買い手側の環境保護の考え
4.売り手側の値引き
今回は2について述べたいと思いましたが、これには交差設計、
工程能力という設計本来の話が付いてまわりますので、まずは簡
単である3、4を先に述べたいと思います。

■■ 3.買い手側の環境保護の考え方 ■■
「環境保護」という言葉を使いましたが、日本で長らく大事にさ
れてきた「もったいない」という精神のことを言っています。
「大量に廃棄される部品がもし使用できるとしたら」資源の有効
利用の観点から積極的に活用しようという気持ちが買い手側にあ
るかどうかということを言っています。
昔イギリスに駐在していたころ、ウエッジウッドという有名な陶
器がカタログの値段よりも安く売られていてびっくりしたことが
あります。今では日本でもセカンドショップという店が当たり前
になっていますが、40年前は日本にはまだそのような概念の店は
ありませんでした。その陶器はいわゆる傷物で、絵の色が褪せて
いるとか、形がくずれている(ごくわずか)とかで、人によって
はそのくらいの傷ものならば使おうという気持ちになるのです。
自分もその部類の人間だったと昔を振り返って思い出します。

■■ 4.売り手側の値引き ■■
買い手と売り手が特採について合意するもう一つの条件が「値引
き」です。日常製品と工業製品とでは話が違うとおっしゃる方も
いると思いますが、ここでは原理原則のお話しをしているという
ことでお許しください。
工業製品であってもウエッジウッドと同様に「傷ものを買う」と
いう話になると、値段を下げて取引するということがビジネスの
上では常識になります。どのくらいの値引きをするのかは、特別
採用に至るいろいろな状況、それに続く買い手と売り手の交渉に
よりますので、それぞれの個別案件ということで、ここでー般的
なお話しはできません。さらに、買い手側にも自分たちの顧客と
約束した納期がありますので、一概に特採を断るということも得
策ではありません。

■■ 2.買い手側の規格外れの検証 ■■
さて、4つの条件の説明で残ってるのが「2.買い手側の規格外
れの検証」です。売り手から「〇〇規格が〇〇外れていますが使
用できませんか」と依頼されたとき、使用できるかどうかを検証
するには「規格がどのような条件で決められたか」を知らなくて
はなりません。最近の「特別採用制度がほとんど使われていない」
という背景には4条件のうちの2番目がネックになっていること
はほとんどの特採ケースで聞く話です。規格が標準に基づいて決
められている場合は、買い手も根拠がはっきりとしていることか
ら検証も比較的容易にできますが、設計には標準が無く組織自身
が決めなければならない特性が多くあります。買い手の特性を実
現するうえで設計が決めなければならない規格に関する技術上の
要素が「公差設計」、「工程能力」の2つです。次回はこの2つに
ついて話を進めることにしたいと思います。
(つづく)