Category Archives: つなげるツボ

トヨタ物語28 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.444 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
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*** トヨタ物語28 ***
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昨日豊田章男会長の記者会見を見ました。名古屋の産業記念会館
へグループ会社の社長、会長を集めてグループビジョンを話し合
ったとのことでした。日野、ダイハツ、今般の豊田織機、そして
デンソーと立て続けての品質不正、不祥事にどう対応していくか
注目されました。私はグループビジョンの中に一見異質と思われ
る「発明」というワードがあることに注目したいと思いました。
引き続いて大野耐一氏の講演録を続けます。彼はムダを徹底的に
分析しました。すべての動作、行動にはムダがあるということを
出発点にしていました。

■■ ムダの徹底的分析 ■■
ムダを徹底的に排除するための基本的な考えとしては、つぎの2
点を踏まえておくことが肝要である。 
(1) 能率の向上は、原価低減に結びついてはじめて意味がある。
そのためには、必要なものだけをいかに少ない人間でつくり出
すか、という方向に進まなければならない。
(2)能率を1人1人の作業者、そしてそれが集まったライン、さ
らにはラインを中心とする工場全体という目でみると、それぞ
れの段階で能率向上がなされ、その上に全体としても成果があ
がるような見方、考え方で能率アップが進められなければなら
ない。
以上のことを具体的に展開してみる。トヨタの生産現場は、昭和
25年の人員整理にともなう労働争議、その後にくる朝鮮戦争勃発
にともなう特需景気のなかで、人間をふやさないでいかに増産す
るかという大テーマと取り組んでいたのである。

■■ 生産現場の一責任者として ■■
私が考えを実行に移したのはつぎのようなことであった。1つの
ラインでは10人で1日に100個の製品をつくっている。この現
状をもとにして考えれば、このラインの能力は1日当り100個、
1人当りの生産性は1日に10個である。ところが、こまかくラ
インおよび作業者の動きを観察していると、つくり過ぎがあった
り、手待ちがあったり、時間や日によってバラツキが見られる。
これを改善して2人分の工数低減ができたとする。すなわち8人
で100個の生産ができることは、2人を減らさなければ、1日125
個の生産が可能で25個分の能力増加のようにみえる。しかし、
ほんとうは以前から1日に125個つくる能力はあったのである。
ただ25個分の能力は、不必要な作業やつくり過ぎのムダによって
浪費されていたのである。以上のことから、1人1人の作業者でみ
ても、ライン全体でみても、ほんとうに必要なものだけを仕事と考
え、それ以外をムダと考えるならば、つぎの関係式が成り立つ。

■■ ムダの関係式 ■■
 現状の能力=仕事+ムダ
 (作業=働き+ムダ)
ムダをゼロにして仕事の割合いを100パーセントに近づけていく
ことこそ、真の能率向上である。ただしトヨタ生産方式では、必
要数だけしかつくってはいけないのである。したがって、人を減
らして多すぎる能力を必要数に見合ったものにするのである。そ
こでトヨタ生産方式を適用する前提として、ムダの徹底的な摘出
が行なわれる。
(1)つくりすぎのムダ
(2)手待ちのムダ
(3)運搬のムダ
(4)加工そのもののムダ
(5)在庫のムダ
(6)動作のムダ
(7)不良をつくるムダ
これらのムダを徹底的に排除することによって、作業能率を大幅
に向上させることが可能となる。その場合、とうぜん、必要数だ
けしかつくってはいけないから、余分な人間が浮いてくる。トヨ
タ生産方式は余剰人員をはっきりと浮き出させるシステムでもあ
る。このことから、トヨタ生産方式は、首切りの手段として使う
ものではないかと、疑心暗鬼の労働組合もあると聞いているが、
根本の考え方はそんなケチなものではない。経営者にとっては、
余剰人員をはっきりとつかみ、有効に活用することがその任務で
ある。景気がよくなり増産が必要な際には人を採用して対処し、
不景気になるとレイオフや希望退職を募るという事態に陥ること
は、経営者として厳に慎しまねばならないことである。一方、作
業者にとっても意味のないムダな作業を除くことは1人1人の働
きがいを高めることに通じる。

トヨタ物語27 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.443 ■□■
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*** トヨタ物語27 ***
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大野耐一氏提唱の問題が起きた時の「なぜなぜ5回」を行ってみ
ました。しかし、該当の問題は下記に示しますが、結論に達した
「フィルターを定期的に交換する」という対策について当初はう
まくいきましたが、数か月あとには忘れてしまうという事例が発
生しました。「なぜなぜ5回」の活用についてもう少し話をしたい
と思います。

■■ 「なぜなぜ5回」の実施  ■■
機械工場の事例として「切削効率が落ちてしまった」という問題
のなぜなぜについて、以下のようなものがありました。
(1)「なぜ機械の切削効率は悪くなったのか」
   「工具と加工物の間に切粉が絡んでいたからだ」
(2)「なぜ工具と加工物の間に切粉が絡んでいたのか」
   「切削油が十分でなかったからだ」
(3)「なぜ十分に切削油がかかっていなかったのか」
   「切削油ポンプが十分くみ上げていなかったからだ」
(4)「なぜ十分くみ上げなかったのか」
   「ポンプのフィルターが詰まっていたからだ」
(5)「なぜ詰まっているのか」
   「フィルターを交換していなかったからだ」
以上、5回の「なぜ」を繰り返すことによって、フィルターが切
粉で目詰りを起こしていることが分かりました。そこで、フィル
ターを定期的に交換するということを対策に行うという決定がさ
れました。「なぜ」の追求の仕方が足りないと工具を取り替えたり
する不十分な対策になってしまいますが、そうではなく恒久的な
対策が考えられたと機械工場では考えられました。ところがそう
ではないことが、数カ月後に同じトラブルが再発することで分か
りました。フィルターを定期的に交換することを標準書に規定し
た後に同様な問題が起きたのです。なぜでしょうか?

■■ ヒューマンエラーをどう防止するのか  ■■
それは担当者がフィルターを交換することを忘れてしまったこと
から起こりました。なぜ担当者はフィルター交換を忘れてしまっ
たのでしょうか。機械工場では「なぜフィルター交換を忘れたの
か」をなぜなぜ分析を行うことで解決しようとしましたが、結果
は見るも無残なものになりました。
(1)「なぜ担当者はフィルター交換を忘れたのか」
   「忙しかったからである」
(2)「なぜ担当者は忙しかったのか」
   「仕事のやり方が効果的でないからである」
(3)「なぜ仕事のやり方が効果的でないのか」
   「上司の教育訓練が効果的でなかったからである」
(4)「なぜ上司の教育訓練は効果的でなかったのか」
   「担当者の理解が足りなかったからである」
(5)「なぜ担当者の理解が足りなかったのか」
   「担当者のやる気がなかったからである」
このなぜなぜ分析は欠陥だらけです。
第一に事実確認が不十分であると思われます。第二に因果関係に
難があります。第三に人を原因としています。
1.事実確認が不十分である。
(1)の忙しかったからである、という理由はよく上げられる結
果ですが、本当に忙しかったのでしょうか、もしそうなら
ば忙しいとか忙しくないとかの境目はどこにあるのか聞き
たくなります。
(2)の仕事のやり方が効果的でなかった、という分析結果も怪
しいものです。同じように効果的である、効果的でないと
はどこに境目があるのでしょうか。
(3)の上司の教育訓練についても、上司の教育訓練が効果的で
あるとか、効果的でないとかはどこに判断基準があるのか
分かりません。
(4) (5)担当者の理解力がないとか、やる気がないとか、これ
らも根拠のない分析結果だと思います。
2.因果関係に難がある。
要因と結果の関係をみると無理やり関係つけているように思
えます。
3.人を原因としている。
人は原因とはなりません。というと反論が出ますが、犯罪行
為を除いてはと注釈をつければ皆さん理解してくれます。そ
うです、企業組織で働く人は、ミスを起こしても、原則、意
図的に行っていないという前提で「なぜなぜ分析」は行うべ
きなのです。

トヨタ物語26 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.442 ■□■
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*** トヨタ物語26 ***
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問題が起きた時に「なぜなぜ5回」を行うことは広く知られていま
す。しかし、この発想が大野耐一氏のものであったことはあまり知
られていません。1970年ごろに私が彼の講演で聞いたことは以下の
ようなものでした。最近私はテクノファのセミナーで「なぜなぜ
5回」について活用の仕方にについて講義をしていますが、その原
点がここにあります。

■■ 「なぜ」を5回繰り返す  ■■
1つの事象に対して、5回の「なぜ」をぶつけてみたことはあるだ
ろうか。言うのはやさしいが、行なうはむずかしいことです。
たとえば、機械が動かなくなったと仮定しましょう。
(1)「なぜ機械は止まったか」
  「オーバーロードがかかって、ヒューズが切れたからだ」
(2)「なぜオーバーロードがかかったのか」
  「軸受部の潤滑が十分でないからだ」
(3) 「なぜ十分に潤滑しないのか」
  「潤滑ポンプが十分くみ上げていないからだ」
(4) 「なぜ十分くみ上げないのか」
  「ポンプの軸が摩耗してガタガタになっているからだ」
(5) 「なぜ摩耗したのか」
  「ストレーナー(濾過器)がついていないので、切粉が入った
からだ」
以上、5回の「なぜ」を繰り返すことによって、ストレーナーを取
りつけるという対策を発見できたのです。
「なぜ」の追求の仕方が足りないとヒューズの取り替えやポンプの
軸の取り替えの段階に終わってしまいます。そうすると、数カ月後
に同じトラブルが再発することになるでしょう。トヨタ生産方式も、
実をいうと、トヨタマンの5回の「なぜ」を繰り返す、科学的接近
の態度の累積と展開によってつくり上げられてきたといってよいの
です。5回の「なぜ」を自問自答することによって、ものごとの因
果関係とか、その裏にひそむ本当の原因を突きとめることができま
す。

■■ 機械を1人で1台しか持てないのか  ■■
「なぜトヨタ自工では機械を1人で1台しか持てないのかという疑
問があった。というのは、豊田紡織では自働織機を若い女性が1人
で40台も50台も持っていたからです。自働織機は糸が切れたとき
に自動的に機械が止まる機能を持っていました。この問を発するこ
とによって、自動車の機械も「機械が自動で止まるような仕組みに
なっていないから」という答が得られ、ここから、「自働化」の発
想を導き出すことができました。
「なぜジャスト・イン・タイムにものがつくれないのか」の問に対
しては、たとえば「前工程が早くものをつくり過ぎる。1個何分で
つくるかがわかっていない」という答を得ることができました。そ
の結果として、「平準化」 の発想を導き出すことができたのです。
「なぜつくり過ぎのムダが出るのか」に対して「つくり過ぎを押え
るはたらきがない」という第一の答を展開することによって、「目
で見る管理」から、さらに「かんばん」の発想へと連なっていけま
した。
トヨタ生産方式は徹底したムダの排除を根本にしていることは、あ
ちらこちらで述べてきています。「ムダというものはいったい、な
ぜ発生するのか」の問を1つ発することによって、それこそ企業存
続の条件である利益の意味を問うことにもなりますし、ひいては人
間の働きがいの本質についても自問自答することになります。
私は、生産の現場に関しては、「データ」ももちろん重視してはいま
すが、「事実」をいちばんに重視しています。問題が起きた場合、原
因の突きとめ方が不十分であると、対策もピント外れのものになっ
てしまいます。そこで5回の「なぜ」を繰り返すというわけですが、
これはトヨタ生産方式の科学的態度の基本をなしているものです。

トヨタ物語25 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.441 ■□■
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*** トヨタ物語25 ***
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新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。
今年は波乱な年明けとなりました。元日に大地震が起き能登半島は
新年早々混乱の極みに落ち込みました。地震が起きなければ羽田飛
行機追突事故も起きなかったろうに、と思った方もいると思います。
この世の中「風が吹けば桶屋が儲かる」、「Butterfly Effect」など因
果関係の連続であることを改めて思い知りました。昨年暮れに起き
たダイハツ品質不正はこれまた多くの因果関係の結果であろうと推
察しますが、ロンドン物語、日経品質管理文献賞で中断していたト
ヨタ物語を再開したいと思います。

■■ トヨタ物語の再開  ■■
トヨタ生産方式は「引っ張り方式」であると言われています。この
方式は後ろの工程が必要な品物を必要な量だけ前の工程から引き取
る(これを引っ張るという)ことで生産を行うやり方で、この必要
な量だけを前工程から引っ張る方式を頭から最後の工程まで行いま
す。しかし、世の中の生産方式の多くは「押し出し方式」と呼ばれ
るものです。ある期間の生産量を計画し、頭の工程から、次の工程、
次の工程へと製品を押し出していきます。各々の工程では不良が出
ますので、頭の工程では例えば1割くらい多く(歩留まりにより異
なる)の生産をして最後に顧客要求数量を確保するような製品化の
方式です。
2つの方式にはそれぞれ長所と短所があり、どの方式を採用するの
かは、生産する会社の考え方によります。
今まで述べてきた「あんどん」,「かんばん」などはトヨタ生産方式
のすばらしさの代表名として世の中に知られていますが、単に形式
としての「あんどん」,「かんばん」を理解し、実行しようしても
多分失敗するでしょう。失敗するどころか大きな問題を引き起こす
かもしれません。形式にとらわれことなく基本となっている理念と
発想を理解することが重要ですし、その理念を実現するための土俵
を理解しなければなりません。トヨタの歴史を見ると「人間性の尊
重」「人間性の向上」という言葉が常に出てきます。

■■ 意識改革が不可欠  ■■
ここからは、「人間性の尊重」をベースにトヨタ生産方式の理念と
発想を語った大野耐一氏の語録を紹介していきます。この語録は
1970年ころに語られたものです。

企業のなかのムダは無数にあるが、つくり過ぎのムダほど恐しいも
のはない。このつくり過ぎのムダがなぜ生ずるのか、その根源を探
ってみたい。私どもは、いつも相当量の在庫をかかえていないと不
安でしようがない存在なのではないだろうか。第二次世界大戦前か
ら戦中、そして戦後間もないころの物資不足の時代、買いだめはご
く自然の行為であった。オイル・ショック時、物資の豊富な現代に
おいても、ティッシュ・ペーパー、洗剤を買いあさった大衆の行動
は、まさに買いだめ心理からきたものであろう。
これは農耕民族の宿命ではないだろうか。私どもの先祖は長いこと、
米を作って主食とし、かつ貯えをして自然の災害に備えてきた。物
があり余っている現在においても、根はそれほど変わっていないこ
とは、オイル・ショック時の経験からわかった。
現代の企業も同じ考えにとりつかれているところがないか。いつも
手元に、なにがしかの原材料、仕掛品、製品の在庫をもっていない
と、この激しい競争社会に生き残っていけない不安に産業人は襲わ
れるのであろうか。
私の主張は、現代の工業はそれから脱却しなければならぬというこ
とである。農耕民族にとどまっていてはいけない。狩猟民族になっ
て、それこそ必要なものを、必要なときに、必要なだけ調達する勇
気をもたなければならない。勇気などというものではない。それが
現代の工業社会の常識となってほしいと思う。
それには、産業人の意識革命が必要であろう。いつも相当量の在庫
をかかえていないと不安でしょうがない気持が、オイル・ショック
以後の低成長時代に、つくり過ぎのムダをもたらし、不良在庫とい
う最大の経営ロスを生み出す元凶になったのである。この事態をま
ず深く認識することこそ、意識革命に通じるものと私は思うのであ
る。

ロンドン物語10 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.440 ■□■
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*** ロンドン物語10 ***
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前回イギリスの大学についてお話をしましたが、もう少しイギリ
スの高等教育事情のお話をしたいと思います。まずは私立学校で
ありながら、どうしてパブリックスクールというのでしょうか。
今年9月にはザ・ナイン(パブリックスクール頂点)の一角を占
めるラグビー校の日本校(ボーディングスクール)が千葉県柏の
葉キャンパスに開校しました。

■■ イギリスのパブリックスクール ■■
パブリック スクールについてお話をしたいと思います。なぜ私立
学校なのにパブリックというのでしょうか。プライベートスクー
ルと言わないのはどうしてでしょうか。
パブリックスクールはその発祥として教会との関係、そこから王
室との関係がありました。15世紀ごろの時代のPublicは、公衆
という意味ではなく、 王の面前に出るという意味で使われていま
した。王の前に出ても恥ずかくない教育をする、ひいては貴族の
子弟(王の前に出ることが多い)を対象に教育をするという沿革
をもっています。貴族の子弟に教育を受けさせるという目的をもっ
て創立された学校がPublic School なのです。建物も豪華ですし、
先生をはじめとするスタッフもその道の第一人者が就任していま
した。王室の保護がある代わりに大変厳しい規律もありました。
いざとなれば、戦場で先頭に立って軍隊の指揮をとれるような訓
練もされていました。それに対して、庶民の子供たちのために創
立された学校がGrammar Schoolで文字通り文法に沿って教え読
み書きができるようになる学校です。 貴族、庶民を問わず両方の
学生は大学(オックスフォートとかケンブリッジとか)に入学す
るための資格を在学中に取ります。

■■ Aレベルとは  ■■
前回大学への入学システムの説明でAレベルの話をしました。
Public SchoolでもGrammar Schoolでも、大学進学希望者は大学
受験できる資格を取らなければなりません。それがAレベル
(General Certificate of Education Advanced Level)で、様々な
科目の中から、学生個人が3~5科目選んで学習します。大学での
専攻科目を見据えて、それに必要な科目を選ぶ必要がありますので、
この選択はかなり重要となってきます。毎年5月に一斉試験があり、
8月下旬にAレベルの成績(A+,A,B,C)が決まります。この成績
によって、どの大学に行くかの進路が決まってきます。
イギリスでは、若者の失業率が上昇しNEET(not in employment,
education, or training)と呼ばれる就労、就学、訓練をしない若年
者の問題に対応するため、2015年より18歳までが義務教育と
なりました。ただ、義務教育といっても必ずしも100%学業につ
くのではなく、働きながらの職業訓練も含まれます。

■■ 日本のPublic School  ■■
いま国際教育への感度が高い日本家庭の間で話題となっているのが、
Public School英国私立校の中でも知名度の高い、ハロウ校とラグ
ビー校の日本校開校です。2022年9月、岩手県の安比に「ハロウ
インターナショナルスクール安比ジャパン」が開校しました。日本
最大級のスキーリゾート、36ホールを持つゴルフ場、18面のテニ
スコートなどの周辺施設も利用できる恵まれた環境にあります。
全寮制で未来のリーダーを育成する教育を行うとしています。
ラグビー校の日本校であるRugby School Japanは2023年9月に
柏の葉キャンパスに開講しました。ラグビー校は、イートン校を
はじめとする英国の私立学校のトップ9校 「The Nine」のうちの
1校であり、「The Nine」の中で最も早く共学化をはかり(1992年)、
450年以上の伝統と革新を兼ね備えた名門校です。英国では、13~
18歳までの共学の寄宿制学校(ボーディングスクール)で、約850
人が寮で暮らしながら勉強しているそうです。柏の葉キャンパス千
葉大学内に開校し、寄宿と通学の両方の選択肢を用意しているそう
です。問題は授業料の高さです。小学校6年から高校3年までの7
年制ですが、年間500万円以上かかるといわれています。日本の
富裕層だけでなく中国、東南アジアの富裕層の子弟をターゲットに
しているといわれ、今年9月の最初の学生140名(小学校6年)
は日本を含め16か国の子供たちであったと報じられていました。

■■ パブリックスクールの戦略  ■■
イギリスのPublic Schoolの戦略はしたたかです。中国には既に4校
(上海、北京など)、東南アジアでもバンコックに開校しています。
日本には国際的に通用するボーディングスクールはほとんど存在し
ていませんから、日本にビジネス目的で滞在している裕福な中国人
や東南アジア人にとって、子どもの教育は大きな悩みの種です。中
国やタイで実績のある英国名門校の姉妹校が日本にあれば、彼らは
喜んで子弟を通わせるといわれています。パブリックスクールの中
でも、イートン校、ハロウ校、ラクビー校といった学校は特に有名
で、全世界にその名前が知られています。イートン校はウィリアム
王子やハリー王子など英国王室の子弟が通っていましたし、ハロウ
校はチャーチルを筆頭に何人もの首相を輩出しました。宥和(ゆう
わ)政策で知られるチェンバレン首相はラクビー校の出身ですし、
ジョンソン元首相はイートン校を卒業しています。
寮で7年間一緒に暮らした仲間は一生の宝物です。国際的なネット
ワークを子供の時代から作らせようとする親の心情を見事にくすぐ
る戦略が日本でも動き始めました。