Category Archives: つなげるツボ

品質経営を考える4 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.462 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** 品質経営を考える4 ***
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CG(コーポレートガバナンス)コードの構成は5章構成で、比
較的短い文章で述べられていますので、この機会にISO関係者
も中身をざーっと理解しておくと良いと思います。5章構成の中
に、株主の権利保護、取締役の執行監督・監視などが書かれてお
りそれらは当然ですが。企業経営に重要であると思われる「品質
のこと」が全く書かれていないことに違和感を覚えます。

■■ CGコード第1章-2 ■■
CGコードの第1章は「その1~その7」まであり、株主の権利
について事細かく上場企業に注文を付けています。今回はその2、
すなわち株主総会に関する推奨事項について説明をしたいと思い
ます。

「第1章 株主の権利・平等性の確保
【原則1-2】(株主総会における権利行使)
上場会社は、株主総会が株主との建設的な対話の場であること
を認識し、株主の視点に立って、株主総会における権利行使に係
る適切な環境設備を行うべきである。

【補充原則1-2-(1)】
上場会社は、株主総会において株主が適切な判断を行うことに
資すると考えられる情報については、必要に応じ適確に提供すべ
きである。

【補充原則1-2-(2)】
上場会社は、株主が総会議案の十分な検討期間を確保すること
ができるよう、招集通知に記載する情報の正確性を担保しつつそ
の早期発送に努めるべきであり、また、招集通知に記載する情報
は、株主総会の招集に係る取締役会決議から招集通知を発送する
までの間に、TDnetや自社のウェブサイトにより電子的に公表す
べきである。

【補充原則1-2-(3)】
上場会社は、株式との建設的な対話の充実や、そのための正確
な情報提供等の観点を考慮し、株主総会開催日をはじめとする株
主総会関連の日程の適切な設定を行うべきである。

【補充原則1-2-(4)】
上場会社は、自社の株主における機関投資家や海外投資家の比
率等も踏まえ、議決権行使の電子行使を可能とするための環境作
り(議決権電子行使プラットフォームの利用等)や招集通知の英
訳を進めるべきである。
特に、プライム市場上場会社は、少なくとも機関投資家向けに
議決権電子行使プラットフォームを利用可能とすべきである。

【補充原則1-2-(5)】
信託銀行等の名義で株式を保有する機関投資家等が、株主総会
において、信託銀行等に代わって自ら議決権行使の行使等を行う
ことをあらかじめ希望する場合に対応するため、上場会社は、信
託銀行等と協議しつつ検討を行うべきである。

引用 nlsgeu000005lne9.pdf (jpx.co.jp)

■■ CGコード第1章-2の解説 ■■
第1章の2は株主総会における詳細なこと(出席株主には詳細で
はないかもしれないが)であるので、全6項目のうち4項目
(1-2-(2)、1-2-(3)、1-2-(4)、1-2-(5))は省略して説明します。

【原則1-2】(株主総会における権利行使)
上場会社は、株主総会が株主との建設的な対話の場であること
を認識し、株主の視点に立って、株主総会における権利行使に係
る適切な環境設備を行うべきである。
【解説】株主が総会の場に出やすいような開催場所の設定、招集
通知をできるだけは早く(1か月前くらい)出す、インターネッ
トによる議決権行使などの便宜が考えられる。

【補充原則1-2-(1)】
上場会社は、株主総会において株主が適切な判断を行うことに
資すると考えられる情報については、必要に応じ適確に提供すべ
きである。
【解説】TDネット(Timely Disclosure network:東京証券取引
所が運営する適時開示情報ネットワーク)を使って情報開示する
ことが考えられる。

【補充原則1-2-(2)】、【補充原則1-2-(3)】、【補充原則1-2-(4)】
(1-2-(1)と重複する部分が多いので省略)

【補充原則1-2-(5)】
(詳細な推奨事項に及んでいるので省略)

(つづく)

品質経営を考える3 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.461 ■□■
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*** 品質経営を考える3 ***
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CG(コーポレートガバナンス)コードは、金融庁/東証(日本取
引所グループ)によって運用されていますが、法律ではないので
強制力はありません。会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域
社会などの立場を踏まえたうえで、透明・構成かつ迅速・果敢な
意思決定を行うための仕組みです。全部で5章構成の比較的短い
文書です。

■■ CGコード第1章 ■■

「第1章 株主の権利・平等性の確保
【基本原則1】
上場会社は、株主の権利が実質的に確保されるよう適切な対応
を行うとともに、株主がその権利を適切に行使することができる
環境の整備を行うべきである。また、上場会社は、株主の実質的
な平等性を確保すべきである。
少数株主や外国人株主については、株主の権利の実質的な確保、
権利行使に係る環境や実質的な平等性の確保に課題や懸念が生じ
やすい面があることから、十分に配慮を行うべきである。
【原則1-1】(株主の権利の確保)
上場会社は、株主総会における議決権をはじめとする株主の権
利が実質的に確保されるよう、適切な対応を行うべきである。
【補充原則1-1-(1)】
取締役会は、株主総会において可決には至ったものの相当数の
反対票が投じられた会社提案議案があったと認めるときは、反対
の理由や反対票が多くなった原因の分析を行い、株主との対話そ
の他の対応の要否について検討を行うべきである。
【補充原則1-1-(2)】
上場会社は、株主総会決議事項の一部を取締役会に委任するよう
株主総会に提案するに当たっては、自らの取締役会においてコー
ポレートガバナンスに関する役割・責務を十分に果たし得るよう
な体制が整っているか否かを考慮すべきである。他方で、上場会
社において、そうした体制がしっかりと整っていると判断する
場合には、上記の提案を行うことが、経営判断の機動性・専門性
の確保の観点から望ましい場合があることを考慮に入れるべきで
ある。
【補充原則1-1-(3)】
上場会社は、株主の権利の重要性を踏まえ、その権利行使を事
実上妨げることのないよう配慮すべきである。とりわけ、少数株
主にも認められている上場会社及びその役員に対する特別な権利
(違法行為の差止めや代表訴訟提起に係る権利等)については、
その権利行使の確保に課題や懸念が生じやすい面があることから、
十分に配慮を行うべきである。

引用 nlsgeu000005lne9.pdf (jpx.co.jp)

■■ CGコード第1章原則の解説 ■■
【原則1-1】(株主の権利の確保)
上場会社は、株主総会における議決権をはじめとする株主の権
利が実質的に確保されるよう、適切な対応を行うべきである。
【解説】
株主への情報公開を意図している。例えば、Timely Disclosure
network(TDnet):東京証券取引所が運営する適時開示情報ネッ
トワーク)で、企業の状況開示を迅速に行うとか、株主総会の招
集通知の早期開示、関連する書面の早期発送などを行う。

【補充原則1-1-(1)】
取締役会は、株主総会において可決には至ったものの相当数の
反対票が投じられた会社提案議案があったと認めるときは、反対
の理由や反対票が多くなった原因の分析を行い、株主との対話そ
の他の対応の要否について検討を行うべきである。
【解説】
株主総会において相当数(20%前後)の反対票が投じられた場合
には、その原因を分析し、分析した結果を株主に公表する。

【補充原則1-1-(2)】
上場会社は、株主総会決議事項の一部を取締役会に委任するよう
株主総会に提案するに当たっては、自らの取締役会においてコー
ポレートガバナンスに関する役割・責務を十分に果たし得るよ
うな体制が整っているか否かを考慮すべきである。他方で、上場
会社において、そうした体制がしっかりと整っていると判断する
場合には、上記の提案を行うことが、経営判断の機動性・専門性
の確保の観点から望ましい場合があることを考慮に入れるべきで
ある。
【解説】
「自らの取締役会においてコーポレートガバナンスに関する役割・
責務を十分に果たし得るような体制」とは次のような例があげら
れる。
(1)各取締役がCGコードを理解し、行動規範に沿って活動する
ことの規定の作成
(2)各取締役の担当執行状況を取締役会で報告することの規定の
作成
(3)上記規定には重要事項報告内容及び報告頻度、時期を明記
(4)取締役会における各取締役間の良好なコミュニケーションと
相互牽制の実施
(5)監査役会の各取締役の執行状況の確認
(6)社外取締役の各取締役の執行状況の確認

【補充原則1-1-(3)】
上場会社は、株主の権利の重要性を踏まえ、その権利行使を事
実上妨げることのないよう配慮すべきである。とりわけ、少数株
主にも認められている上場会社及びその役員に対する特別な権利
(違法行為の差止めや代表訴訟提起に係る権利等)については、
その権利行使の確保に課題や懸念が生じやすい面があることから、
十分に配慮を行うべきである。
【解説】
株主から関係書類の閲覧要求があって場合には原則応じるし、株
主からのその他要求については、法令に従って対応する。
(つづく)

品質経営を考える2 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.460 ■□■
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*** 品質経営を考える2 ***
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世の中の経営トップは、当然のことですが事業業績の向上に経営
目標を置いています。この経営目標を達成するうえで、安全は絶
対的なもので事故は決して起こしてはいけません。加えて法令違
反も起こしてはいけません。しかし、法令違反とはならなくても
社会の規範、多くの人がそうであると考える行動規範に沿うこと
も社会的存在を主張する企業のあるべき姿です。世界には企業の
行動規範と呼ばれるものは幾つもありますが、それにどの程度従
うのかは企業に任されています。

■■ CGコードとは ■■ 
なぜ、CGコードは出来てからまだ10年だというのに、上場企
業の日常業務に絶大な影響力を持っているのでしょうか。それは
いろいろある企業行動規範の中で、CGコードが上場企業のアキ
レス腱を握っているからだと思います。上場企業のアキレス腱と
は、株主総会に上程した議案が否認されることですが、この上程
議案は株主の投票によって決定されます。上場企業の株主数は通
常万に近いか万を超えていますので、株主総会を開く企業には上
程した議案が多数を得るのかは心配になるところです。数年前、
ある有名企業の役員任命の議案が50%ギリギリで通過したこと
があり、マスコミでも大きく取り上げられました。
このときマスコミで報道されたニュースの中に、議決権行使助言
会社の存在がありました。前回も触れました、ISSとグラス・ル
イスという米国の2社ですが、この2社は日本はじめ先進国の多
くに拠点を持っており影響力ある助言をすると言われています。
彼らが助言をする基準の一つがCGコードです。
(図CGコード)

では、CGコードの内容についてこれから説明をしていきます。

■■ CGコード全体の構成 ■■
CGコードは、金融庁/東証(日本取引所グループ)によって運用
されていますが、法律ではないので強制力はありません。会社が、
株主をはじめ顧客・従業員・地域社会などの立場を踏まえたうえ
で、透明・構成かつ迅速・果敢な意思決定を行うための仕組みです。
(図CGコード全体の構成)
赤色で囲んだところは品質経営に直接関係する重要なところです。
次回か、次々回に説明いたします。

■■ CGコードは5章構成 ■■
CGコードは5章構成になっています。2021年に改正された最新
版の章構成は以下の通りです。
 第1章 株主の権利・平等性の確保
 第2章 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
 第3章 適切な情報公開と透明性の確保
 第4章 取締役会等の責務
 第5章 株主との対話
次回から、各章の説明をしていきます。

(つづく)

品質経営を考える1 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.459 ■□■
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*** 品質経営を考える1 ***
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ここまで特採、そして公差設計について述べてきましたが、改め
て日本における品質経営の弱体化について考えてみたいと思いま
す。産業界、特に上場企業で広く認識されている割には一般には
あまり知られていないものにCGコードがあります。CGコード
とは、「コーポレート・ガバナンス・コード」のことで、10年く
らい前にイギリスが作ったスチュワードシップコードから導入さ
れた制度です。
今回「品質経営」の話になぜCGコードを持ち出したかというと、
上場企業の日常業務に絶大な影響力を持っているからです。これ
については後続のメルマガでお話していきます。

■■ CGコードとは ■■ 
CGコードの発端は、2013年アベノミクス第三の矢における「日
本再興戦略Japan is Back」でした。2008年のリーマンショック
以降、金融機関による投資先の経営監視が不十分であったことの
反省から、イギリスではスチュワードシップコードが作成されま
した。スチュワードシップコードは機関投資家が投資をする際に
機関投資家自身のガバナンスをしっかりと管理し、投資家から集
めたお金、あるいは公的資金(例えば年金など)の運用の在り方
に間違いがないようにすることを目的として検討されました。
CGコードは、企業が株主や顧客、従業員、地域社会等の立場を
踏まえたうえで、自身の経営を適正に行うための制度です。
スチュワードシップコードが企業の外部にいる機関投資家の行動
規範であるのに対し、CGコードは企業を対象とした行動規範で
あるといえます。
政府は2014年日本版スチュワードシップコードを策定しました。
と同時にCGコードを策定することを閣議決定しました。2015年
CGコードが策定され、かつ 会社法を改正し(監査等委員会設
置会社の新設、社外取締役を置くことが相当でない理由の開示等)
を追加されました。同年金融庁に 「スチュワードシップコード
及びCGコードのフォローアップ会議」が設置されています。

■■ 上場企業に重要視されている規範 ■■
CGコードは、金融庁/東証(日本取引所グループ)によって運用
されていますが、法律ではないので強制力はありません。しかし、
株主総会における「議決権行使助言会社の議決権行使基準に使わ
れている」ことから、上場企業には無視できない行動規範となっ
ています。そのため、CGコードへの適合は上場企業にとって是
非の問題でなく「受け入れるか、いつ受け入れるか」を明確にし
なければならない切実な課題となっています。上場企業のどこの
代表取締役も「株主総会」を乗り切るためにCGコードは最も重
要な文書であると位置付けしています。
株主総会での議決権行使を機関投資家に助言する(賛成する、反
対する)代表的世界組織は2社あり、いずれも米国本社/日本拠
点の組織です。
株主総会議案の分析をして議決権行使助言をしています。
 ・ISS(Institutional Shareholder Services Inc.)
 ・グラス・ルイス

■■ 議決権行使助言会社の活動 ■■
例えば、2023年、ISSとグラス・ルイスの2社は議決権行使助言
基準を公表しました。いずれもCGコードと整合します。
 ・ISS:取締役会に女性取締役がいない場合、経営トップの取締
役(社長、会長)信任に対し原則反対
 ・グラス・ルイス:取締役選任に関する「取締役会の独立性」と
「ジェンダー・ダイバーシティ」基準を厳格化
上場会社(特にSR/IR担当者)や機関投資家(金融機関・年金基金
・資産運用会社)は、株主総会議案の賛否に影響を及ぼすため 助
言に高い関心を寄せます。最近ではメディアで助言会社がどこどこ
の会社の議案に賛成推奨したとか反対推奨したとか報道されること
もあり、個人株主も助言会社の動向に注目しています。

■■ 6月は株主総会の季節 ■■

以下はhttps://www.businesslawyers.jp/articles/1169からの引用です。

「6月の株主総会シーズンが到来しています。本稿は、株主総会を
目前に控え、議案の賛成率に大きな影響を与え得る議決権行使助言
会社および機関投資家の議決権行使基準を紹介し、その比較・分析
をするものです。
2021年は、3月に改正会社法が施行され、6月にコーポレートガバ
ナンス・コード(以下「CGコード」といいます)が改訂されまし
た。」

2022年4月4日に東京証券取引所の市場区分が変更され、新たに
プライム市場、スタンダード市場およびグロース市場の3つとなり
ました。特に、プライム市場の上場会社は、他の市場区分の上場会
社よりも高度なガバナンス体制が求められ、機関投資家の中にも、
そのような市場区分ごとに異なる内容の議決権行使基準を設定する
ものが現れています。
特に、独立社外取締役の選任については、機関投資家の議決権行使
基準においても、CGコードの原則4-8と同様に、プライム市場の
上場会社に対し、取締役総数の3分の1以上を求めるものが一般的
となりつつあります。

(つづく)

特別採用(トクサイ)を考える10 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.458 ■□■
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*** 特別採用(トクサイ)を考える10 ***
-公差設計3-
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公差設計においては、数多くある部品同士が完全に(100%)互換
性を持つことは厳しすぎるとして、ある確率で互換性のないこと
を認めることが普通です。完全に互換性があることにこだわるよ
りも、例外的に一部の組合せが犠牲になったほうが経済合理性か
らみて有利になるからです。ただ、部品公差を大きくした後にお
いても、完成品の公差には大きな影響を与えないということは重
要なことです。

■■ 経済合理性 ■■
経済合理性とは「経済的な価値基準に沿って論理的に判断した場
合に、利益があると考えられる性質・状態」とGoo辞書には出て
います。ここで注意が必要なのは、「価値基準」がいろいろ解釈さ
れうるということです。特別採用を考えるときには2つの価値基
準があります。一つは買い手側の価値基準です。すでに合意され
ている規格から外れている製品を購入するには、リスクを考えな
くてはなりません。リスクがどの程度あるのかを判断するには時
間も知的労力もかかります。そのリスクと天秤にかけどちらが重
いかを測るものが値引きと顧客納期です。
もう一つは売り手側の価値基準です。規格外れ品を廃棄する費用
がどのくらいかが基準となります。廃棄する費用と天秤にかけど
ちらが重いかを測るものが規格見直し(公差計算など)の知的労
力です。買い手側、売り手側両者の価値基準においてそれぞれに
利益有りと判断されたときに特別採用は成立します。

■■ 公差設計を考える ■■
部品公差をゆるめた結果、部品がすべて公差内であっても、多量
にある部品を無差別に組み合わせたとき、公差外のもの、すなわ
ち不良品が生ずる可能性が増えることに注意をしなければなりま
せん。設計当初の部品の寸法の公差設計について調査しておくと
よいでしょう。以下は日本機械学会の機械工学便覧からの引用で
す。
「公差設計には、各構成部品に対しての公差設定、ある部分の組
み立てユニットに対して各部品のペア部品の公差設定、また各部
品の組み立て後における終局の長さの公差設計などがある。終局
の長さの公差設計については、一種の変動のかさなりとみて、各
部品の公差を直角に足した値を組立後の公差として考えることが、
工作の際の指定公差に対する実際寸法の変動の確率からみて望ま
しい。たとえば部品Aの公差を±aとし、部品Bの公差を±bと
し、この二つの組立後における終局の長さの公差を考えてみる。
部品Aの長さがA+aであることは1,000個に1個くらい、部品
Bの長さがB+bであることも1,000個に1個くらいの割合でし
か起こらないとすれば、このように長いものどうしが組合される
確率は、1/1,000,000しかないことになる。すなわち、終局の公
差を単純に足して((+a)+(+b))という寸法にすると、100万
個に1個ぐらいにしか起きないまれな場合となり、あまりに用心
しすぎると言える、そこで、100万個に1、2個ぐらいの例外は
許すとして、終局の長さの公差を考えると直角に足す方法による
のが、実用的によい基準を与えてくれるのである。ただし、この
方法は各成分が公差の範囲内で独立に変動するという仮定の上に
たって導かれたものである。
直角に足す方法とは、例えば二つの部品の公差が±0.3mm.
±0.4mmだった場合に、終局の長さの公差は、直角三角形の作図
によるか、または、0.3の二乗に0.4の二乗を足してルートで開
いて±0.5mmという値を得る。三点以上の部品の場合も同様な方
法で行われる。
【引用】機械工学便覧 日本機械学会 1966年 改定4版 」

■■ 公差設計まとめ ■■
公差を考えることは製品設計の一部ですが、製品設計で最初に手
がけるものは機能設計です。製品の使用目的を明確にすることの
中から所定の機能を実現すること、あるいは求められる役割を果
たすことを明確にします。機能設計の考え方の基準となるものは、
製造可能であるという当たり前のことですが、最終的に重要なこ
とは消費者が満足するというところに在ることは言うまでもあり
ません。
機能設計の次に行われるのが、生産設計です。構成部品の要素の
公差の設定、最適材料の選択、設計の単純化、現行規格部品、現
用機素の大幅利用、工作上からみた設計構造が何らかの設計変更
によって製品の品質を向上させ、製作を容易にさせ、また経済性
の向上などにわたって生産上有利になるように考えます。公差設
計はこの生産設計の中に含まれます。新製品企画の主として最初
に描かれた機能設計を詳細にかつ批判的に検討し、検討結果をも
とに詳細設計する、というのが製品設計の流れです。
今回の「公差設計のまとめ」として次のようなことを記しておき
ます。公差設計には、基本的に2つの方法があります。
 (1)完全互換性の方法(積み重ねによる考え方)→ Σ計算
 (2)不完全互換性の方法(統計的な考え方)→ √計算
【参考文献】 公差設計入門 栗山弘 2023年 日経ものづくり