トヨタ物語20 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.418 ■□■
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*** トヨタ物語20 ***
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私が諏訪精工舎に勤めていた頃、トヨタの大野耐一氏が会社に招
聘されて、我々社員は彼の講演を聞く機会を得ました。その時
(1970年代)の講演録からお話をさせていただいています。話
はトヨタ生産方式の生まれたころの発想に及んでおり、かんばん
方式、そして人偏のついた自動化へと進んでいきます。以下はす
べて大野氏の話です。

■■ 機械に人間の知恵を授ける ■■
トヨタ生産方式のもう1つの柱とは「自働化」である。「自動化」
ではない。ニンベンの付いた「自働化」である。スイッチさえ押
せば、自動で動く機械は多い。最近は機械が高性能になり、ある
いは高速化しているので、なにかちょっとした異常が起きた場合、
たとえば、機械の中に異材が混入する、スクラップ詰まりをする
と、設備や型が破損するし、タップなどが折損するとネジなし不
良が出はじめ、何10、何100という不良の山をまたたくまに築
いてしまう。

このような自動機械では、不良品の量産を防止することもできず、
また機械の故障を自動的にチェックするはたらきも組み込まれて
いない。そこでトヨタでは、単なる自動化ではなく、「ニンベン
のある自働化」を強調してきたのである。
「ニンベンのある自働化」の精神は、トヨタの社祖である豊田佐
吉翁(1867~1930年)の自働織機の発明を源としている。佐吉
翁の自働織機は、経糸が1本でも切れたり、横糸がなくなったり
した場合、すぐに機械が止まる仕組みになっている。すなわち、
「機械に良し悪しの判断をさせる装置」をビルト・インしてある
のだ。したがって、不良品が生産されることがない。

■■ 自動停止装置付の機械 ■■
「ニンベンのある自働機械」の意味は、トヨタでは「自動停止装
置付の機械」をいう。トヨタのどこの工場においても、ほとんど
の機械設備には、それが新しい機械であれ古い機械であれ、自動
停止装置が付いている。たとえば、「定位置停止方式」とか、「フ
ルワーク・システム」とか、「バカヨケ」その他、もろもろの安
全装置が付加されている。機械に人間の知恵が付けられてあるの
だ。
この自動機にニンベンをつけることは、管理という意味も大きく
変えるのである。すなわち人は正常に機械が動いているときはい
らずに、異常でストップしたときに初めてそこへ行けばよいから
である。だから1人で何台もの機械が持てるようになり、工数低
減が進み、生産効率は飛躍的に向上する。

これを別な面からみてみると人が常についていて異常のときに機
械の代わりをすることは、いつまでたっても異常がなくならない
ということである。古来、日本には「臭いものにはフタをする」
という諺があるが、材料や機械に内在する問題が管理監督者の知
らないところで繕われていては、いつまでたっても改善が進まな
いし、原価は安くならない。異常があれば機械をとめるというこ
とは問題を明らかにするということでもある。問題がはっきりす
れば改善もすすむ。

■■ 機械を止める ■■
私はこの考え方を発展させて、人手作業による生産ラインでも異
常があれば、作業者自身がストップボタンを押してラインを止め
るようにした。自動車は安全性を重視しなければならない製品だ
から、どの工場のどのライン、どの機械をみても正常・異常の別
が明確になっており、きちんと再発防止の手が打たれることが不
可欠である。それで私は、これをトヨタ生産方式を支えるもう1
本の柱としたのである。

トヨタ物語19 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.417 ■□■
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*** トヨタ物語19 ***
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私が諏訪精工舎に勤めていた頃、トヨタの大野耐一氏が会社に招聘
されて、我々社員は彼の講演を聞く機会を得ました。その時(1970
年代)の講演録からお話をさせていただいています。前回、大野氏
は「私はものごとをひっくり返して考えるのがすきだ。」と講演で
述べたところで終えましが、この逆に考えるとこころが大野氏の大
きな特徴です。まさしく真骨頂と呼べる発想だと思います。講演は
トヨタ生産方式のコアの部分、すなわち世の中で有名になった「か
んばん方式」へと続いていきます。

■■ 逆転の発想 ■■
私はものごとをひっくり返して考えるのがすきだ。生産の流れは、
物の移動である。そこで私は物の運搬を逆に考えてみたのである。
従来の考え方は「前工程が後工程へ物を供給する」ことであった。
自動車の生産ラインの上では、材料が加工され、部品となり、部
品が組み合わさってユニット部品となり、最後の組立ラインへ流
れていくなかで、すなわち、前工程から後工程へ進むにつれて、
自動車の体を成していくのである。

この生産の流れを逆にみてみた。いま「後工程が前工程に、必要
なものを、必要なとき、必要なだけ引き取りに行く」と考えてみ
たらどうか。そうすれば、「前工程は引き取られた分だけつくれば
よい」ではないか。たくさんの工程をつなぐ手段としては、「何を、
どれだけ」欲しいのかをはっきりと表示しておけばよいではない
か。それを「かんばん」と称して、各工程間を回すことによって、
生産量すなわち必要量をコントールしたらどうか、という発想と
なった。

いろいろトライした結果、最終的には製造工程のいちばんあとの
「総組立ライン」を出発点として、組立ラインだけに生産計画を
示し、組立ラインで使われた部品の運搬方法も、これまでの前工
程から後工程へ送る方式から、「後工程から、必要なものを、必
要なときに、必要なだけ、前工程に引き取りに行き、前工程は引
き取られた分だけつくる」というやり方を追求することとした。
これにもとづいて、最終の組立ラインに生産計画を示し、必要な
車種を必要なときに必要なだけ欲しいと指示することによって、
組立ラインで使われる各種の部品を前工程へ引き取りに行くとい
う、後工程引き取りの運搬管理方法に逆転させれば、製造工程を
前へ前へとさかのぼり、粗形材準備部門まで連鎖的に同期化して
つながり、ジャスト・イン・タイムの条件を満足させることにな
るわけである。

■■ かんばん方式 ■■
これによって、管理工数も極度に減少させることができる。この
ときに、引き取り、あるいは製造指示の情報として使われるのが、
前にも触れた「かんばん」である。「かんばん」については後に
詳しく言及するが、ここで、トヨタ生産方式の基本の姿を知って
おいてもらいたいのである。トヨタ生産方式の基本思想を支える
のは、これまで触れてきた「ジャスト・イン・タイム」と、つぎ
に触れる「自働化」であり、「かんばん」方式は、トヨタ生産方
式をスムーズに動かす手段なのである。

トヨタ物語18 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.416 ■□■
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*** トヨタ物語18 ***
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トヨタ物語18をお届けします。私が諏訪精工舎に勤めていた頃、
トヨタの大野耐一氏が会社に招聘されて、我々社員は彼の講演を
聞く機会を得ました。その時(1970年代)の講演録からお話を
させていただいています。以下はすべて大野氏の話です。

■■ トヨタ生産方式の2本柱 ■■
トヨタ生産方式の基本思想は「徹底したムダの排除」である。しかも、
つぎのようなそれを貫く2本の柱がある。
 (1) ジャスト・イン・タイム
 (2) 自働化
「ジャスト・イン・タイム」とは、たとえば、1台の自動車を流れ作業で
組み上げてゆく過程で、組み付けに必要な部品が、必要なときにそのつど、
必要なだけ、生産ラインのわきに到着するということである。その状態が
全社的に実施されれば、少なくともトヨタ自工においては、物理的にも財
産的にも経営を圧迫する「在庫」をゼロに近づける事が出来るであろうと
考えたのである。生産管理の面からいってもそれは理想の状態である。
しかし、自動車のように何千個もの部品から成り立っている製品では、す
べての工程を合わせると、その数は膨大なものとなる。それらすべての工
程の生産計画を一糸乱れずに「ジャスト・イン・タイム」の状態にもって
いくことは至難の業である。
生産現場の計画は、変更されるためにあるようなものである。生産計画が
変更される要因を考えてみると、予測の狂い、事務管理上のミス、不良や
手直し、設備故障、出勤状況の変化など、無数にある。これらの要因によ
り、前工程で問題が発生すれば、後工程では必ず欠品などが生じ、好むと
好まざるとにかかわらず、ライン・ストップかあるいはまた計画変更をせ
ざるをえなくなるのである。

■■ 正常と異常の区別 ■■
このような現状を無視して、各工程に生産計画を示すと、後工程とは無関
係に部品が生産され、一方では、欠品がありながら、不要不急な部品の在
庫が山ほどたまるという事態が生ずる。これでは生産の効率は悪くなり、
企業効率を低下させる結果を招く。さらに悪いことには、生産現場の各ラ
インにおいて、正常と異常の状態の区別がつかなくなることである。異常
処理が遅れたり、現実に人が多くてつくり過ぎているのに、それに対して
改善することもできなくなってしまう。そこで、必要なものを、必要なと
きに、必要なだけおのおのの工程が供給を受けるという「ジャスト・イン・
タイム」の条件を満たすためには、かえって生産計画をおのおのの工程に
指示したり、前工程が後工程へ運搬するという従来の管理方法では、うま
くいかないのではないかと考えた。

■■ 常識の反対を考える ■■
必要なものを、必要なときに、必要なだけ供給する「ジャスト・イン・タ
イム」をどのようにしたら実現できるかを私は考え続けた。私はものごと
をひっくり返して考えるのがすきだ。生産の流れは、物の移動である。そ
こで私は物の運搬を逆に考えてみたのである。
従来の考え方は「前工程が後工程へ物を供給する」ことであった。自動車
の生産ラインの上では、材料が加工され、部品となり、部品が組み合わさ
ってユニット部品となり、最後の組立ラインへ流れていくなかで、すなわ
ち、前工程から後工程へ進むにつれて、自動車の体を成していくのである。

トヨタ物語17 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.415 ■□■
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*** トヨタ物語17 ***
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今回からトヨタ物語に戻りたいと思います。私がセイコーエプソン
の前身の諏訪精工舎に入社して数年後のことですが、トヨタの大野
耐一氏が会社に招聘されて、我々社員は彼の講演を聞く機会を得ま
した。その時(1970年代)の講演録からお話をさせていただきます。
以下はすべて大野氏の話です。
日本がJapan as No.1と称される「ものづくり大国」への道をひた
すら歩んでいた頃の話で「品質不正」話の後には一服の清涼剤とし
て耳に心地よいのではないかと思います。

■■ アメリカに追いつけ ■■
私はアメリカのまねがすべていけないといっているのではない。自
動車王国のアメリカから学んだものは多い。QC(品質管理)とか
TQC(総合的品質管理)などのすばらしい生産管理技術や経営管理
技術をアメリカは生み出し、日本はそれらを導入して成果をおさめ
た。IE(インダストリアル・エンジニアリング)もまたしかりであ
る。しかし、これらの技術はあくまでアメリカの風土から生まれた
こと、つまりアメリカ人の努力によって生み出されたものであるこ
とを、日本人は、しかと踏まえておかなくてはいけないと思う。

昭和20年8月15日、この日は日本敗戦の日であり、新たなる出発
のときでもあった。当時のトヨタ自工社長の豊田喜一郎氏(1894~
1952年)は「3年でアメリカに追いつけ。そうでないと日本の自動
車産業はなり立たんぞ」と言われた。そのためにはアメリカを知ら
なければならなかった。アメリカに学ばなければならなかったはず
である。昭和12年ごろ、私は当時、豊田紡績の紡績現場にいたが、
ある人から、日本とアメリカの工業の生産性は1:9であると聞い
た。最初、その人がドイツへ行ったとき、ドイツ人は日本人の3倍
の生産をしていると言っていた。そしてドイツからアメリカへ行っ
たら、ドイツとアメリカが1:3だった。だから、日本とアメリカ
とは1:9だということになったのである。アメリカ人が1人でや
ることを、日本人は9人もかかっていると聞いて、大いに驚いた
ことを記憶している。

■■ 日本の生産性 ■■
昭和20年、進駐軍が上陸して間もなく、マッカーサー元師によっ
て日本の生産性はアメリカの8分の1であることを知らされた。そ
れでは戦争中に9分の1から8分の1になったのかなと思ったが、
とにかく豊田喜一郎社長は、3年で追いつけという。3年で生産性
を8倍なり9倍あげるのはたいへんなことではないか。100人で
やっている仕事を10人でやらなければだめではないか。しかも、
8分の1とか9分の1というのはあくまでも平均値であって、ア
メリカでもっとも発達している自動車産業に比べれば8分の1程
度ではむろんないだろう。しかし、アメリカ人が体力的に10倍の
力を出しているわけでもあるまい。日本人は何か大きなムダなこと
をやっているにちがいない。そのムダをなくすだけで、生産性は
10倍になるはずだと考えたのが、今のトヨタ生産方式の出発点で
あった。

品質不正への有効な対策6 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.414 ■□■
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*** 品質不正への有効な対策6 ***
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前回、問題の発生(今後発生するかもしれない問題も含めて)に続
いて行うことは、起った時の「状態」の確認、把握であると言いま
した。第三者委員会報告書に書かれている8項目の要因は、私の観
点からは要因ではなく、品質不正の起きた時の「状態」を記述して
いるのではないかと思います。

■■ 状態の把握 ■■
状態とは、読んで字の如くある状況における様態を言います。辞書
には「事物が、その時にそうなっている、ありさま」と出ています。
品質不正が起きた状態はどのようにして把握するのでしょうか。多
くの第三者委員会報告書には関係者とのインタビューによって状態
(報告書では要因と言っている)を把握したと書かれています。
「状態の把握」には、起きたことに関する周辺情報を集めることが
必要ですので、関係者のインタビューは必ず行われなければなりま
せん。しかし、特定の人のインタビューですと答える人の意識、認
識及び先入観などに拠ることになりますから、必ずしも事実を捉え
たものとは言えないリスクがあります。そこで多数の人のインタビ
ューにより、人によるバラツキを考慮に入れた把握が必要になりま
す。
例えば8項の最初に出てくる「コンプライアンス意識がない」とい
うということは、まさしく不正が起きた時、それを見逃した時、あ
るいは拡大させたときの状態を表現していると思います。多くの人
にインタビューして、当時の時を思い出していただき包括して表現
しています。

■■ 観察の必要性 ■■
事実を把握するために「観察」が必要です。これには、目で見る観
察も、科学的な測定・分析(フォレンジック:法的な証拠を見つけ
るための鑑識捜査392号参照)も含まれます。人が何を考えどうい
うつもりで何をしたか(人の思考プロセス)についても上手な「質
問」によって、どんな状況でどんなことが起きたのかを知ることが
可能になります。品質不正の代表的な状態は今まで説明してきたも
の(5項)を含め次の8項であると言えます。
1.コンプライアンス意識がない。(401号)
2.品質保証部門が機能不全を起こしている(402号)。
3.人が固定化され、業務が属人化されている(403号)。
4.収益偏重の経営がされている(404号)。
5.監査が機能していない(411号)。
6.工程能力がないのに生産している。
7.管理がされていない。
8.教育がされていない。

■■ 要因の抽出 ■■
次のステップに行きますが、それが「要因の抽出」です。要因を
抽出する基本は、「比較(何が違い、何が同じか)」と「変化(い
つから何が変わったか)」ではないかと思います。
前回、四季の変化を例に挙げて状態が時間の経過と共に変ってい
くことをお話ししました。不正が起きたときの状態を比較すると
変化を知ることが出来ます。起きた不正の状態は基準と比較して
どんなことが言えるのか、すなわち基準に照らして変化を観察す
ることで要因の抽出が出来ます。不正の状態を知るためにどんな
基準を使うか検討します。四季の変化を例に挙げれば、春を基準
にすると夏は暑い、秋は同じ、冬は寒いなどと気温の程度を比較
でき、その変化がどうして起きるのかを解明することで要因を抽
出します。変化はどんな力で起きたのかを洞察することで「要因」
が浮かび上がってきます。四季の変化で状態が変わるのは、例え
ば「地球と太陽の位置関係」であるといった具合です。水の状態
は氷、水、蒸気と変化しますが、要因は環境の温度です。