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「リスクマネジメント」「危機管理」 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』 Vol.43 ■□■

*** 「リスクマネジメント」「危機管理」 ***

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テクノファ代表取締役の平林です。

 震災後3ヶ月が過ぎようとしておりますが、夏が近づくにつれて電力不足、
放射能問題での生活への影響がじわりじわりと広がってきているように
感じている毎日です。

 また、まだまだ続く被災された皆様の復旧復興への道のりを少しでも
ご支援できたらと思っております。

 今回の東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所の問題で、
今後の日本の経済活動を考える上で重大な事象が、我々の目の前に
提示されていると思います。

 正直に申し上げますと、今回の大震災の後、

『QMSまたはEMSがうまく活用していたので復旧がうまくいった』とか、
『被害が少なく抑えられた』という話は、あまり聞こえてきません。

 実際、皆さんQMSやEMSどころではないのでしょう。

 ISOマネジメントシステムに係る一人として、少々寂しい気持ちでは
ありますが、これが今の日本の「ISO業界の実情」ではないかと考えます。

 では、なぜこのようになってしまったのでしょうか。

 この議論は各所でなされているので、持論をお持ちの方も多いと
思いますが、私なりに以下の三つの側面から考察してみたいと思います。

●個別のマネジメントシステムとして捉えてしまっている
●経営に活用しようという視点が不十分
●「人」の視点

■□■ 個別のマネジメントシステムとしての対応 ■□■

 QMSならQMS、EMSならEMS。

 それぞれのマネジメントシステムは、規格要求事項が定められ、製品実現、
運用管理の部分のみならず、文書管理、内部監査、マネジメントレビューなど、
組織運営に必要な事項が網羅されています。

 よって、その要求事項に適合するシステムを作り上げ、それに基づく
運用を行っていけば、審査において基本的に困ることはなく、無事に
認証を得ることができます。

 それによって、QMSなり、EMSなりを単独運用している間は、まだ問題は
起きませんが、組織のシステム活用状況が進んでいく、取引先からの要求が
増える、などの状況変化により、複数のマネジメントシステムを運用して
いくようになると、弊害が現れてきます。

 例えば、文書体系一つとっても、QMS用、EMS用と似たようなものなのに、
複数の体系が出来上がることになってしまうのです。

 審査対応を考えると、この方が管理しやすいことは理解できるのですが、
現場の方々のことを考えると、これでは業務に支障をきたすリスクを
抱えることになってしまいます。

 あくまで、両マネジメントシステムに共通する部分は共通化して、両文書の
つながりを持たせておかないと、それぞれが一人歩きして、手間ばかりが
掛かり、さらには形式的な運用に陥ってしまいます。
  

■□■ 経営に活用しようという視点 ■□■

 QMSにしろEMSにしろ、取引先から認証取得を要請されたので取り組んだ、
という組織が多いことも事実であると思います。

 ですが、誰もが分かってはいることなのですが、今一度考えてみましょう。

 経営の主体はだれでしょうか。

 それはお客様ではなく、間違いなく、「組織」自身です。

 そうであれば、経営者にとって大事なことは、

    どのような経営がしたいのか?
    どのような会社にしたいのか?

 ということを明らかにした上で、日々の経営に当たるということです。

 
 ありたい経営・組織の姿を明確化することによって初めて、

    そのために何をすれば良いのか、
    どのようにすれば良いのか、

 という疑問にあたります。

 その視点で経営者のみならず、マネジメントシステムに関わる
全ての人が考えることが出来れば、

内部監査やマネジメントレビューの機会を活用して、経営者が
どのような将来像を描いているかを問いかけたり、あるいは引き出したり
する機会は、ISOの活用場面では色々なところにあるのです。

 繰り返しますが、

QMS・EMSの認証取得のために経営があるのではありません。

経営のために、QMS・EMSの認証取得という選択肢があるのです。

そのツボさえ外さなければ、
複数のマネジメントシステムをつなげるという意識でもって、
日頃の組織活動が生まれてくるのです。
   

■□■ 「人」の視点 ■□■

 最後のポイントです。

マネジメントシステムを活用するのは誰でしょうか。

愚問でしたね、

当然、組織の構成員、つまり「人」となります。

 どのマネジメントシステム規格の中でも、人(人的資源)に関する
要求事項は存在します。(← と言い切って大丈夫でしょうか???)

 しかし、これも要求事項という視点から見てしまうと、如何にその枠組みに
組織の構成員をはめ込むか、従わせるか、という視点に陥ってしまいます。

 それでは本末転倒、

あくまで、人ありきで、その人々が前向きに、成果を上げやすくしていくために、
マネジメントシステムを使わねばならないのです。

そこに必要な視点は、「人は時間を掛けてじっくり成長していく」という
ポイントです。

 一朝一夕に人は変わるものではありません。

じっくり、じんわりと種まきをしていくことでいつか花が開くのです。

成果が出るのを、焦ってはいけないのです。

そのために大事なことは主体性を引き出すということです。

さて、以上で3つの視点である、

●個別のマネジメントシステムとして捉えてしまっている
●経営に活用しようという視点が不十分
●「人」の視点

を一通り考察してみました。

■□■ マネジメントシステムをつなげる仕組み ■□■   

 長くなりましたが問題は、ここからです。

 これらのことが分かった上で、マネジメントシステムを
つなげる仕組みとして大事なことは何か、

 基本はPDCAを回す、ということですが、そのことに加えて、
私は、それが今回の大震災及びその後の問題から感じた、

    「リスクマネジメント」
    「危機管理」

の視点だと思っています。

リスクマネジメント → 危機が起きる前に対応する未然防止
危機管理      → 危機が起きた後に行う対処

と、扱う視点は同一ですが、その狙うところ、活用する時期が
全く異なります。

 組織の活動は、あくまで、継続してなされることを想定して
組み立てられていますし、お客様の期待もそこにあります。

 その根本的なところを抑えるのが、リスクマネジメントであり
危機管理であるわけです。

 それらがベースとしてあり、その上で更に両者の信頼関係を
構築する上で、QMSやEMSがあると考えることが重要なのです。

 そして、今回の大震災を機に、各所で聞かれる度合いが増した

            BCP(事業継続計画)

というものが、その活用ツールとして存在価値を増すと思っています。

 もちろん、事業継続マネジメントシステムの規格であるBS25999を
表面的に見てしまうと、そのような発想にはならないと思います。

 ですが、あくまで 『組織の経営』 という視点でこの規格をじっくり
見てみるとこの規格の中には、新たな気づきがたくさんあります。

 私自身、このBS25999規格については、改めてじっくり研究して
みたいと思っています。

 機会を改めて、またそのお話をさせて頂く予定にしております。

BCMS | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』 Vol.17  ■□■
   *** BCMS ***
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テクノファ代表取締役の平林です。
最近「BCMS」という言葉を耳にします。
今回も宜しくお願いいたします。

■□■ 「BCMS」とは ■□■

BCMSは“Business Continuity Management System”の略で、
日本では「事業継続マネジメントシステム」と呼ばれています。

その中核にあるのは、BCPです。“Business Continuity Plan”
の略で「事業継続計画」と呼んでいます。事業継続計画は、
何らかの不測の事故、災害などにより組織の工場、施設、情報網
などが打撃を受けても、事業を中断させないか、又は中断した
場合には早急に回復させるための計画です。

もちろん即刻100%の状態に復旧させることは困難です。被害の
程度によって、またどんな原因による事業停止なのかによって
打つ手は変わってきます。

事故、災害などから被害を受けた事業所の操業度(製品供給量
など)はその時点で急落し、被害が大きい場合には操業不能な
状況に陥ります。

事故、災害などの発生から時間がたつにつれて操業度は回復して
いきますが、回復時間が長くなればなるほど損失は大きくなって
いきます。

平穏な時に、事故、災害などを想定しておいて、起きたときの
手の打ち方をマネジメントシステムとして構築しておこうと
いうものです。

■□■ BCP規格 ■□■ 

ISO/TC223社会セキュリティ(Society Security)では、総ての
組織を対象に、自然災害、テロなどから組織を守るための危機
管理、事業継続に関する国際統一規格を検討しています。

WG1/TG1(Working Group1/Task Group1)においては、緊急事態
準備としてのBCPに関する規格を開発中です。

TC223では既に、ISO/PAS22399(社会セキュリ
ティ 緊急事態準備と業務継続マネジメントガイドライン)を
2007年11月に発行済みです。

BCPに含まれる項目としては次のものが上げられています。
1.リスクの想定
 リスクは組織ごと異なるため、自ら想定する。
 (例)鳥インフルエンザ;養鶏業者、自然災害(地震、台風)、
 新型インフルエンザ、人的災害(ミス、事故)、犯罪(テロ、
 愉快犯)ほか
2.影響分析
 ビジネスインパクト、人的安全、設備被害、ボトルネックの
 特定、信用・契約への影響
3.コア業務の選定
 組織/事業として、どの業務を優先して継続しなければなら
 ないか
4.事業継続のための計画の立案
 復旧目標時間の設定、指揮命令系統の整備、連絡体制の確立、
 情報インフラの整備、調達計画の策定など
5.実施可能な体制整備
 対策のマニュアル化、BCP担当者の育成
6.継続的改善
 内部監査などにより不備の発見、対策実施、改善歯止め

■□■ BCP国際規格の企業への影響 ■□■

組織(一般企業)へのBCP国際規格の影響については、経済産
業省産業技術環境局基準認証ユニットの勉強会で次のような
可能性があると指摘しています。

1.グローバルサプライチェーンの中でBCPの策定が商取引の
 条件になる可能性
2.BCPの策定状況を公表することで組織の価値に格差が生じる
 可能性
3.ステークホルダーからの策定要求が生じる可能性
4.本社機能、工場の代替を確保する、事業部の序列化などの
 制度導入を余儀なくされる可能性
5.既に策定済みのBCPを国際規格に整合させられる可能性

■□■ BCMS関連セミナーのご案内 ■□■

テクノファでは、BCMS審査員資格拡大研修コース(TT18)を開催
しています。そのコースはIRCA承認申請中で、コースの詳細は
下記をご覧下さい。
http://www.technofer.co.jp/training/isms/tt18.html
至近の開催日程には、2009年9月20日(日)~22日(火)、
2009年10月13日(火)~15日(木)があります。

■□■ BCPの成功事例 ■□■

BCPの策定をしていて効果を発揮した事例を紹介します。2007年
の中越沖地震の発生において、BCPの策定が効果を上げた例
です。2004年の地震を経験してBCPを作成した事がきっかけ
だったとのことです。

BCPは大企業を中心に整備が進められていますが、下記事例
に示すような中小企業においても取り組みを進められ成果を
上げています。

<金型加工メーカー 米谷製作所 (新潟県柏崎市)の例>
1.被害の概要
 棚の転倒などがあったが、事前対策の効果もあり、機械転倒な
 どの大きな被害はなし
2.事前の対策
 工場や大型機械の基礎強化
 ノウハウ継承を目的としたパソコンでの情報共有マニュアルを
 整備
 設備復旧などの情報の共有、防災勉強会の開催
3.災害時の対応
 発災当日は、物が散乱する中、避難路を確保し、全員の安全
 確認
 翌日には出社可能な職員による復旧作業
4.効果・評価など
 発災翌日の午後には、生産を再開し、出荷を開始
 新潟県や経済産業省も、BCP普及の弾みになるなどとして高く
 評価
 (出典:日本経済新聞 2007年7月19日)