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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.54 ■□■
*** マネジメントシステム規格共通文書3 ***
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■□■ 共通テキスト化のポイント ■□■
ISO/IEC Directive の附属書SLに組み込まれたMSSのポイントは
5つあるとして、前回までにそのうち1.2.について述べました。
1.どのMSSにもある普遍的な箇条の文章が共通化されたこと。
2.MSSの構造の統一と用語定義の共通化がなされたこと。
3.MSSを導入する前提を明確にすることが問われるようになっ
たこと。
4.要求事項をビジネスプロセスに統合することが要求されてい
ること。
5.リスクの考え方が導入されたこと。
1.2.で述べきれなかったこととして、より容易な文章で規格が
作成されたということを追加して説明します。
■□ 日常のビジネス用語で規格の要求を述べる ■□
例えば、箇条「6.2 XXX目的及びそれを達成するための計画策定」
には、次のような一節があります。
・ what will be done
(何がなされるのか)
・ what resources will be required
(どんな資源が必要とされるのか)
・ who will be responsible
(誰が責任をもつのか)
・ when it will be completed
(いつ終了するのか)
・ how the results will be evaluated
(どのように結果は評価されるのか)
このように、5W1Hを使用した要求事項は今までの
ISO規格にはなかったものでした。
同様な例が、「7.4コミュニケーション」にもあります。
・ on what it will communicate
(何についてコミュニケーションするのか)
・ when to communicate
(いつコミュニケーションするのか)
・ with whom to communicate
(誰とコミュニケーションするのか)
このように我々が日ごろの業務の中で使用している
用語を使用しての規格は、なじみやすく、従来よりも
多くの人に理解されるといってよいであろう。
■□ ×××MSSを導入する前提を明確にすること ■□
従来のISO規格にはなかったものとして、
「組織はなぜ×××MSSを導入するのか」
「組織を取り巻く状況はどのようなものか」というようなことを
明確にするように規格は要求しています。
まず問われているのは、組織の目的に関連した外部、
内部の課題を明確にすることです。
ここで気を付けなければならないことは、目的の原文は
“purpose”であり、”objectives”ではないということです。
ちょっとややこしいが、今回の日本規格協会の翻訳では、
“purpose”も”objectives”も同じ「目的」と翻訳されています。
国内審議で幾多議論された結果であるが、今後の出版物には
背景と注意を喚起するとしています。
以下は今回の翻訳(日本規格協会、ホームページ)について、
日本規格協会が原文にない部分として追加した3.08注記4です。
(規格開発者への注記 この文書はマネジメントシステムの中での
統一した用語の使用を推奨していることから,この文書内における
目的(objective)には,一貫して“目的”という訳語をあてています。
他方,既存のJISでは,日本語と英語の語彙の違い,
各マネジメントシステムにおける分野固有の背景及び
規格内の文脈との関係などの理由から,
目的(objective)に対して分野固有ごとに異なる用語が
使用され,広く一般化しているという現状もあります。
<例>
JIS Q 9001では“(品質)目標”,JIS Q 14001などでは“目的”が
それぞれ使用されています。
このため, 各分野固有のJISにおいては,分野固有の背景,
文脈などを踏まえて,“目的”又は“目標”のいずれかを
選択することが望ましい。
また,その選択の背景などについては,JISの解説に記載し,
規格利用者に対して説明することが望ましい。)
「4.1組織及びその状況の理解」、「5.2方針」、
「5.1 リーダーシップ及びコミットメント:注記」の3か所にある
「目的」は原文がpurposeです。
他の所、例えば「5.2 方針」2番目の「目的」、
「6.2 XXX目的及びそれを達成するための計画策定」などの
個所にでてくる「目的」の原文は“objectives”です。
■□ ドラッカーは“purpose”と”objectives”を
このように説明している ■□
ドラッカーは、目的(purpose)について次のように述べています。
“To know what a business is we have to start with its
purpose.
Its purpose must lie outside of the business itself.
In fact, it must lie in society since business enterprise
is an organ of society. There is only one valid definition
of business purpose: to create a customer. P.F.Drucker
“Management : Tasks, Responsibility, Practices、1973年”
「企業とは何かを知るためには、企業の目的から
考えなければならない。
企業の目的は、それぞれの企業の外にある。
企業は社会の機関であり、その目的は社会にある。
企業の目的の定義は一つしかない。
それは、顧客を創造することである。
上田惇生編訳、ダイヤモンド社、2001年」
purpose とobjectivesの関係については、ドラッカーは次のように
言っています。
“From the definition of its mission and purpose a business
must derive objectives in a number of key areas; it must
balance these objectives against each other and against the
competing demands of today and tomorrow.”
“Defining the purpose and mission of the business is
difficult, painful, and, risky. But it alone enables a
business to set objectives, to develop strategies, to
concentrate its resources and to go to work.”
「事業の“ミッションとpurpose”の定義から、主要な幾つかの
領域におけるobjectivesを導き出さなければならない。
今日と明日とでは競合する要求及び相互のobjectivesについて
バランスを取らなければならない。」
「事業の“purposeとミッション”を定義することは、難しく、
苦痛で、リスクを伴う。
しかし、“purposeとミッション”のみが事業のobjectivesを設定し、
戦略を展開し、資源を集中し、活動することを可能にする。」
このようにドラッカーは、“purpose”とは
組織の外にあるものであり
“objectives”の上位に位置するものである、と説いています。
以上