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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』 Vol.41 ■□■
*** 原子力発電所ー使用済核燃料プールとは ***
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テクノファ代表取締役の平林です。
先の臨時号メールに誤った記述がありましたのでお詫びするとともに
修正させていただきます。
「(新たな問題として東京電力福島第一原発の)1、2、3、4号機の
原子炉圧力容器、原子炉格納容器破損という極めて重要な事故が
勃発しております。」は誤りでした。
※※※※※ 以下に修正させていただきます。※※※※※
「2号機の圧力抑制室(サプレッションチャンバー)の一部損傷の
可能性が高くなっています。」
謹んでお詫び申し上げます。
■ 東京電力福島第一原子力発電所の3号機を巡る報道は皆さん
ご存知のことと思います。
私は専門家ではありませんが、現在の原子力発電所の問題に
ついて知っていることをお話したいと思います。
■ 使用済核燃料プールからどうして熱が出るのか、そもそも
原子炉圧力容器内にある核燃料と使用済プールにある核燃料
との違いは何なのでしょうか。
原子炉圧力容器内にある核燃料はコントロールされた状態で
核分裂をしています。
それに対して使用済プールにある核燃料は核分裂していません。
しかし、核分裂していないにもかかわらず既に出来た物質
(核分裂生成物)が放射線を出しながら崩壊熱を放出しています。
核分裂生成物は不安定な物資で、安定しようとして崩壊をします。
例えば、原子核はアルファ粒子(陽子2つ、中性子2つの、
ヘリウム4の原子核)を放出し、原子番号と中性子数を2減らします
(質量数が4減る)。
これをα崩壊といいますが、その際に熱と放射線(α線)を出します。
また、中性子が電子(ベータ粒子)を放出して原子核の陽子になり、
一つ重たい原子核になるβ崩壊という現象もあります。
さらに、原子番号や質量数が変わらない崩壊もあります。
これはγ(ガンマ)崩壊と呼ばれており、高いエネルギー準位から
低いエネルギー準位に遷移する際に、熱とガンマ線を放出して
安定な原子核へと移行します。
■ 核燃料は「核分裂のエネルギー」、「核分裂生成物が崩壊する
際のエネルギー」の両方を出します。
原子炉圧力容器内の炉からは、核分裂のエネルギーと核分裂
生成物が崩壊する際のエネルギーの両方が出ています。
しかし、使用済核燃料プールからは核分裂生成物の
崩壊エネルギー(崩壊熱)だけが出ています。
もちろん、これらのエネルギーには放射線が伴っています。
■ 崩壊熱を冷却したり、放射線を遮蔽するためには、
核分裂生成物を含む燃料棒を大量な水に浸す必要があり
ます。これを行っているのが使用済核燃料プールです。
原子炉では水の次の3つの優れた性質を活用しています。
① 冷却機能
② 放射線遮蔽機能
③ 核分裂促進機能(減速材)
①については説明を要しないと思いますが、
②については水は4mほどの厚みで放射線をほぼ遮蔽します。
③については若干話が複雑です。核分裂は水があることで
促進されます。
核分裂によって新しく発生する中性子は非常に高速です。
スピードを遅くしてやると核分裂が促進されます。
減速能力の高い水を核分裂促進材として用いているのです。
■ 適切に水に浸されていると、放射線は外に出なくなりますし、
水温は水の循環冷却により通常40度くらいに保たれていますが
水を冷却するシステムが機能しなくなっているのが現在の
状況です。
使用済燃料から出る放射線を遮蔽できなくなる状況が発生して
いると考えられます。
使用済核燃料プールが怖いのは、原子炉圧力容器内にある
核燃料と異なり格納容器という閉じ込め容器の外側にあり、
遮蔽する防御壁が原子炉建屋(コンクリート製)しかないという
点です。
また、使用済燃料プールは、原子炉圧力容器から核燃料を
プールに移動するに水に浸けて行いますが、プールは高所に
設置されておりいろいろな処置を取る上で一つの課題になって
います。
昨日、自衛隊のヘリによる放水、警視庁及び自衛隊による
地上からの高圧放水車による放水が行われました。
これは水の放射線遮蔽効果、すなわち上で説明した②の
目的で実施しているのです(と同時に①の目的もある)。
関係者皆様の決意、ご努力に心から敬意を表したいと思います。
以下、ご参考までに、多少理論的なことを含む原子力発電に
関するお話をしたいと思います。
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□ 核燃料の防御
核燃料はウラン235を濃縮して、全体の3~5%くらい(残りは238)
にまでにした濃縮ウランをペレット状に焼き固めて作られています。
このペレットはタバコのフィルター位の大きさ(直径、高さとも1cm
くらい)のセラミックで「さや状の筒」(被覆管といいます)にぎっしり
と積み上っています。
積み上ると表現したのは、長さ4mくらいのジルコニューム製の
被覆管に入っているからです。
この核燃料の入っているジルコニューム被覆管は何重もの
防御壁に厳重な守られています。
ジルコニューム被覆管の周りは原子炉圧力容器と呼ばれる
約15~30cm厚もの鋼鉄で囲われ、その周りは原子炉格納容器と
呼ばれるこれまた数cm厚の鋼鉄で囲われています。
その囲は厚い(2m程度の厚さ)コンクリート原子炉建屋に囲われて
います。
□ 原子爆弾との違い
基本的にはウラン235の濃縮度が異なります。
原子爆弾は、一瞬のうちにほとんどのウランを核分裂させるために、
ほぼ100%のウラン235を使用し、核分裂を爆発的に連鎖して引き
起こさせる構造をもっています。
それに対して、原子炉圧力容器内にある核燃料は、核分裂する
ウラン235は3~5%しか含有しておらず、残りは核分裂しない
ウラン238です。
原子炉内では核分裂の数をゆるやかに一定にして、連続して
継続的に連鎖して反応させるような構造にしてあります。