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附属書SLとISO27001,次期45001 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.77■□■

*** 附属書SLとISO27001,次期45001 ***

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■□■附属書SLとISO27001■□■

 フォーラムの続きです。
(昨年テクノファ年次フォーラムでは附属書SLに関して、
 有識者の方に集まっていただいてパネルディスカッションを
 行いました)

 フォーラムの時の様子をお伝えしますが、出席者の方の発言は
平林の責任で編集させていただいています。

平林(テクノファ):
 次は高取さんにISO/IEC 27001についてうかがいます。
 附属書SLに基づいて既に改正版が出ていますね。

高取敏夫さん(JIPDEC:日本情報経済社会推進協会):
 ISO/IEC27001の改正版はもう発行されていますが、
 まず中身についてはですが、ほとんど附属書SLに準拠しています。

 ただし、吉田さんがご指摘したように、「リスクと機会」を
 どう扱うのかは非常に悩ましいところでした。

 結論から申し上げますと、2005年版にあるリスクマネジメントや
 リスクアセスメントの考え方で、既に世界中で数千もの組織が
 現実に仕組みを構築し運用していることを重視しました。

 この事実を受けて、今回出たISO/IEC27001の2013年改正版においては、
 あくまでも2005年版の考え方は変えないというスタンスで改正を
 進めてきています。

 もちろん改正作業では他にもいろいろ議論になりました。

 2005年版のセクター固有の扱いについてどうするかですが、
 会合でのメンバー間の意見は非常に揺れました。

 例えば「リスクのアセスメント対応に関する要求事項の位置付け.」は、
 箇条6、箇条8のどちらにするのか。

 2005年版のマネジメントシステムでは、最初のいわゆるシステムの
 確立のところでリスクアセスメントを求めており、
 この点との整合性が議論されました。

 最終的には議論を重ねて、附属書SLの4.1、4.2、6.1、8.1が、
 一連の関係性がある構造を持っているということで合意しています。

 附属書SLによる改正作業の関連資料として、ISO/IEC27001に関して
 固有の要求事項を整理して分かりやすくするために、
 「要求事項のマッピング」という資料を作っています。

 ISO/IEC/JT1/SC27として作成したもので、
 これを参考に附属書SL規格の要求事項に対応していける、
 あるいは包含されているとご理解いただければと思います。

■□■附属書SLとISO45001■□■

平林:
 私からは、労働安全衛生マネジメントシステム規格
 IS045001に関して紹介します。

 これも附属書SLに準拠して開発が進められることが決まっています。
 IS045001規格はOHSAS18001に変わるOHSMS規格です。

 ISOは、1997年ころから、労働安全衛生の国際規格への
 英国BSI提案の採用可否の投票を行いましたが、
 ILOの反対により10年以上採択されてきませんでした。

 今回(2013年)、OHSAS18001に代わる新しい労働安全衛生の
 国際規格を制定するための専門委員会ISO/PC283が設立されました。

 これはILOがISOの労働安全衛生の国際規格を支持することに
 なったからであるといわれています。

 ILOが賛成に回ったのは、
 OHSAS18001の認証数が世界で10万件にものぼり、
 世界の労働災害を減少させるにはこのISOの認証制度を活用することが
 有効であると考えたからであると思われます。

■□■OHSMS規格とローベンス報告■□■

平林:
 OHSAS18001労働安全衛生マネジメントシステム規格は、
 1970年代に英国のローベンス卿が提唱した
 (ローベンス報告として有名)コンセプトが有名です。

 当時の行政は、労働安全衛生はもっぱら規制によって
 コントロールしようとしました。

 それに対して、当時としては画期的な発想として
 組織の自主的取組を採用するという概念が発表されたのです。

 英国では18世紀にはじまった産業革命に端を発して、
 急激に近代産業が発展したが、それに伴い産業界における事故、
 災害の増大が大きな社会問題となっていきました。

 当時は、この労働災害を減少させるには
 強制的に労働環境を規制することが最も効果的で、
 19世紀~20世紀前半には次から次へと新しい法律が作られました。

 しばらくはこの方法で災害を封じ込めたが、
 法律があまりに多くでき、行政も効果的に管理をすることが
 できなくなり、20世紀に入ると上述したローベンス報告が
 提唱されるようになったのです。

■□■やはりリスクと機会が焦点■□■

平林:
 2013年10月、lS045001を担当するPC283の初回会議が
 ロンドンで開かれました。

 ここでは早速「リスク」の定義がいろいろ議論されました。

 結果から申し上げると、附属書SLの3.09リスクの定義は
 「不確かさの影響」となっていますが、

 これとは別に「OHSリスク」という定義を追加することで
 合意しています。

 今後、この考えで規格本文の作文に入っていきますが、
 このOHSリスクに関しては、古典的な定義として、

 例えば、Severity(事象の起こった結果の大きさ)と
 Possibility(起こる確率)との組み合わせで、
 掛け算や足し算をするリスク評価方法を採用しようとしています。

 まだ1回目の会議なので最終的にどうなるかは分かりませんが、
 PC283ではこのリスクの定義を使っていこうとの話になっています。

 ISOでは、各専門委員会の独立性が強く
 他の委員会の動きは気にしないといった雰囲気はあるものの、

 IS045001の発行予定が2016年となっているので、
 IS09001やISO14001の2015年版の内容を見て、
 という雰囲気もあります。

以上

附属書SLと次期の改正 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.76■□■

*** 附属書SLと次期の改正***

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■□■附属書SLとISO14001■□■

フォーラムの続きです
(昨年テクノファ年次フォーラムでは附属書SLに関して、
 有識者の方に集まっていただいてパネルディスカッションを行いました)。

フォーラムの時の様子をお伝えしますが、
出席者の方の発言は平林の責任で編集させていただいています。

平林(テクノファ):
 ではISO14001について吉田さんに附属書SLの影響をうかがいます。

吉田敬史さん(グリーンフューチャー社長):
 まず、ISO14001改正の進捗状況ですが、ISO9001より先行していたはずですが
 現状では追い抜かれています。

 その理由は附属書SLにあります。

 実はISO14001改正の議論の場には、当初附属書SLの正当性に対して
 疑問を抱くメンバーが相当数いました。

 意図的に逸脱を入れ込もうといった雰囲気さえあったのです。

■□■附属書SL成立の正当性■□■

平林解説:
 逸脱とは「附属書SL」に定められている「MSSの箇条タイトルと
 順番(規格構造)」、「用語定義」、「文章」を順守しないことをいいます。

 用語定義、文章を追加することは許されています。

 ただし、文章追加についてはいろいろなやり方がこれまで行われています。

 例えば、追加規模の大きい順に説明すると次の通りです。

 (1)細分箇条(例えば、4.1の下にある4.1.1をこう呼ぶ)を
  タイトルも含めて追加する。
 (2)ビュレット(・とか -とか a)とか をいう)を追加する。
 (3)デフォルト(既に書かれている)文章の中に単語などを追加する。

吉田さん:
 こうしたいわば反対勢力と附属書SLを認めるメンバーとの
 議論のせめぎあいが続き、時間が掛かったのが真相です。

 日本は欧州と歩調を合わせて認める立場をとり、
 2013年2月のスウェーデン会合でようやく認める勢力が主導権を
 握れる状況にこぎ着けました。

 正当性を疑問視することには理由があって、
 今同附属書SLは28ヵ国の投票で、賛成19、反対6、棄権3で、
 棄権を除くと、反対が24%です。25%以上だとlSOガイドとして
 成立しなかったので「ぎりぎり」承認されたわけです。

 ISOの投票では、Pメンバーとして参加している国数によりますが、
 通常50~60ヵ国くらいが参加します。

 今回はその半分の28か国ですので、この投票総数の少なさも
 理由の一つです。

平林解説:
 こうした規格の投票ルールは、ISO/IEC Directivesの中で
 決められていますが、例えば、ISO9001を議論する主要メンバー国が
 約90か国あることを考えると、投票した国が28か国と言うのは
 いかにも少ないといえます。

吉田さん:
 さらに今回の一連の経緯は、従来のボトムアップのコンセンサスを
 ベースとしたISOの議論プロセスとはまったく異なるもので、
 ガイドとして作られたものがコンセンサスのプロセスを経ないで、
 突然附属書SLになりました。

 そして、すべてのマネジメントシステム規格の要求事項のパートに
 入れ込むという非常に影響力のある存在になったのです。

 ただ、日本は決まった以上は従うべきであり、逸脱しないほうがいいと
 判断して、欧州と足並みを揃えて動いてきてはいます。

平林解説:
 附属書SLは2006年にTMB(ISOのマネジメントボード)直轄として
 設立され、JTCG文書という名で検討がされてきました。

 その後、ISO/IECガイド83として一旦制定されたのですが、
 ある時突然にISO/IEC Directivesの中に組み込まれるという経過を
 辿っています。

■□■附属書SLリスクと機会■□■

平林:
 遅れている背景にはどんな課題がありますか。

吉田さん:
 一番の課題は、やはり今回導入された「リスクと機会」が上げられます。

 IS014001にはこれまで15年以上にわたって「著しい環境側面」という
 コンセプトを重視してやってきた歴史があるので、
 両者の関係をどうするかということです。

 そもそも著しい環境側面とは、
 「環境に著しい影響を与えるまたは与えうる側面」ですから、
 環境に対しての影響の大小によって決まってきますし、

 「与えうる」ということでは、ある種の不確実性つまり
 リスクも含みます。

 また、環境影響は100%完全には解明されない複雑な世界ですから、
 ここも当然リスクとしてとらえる必要があります。

 このように環境側面の中には従来からリスクの考え方も
 含まれていたのです。

 IS014001関係者の間ではこうした理解が定着しており、
 今回、新たに「リスクと機会」が入ってきたので、

 この点について現段階では、IS014001の方で修飾語をつけて
 「組織リスク(Organizational Risks)」として区別できるように
 しています。

平林解説:
 ここでいう「組織リスク(Organizational Risks)」とは、
 ISO14001CD2の箇条6.1に出てくるものです
 (箇条8, 9などにも出てくる)。

 附属書SLでは、
 「環境マネジメントシステムの計画を策定するとき,組織は,
  4.1に規定する問題及び4.2に規定する要求事項を考慮し,
  次の事項に取り組む必要のあるリスク及び機会を決定しなければ
  ならない。」と規定しています。

 ISO14001CD2では、附属書SL文中の「リスク」という用語に
 「組織」を追加して「組織リスク」に修正することにより、
 「環境側面が内包するリスク」と区分しようとしたということです。

■□■リスクと機会とSWOT分析■□■

吉田さん:
 また「リスクと機会」に関しては他にも気になっていることがあります。

 それは、IS031000やリスクマネジメントの用語集である
 ガイド73における使い方と矛盾しており整合性がない点です。

 そもそもIS031000ではリスクと機会をandで結ぶ表現ではありません。

 実はこの点について2013年に出た
 ISO31004(リスクマネジメントーISO31000の実践の手引き)でも、

 「Risk can expose the organization to either than a threat
  or an opportunity」、すなわち、リスクとは脅威もしくは機会、

 もしくはその両方を生み出す、もしくはそういうものに組織をさらす、
 つまりパラスマイナス両方ある、と説明されています。

 ちょっと分かりにくいのでSWOT分析を参考にご紹介します。
 
 SWOT分析では企業の外部環境や内部環境を、

 「強み(Strengths)」「弱み(Weaknesses)」「機会(Opportunities)」
 「脅威(Threats)」の4カテゴリーで要因分析し、

 事業環境変化に対応した経営資源の最適活用を図る経営戦略を考えます。

 目標を達成することによって重要な内外の要因を特定しますが、
 この際、重要な要因を、

  「内的要因一強み(Strengths)と弱み(Weaknesses)」と
  「外的要因―機会(Opportunities)と脅威(Threats)」の
 2つに分けて考えるのです。

平林解説:
 SWOT分析は、事業環境変化に対応した経営資源の最適活用を図る
 経営戦略策定方法の一つです。

 フォーチュン500のデータを用いて1960年代から70年代に
 スタンフォード大学において、研究プロジェクトリーダーであった、
 Mr.アルバート・ハンフリーにより構築されたといわれています。

吉田さん:
 こうした広く認知された考えをベースに、
 附属書SLも「Threat and Opportunity」となるなら理解できますが、
 「Risk and Opportunity」とつなぐのは非常に分かりにくいと思います。

 この点については、野口さんが参加されているISO31000のTC262においても、
 「附属書SI.の理解は正しくない。ISO31000とも整合しない」と
 指摘があったと聞いています。

 附属書SLはこういう根本的な問題を抱えており、
 著しい環境側面とどこが違うのか、
 この辺の議論はTC207/SC1では実はまだ決着していません。

 この点をクリアしないと、いつまで経っても根本的な合意形成が
 できないので、議論も今後進まなくなる事態もありうると思っています。

以上

附属書SLと次期9001の改正 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.75 ■□■

*** 附属書SLと次期9001の改正 ***

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■□■附属書SLとISO9001(つづき)■□■
 フォーラムの続きです(昨年テクノファ年次フォーラムでは
附属書SLに関して、有識者の方に集まっていただいて
パネルディスカッションを行いました)。

 フォーラムの時の様子をお伝えしますが、出席者の方の発言は
平林の責任で編集させていただいています。

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中條先生(中央大学教授):
 箇条8については、単純に言うと、2008年版で書いてある内容を
 2015年版に全て引き写すのが基本的な考え方なので、
 附属書SLにないところは全部プラスになっています。

 もちろん2008年版自体に足している部分、新たに追加になっている
 要素もあります。

平林良人(テクノファ):
 箇条8に追加要素がたくさんあるということですが、例えば、
 附属書SLの8.1では6~7行しかテキストがありません。

 ここに現状のIS09001の箇条7関連の2~3ページ分のテキストが
 ずらずらと人ってくるわけですね。

 では全体のボリューム感については2008年度版と比べると
 どの程度でしょうか。

中條先生:
 全体としてみると、2008年版にあったものの8~9割は
 入ってきそうです。

 ただ部分的な増減はあります。

 また、2008年版で相当細かかった記述は、
 若干抽象化される可能性があると思ってください。

 先ほどCD版では2008年版をそのまま引き写してくると言いましたが、
 設計の妥当性確認や検証に関してはかなり抽象化した内容で
 持ってきたので、その分かなり薄くなっています。

 例えば8.5 「商品・サービスの開発」では、
 単純に「設計でやるべきこと」といってずらりとリストが書いてあって、
 そのリストの中に設計の妥当性、検証、デザインレビューなどが
 含まれています。

■□■箇条8への追加■□■

平林解説:
 箇条8は品質のオペレーションの部分で、他のMSSがそうであるように、
 ISO9001もこの箇条8には品質に固有のことを記述しています。

 主な所を抜き取ってみます。

 8.2.2「商品・サービスに関連する要求事項の明確化」は、
 2008年版7.2.1「製品に関連する要求事項の明確化」とほとんど同じ
 内容の要求事項となっています。

 「組織は,該当する場合には,
  必ず次の事項を明確にしなければならない。

 a) 顧客が特定した要求事項。これには引渡し及び引渡し後の活動に
   関する要求事項を含む。
 b) 顧客が明示してはいないが,指定された用途又は意図された用途が
   既知である場合,それらの用途に必要な要求事項
 c) 商品・サービスに適用される法令・規制要求事項
 d) 組織が必要と判断する追加要求事項のすべて」

 しかし、お気づきのように「製品」が「商品・サービス」に
 変わっています。

 今回、サービス業への配慮の視点から、productという用語は
 goods and servicesに変わりました。

 多くの方から、やはり「product:製品」という用語が
 いいという意見を聞いております。

 今後DISに向けてどのような検討がされるか注目したいと思います。

 
 8.2.4 は「顧客とのコミュニケーション」となっています。

 「組織は,次の事項に関して顧客とのコミュニケーションを図るために
 計画された方法を決定し,実施しなければならない。

 a) 商品・サービス情報
 b) 引合い,契約若しくは注文の取扱い。それらの変更も含む
 c) 苦情を含む顧客からのフィードバック(9.1 参照)
 d) 該当する場合には,顧客の所有物の取扱い
 e) 関連する場合には,緊急処置の特定の要求事項」

 附属書SLの箇条7.4「コミュニケーション」には次の要求があります。

 「組織は,次の事項を含む,品質マネジメントシステムに関連する
  内部及び外部のコミュニケーションを実施する必要性を
  決定しなければならない。

  - コミュニケーションの内容(何を伝達するか。)
  - コミュニケーションの実施時期
  - コミュニケーションの対象者」
 

 7.4と8.2.4には重複感がありますが、
 8.2.4は顧客に焦点を絞っています。

 顧客とコミュニケーションすべき項目を具体的に要求しています。

■□■箇条8への追加―つづき■□■

平林解説:
 規格は現在CDの段階ですので、まだいろいろ変わります。
 ただし、附属書SLの部分は変わりません。

 CD段階でどのような項目が箇条8にあるのかを見てみましょう。
 以下が箇条8の細分箇条も含めての項目立てです。

 8 運用
  8.1 運用の計画及び管理

 8.2 市場ニーズの明確化及び顧客との相互作用
  8.2.1 一般
  8.2.2 商品・サービスに関連する要求事項の明確化
  8.2.3 商品・サービスに関連する要求事項のレビュー
  8.2.4 顧客とのコミュニケーション

 8.3 運用計画プロセス

 8.4 外部から提供される商品・サービスの管理
  8.4.1 一般
  8.4.2 外部からの提供の管理の方法及び程度
  8.4.3 外部プロバイダーに対する文書化した情報

 8.5 商品・サービスの開発
  8.5.1 開発プロセス
  8.5.2 開発管理
  8.5.3 開発の移行

 8.6 商品製造及びサービス提供
  8.6.1 商品の製造及びサービス提供の管理
  8.6.2 識別及びトレーサビリティ
  8.6.3 顧客又は外部プロバイダーの所有物
  8.6.4 商品・サービスの保存
  8.6.5 引渡し後の活動
  8.6.6 変更管理

 8.7 商品・サービスのリリース

 8.8 不適合商品・サービス

 8.5商品・サービスの開発 から「設計:design」という用語が
消えていますが、これについては82号あたりで触れたいと思います。

以上

附属書SLと次期9001、14001の改正 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.74 ■□■

*** 附属書SLと次期9001、14001の改正 ***

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■□■附属書SLへの追加事項、逸脱事項 ■□■

 今まで附属書SLのキーワードについてお話しをしてきましたが、
昨年テクノファ年次フォーラムでは附属書SLに関して、有識者の方に
集まっていただいてパネルディスカッションを行いました。

今回からはその時の様子をお話ししたいと思います。

パネラーは次の方々でした。
 ・中條武志 ISO/TC176(品質マネジメントシステム)日本代表委員
       ・国内審議委員会委員長、中央大学教授

 ・吉田敬史 ISO/TC207(環境マネジメントシステム)
       日本代表委員・国内審議委員会委員長、
       グリーンフューチャーズ社長

 ・野口和彦 ISO/TC262(リスクマネジメント関連)日本代表委員、
       三菱総合研究所研究理事

 ・奥野麻衣子 ISO/TC207/SC1(環境マネジメントシステム)日本代表委員、
        TMB/TAG/JTCG対応TC207/SC1代表委員、
        三菱UFJリサーチ&コンサルティング環境・エネルギー部
        副主任研究員

 ・高取敏夫 ISO/IECJTC1/SC27(情報セキュリティマネジメントシステム)
       国内審議委員、日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)情報マネ
       ジメント推進センター副センター長

 私、平林がコーディネーター(司会)を務めさせていただきました。

■□■ISO9001と附属書SLへの追加について■□■

 総てのMSS(マネジメントシステム)規格は附属書SLに
準拠することが求められています。

特に、附属書SLからの逸脱はTMB(ISOのボード)へ
報告しなければならないことになっています。

追加はそれぞれのTC(専門委員会)の裁量に任されています。

 ISO9001規格は2015年9月発行を目標に議論が進んでおり、
現在CD(委員会原案)が承認され、DIS(国際規格草案)に向けた議論が
行われているところです。

■以下、フォーラムの時の様子をお伝えします
(編集上、出席者の方の発言は平林の責任でまとめさせていただいています)。

平林:最初に中條先生にISO9001改正についてうかがいます。

中條先生:
 現在、IS09001はCD(委員会原案)の段階ですが、附属書SLから
 逸脱しているところが何ヵ所かあります。
 ただ今までの議論の推移を見ていると、断言はできませんが、
 今後の会議で見直されてこれらの逸脱はなくなると思います。

 ただIS(国際規格)になるまで時間があるので、今後も逸脱する
 ところが出てこないとは言い切れない状況です。

 一方、IS09001独自に追加する要素に関しては、
 当然ですが出てきています。

 中でも一番大きいのは附属書SLにおける箇条8の「運用」に関係する内容です。

 もともと箇条8では、附属書SL「8.1運用の計画及び管理」以外は、
 各専門委員会で検討することになっているため、
 SL本文にはほとんど書かれていません。

 IS09001おいて「運用」は2008年版では箇条7ですが、IS09001において
 重要な要素であり、CD版には多くのテキストが入ってきています。

■□■プロセスアプローチの追加■□■

平林解説:
 他には、4.4.2に「プロセスアプローチ」が要求として
 追加されていることが大きいと思います。

 そこでは「プロセスアプローチを適用しなければならない」に加えて
 次のことが要求されています。

 1)品質マネジメントシステムに必要なプロセスの明確化
 2)各プロセスについて、インプット、アウトプットの明確化
 3)各プロセスの順序及び相互関係の明確化
 4)リスクの明確化
 5)判断基準、方法、測定、パフォーマンス指標の明確化
 6)プロセスの責任権限の割り当て
 7)各プロセスの意図したアウトプットをもたらし続けることの確実化
 8)プロセスの改善

■□■計画の変更を追加■□■
 
中條先生:
 6章に細分箇条6.3「変更の計画」を追加しています。

 これは何かを変更する際、さまざまなトラブルが起きる可能性がある
 ので、しっかりと計画を立てる必要があるということです。

平林解説:
 変更管理については、8.6.6においても「変更管理」というタイトルで
 ズバリ「組織は、商品・サービスの完全性を維持するため、変更による
 潜在的影響のレビューを考慮し、必要に応じて処置をとりながら、
 計画した体系的な方法で変更を実施しなければならない」と要求しています。

 箇条7には、7.1.2「インフラストラクチャー」、7.1.3「プロセス環境」、
 7.1.4「監視機器及び測定機器」、7.1.5「知識」が追加になっています。

■□■7.1.5「知識」とは■□■

平林解説:
 箇条7に追加になっている「知識」についてもう少し説明します。

 ここでの要求は次のとおりです。

 「組織は,品質マネジメントシステム及びそのプロセスの運用,
  並びに商品・サービスの適合性及び顧客満足を確実にするために
  必要な知識を決定しなければならない。

  この知識は,必要に応じて,維持し,保護し,利用可能にしなければ
  ならない。」

 続いて次のように要求しています。
 
 「ニーズ及び傾向の変化に取り組む際に,組織は,現在の知識ベースを
  考慮に入れ,必要な追加の知識を入手する方法又はそれらに
  アクセスする方法を決定しなければならない(6.3 も参照)」

 組織がいままで蓄積してきたノウハウ、知財一般は総て組織の知識として
 大切に管理する必要があるということです。

つづく

附属書SL究極のキーワード3 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.73 ■□■

*** 附属書SL究極のキーワード3 ***

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前回のつづきで、
製品・サービス実現プロセス、経営資源の運用管理の
2つの要素に関する能力について説明させていただきます。

■□■ 附属書SL「組織の能力」についてーその2 ■□■

附属書SLには次の要求があります。

「4.1 組織及びその状況の理解
 組織は,組織の目的に関連し,かつ,
 そのXXXマネジメントシステムの意図した成果を達成する
 組織の能力に影響を与える,外部及び内部の課題を
 決定しなければならない。」

外部及び内部の課題を決定する目的は、品質マネジメントシステムの
意図した成果を「達成する能力を組織が保有する」ことにあります。

この箇条で要求されていることは
「外部及び内部の課題を決定しなければならない」ですが、
キーワードとしてはその前にある「組織の能力」が重要です。

■□■製品、サービス実現プロセス■□■

「組織の能力」の中で利害関係者(顧客)に最も影響を与えるものが
この「製品、サービス実現プロセス」に関係する能力です。

① 商品企画:顧客へのアクセスの良さ

 究極のキーワード「顧客価値」が意味する
 「顧客が何を感じて製品を買ってくれるのか」を探求するために、
 商品企画に精通し、顧客そのものを肌で感じるようなアプローチ、
 アクセスができる能力です。

②顧客動向を迅速かつ的確にとらえる分析力

 一度顧客の嗜好を的確にとらえたとしても、
 顧客の気持ちは目まぐるしく変わります。

 顧客の変化を捉えることができる能力です。

③設計:組立効率を追求した製品設計

 作りやすく、組み立てやすい製品は品質的にも評価が高いものです。

 固有技術の塊である設計、生産技術の能力が求められます。

④宿泊客の嗜好を考慮した究極の”おもてなし”サービス内容の設計

 狩野先生は「当たり前品質」「魅力的品質」という言葉で
 普通の品質と究極の品質(”おもてなし”サービス)とを
 区別していました。

 この2つの品質を区別できる能力と
 実際にそれらの品質を実現することができる能力です。

⑤購買: 高品質かつ低価格の材料購買

 もの作り、又はサービス業においては、
 一から総てを自分で作るわけではありません。

 品質がよく安価な材料を入手するには、購入分野を調査する能力、
 その結果を分析する能力が必要となります。

⑥事業リスクを考慮した購買先の的確な分散化

 購買に関しては、主要な材料、部品を1社だけに発注することは
 大きなリスクをとることになりますが、
 分散化も異なるリスクをとることになります。

 両者のリスクのバランスをとる能力が必要です。

⑦生産 :顧客の需要変動に適切に対応できる生産、在庫調整

 生産したものを売り切ることが商売のコツですが、
 製品が足りなくは機会損失となります。

 「顧客の需要変動に適切に対応できる生産・在庫調整」の能力は
 重要な能力です。

⑧販売,アフターサービスなど

 総てのビジネスに営業とその後のフォローアップは
 大事な能力になります

⑨顧客ニーズに合致した製品の的確かつ迅速な提案
 このことさえ的確にできれば他の能力は少々低くても
 ビジネスは成功するであろうという究極の能力です。

 当然このですが、提案した後具現化することも含まれます。

⑩モバイルインターネット端末を用いた簡単な商品注文方法と
 即日配送

 昨今のITの驚異的な発展についていけない企業も多いのですが、
 このインターネットを使いこなす能力も大いに注目されるべき
 能力です。

■□■経営資源の運用管理■□■

次は「経営資源の運用管理」に関しての能力です。

①組織の人々の力量管理、高い問題解決力をもった技術者及び
 それを可能にする教育体系

 人材を有効に活用することは組織に必須な能力です。

②施設,設備,機器などのインフラストラクチャーの管理

 人材以外の資源をこれまた有効に活用できる能力です。

③幅広いタイプの製品に対応可能で,高速度処理可能な生産設備

 設備に関しても生産設備に限定しての能力です。

④作業効率と安全性とを追求したひと中心の職場環境設計

 生産設備と人を中心に製品実現のプロセスを設計する時に、
 同時に安全性、人間工学性を配慮してデザインすることが
 できる能力です。

⑤洗練さと心が和らぐ雰囲気を感じ取れる施設又は空間

 単なる安全を超えて、作業をする中においても安心できる
 環境を作り出せる能力です。

⑥業務環境管理、過去の不適合情報が迅速に検索可能な
 設計技術蓄積システム

 知的資源、例えば技術ノウハウ、特許、商圏などの蓄積、
 或いは失敗事例(これも技術ノウハウ)を検索可能な
 データベースに仕立てることができる能力です。

⑦情報システム管理、現場と経営層との間のリアルタイムでの
 情報共有システム

 ITを活用しての職場作りに関して重要な能力です。

⑧財務資源管理

 高い事業収益率(ROA 及びROE)を達成,維持できる
 投資計画及び低金利での多額の資金調達を実現できる能力です。

以上