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附属書SLキーワード「組織の目的」 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.66  ■□■

*** 附属書SLキーワード「組織の目的」***

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■□■ 組織の目的とは ■□■
 今回の附属書SLキーワードは「組織の目的」です。

「4.1組織を取り巻く状況」の冒頭に次のような要求があります。

「組織は、組織の目的に関連し、かつ、そのxxxマネジメントシステムの
意図した成果を達成する組織の能力に影響を与える、外部及び内部の課題を
決定しなければならない。」

組織の目的の原文は “organization’s purpose”であり、
“organization’s objectives”ではないことに注意が必要です。

 組織の目的とはまさしく組織は何のために存在しているか、
何のために活動しているのかを示す言葉です。

多くの組織が「社会に貢献する」、「社会に価値を提供する」、
「社会に雇用を提供する」、「社会の安全安心のため」など、いろいろな理念、
ビジョン、ミッションを発信しています。

■□■ 組織の目的は組織の外にある ■□■
 ここでひとつ紹介したい人物がいます。それはピーター・ドラッカーです。

ドラッカーは20世紀の世界ビジネス界にもっとも影響を及ばした人物であると
いわれています。

彼は1909年生まれ(ウイーン)ですから、1974年に「マネジメント」という書を
世に出した時には65歳となっていました。

彼はドイツ時代にナチスの迫害から逃れイギリスに渡り、その後アメリカで
長く活躍をしてきた人物で、残念ながら2005年にこの世を去りました。

ドラッカーは、その名著「マネジメント」になかで、
           「組織の目的は組織の外にある」と言っています。

その意味は「組織の目的は顧客を創造することである」と説明しています。

■□■ 顧客の創造 ■□■
 顧客の創造とは、文字通り顧客を作り出す(生み出す)ことですから、
どうやって?ということになります。

生み出し方を研究しなければなりませんが、そのためには、誰が顧客なのか、
顧客は何を望んでいるのか或いは望んでいないのかを把握することから
始めなければなりません。

 ドラッカーは、顧客が望んでいる製品、サービスを提供することが
唯一顧客を創造することになるといっています。

すべては顧客からスタートさせ、顧客の欲求、期待、満足を知ることから
始めるべきであると彼は説いています。

顧客は気まぐれです。世の中はいろいろな要素によって日々変化しています。

一度顧客を創造できたからといって、それは4,5年ものあいだ
続かないかもしれません。

ドラッカーは変化こそ組織が重要視しなければならない要素であるとも
説明しています。

■□■ 利益は目的ではない ■□■
 組織は利益を上げなければなりません。

その利益を先行投資して次の製品を開発することで、組織は持続的な発展を
続けていくことができます。

 この投資を実践する過程においては、さまざまな組織活動が行われます。

例えば、顧客のニーズを把握するためのマーケティング活動、
要素技術の開発活動、組織の弱点を補う人材育成活動、素材・設備・機械などの

資源の調達活動、ノウハウ・特許などの知財活動、設計活動、それに続く
展開活動など多くの活動が、すべて顧客が何を期待しているかによって
決まってきます。

 これらの活動は組織の利益のために行っているわけで、それはそれで正しいと
思うのですが、ドラッカーは適切な考えではないと言うのです。

 これらの活動はすべて顧客を生み出す活動であって、
利益のための活動ではないと言うのです。

 利益はその結果付随的についてくる組織運営の手段であり
目的ではないと説くのです。

■□■ 利益は手段であって、目的ではない ■□■
 ドラッカーは、利益は組織の手段であると言い目的はあくまでも
顧客を創造することにあると説明します。

 利益を目的と考えてしまうと、顧客の要望、欲求、期待、望みを正しく
捉えることができず、一時は期待通りにいったとしても必ずどこかで
破綻するとみているのでしょう。

 もちろん、利益は組織の最も重要な要素であり、
これなくして持続的に存続していけません。

 しかし、顧客を得なければ利益は得られないわけで、利益はあくまでも
結果としてもたらされるものである、と考えることがよいのでしょう。

 xxxマネジメントシステムを設計する場合もこのセオリーに沿って
実行していくこと推奨します。

以上

附属書SLキーワード3「プロセス」 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.65  ■□■

*** 附属書SLキーワード3
「プロセス」***

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■□■ プロセスという用語はたくさん出てくる ■□■

 附属書SLにはプロセスという言葉が多く出てきます。

〇 4.4 XXXマネジメントシステム

 組織は,この規格の要求事項に従って,必要なプロセス及び
 それらの相互作用を含む,XXXマネジメントシステムを確立し,
 実施し,維持し,かつ継続的に改善しなければならない。

〇 5.1 リーダーシップ及びコミットメント

 - 組織の事業プロセスへのXXXマネジメントシステム要求事項の
 統合を確実にする。

〇 6.1 リスク及び機会への取組み

 組織は,次の事項を計画しなければならない。
 - それらの取組みのXXXマネジメントシステムプロセスへの
 統合及び実施

〇 7.5.1 一般

 組織のXXXマネジメントシステムは,次の事項を含まなければならない。
 - 組織の規模,並びに活動,プロセス,製品及びサービスの種類

〇 8.1 運用の計画及び管理

 組織は,次に示す事項の実施によって,要求事項を満たすため,及び,
 6.1で決定した取組みを実施するために必要なプロセスを計画し,
 実施し,かつ管理しなければならない。

 - プロセスに関する基準の設定
 - その基準に従った,プロセスの管理の実施
 - プロセスが計画通りに実施されたという確信をもつために
 必要な程度での,文書化された情報の保持

 組織は,外部委託したプロセスが管理されていることを確実に
 しなければならない。

■□■ プロセスとは何でしょう ■□■

 プロセスとは何でしょうか?

ISO9000用語の定義では「インプットをアウトプットに変換する、
相互に関連する又は相互に作用する一連の活動」としています。

 私はもっと一般的な概念でプロセスを捉えた方がいいと思っています。

私はプロセスとは「道のり」だと思っています。

目的地を東京とした場合、例えば、今いる大阪からどのように
行くのかという道筋のことです。

新幹線で行ってもよいし、東海道線で行っても、あるいは
途中から回り道をして中央本線を使って行ってもよいわけです。

その道筋は目的によって変わります。

早く行きたいときは新幹線を選択するでしょうし、途中の駅弁を
食べたければ在来線、すなわち東海道線で行くでしょう。

また、地方の鄙びた温泉でゆっくりしていきたいと思う時は、
中央本線で行くことがおすすめかもしれません。

 詩人 高村光太郎はその詩「道程」の冒頭で
「僕の前に道はない、僕の後ろに道はできる・・」とうたっていますが、

目的に向かってどのような道筋を通るかは主人公の思いを明確にして、
それに適切なものにすればよいわけです。

■□■ 業務におけるプロセス ■□■

 業務についても同じことが言えます。

Aという製品を完成させるのにどのような道筋を通るのがよいのか、
すなわち、どんな活動を行うのかがプロセスの概念であると思います。

 旅行では道筋でよいのですが、組織のQMSとなると道筋では
大括りすぎますので、一段とブレイクダウンして「活動」が
プロセスの概念であると考えることになります。

 プロセスの代表的対象が道筋から活動に変わっているだけで、
その意味するところは何ら変わっていません。

 つまり、最終の目標に向けてどのような活動をしていくのか、
その順序と相互関係、更にはインプット、アウトプット、責任者、
実施内容、管理を設計することがポイントです。

 この設計に当たっては、旅行と同じで最終目標を見据えて、
最後のアウトプット(直接の顧客に手渡されるもの)から吟味、
検討することが良いと思います。

■□■ プロセスの設計は後ろから ■□■

 後ろから設計するとどのように良いことがあるのでしょうか?

最初の業務から「何をすべきか」を考える組織が多いようですが、
この方法だと必要十分なことを考えることになります。

 旅行の例で言いますと、東海道新幹線、東海道線、中央本線など
いろいろな道筋を考えることになります。

旅行の目的が明確になっている場合は、一本の道筋に決めることが
できますが、業務の実施方法を設計する場合は、試行錯誤するケースが
圧倒的に多く、幾つかの活動の組み合わせを考えることが多いのです。

 最後のアウトプットは顧客へ引き渡されるものですから、
一番明確になっている「もの」です。

この決定的に明確になっている「もの」を出発点にして、
そこへのインプットを明確にしていきます。

次にはその前の活動のアウトプットを明確にする、というように一つづつ
最初の着手点に遡っていく設計は、必要条件しか明確にしないこととなります。

換言すれば、十分条件は選択しない。

この方法は、一般に言われている「バックキャスティング」という
考え方と同質なやりかたです。

■□■ 組織にはいろいろなプロセスがある ■□■

 当然のことですが、組織にはいろいろなプロセスがあります。

 旅行に例えれば、多くの社員がいろいろな目的地に向かって
いるような状況です。

 附属書SLに多く出てくるプロセスがときどき目的地が違う意味で
使用されていることを知っておく必要があります。

 冒頭に掲げた附属書SLに現れるプロセス一つひとつについて
確認してみましょう。

〇 4.4 XXXマネジメントシステム

 組織は,この規格の要求事項に従って,必要なプロセス及びそれらの
 相互作用を含む,XXXマネジメントシステムを確立し,実施し,維持し,
 かつ継続的に改善しなければならない。

 【QMSという活動のプロセス/事業という活動のプロセス】

〇 5.1 リーダーシップ及びコミットメント

 - 組織の事業プロセスへのXXXマネジメントシステム要求事項の
 統合を確実にする。
 
 【事業という活動のプロセス】

〇 6.1 リスク及び機会への取組み

 組織は,次の事項を計画しなければならない。
 - それらの取組みのXXXマネジメントシステムプロセスへの統合及び実施

 【QMSという活動のプロセス】

〇 7.5.1 一般

 組織のXXXマネジメントシステムは,次の事項を含まなければならない。
 - 組織の規模,並びに活動,プロセス,製品及びサービスの種類

 【事業という活動のプロセス】

〇 8.1 運用の計画及び管理

 組織は,次に示す事項の実施によって,要求事項を満たすため,及び,
 6.1で決定した取組みを実施するために必要なプロセスを計画し,実施し,
 かつ管理しなければならない。

 - プロセスに関する基準の設定
 - その基準に従った,プロセスの管理の実施
 - プロセスが計画通りに実施されたという確信をもつために必要な程度での,
 文書化された情報の保持

 組織は,外部委託したプロセスが管理されていることを確実にしなければならない。

 【事業という活動のプロセス】

以上

附属書SLキーワード2「マネジメントシステム」その2 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.64  ■□■

*** 附属書SLキーワード2
「マネジメントシステム」その2***

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■□■ 読者から質問 ■□■

 読者から質問が来ましたので、附属書SLキーワード2
「マネジメントシステム」について更に述べます。

質問の趣旨は、今の良い状態を今後も継続して維持していく仕掛けが
「マネジメントシステム」である(と平林は前回述べました)
というならば、

今良い状態である組織にとっては、
過去からのマネジメントシステム運用がよかったといえるのではないか、

あるいはマネジメントシステムがなくても継続して良い状態を
作り出せていける証拠がそこにあるのではないか?というものでした。

 そうであるならば、
改めてマネジメントシステムを設計せずに現在保有しているシステムを
改善していく方が効果的で理にかなっているといえる。

さらに言えば、マネジメントシステムなどと英語でいわずとも日本には
「全員で目標を共有化し、協力して目標達成を遂げるという文化がある」
ので、そのことを明確にしていただきたい。

創業時から続いてきている文化を継続していくことの方が
より重要ではないか?というものです。

■□■ 質問への回答 ■□■

「おっしゃっているとおりです」というのがまずこの質問への回答です。

特に
「全員で目標を共有化し、協力して目標達成を遂げるという文化がある」
 というくだりについては全く同意です。

大胆に言えば
「全員で目標を共有化し、協力して目標達成を遂げる」文化があるならば、
 マネジメントシステムは既に存在していると言っていいかと思います。

更に現在良い状態であるということは、過去に決められたことを、
決められたように継続的に実施してきた結果である、といえると思います。

したがって、新たにマネジメントシステムを作ることはなく
現状を改善していくという視点が重要です。

このような視点は大変重要であると考えます。

組織の現状を把握し今ある組織の実態をベースにQMSを構築することが
基本になります。

附属書SLが箇条4の冒頭で、
「組織は、組織の目的に関連して・・・・」と書き出しているのも
 以上のようなことが背景にあると考えるとよく理解できると思います。

■□■ 組織にはいろいろなマネジメントシステムがある ■□■

 質問された方がおっしゃるように、
英語で「マネジメントシステム」と言われると、何か別の新しいものが

出てきたと勘違いし、組織に今あるにもかかわらず、
新しいものを作ってしまうという愚をおかしたくはありませんね。

 全員で目標を共有化することも
「マネジメントシステム」の重要な要素ですが、重要なことは
 マネジメントシステムの対象を何にするかということです。

 30年前はマネジメントシステムといえば、製品・サービスの品質を
対象にした品質マネジメントシステムが代表的なものでしたが、

今日では、道路交通安全、省エネルギー、事業継続、情報セキュリティ、
労働安全、イベント、環境などいろいろな事業要素を対象にしたものが
規格として制定されています。

このように欧米を中心に提案がされてくるものであるという背景では
英語で呼ばれるのも致し方ないとも言えます。

以上

附属書SLキーワード2「マネジメントシステム」 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.63  2013.5.1 ■□■

*** 附属書SLキーワード2
    「マネジメントシステム」***

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■□■ 言うは易く行うは難し ■□■

 附属書SLキーワード2番目は「マネジメントシステム」です。
いまさら「マネジメントシステムとは何か」なんて必要ないと
思われるかもしれませんが、

「マネジメントシステムとは何か」の理解が適切でないと、
いろいろな活動が成果に結びつきません。

マネジメントシステムは今の「良い状態」をこれからもず~っと
良い状態にしておく仕掛けです。

 時系列の観点からは、この仕掛け、
すなわち「マネジメントシステム」の対象は主に「未来」です。

現在良い状態である製品/サービスを担当者が代わっても、
設備、機械が入れ替わっても、材料が変わっても、あいかわらず
良い状態の製品/サービスを提供し続けることを
「マネジメントシステム」を活用して実現させようということです。

 現在の製品/サービスが良くなければ話にならない訳ですから、
「マネジメントシステム」は、当然ことですが、現在も対象に
しなければなりません。

 しかし、ここで強調しておきたいことは、
現在も対象ですが、継続して良い状態を維持する、
さらに改善する意味においては組織にとって
将来を対象とすることの方が更に重要であるという点です。

 達成したことを維持することは、「達成すること」より
難しいといわれます。

一度達成できたのですから、後はその通り行えばよいと
思いがちですが、これが簡単ではないのです。

「維持する」と口で言うのは簡単ですが、
継続しつづけることは実は大変に難しいことです。

なぜかというと、物事は常に変化しているからです。

■□■ すべてのものは変化する ■□■

 我々が存在する宇宙は138億年の歴史を持っているそうです。
現在の科学ではなぜ宇宙ができたのか十分に解明されていません。

ビッグバンと呼ばれる大爆発により、宇宙が誕生したとも、密度が
無限大で体積はゼロの特異点から宇宙が誕生したともいわれています。

 重要なことは、我々は時間の中で生きているということです。

全ての物質はある種類の原子からできていますが、原子核には陽子と
中性子、素粒子(その中には発見されていないものもある)などが
瞬時、瞬時変化しているのだそうです。

この変化が時間であるとも言えるようですが、ある種類の原子は
徐々にほかの種類の原子に変わっていくと考えられています。

この変化が急激に起きるのが核分裂で、
このときには膨大なエネルギーが放出されます。

質量に光速の2乗を掛けたエネルギーで、
アインシュタインのE=mc?式として有名です。

この宇宙を構成している全ての物質は変化している、時間とともに瞬時、
瞬時変化していることがベースとなって、全ての物質から構成される
我々を取り巻く全てのもの、マネジメントが対象とする全てのものも、
例えば人、空間、経営環境は刻々変化していると理解しなければなりません。

■□■ 品質マネジメントシステムを設計する ■□■

品質マネジメントシステムは、「品質をマネジメントするシステム」です。

環境をマネジメントするシステムがISO14001ですし、
労働災害をマネジメントするシステムがOHSAS18001です。

 先ほど「仕掛け」といいましたが、
システムは「相互に関連する又は相互に作用する要素の集まり」と
ISO9000では定義されています。

この要素の集まりが変化するわけですから、
品質マネジメントシステムを設計する際には相当深く、
幅広く考えなければなりません。
 
 品質をマネジメントする仕掛け自体が変化してしまう、当然のことですが
マネジメントする対象である品質(もの、サービスの品質)も変化します。

変化するもの(対象)を、変化するもの(仕掛け)が
管理する(マネジメント)という変化極まりない、
おかしな(矛盾する)話になってしまいます。

では、どうすればいいのでしょうか?

ここで私がいいたいことは、上述のような矛盾する状況において、
唯一変わらないのは「顧客は価値を感じるものしか買わない」と
いうことです。

 その顧客価値ですら変化するのですから、
品質マネジメントシステムの設計においては「見直す」という要素が
如何に重要であるか理解できるというものです。

■□■ 品質システムー品質保証 VS 品質マネジメントシステム ■□■

 古い方?は覚えておられるかもしれませんが、
実はISO9001:1994のタイトルは「品質システム‐品質保証」となっていました。

2000年版に改定された時に「品質マネジメントシステム-要求事項」と
変わりました。

 その際、品質保証のままがよいか、品質マネジメントシステムと
したほうがよいか、ちょっとした議論が起こりました。

 当時私は、後者の方がいいのではないかと考えました。

理由は、そんなに深く考えたわけではありませんが、今後とも良い状態を
管理することの方に重点を置く方がいいのではないかと思ったからです。

 今から考えると非常に困難で、高度なことを規格は要求することになったと
思います。

 現在の状態を今後とも同じように維持する、さらに改善しなければ
ならないためには、それを達成するだけの「能力」がなければなりません。

 組織にはいろいろな能力が要求されます。

要員の能力、設備の能力、そしてプロセスの能力などが期待される
レベルになっていること、その能力が維持できるようになっていないと
マネジメントシステムは維持、改善されていきません。

キーワード「不揮発化された情報」 | 平林良人の『つなげるツボ』

■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.62  ■□■

*** キーワード「不揮発化された情報」 ***

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■□■ 文書化された情報 ■□■

 SL附属書キーワード、すなわち次期ISO9001規格のキーワードの
1番目は「文書化された情報:documented information」です。

 私は「文書化された情報」とは「不揮発化された情報」であると
考えています。マネジメントシステムは「今の良い状態をこれから
も継続して良い状態にしておく仕掛け」です。

 継続していくためには各種情報が消えてしまってはだめです。
すなわち揮発性(volatile)ではだめなのです。不揮発性
(Non-volatile)にする工夫が「文書化された情報」には求めら
れます。

ここはマネジメントシステムの肝になるところです。

■□■ 不揮発化する工夫 ■□■

 情報が消えないようにする工夫は、紙に書いておく、絵にしてお
く、壁に表示しておく、床にテープ貼りしておく、電子情報にして
おく、看板にしておく、写真にしておく、ビデオにしておく、チャ
ートにしておく、表にしておく、模型にしておくなどいろいろな方
法が考えられます。

 「文書」と言われるとどうしても紙に書かれたそれなりに作文さ
れた文章を思ってしまいますが、この思い込みは無くさなければな
りません。

■□■ documentという英語 ■□■

 documentという英語は日本では単純に「文書」と訳していますが、
元来の意味、語源的には「記録にしておく、すなわち消えないよう
にしておく」という意味です。

 documentary filmという英語があります。日本でも「記録映画」
と訳されています。

 ISO9001が日本に導入されてから、しばらくの間、文書と記録はど
う違うかという議論がありましたが、大きくいえば同じようなもの、
ただ管理の仕方が違うということでしょうか。

■□■ 「不揮発化された情報」にも維持管理が必要 ■□■

 大きな病院へ行くと必ず床に何種類もの色の付いたテープが張っ
てあり(最近はペイントか?)自分の行先を案内してくれます。駅
にも最近は黄色のタイルが盲人の方に進路を教えています。
 
 なによりも毎日利用している道路には白色のペイントが描かれて
おり、各種の指示、規制を無言のうちに歩行者、運転者に示してい
ます。これらの「情報」は日常生活に必須なものになっています。
これらはすべて附属書SLがいう「文書化された情報」に該当するも
のです。

 可視化されたこのような情報は、簡潔で便利で使いやすいものです。
しかし、メンテナンスは必ずしなければなりません。道路でも時々白
線を引きなおしています。病院でも、空港でも、駅でも一度描いた「
情報」はだんだん消えていきますから最新化しないと期待された機能
を果たすことができなくなります。

■□■ 附属書SLの規定 ■□■

 附属書SLには文書化に関する規定が多くあります。なぜこんなにも
多くの規定をしているかというと、マネジメントシステムの肝だから
です。

 標準化されたものを消えないようにし、全員がそれを守ることがマ
ネジメントシステムを維持する唯一といってもいい方法だからです。

7.5.1 一般には、「XXXマネジメントシステムの有効性のために必要
   であると組織が決定した,文書化された情報」をマネジメント
   システムに含むことが要求されています。
 
7.5.2 作成及び更新には、次の事が要求されています。

 -適切な識別及び記述(例えば、タイトル、日付、作成者、参照
  番号)

 -適切な形式(例えば、言語、ソフトウエアの版、図表)及び媒体
  (例えば、紙、電子媒体)

 -適切性及び妥当性に関する、適切なレビュー及び承認

7.5.3 文書化された情報の管理には、次の事が要求されています。

 -文書化された情報が、必要なときに、必要なところで、入手可
  能かつ利用に適した状態である。

 -文書化された情報が十分に保護されている(例えば、機密性の喪
  失、不適切な使用及び完全性の喪失からの保護)

 -配布、アクセス、検索及び利用。

 -読み易さが保たれることを含む、保管及び保存。

 -変更の管理(例えば、版の管理)

 -保持及び廃棄

■□■ 「不揮発化された情報」と読み替えてみる ■□■

 「文書化された情報」を「不揮発化された情報」と読み替えてみる
と異なった世界がみえてきます。道路に引かれた白線を思い出しなが
ら読んでみましょう。

例えば:
・「XXXマネジメントシステムの有効性のために必要であると組織が
  決定した,不揮発化された情報」をマネジメントシステムに含まな
  ければならない。

・不揮発化された情報を作成及び更新する際、組織は、次の事項を確
  実にしなければならない。

・不揮発化された情報が、必要なときに、必要なところで、入手可能
  かつ利用に適した状態である。

・不揮発化された情報が十分に保護されている(例えば、機密性の喪失、
  不適切な使用及び完全性の喪失からの保護) 

などとなります。