タグアーカイブ: 附属書SL

次期ISO9001規格キーワード | 平林良人の『つなげるツボ』

■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.61  ■□■

*** 次期ISO9001規格キーワード ***

—————————————————–

■□■ ブラジル会合で草案作り ■□■

 2012年度もあっという間に過ぎ、今月から2013年度となりますが、
時間が経つのは早いものです。

 次期ISO9001規格は草案作りの真っただ中に居ります。先月ブラジ
ルの第三の都市ベロオリゾンテでCD(Committee Draft)の会議が行
われました。

 Belo Horizonteは、ブラジル南東部、標高約 800 メートルの高原
に建設された計画都市で近郊を含む都市的地域の人口では486万人で
あり、サンパウロ、リオデジャネイロに次ぐ同国第3位の都市です。

 この会議において2015年発行が予定されている次期ISO9001規格の
審議が行われ、夏ごろにはCD(委員会原案)が出される見込みとなり
ました。

■□■ 附属書SLへの見直し ■□■

 昨年5月に附属書SLが発行された折、来年(2013年すなわち今年)
2月にはその附属書SLの取り扱いをTMBが見直しをする旨の発表が
されていました。

 しかし、4月現在その内容の結果は把握できていません。今までに
附属書SLを使用して作成された規格には次の3つがあります。

■1.ISO22301 BCMS 事業継続マネジメントシステム規格
Business Continuity Management Systems

・昨年2012年5月15日に発行され、現在JIS化の準備が行われている要
 求事項を含んだ規格である。

・緊急事態に際し組織が事業を継続していくためのマネジメントシス
 テムについて規定している。

・スコープは、 組織のリスクを管理する中でBCMSを計画、構築、実施、
運用、監視、レビュー、維持、改善するための要求事項を規定してい
るすべての組織である。

・基準に基づく画一的なシステム,体制を求めるものではない。

・組織の緊急事態(発生時含む)に対する準備及び継続的可能性に関す
る顧客,法的又は法令ニーズを満たす組織の能力を,組織の内部・外
部機関(第3者認証機関含む)が評価することにも利用可能な規格であ
る(第三者審査登録用の規格)

■2.ISO20121 持続的イベントマネジメントシステム規格
Event Sustainability Management Systems

・昨年2012年6月に国際規格として成立した持続可能性を考慮したイベン
トマネジメントシステム規格である。

・イギリス国家規格のBS 8901を基にISOが規格を開発し、ロンドンオリン
ピックで適用された。

・“環境”、“社会”、“経済”の3本柱をベースに、社会に受け入れら
れ,将来にわたりイベントの継続的な実施を目指している。

・適用対象は,あらゆる種類及び規模の“組織”、“イベント”、“イ
ベントの計画”が該当する。

・サプライチェーン全体にわたって本規格が考慮されていることが重視
されている。

・持続可能性に関するパフォーマンス基準は設定していない。

・ブラジルのFIFAワールドカップ、リオデジャネイロオリンピックでも
適用することが表明されている。

・現在、本規格の審査員の力量に関する標準化の新規提案が出されてい
る(ISO/IEC1721-4)。

■3.ISO39001 道路交通安全マネジメントシステム規格
Road-traffic Safety management systems

・昨年2012年10月1日に発行され国際規格である。

・ISO39001は、道路における交通事故死亡者、重傷者の根絶を究極の目
標として作成された。

・組織が取り組むべき基本的要求事項を定めた国際規格であり、道路運
送事業者のみならず道路を利用する幅広い組織に対して、マネジメン
トシステム(管理体制)の構築、実施、改善を求めている。

・第三者審査登録用の規格である。
・RTS(Road-traffic Safety)パフォーマンスファクターを特定し、目
的・目標設定時の考慮事項とすることを要求している。

■□■ 附属書SLのキーワード ■□■

 これらの他にも、ISO27001情報セキュリティマネジメントシステム規格
は附属書SLを使用して改定作業が進められており、今年中には新しい規格
が誕生する予定です。

 2015年完成を目指しているISO9001、ISO14001規格も、このメルマガで
たびたび言及しているように、「附属書SL」を使用して改定作業が進めら
れています。

 そこで、この附属書SLに登場する「キーワード」を探してみたところ、
平林が思うキーワードには、次のような21個のワード/フレーズがピック
アップされました。

 ・マネジメントシステム 
 ・組織の目的
 ・意図した成果
 ・外部、内部の課題
 ・利害関係者
 ・利害関係者の要求事項
 ・文書化された情報
 ・必要なプロセス
 ・相互作用
 ・リーダーシップ
 ・XXX方針とXXX目標
 ・戦略的な方向性
 ・事業プロセス
 ・XXXマネジメントシステム要求事項の統合
 ・XXXマネジメントシステムの有効性
 ・リスク及び機会
 ・XXXマネジメントシステムプロセスへの統合
 ・XXXパフォーマンス
 ・プロセスに関する基準
 ・プロセスの管理
 ・XXXパフォーマンスとXXXマネジメントシステムの有効性

 このほかにもキーワードと見なせるものがあると思いますが、次回以降、
説明の途中でも必要であれば追加していきたいと思います。

マネジメントシステム規格共通文書4 | 平林良人の『つなげるツボ』

—————————————————–

■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.55  ■□■

*** マネジメントシステム規格共通文書4 ***

—————————————————–

■□■ 共通テキスト化のポイント ■□■

 ISO/IEC Directive の附属書SLに組み込まれたMSSのポイン
トは5つあるとして、前回までにそのうち1,2,3について述べま
した。

1.どのMSSにもある普遍的な箇条の文章が共通化されたこと。

2.MSSの構造の統一と用語定義の共通化がなされたこと。

3.MSSを導入する前提を明確にすることが問われるようになっ
たこと。

4.要求事項をビジネスプロセスに統合することが要求されてい
ること。

5.リスクの考え方が導入されたこと。

 今回は、「4.要求事項をビジネスプロセスに統合することが
要求されていること」について説明をします。

■□ ×××要求事項をビジネスプロセスに統合する ■□

 今回の附属書SLの大きなポイントは、箇条5.1にある「組織の事
業プロセスへの統合」です。

 たった一行の文章ですが、この意味するところは経営の本質に
かわるものであり、今回のMSS共通文書によるシステム構築、維
持、改善に大きな影響を与えるものであると考えます。

 認証審査にも当然のこと影響を与えることになると思います。
 ここにおけるポイントは2つあります。一つは「事業プロセス
(business process)」であり、もう一つは「統合(integration)」
です。

■□ 事業プロセスとは  ■□

 箇条5.1の注記に「この規格で“事業”という場合、それは、組織
の存在の目的(purpose)の中核となる活動という広義の意味で解釈
することが望ましい」とあります。

“NOTE : Reference to “business” in this International
Standard should be interpreted broadly to mean those
activities that are core to the purpose of the organization’s
existence”

 ここにおける目的は前回で述べた目的、purposeであって、
objectivesではないことに注意が必要です。このNoteは、「組織の
存在の目的」という組織の根源的なことに触れています。

 ここでいう組織の目的は、まさしく前回ふれたドラッカーの著書
“Management”にでてくる企業の目的である「顧客の創造」であると
いってよいでしょう。 

 顧客の創造に関するプロセスとは、組織が毎日行っている活動であ
り、たとえば市場調査プロセスであったり、商品/サービス企画プロ
セスであったり、とにかく製品或いはサービスをお客様に届けるとい
うことに関係する活動はすべてがそうであるといえます。

 たとえば、研究開発プロセス、設計プロセス、技術プロセス、製造
/サービス提供プロセス、購買、品質保証プロセス、配送プロセス、
クレーム対応プロセス、アフターサービスプロセスなどは当然該当す
ると思います。

 組織が顧客にむいて、顧客のために、顧客の身になって行う活動は
すべて事業プロセスといってよいでしょう。

 すべての企業は、企業自身が作り出す「製品又はサービス(以下、
製品という場合もサービスを含む)」が市場で受け入れられ、その製
品の価値に見合う対価を受け取ることで継続的に存在することができ
ます。

 企業が事業を連続的に継承していくためには、常に企業の製品
が顧客ニーズと期待に合っていなければなりません。そして、そのた
めには、企業自身が「常に顧客ニーズと期待に合った製品」を提供し
ていくマネジメントシステムを構築、維持していくことが重要です。

 企業のマネジメントは、多様な要素から成り立っています。例えば、
事業モデルの確立、ビジョンと戦略の策定、収益構造の維持、研究開
発、安全、環境保全、社会貢献、従業員教育、福利厚生、財務管理、
リスク分析、非常事態への対応、顧客対応と顧客満足度向上、品質管
理、非常時対応、事業継承、内部統制、企業倫理、法例遵守などです。

 これらマネジメントの要素は当然のことながら、企業の性質、規模、
持っている製品によって異なります。しかもこれらは、お互いに影響
をし合い大きなシステムを作っているので、要素の重要性に順序は付
けがたいものです。

■□ CSRも事業プロセス  ■□

 直接顧客の創造につながらなくても、社会全般に向けての活動も間
接的には顧客創造につながるものですので、事業プロセスといってよい
と思います。
 
 たとえば、CSR(企業の社会責任)活動に関係するプロセスもそうで
しょう。CSRには7つの重要な活動があるといわれています。

①組織統治(Organizational governance)に関する活動
 社会正義に反することをしないよう組織を統治する。

②人権(Human rights)に関する活動
 従業員の人権をまもる、例えば差別、強制就業、いやがらせなどを
無くす。

③労働慣行(Labor practices)に関する活動
 就業規則、給与、福利厚生、残業、休日出勤などのルールを守る。

④環境(Environment)に関する活動
 環境保全をはじめ、もろもろの活動により環境への配慮をする。

⑤公正事業活動(Fair operating practices)に関する活動
 法を守る、業界ルールなどを遵守する。

⑥消費者課題(Consumer issues)に関する活動
 消費者保護の精神に則った企業活動をする。

⑦地域社会参画と発展(Community involvement & development) に
 関する活動立地している社会との相互関係を尊重し地域に貢献する。

 CSR活動以外の品質管理活動、環境管理活動、安全管理活動、情報管
理活動などのMSSに関係するテーマも、ほとんどが事業活動(プロセス)
であるといえます。

■□ 事業プロセスは日々の活動に分解される  ■□

 ISO9000規格では、プロセスを「インプットをアウトプットに変換
する、相互に関連する又は相互に作用する一連の活動」と定義してい
ます。

 この一連の活動というところがポイントです。設計というプロセス
を考えてみると、基本設計、構造設計、要素設計、設備設計、許容
交差計算、詳細設計などいろいろな活動がありえます。

 これらの活動は更に小さな活動に分解可能です。例えば、基本設計
を分解すると、素材選択とか、強度計算のようなより小さな、より具
体的な活動になります。
 
 このようにして分解をしていくと、最後は個人が仕事することがで
きる大きさになります。

以上

マネジメントシステム規格共通文書3 | 平林良人の『つなげるツボ』

—————————————————-

■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.54  ■□■

*** マネジメントシステム規格共通文書3 ***

—————————————————–

■□■ 共通テキスト化のポイント ■□■

ISO/IEC Directive の附属書SLに組み込まれたMSSのポイントは
5つあるとして、前回までにそのうち1.2.について述べました。

1.どのMSSにもある普遍的な箇条の文章が共通化されたこと。
2.MSSの構造の統一と用語定義の共通化がなされたこと。
3.MSSを導入する前提を明確にすることが問われるようになっ
たこと。
4.要求事項をビジネスプロセスに統合することが要求されてい
ること。
5.リスクの考え方が導入されたこと。

1.2.で述べきれなかったこととして、より容易な文章で規格が
作成されたということを追加して説明します。

■□ 日常のビジネス用語で規格の要求を述べる ■□

例えば、箇条「6.2 XXX目的及びそれを達成するための計画策定」
には、次のような一節があります。

・ what will be done
(何がなされるのか)
・ what resources will be required
(どんな資源が必要とされるのか)
・ who will be responsible
(誰が責任をもつのか)
・ when it will be completed
(いつ終了するのか)
・ how the results will be evaluated
(どのように結果は評価されるのか)

このように、5W1Hを使用した要求事項は今までの
ISO規格にはなかったものでした。

同様な例が、「7.4コミュニケーション」にもあります。

・ on what it will communicate
(何についてコミュニケーションするのか)
・ when to communicate
(いつコミュニケーションするのか)
・ with whom to communicate
(誰とコミュニケーションするのか)
 
このように我々が日ごろの業務の中で使用している
用語を使用しての規格は、なじみやすく、従来よりも
多くの人に理解されるといってよいであろう。

■□ ×××MSSを導入する前提を明確にすること ■□

従来のISO規格にはなかったものとして、
「組織はなぜ×××MSSを導入するのか」
「組織を取り巻く状況はどのようなものか」というようなことを
明確にするように規格は要求しています。

まず問われているのは、組織の目的に関連した外部、
内部の課題を明確にすることです。

ここで気を付けなければならないことは、目的の原文は
“purpose”であり、”objectives”ではないということです。

ちょっとややこしいが、今回の日本規格協会の翻訳では、
“purpose”も”objectives”も同じ「目的」と翻訳されています。

国内審議で幾多議論された結果であるが、今後の出版物には
背景と注意を喚起するとしています。

以下は今回の翻訳(日本規格協会、ホームページ)について、
日本規格協会が原文にない部分として追加した3.08注記4です。

(規格開発者への注記 この文書はマネジメントシステムの中での
統一した用語の使用を推奨していることから,この文書内における
目的(objective)には,一貫して“目的”という訳語をあてています。

他方,既存のJISでは,日本語と英語の語彙の違い,
各マネジメントシステムにおける分野固有の背景及び
規格内の文脈との関係などの理由から,
目的(objective)に対して分野固有ごとに異なる用語が
使用され,広く一般化しているという現状もあります。

<例>
JIS Q 9001では“(品質)目標”,JIS Q 14001などでは“目的”が
それぞれ使用されています。

このため, 各分野固有のJISにおいては,分野固有の背景,
文脈などを踏まえて,“目的”又は“目標”のいずれかを
選択することが望ましい。

また,その選択の背景などについては,JISの解説に記載し,
規格利用者に対して説明することが望ましい。)

「4.1組織及びその状況の理解」、「5.2方針」、
「5.1 リーダーシップ及びコミットメント:注記」の3か所にある
「目的」は原文がpurposeです。

他の所、例えば「5.2 方針」2番目の「目的」、
「6.2 XXX目的及びそれを達成するための計画策定」などの
個所にでてくる「目的」の原文は“objectives”です。

■□ ドラッカーは“purpose”と”objectives”を
              このように説明している ■□

ドラッカーは、目的(purpose)について次のように述べています。

“To know what a business is we have to start with its
purpose.
Its purpose must lie outside of the business itself.
In fact, it must lie in society since business enterprise
is an organ of society. There is only one valid definition
of business purpose: to create a customer. P.F.Drucker
“Management : Tasks, Responsibility, Practices、1973年”

「企業とは何かを知るためには、企業の目的から
考えなければならない。
企業の目的は、それぞれの企業の外にある。
企業は社会の機関であり、その目的は社会にある。
企業の目的の定義は一つしかない。
それは、顧客を創造することである。
上田惇生編訳、ダイヤモンド社、2001年」

purpose とobjectivesの関係については、ドラッカーは次のように
言っています。

“From the definition of its mission and purpose a business
must derive objectives in a number of key areas; it must
balance these objectives against each other and against the
competing demands of today and tomorrow.”

“Defining the purpose and mission of the business is
difficult, painful, and, risky. But it alone enables a
business to set objectives, to develop strategies, to
concentrate its resources and to go to work.”

「事業の“ミッションとpurpose”の定義から、主要な幾つかの
領域におけるobjectivesを導き出さなければならない。
今日と明日とでは競合する要求及び相互のobjectivesについて
バランスを取らなければならない。」

「事業の“purposeとミッション”を定義することは、難しく、
苦痛で、リスクを伴う。
しかし、“purposeとミッション”のみが事業のobjectivesを設定し、
戦略を展開し、資源を集中し、活動することを可能にする。」

このようにドラッカーは、“purpose”とは
組織の外にあるものであり
“objectives”の上位に位置するものである、と説いています。

以上