タグアーカイブ: 附属書SL

附属書SLの理解4 | 平林良人の『つなげるツボ』

—————————————————–
■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.93 ■□■
*** 附属書SLの理解 ***
—————————————————–

■□■ 形に囚われるな ■□■

附属書SL、それに伴うISO9001:2015改正版は、
「形に囚われるな」と言っています。

現在組織が実践していることを中心にルールを見直し、
実態に合わせて改善し、今後とも継続して
良い製品・サービスを提供する組織の能力を実証することを
求めています。

組織が日常使用している用語も大切にするように言っています。

規格が用語を変更したからといって、盲目的に組織が使用する
用語を直すことはしないで下さい、とまでいっています。

品質マニュアルの章立てを規格に合せることも
考え直さねばなりません。

そのような形式を考えるよりは、
組織の要員にマニュアルの内容が理解され、
実施者がルールに則り活動することを最優先に
規定を考えなければなりません。

つまり、事業推進の中で規格要求事項がお互いに
つながりを持って活動されることに注意して
マニュアルを作成しなければならないのです。

■□■ 品質マニュアル ■□■

もっとも、ISO9001:2015年版には品質マニュアルの要求は
ありません。

品質マニュアルは、組織全体の品質管理のやり方を簡単に
説明する文書ですので、存在してほしい文書です。

しかし、規格の丸写しや観念的な要件記述だけの形を
整えただけの文書では、実施者に価値を与えません。

附属書SLは品質マニュアルがそのような形式だけの存在で
あるならば、要求として規定しない方がよいと判断したのでしょう。

本来、マニュアルとは「手を意味する言葉」であり、
そこから手作業、手順を意味し更に説明書も意味するように
なりました。

組織が顧客に提供する製品・サービスの品質をどのように
保証するのかを説明した文書が「品質マニュアル」です。

組織の提供する製品・サービスにはいわゆる「製品説明書」が
付いています。

この製品説明書は製品をどのように取り扱うのか、
取り扱う際に気を付けなければならないこと、
その他に関してユーザーに様々な情報を与えています。

■□■ 品質マニュアルに書かれること ■□■

製品マニュアルと同じように、品質マニュアルは
「品質をどのように取り扱うのか、取り扱う際に
気を付けなければならないこと、
その他に関してユーザーに様々な情報を与える」ものです。

ここでいうユーザーは利害関係者になります。

すなわち、(1)顧客、(2)組織の全員、(3)関係する組織、
例えば関連会社、サプラーヤー、パートナー、
(4)規制当局などでしょうか。

したがって、次のことが書かれていない品質マニュアルは
読む価値がないことになります。

製品マニュアルと対比して羅列してみます。
(1) 製品マニュアル:製品仕様
品質マニュアル:マネジメントシステム適用範囲

(2) 製品マニュアル:製品の使い方
品質マニュアル:ISO9001規格の活用の仕方(how toの記述)

(3) 製品マニュアル:製品の使用時に気を付けなければならないこと
品質マニュアル:ISO9001規格の活用時について気を付けなければならないこと

■□■ ISO9001規格の活用の仕方 ■□■

前の項で「ISO9001規格の活用の仕方」と表現しました。

ISO9001規格には多くの要求事項がありますが、
その要求に対して組織がどのようにして(how to)応えようと
するのかについての記述を意味しています。

すなわち、どのような方法で要求事項が求めていることを
実現させるのかを書くという意味です。

例えば、ISO9001規格箇条7.3 設計・開発には
「7.3.4 設計・開発のレビュー」の要求があります。

この要求に対しては、だれが、いつ、どのように、
(なにを、どこで)設計・開発のレビューを実施するのかが
記述されていることが必要です。

設計・開発のレビューの実施手順にはいろいろな項目が
ありますから、それらのことすべてを品質マニュアルに
書き込むことはお勧めではありません。

品質マニュアルには概要を書けばよいのであって、
詳細は下位文書に書きその文書番号を品質マニュアルに記載する、
という方法が一般的にとられています。

■□■ 管理責任者 ■□■

ISO9001:2008版、箇条5.5.2 管理責任者に関する要求も
2015年版にはありません。

管理責任者の責任には大きなものがあり、
本来組織に必要な人材だと思います。

しかしながら、特に海外においては形骸化している例が
多いようです。

すなわち、組織の正式な人事発令がなく機能組織図にも
記載されておらず、実績としてもISO9001が意図したような
下記のことを行っていないと例が目立ったようです。

【ISO9001:2008 5.2.2 管理責任者】
トップマネジメントは,管理層の中から管理責任者を任命すること。

管理責任者は与えられている他の責任とかかわりなく次に示す
責任及び権限をもつこと。

a) 品質マネジメントシステムに必要なプロセスの確立,
実施及び維持を確実にする。

b) 品質マネジメントシステムの実施状況及び改善の必要性の
有無についてトップマネジメントに報告する。

c) 組織全体にわたって,顧客要求事項に対する認識を高めることを
確実にする。

以上

附属書SLの理解3 | 平林良人の『つなげるツボ』

—————————————————–
■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.92 ■□■
*** 附属書SLの理解 ***
—————————————————–
■□■ 文書化した情報 ■□■

附属書SLの用語の定義「3.11 文書化した情報」は、
今回のキーワードの一つです。

新しい規格には、文書を作れ、記録を残せという要求はありません。

■□■ 文書化した情報の意図は ■□■

「文書化した情報」の意図は皆でルールを守り、
標準化するためには情報を消えないようにしておかなければならない
(消えない情報)、口頭で申し合わせることでは不完全であるという考えです。

そして記録に残して後日いろいろな証拠にすることも含め、
仕事に必要な時に、必要なところで、必要な情報が
見ることができるようにしておかなければならない、
という要求につながっています。

「文書化した情報」は、文書、見本、デザイン画、床に貼られたテープ、
壁に掲げられた写真、チャート等、消えないようにしてある情報全てが
文書化した情報(documented information)に該当します。

ISO/DIS9001「7.5.3 文書化した情報の管理」では、
上記のことを「文書化した情報が、必要なとき、必要なところで、
入手可能かつ利用に適した状態である」と要求しています。

■□■ マニュアルに関する要求がなくなった ■□■

附属書SLの要求事項には「○○マニュアルを作らなければならない」という記述、
「管理責任者を任命しなければならない」という記述はなくなりましたが、
その意図する機能が削除されたわけではありません。

規格が○○マニュアルの文書化を要求すると、
その意図を明確に理解せずに形だけを整える弊害が目立ってきたので、
敢えて要求しないことにしたといわれています。

現在、組織に品質マニュアルがある、あるいは管理責任者いる、
そしてそれらが規格の意図する通りに機能しているならば、
それらを無くすことはありません。

現状のまま、機能するように継続させていけばよいと思います。

以下は、品質マニュアルでこの1年間受けてきた主な質問とそれに対する回答です。

■□■ Q&A ■□■

【Question】:
ISO9001は8章から10章に増えますが、マニュアルも更新しなければなりませんか?
また、現行のマニュアルの箇条のなかに、規格改正によって追加された内容を
盛り込めばいいのでしょうか?

【Answer】:
改正されるISO9001は、品質マニュアルを要求していません。

しかし、要求がなくなったからといって品質マニュアルを捨てるという
判断は組織のQMSのためにならないと思います。

品質マニュアルを維持することで、規格の変更部分を知り、
差分がわかり、新しい規格を理解することにつながります。

品質マニュアルの対応について、次の4つのオプションが考えられるので、
参考までにご紹介します。

1.現状のマニュアルのままでよいとして、基本的には変えない。
ただし、新しい要求事項については記述を追加する。

2.新しい規格の構造に合わせて中身を変える。

3.組織が持っている事業説明書などにISO9001やISO14001の
要求事項を該当箇所に書き込む(事業マニュアル)。

4.会社の品質保証体系図、レイアウト図や組織図などに規定されている
ルールの一覧表を書き込む。

いずれにしても、現状のものを活かしつつ、移行期間の3年間の間に、
規格の要求事項が変わった個所について内容を最新化すればいいのでは
ないのでしょうか。

その際、ISO/DIS9001ではマニュアルの構造までを附属書SLに
統一することはないと明確に言っています。

■□■ 規格と同じ用語、構造を使う必要はない ■□■

A.1(ISO/DIS9001:2015 附属書)構造及び用語

この規格の箇条の構造及び一部の用語は,
他のマネジメントシステム規格との整合性を向上させるために,
JIS Q 9001:2008から変更している。

この構造及び用語の変更を,組織の品質マネジメントシステムの文書に
反映させる必要はない。

箇条の構造は,組織の方針,目標及びプロセスを文書化するための
モデルではなく,要求事項を首尾一貫した形で示すことを意図している。

組織の品質マネジメントシステムの文書の構造にこの規格の構造を
反映させるという要求事項はない。

以上