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附属書SLの理解3 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.92 ■□■
*** 附属書SLの理解 ***
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■□■ 文書化した情報 ■□■

附属書SLの用語の定義「3.11 文書化した情報」は、
今回のキーワードの一つです。

新しい規格には、文書を作れ、記録を残せという要求はありません。

■□■ 文書化した情報の意図は ■□■

「文書化した情報」の意図は皆でルールを守り、
標準化するためには情報を消えないようにしておかなければならない
(消えない情報)、口頭で申し合わせることでは不完全であるという考えです。

そして記録に残して後日いろいろな証拠にすることも含め、
仕事に必要な時に、必要なところで、必要な情報が
見ることができるようにしておかなければならない、
という要求につながっています。

「文書化した情報」は、文書、見本、デザイン画、床に貼られたテープ、
壁に掲げられた写真、チャート等、消えないようにしてある情報全てが
文書化した情報(documented information)に該当します。

ISO/DIS9001「7.5.3 文書化した情報の管理」では、
上記のことを「文書化した情報が、必要なとき、必要なところで、
入手可能かつ利用に適した状態である」と要求しています。

■□■ マニュアルに関する要求がなくなった ■□■

附属書SLの要求事項には「○○マニュアルを作らなければならない」という記述、
「管理責任者を任命しなければならない」という記述はなくなりましたが、
その意図する機能が削除されたわけではありません。

規格が○○マニュアルの文書化を要求すると、
その意図を明確に理解せずに形だけを整える弊害が目立ってきたので、
敢えて要求しないことにしたといわれています。

現在、組織に品質マニュアルがある、あるいは管理責任者いる、
そしてそれらが規格の意図する通りに機能しているならば、
それらを無くすことはありません。

現状のまま、機能するように継続させていけばよいと思います。

以下は、品質マニュアルでこの1年間受けてきた主な質問とそれに対する回答です。

■□■ Q&A ■□■

【Question】:
ISO9001は8章から10章に増えますが、マニュアルも更新しなければなりませんか?
また、現行のマニュアルの箇条のなかに、規格改正によって追加された内容を
盛り込めばいいのでしょうか?

【Answer】:
改正されるISO9001は、品質マニュアルを要求していません。

しかし、要求がなくなったからといって品質マニュアルを捨てるという
判断は組織のQMSのためにならないと思います。

品質マニュアルを維持することで、規格の変更部分を知り、
差分がわかり、新しい規格を理解することにつながります。

品質マニュアルの対応について、次の4つのオプションが考えられるので、
参考までにご紹介します。

1.現状のマニュアルのままでよいとして、基本的には変えない。
ただし、新しい要求事項については記述を追加する。

2.新しい規格の構造に合わせて中身を変える。

3.組織が持っている事業説明書などにISO9001やISO14001の
要求事項を該当箇所に書き込む(事業マニュアル)。

4.会社の品質保証体系図、レイアウト図や組織図などに規定されている
ルールの一覧表を書き込む。

いずれにしても、現状のものを活かしつつ、移行期間の3年間の間に、
規格の要求事項が変わった個所について内容を最新化すればいいのでは
ないのでしょうか。

その際、ISO/DIS9001ではマニュアルの構造までを附属書SLに
統一することはないと明確に言っています。

■□■ 規格と同じ用語、構造を使う必要はない ■□■

A.1(ISO/DIS9001:2015 附属書)構造及び用語

この規格の箇条の構造及び一部の用語は,
他のマネジメントシステム規格との整合性を向上させるために,
JIS Q 9001:2008から変更している。

この構造及び用語の変更を,組織の品質マネジメントシステムの文書に
反映させる必要はない。

箇条の構造は,組織の方針,目標及びプロセスを文書化するための
モデルではなく,要求事項を首尾一貫した形で示すことを意図している。

組織の品質マネジメントシステムの文書の構造にこの規格の構造を
反映させるという要求事項はない。

以上

附属書SLの理解1 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.90 ■□■
*** 附属書SLの理解 ***
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■□■ ISO9001を例として ■□■

 箇条4.「組織の状況」は、附属書SLの特徴とし特記されるべき部分で、
組織がどのような背景でXXXマネジメントシステムを構築するのかに関する
要求です。

XXXを「品質」としてISO/DIS9001を例にとって解説したいと思います。 

■□■ 4.1「組織及びその状況の理解」■□■ 

 「その品質マネジメントシステムの意図した成果を達成する組織の能力に
影響を与える、外部及び内部の課題を決定しなければならない」という
要求事項が出てきます。

このあたりはリアリティである実態の組織ではどこでも分析していることです。

課題のない組織はありません。
もしあれば、そのような組織はきっと長くは存続できないでしょう。

ISOはマネジメントシステムなので、
現在の良いレベルを今後も続けていくことを目的としています。

ISO9001の意図する成果とは、組織全員で製品の質をベストの状態に保ち、
お客様へ提供する製品の質に取り組むことにあります。

意図した成果は、不良率を減らす、お客様からのクレームを減らす等、
組織の事業年度で決めているものと一致するはずです。

つまり、「4.1」では、組織がいま進めていることを
そのまま書けばいいということになります。

■□■ 4.1「外部、内部の課題」■□■

 外部や内部のさまざまな問題を明確にしておくことも要求されています。

共通テキストには、「組織の能力」という用語がでてきます。
能力は、組織の人々、あるいは機械、エネルギー、建物、
マネジメント等にあるものです。

プロセスも能力を持っています。
この能力に影響を与える要因を決めておくことが要求事項にはあります。

人が変わる、機械が古くなる、劣化する等、いろいろな意味で
能力に影響する課題を決めておく必要があるのです。

ISOでは、外部及び内部の課題は、
組織が目的とする範囲内でかまわないと定義し、
それを越える課題を取り上げることは要求していません。

組織の能力に影響を与える外部課題としては、
法令規制などを上げることができます。

いろいろな法律、例えば建築基準法が変わり耐震性が強化されますと、
いままでの能力では対処できないことが出てきます。

内部課題では、組織変更、教育、予算、人材の入れ変わり、
レイアウト変更、要員の力量、技術力劣化、検査検出力、
お客様満足の把握、欠勤、処遇、定年等、いろいろなものが想定できます。

■□■4.2「利害関係者のニーズ及び期待の理解」■□■ 

 いままでの要求になかった利害関係者を
はっきりさせることが求められています。

これも、
お客様が何を期待しているのかをはっきりさせればいいことなので、
新たに文書を作る必要はありません。

利害関係者には、例えば直接のお客様と最終利用者、
下請けや部品メーカー、規制当局等が考えられます。

ISO14001では、顧客、地域住民、供給者、規制当局、非政府組織、
投資家、従業員が含まれるかもしれません。

このなかでは、
働いている人々が一番身近な利害関係者かもしれません。

その方々が質を担保するのだから、従業員がモチベーションを
保てなければ成果は上がらないということになります。

■□■4.3「 品質マネジメントシステムの適用範囲の決定」■□■ 

 適用範囲は、いままでなら○○株式会社、○○工事、
○○建設○○事務所、全社等、カバーする範囲が
証明書に書かれているだけでした。

それが今回から、「4.1」で規定する外部及び内部の課題と
「4.2」で規定する利害関係者のニーズを考慮して適用範囲を
組織が自身で決めることが求められているのです。

自ら組織の目的に照らし、あるいは利害関係者に
配慮して決めるわけですから、限定した部署だけに
適用させてもいいのか、迷うところです。

ISO9001は法律ではなく、民間の自主規制、仕組みと
考えられますから、まずは組織が自分の状況に基づいて
必要であると考える範囲に適用することでよいのです。

その後、継続的に改善していけばよいと考えましょう。

4.3には
「その境界及び適用可能性を決定しなければならない」
と書かれています。

ある要求事項に該当することが組織に存在しなく、
適用しなくても目的を保証できるならば規格は
該当する要求事項を自身の判断で外すことができます。

ただし、意図的に外すことは認められません。

「4.1」と「4.2」を考慮すれば当然恣意的な不適用は
できないはずでしょう。

■□■4.4「 品質マネジメントシステム」■□■

 「組織は、この規格の要求事項に従って、
必要なプロセス及びそれらの相互作用を含む」という内容は、
現行の規格にもあります。

ISOの規格は使い手次第ともとれる内容だが、
他社との差別化を目指すのであれば、
この部分を戦略的に考えるべきでしょう。

プロセスアプローチを具体的にどのように展開するのか
次期ISO9001規格の一つの大きなポイントです。

規格はQMSに必要なプロセスにa)~h)を決定することを
求めています。

以上

ISO/DIS9001における組織の能力 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.86■□■

*** ISO/DIS9001における組織の能力 ***

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■□■ 1.1 適用範囲には ■□■

 品質マネジメントシステムは組織の能力を扱っています。

 いま提供している製品の品質が良くても十分ではなく、
今後とも良い製品を提供していける能力があることを要求しています。

 システムとは、
相互に関係する相互に影響を与える要素の集まりですが、
このシステムが今後の品質を保証する「組織の能力」と
なっていることが必要なわけです。

 ISO9001規格1.1には,
次の二つのことを目的とする組織に対して,
品質マネジメントシステムの要求事項を規定しています。

a)顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項を
  満たした製品又はサービスを一貫して提供する能力を
  もつことを実証する必要がある場合。

b)品質マネジメントシステムの継続的改善のプロセスを
  含むシステムの効果的な適用,並びに顧客要求事項及び
  適用される法令・規制要求事項への適合の保証を通して,
  顧客満足の向上を目指す場合。

■□■ 一貫して提供する能力 ■□■

 このように箇条1.1には
「顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項を
 満たした製品又はサービスを一貫して提供する能力を
 もつことを実証する必要がある場合。」

とありますが、注目すべきは
「提供する能力をもつことを実証する」というところです。

 繰り返しになりますが、組織は現在良いことは
当然のこととしてこれからも良いことを実証する
必要があるわけです。

 残念ながら、現在の認証審査においてこの能力が
きちんと審査されているかについて私は否定的な見方をしています。

■□■ 組織の能力とは・・・・ ■□■

 飯塚東京大学名誉教授はこの組織の能力について、
主宰する「超ISO企業研究会」で次のように説いています。

(1)固有技術
 ・固有技術レベル
 ・固有技術の可視化レベル,
 ・体系化/構造化レベル,
 ・知識入手性

(2)マネジメント(固有技術活用能力)
 ・目的理解,目標設定
 ・目的達成手段構想,計画
 ・リスク想定
 ・実施項目展開
 ・進捗管理:現状把握,応急処置,影響拡大防止,PDCA
 ・学習能力:深い大きなPDCA
 ・組織構築
 ・プロセス定義
 ・リソース理解,掌握,人望
 ・運営(マネジメントの原理原則)
 ・コミュニケーションスキル

(3)ひと(技術+マネジメントの実施主体の能力)
 ・技術・知識のレベル
 ・技能・スキルのレベル
 ・意欲・モチベーション・ロイヤルティのレベル
 ・能力向上策のレベル

(4)文化:組織風土・文化
 ・組織の思考
 ・行動スタイルを左右する組織風土
 ・文化,価値観,体質

■□■ 奥深い組織の能力 ■□■

 飯塚先生の説く組織の能力は、
広範に渡り網羅的でありますが、
一つひとつが意味を持っています。

 組織の性質(どんな製品及びサービスを行っているか)、
規模などにより理解は異なるでしょうし、
該当する能力もそれぞれでばらつくかもしれません。

 興味深いのは、飯塚先生の上げられた組織能力は、
ISO/DIS9001が要求しているものと以下のように
オーバーラップしていることです。

《ISO/DIS9001要求事項》
(1)「固有技術」は今回の改正で日本が要求事項として
   追加する意見を出したが、
   「箇条7.1.6組織の知識」として日の目をみている。

(2)マネジメント(固有技術活用能力)
 ・目的理解,目標設定 
  「箇条6.2 品質目標及びそれを達成するための計画策定」
 ・目的達成手段構想,計画 「同上」
 ・リスク想定 「箇条6.1 リスク及び機会への取組み」

 ・実施項目展開 「箇条6.2.2」
 ・進捗管理:現状把握,応急処置,影響拡大防止,PDCA
  「箇条6.3 変更の計画」
 ・学習能力:深い大きなPDCA 「なし」→ JISQ9005:2014

 ・組織構築 「箇条5.1 リーダーシップ及びコミットメント」
 ・プロセス定義 
  「箇条 4.4 品質マネジメントシステム及びそのプロセス」
 ・リソース理解,掌握,人望  「なし」

 ・運営(マネジメントの原理原則)「Annex B」
 ・コミュニケーションスキル 「箇条7.4 コミュニケーション」

(3)ひと(技術+マネジメントの実施主体の能力)
 ・技術・知識のレベル 「なし」
 ・技能・スキルのレベル 「なし」
 ・意欲・モチベーション・ロイヤルティのレベル 「なし」
 ・能力向上策のレベル 「なし」

(4)文化:組織風土・文化
 ・組織の思考 「なし」
 ・行動スタイルを左右する組織風土 「なし」
 ・文化,価値観,体質 「なし」

■□■ 超ISO企業研究会 ■□■

 読者の皆様方でさらにこの組織の能力を深く知りたい方は
10月頃に予定されているセミナーに参加されるとよいと思います。
※詳細は8月下旬にテクノファホームページでお知らせします

附属書SLの箇条4.4に記述されている「組織の能力」が
より深く理解できると思います。

おわり

ISO/DIS9001におけるリスク | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.85■□■

*** ISO/DIS9001におけるリスク ***

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■□■ リスクは好ましい、好ましくない? ■□■

 附属書SLのリスクの定義には、
注記1に「リスクは好ましい方向、好ましくない方向に乖離する」
という一節があることは以前お話しました。

■□■ この2つの方向が混乱?を与えている ■□■

 附属書SL:3.09にあるリスクの定義は繰り返しになりますが、
次のようなものです。

「不確かさの影響 注記1 影響とは,期待されていることから,
好ましい方向又は好ましくない方向にかい(乖)離することをいう。」

例えば、輸出企業が為替の予約をします。

輸出のことを考えると円安になれば好ましい方向と言えるでしょう。
反対に円高に振れれば好ましくない方向となるのです。

どちらに振れるか分からないので、為替の予約はリスクであると
いうことになります。

■□■ そうはいっても・・・・ ■□■

 このようにリスクという概念は、
プラス側、マイナス側の両方にありえるというものですが、
圧倒的にリスクとはマイナス側のイメージだとおっやる方が多いですね。

前回の規格説明の講習会で40名くらいの参加者にお聞きしました。

「リスクはプラス側にもありますか?」

この問いかけにYesと答えられた方は本当にわずかでした。

■□■ ISO/DIS9001におけるリスク ■□■

 5月に発行されたISO/DIS9001における「リスク」の取り扱いは
CDに比較して次のように変わりました。

 まず、用語の定義が変わりました。

CDでは、”effect of uncertainty”となっていたものが、
“effect of uncertainty on an expected result”となりました。

つまりon an expected result(期待する結果における・・・)が
追加されたのです。

effect of uncertainty(不確かさの影響)では、
象が広いのでISO9001活用の「期待する結果(an expected result)」に
焦点を当てたリスクに絞ったということです。

 また、リスクの定義にNote5が追加されました。

Note 5 to entry: The term “risk” is sometimes used when
there is only the possibility of negative consequences

注記5:”リスク”という用語は,
好ましくない結果となる可能性にだけ使われることがある。

■□■ ISO/DIS9001リスクは好ましくない方向 ■□■

注記5がリスクの定義に追加されたことで、
ISO9001構築におけるリスクは
「好ましくないもの」と考えて良いと思います。

その反対に「好ましいもの」を
機会(opportunity)であると考えるということは従来と同様です。

しかしこの「好ましいもの」とは何かについては
じっくりと考える必要があるように思います。

おわり