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附属書SLキーワード2「マネジメントシステム」その2 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.64  ■□■

*** 附属書SLキーワード2
「マネジメントシステム」その2***

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■□■ 読者から質問 ■□■

 読者から質問が来ましたので、附属書SLキーワード2
「マネジメントシステム」について更に述べます。

質問の趣旨は、今の良い状態を今後も継続して維持していく仕掛けが
「マネジメントシステム」である(と平林は前回述べました)
というならば、

今良い状態である組織にとっては、
過去からのマネジメントシステム運用がよかったといえるのではないか、

あるいはマネジメントシステムがなくても継続して良い状態を
作り出せていける証拠がそこにあるのではないか?というものでした。

 そうであるならば、
改めてマネジメントシステムを設計せずに現在保有しているシステムを
改善していく方が効果的で理にかなっているといえる。

さらに言えば、マネジメントシステムなどと英語でいわずとも日本には
「全員で目標を共有化し、協力して目標達成を遂げるという文化がある」
ので、そのことを明確にしていただきたい。

創業時から続いてきている文化を継続していくことの方が
より重要ではないか?というものです。

■□■ 質問への回答 ■□■

「おっしゃっているとおりです」というのがまずこの質問への回答です。

特に
「全員で目標を共有化し、協力して目標達成を遂げるという文化がある」
 というくだりについては全く同意です。

大胆に言えば
「全員で目標を共有化し、協力して目標達成を遂げる」文化があるならば、
 マネジメントシステムは既に存在していると言っていいかと思います。

更に現在良い状態であるということは、過去に決められたことを、
決められたように継続的に実施してきた結果である、といえると思います。

したがって、新たにマネジメントシステムを作ることはなく
現状を改善していくという視点が重要です。

このような視点は大変重要であると考えます。

組織の現状を把握し今ある組織の実態をベースにQMSを構築することが
基本になります。

附属書SLが箇条4の冒頭で、
「組織は、組織の目的に関連して・・・・」と書き出しているのも
 以上のようなことが背景にあると考えるとよく理解できると思います。

■□■ 組織にはいろいろなマネジメントシステムがある ■□■

 質問された方がおっしゃるように、
英語で「マネジメントシステム」と言われると、何か別の新しいものが

出てきたと勘違いし、組織に今あるにもかかわらず、
新しいものを作ってしまうという愚をおかしたくはありませんね。

 全員で目標を共有化することも
「マネジメントシステム」の重要な要素ですが、重要なことは
 マネジメントシステムの対象を何にするかということです。

 30年前はマネジメントシステムといえば、製品・サービスの品質を
対象にした品質マネジメントシステムが代表的なものでしたが、

今日では、道路交通安全、省エネルギー、事業継続、情報セキュリティ、
労働安全、イベント、環境などいろいろな事業要素を対象にしたものが
規格として制定されています。

このように欧米を中心に提案がされてくるものであるという背景では
英語で呼ばれるのも致し方ないとも言えます。

以上

附属書SLキーワード2「マネジメントシステム」 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.63  2013.5.1 ■□■

*** 附属書SLキーワード2
    「マネジメントシステム」***

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■□■ 言うは易く行うは難し ■□■

 附属書SLキーワード2番目は「マネジメントシステム」です。
いまさら「マネジメントシステムとは何か」なんて必要ないと
思われるかもしれませんが、

「マネジメントシステムとは何か」の理解が適切でないと、
いろいろな活動が成果に結びつきません。

マネジメントシステムは今の「良い状態」をこれからもず~っと
良い状態にしておく仕掛けです。

 時系列の観点からは、この仕掛け、
すなわち「マネジメントシステム」の対象は主に「未来」です。

現在良い状態である製品/サービスを担当者が代わっても、
設備、機械が入れ替わっても、材料が変わっても、あいかわらず
良い状態の製品/サービスを提供し続けることを
「マネジメントシステム」を活用して実現させようということです。

 現在の製品/サービスが良くなければ話にならない訳ですから、
「マネジメントシステム」は、当然ことですが、現在も対象に
しなければなりません。

 しかし、ここで強調しておきたいことは、
現在も対象ですが、継続して良い状態を維持する、
さらに改善する意味においては組織にとって
将来を対象とすることの方が更に重要であるという点です。

 達成したことを維持することは、「達成すること」より
難しいといわれます。

一度達成できたのですから、後はその通り行えばよいと
思いがちですが、これが簡単ではないのです。

「維持する」と口で言うのは簡単ですが、
継続しつづけることは実は大変に難しいことです。

なぜかというと、物事は常に変化しているからです。

■□■ すべてのものは変化する ■□■

 我々が存在する宇宙は138億年の歴史を持っているそうです。
現在の科学ではなぜ宇宙ができたのか十分に解明されていません。

ビッグバンと呼ばれる大爆発により、宇宙が誕生したとも、密度が
無限大で体積はゼロの特異点から宇宙が誕生したともいわれています。

 重要なことは、我々は時間の中で生きているということです。

全ての物質はある種類の原子からできていますが、原子核には陽子と
中性子、素粒子(その中には発見されていないものもある)などが
瞬時、瞬時変化しているのだそうです。

この変化が時間であるとも言えるようですが、ある種類の原子は
徐々にほかの種類の原子に変わっていくと考えられています。

この変化が急激に起きるのが核分裂で、
このときには膨大なエネルギーが放出されます。

質量に光速の2乗を掛けたエネルギーで、
アインシュタインのE=mc?式として有名です。

この宇宙を構成している全ての物質は変化している、時間とともに瞬時、
瞬時変化していることがベースとなって、全ての物質から構成される
我々を取り巻く全てのもの、マネジメントが対象とする全てのものも、
例えば人、空間、経営環境は刻々変化していると理解しなければなりません。

■□■ 品質マネジメントシステムを設計する ■□■

品質マネジメントシステムは、「品質をマネジメントするシステム」です。

環境をマネジメントするシステムがISO14001ですし、
労働災害をマネジメントするシステムがOHSAS18001です。

 先ほど「仕掛け」といいましたが、
システムは「相互に関連する又は相互に作用する要素の集まり」と
ISO9000では定義されています。

この要素の集まりが変化するわけですから、
品質マネジメントシステムを設計する際には相当深く、
幅広く考えなければなりません。
 
 品質をマネジメントする仕掛け自体が変化してしまう、当然のことですが
マネジメントする対象である品質(もの、サービスの品質)も変化します。

変化するもの(対象)を、変化するもの(仕掛け)が
管理する(マネジメント)という変化極まりない、
おかしな(矛盾する)話になってしまいます。

では、どうすればいいのでしょうか?

ここで私がいいたいことは、上述のような矛盾する状況において、
唯一変わらないのは「顧客は価値を感じるものしか買わない」と
いうことです。

 その顧客価値ですら変化するのですから、
品質マネジメントシステムの設計においては「見直す」という要素が
如何に重要であるか理解できるというものです。

■□■ 品質システムー品質保証 VS 品質マネジメントシステム ■□■

 古い方?は覚えておられるかもしれませんが、
実はISO9001:1994のタイトルは「品質システム‐品質保証」となっていました。

2000年版に改定された時に「品質マネジメントシステム-要求事項」と
変わりました。

 その際、品質保証のままがよいか、品質マネジメントシステムと
したほうがよいか、ちょっとした議論が起こりました。

 当時私は、後者の方がいいのではないかと考えました。

理由は、そんなに深く考えたわけではありませんが、今後とも良い状態を
管理することの方に重点を置く方がいいのではないかと思ったからです。

 今から考えると非常に困難で、高度なことを規格は要求することになったと
思います。

 現在の状態を今後とも同じように維持する、さらに改善しなければ
ならないためには、それを達成するだけの「能力」がなければなりません。

 組織にはいろいろな能力が要求されます。

要員の能力、設備の能力、そしてプロセスの能力などが期待される
レベルになっていること、その能力が維持できるようになっていないと
マネジメントシステムは維持、改善されていきません。

マネジメントシステム規格共通文書5 | 平林良人の『つなげるツボ』

■□■ 平林良人の『つなげるツボ』 Vol.56 ■□■

*** マネジメントシステム規格共通文書5 ***

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それでは本題ですが、

■□■ 共通テキスト化のポイント ■□■

 ISO/IEC Directive の附属書SLに組み込まれたMSSのポイントは
5つあるとして、前回までにそのうち1,2,3,4について述べました。

1.どのMSSにもある普遍的な箇条の文章が共通化されたこと。
2.MSSの構造の統一と用語定義の共通化がなされたこと。
3.MSSを導入する前提を明確にすることが問われるようになっ
たこと。
4.要求事項をビジネスプロセスに統合することが要求されてい
ること。
5.リスクの考え方が導入されたこと。

 今回は、「5.リスクの考え方が導入されたこと。」について説明
をします。

■リスクとは■

 附属書SL箇条3.09に「不確かさの影響」と定義されています。
これから何が起こるか分からない、誰も未来をいい当てられない状況
においても、何が起こりうるかを予測し、それに対する影響を明確に
しておくことが要求されています。

 箇条6.1では、同時に「機会(opportunity)」も明確にすることが
要求されています。附属書SLには機会の定義はされていませんが、
opportunityは好機とも訳されますので、目標達成の見込み、向上・
改善のチャンスなど組織にとって良いことについても明確にすること
が要求されています。

 リスクは「何かについての影響」であり、機会は「何か」そのもの
であることに両者の違いをみることができます。

■リスクを明確にする際の視点■

 ただ、無条件に組織のリスクと機会を決定すると要求しているわけ
ではありません。
 「①組織の目的に関連した外部・内部の課題、②MSSの意図した成果
を達成する能力に影響を与える外部・内部の課題」に関してのリスク
と機会でなければなりません。

 決定したリスクと機会については、a)MSSの意図した成果を確実に
達成する、b)望ましくない影響を防止又は低減する、c)継続的に改善
することが求められています。

 更に、箇条8.1ではこのa)~c)への取り組みに必要なプロセスを計画
し、実施し、かつ管理することが求められています。

 我々は、確実にものごとを実行することは、現在においてしかできま
せん。だれも未来において、何かを確実にすると言い切れません。

 我々にできることは、将来何が起こるのかを予測し、それに備えるこ
との実行だけです。予測したことが、未来においてその通りになったの
か、ならなかったのか、準備したことが適切であったのか、なかったの
かなどについては、将来の人にしか分かりません。未来に存在する人
だけがそれを確認できるのですが、その人が現在の人である保証はあ
りません。

 現在、備えとして行ったことが、実は大きな潜在的効果になっていた、
というようなことは誰にも認めてもらえない可能性もあります。

 附属書SLはリスク及び機会を決定するに際して、どのくらいの時間ス
パンが望ましいかについては何もいっていませんが、現在の事業計画
の延長線上を見定めての決定がよいと思います。
  
■ 組織及び制度に与える影響 ■

 附属書SLが今後組織及び認証制度にどのような影響を及ぼすかに
ついては、いろいろな見方があってしかるべきです。

 筆者は次のような観点から組織及び認証制度への影響を考えるべ
きであるかと思っています。それは、まさしく附属書SL箇条6.1に述
べられている観点からです。

 すなわち、リスクと機会についてであり、何をリスクと捉えるか、
何を機会ととらえるかを組織は自分たちの置かれている状況、
環境のなかから考察していくべきです。したがって具体的な影響は
組織によって様々であると思います。

■ MSSへの応用状況 ■

最後になりますが、12種類のMSSの状況です。

①ISO9001

 2012年3月の国際定期見直し投票結果により改正が決定されました。
 2012年6月に第1回TC176/SC2/WG24がスペインで開催され、設計計
 画書が作成されました。
 附属書SLの採用が決定され、スタート時点として単純に 附属書SL
 と現行の規格(2008年版)の組み合せを作成 しながら、2015年完
 成を目標にプロジェクトが進んでいます。

②ISO14001

 1996年の初版後、2004年に改正されたのみで、以来改正がされず
 にきましたが、2015年を目標に改正作業に入っています。
 附属書SLの採用が決定され、そこに環境に特有な要求事項をどの
 ように入れ込むのかの議論が続いています。
 ex)環境側面に関する要求はどこの箇条に入れるのがよいのか?

③ISO22301(事業継続マネジメントシステム)

 2012年5月に新しいテーマである国際規格が発行されました。
 附属書SLに基づいた初の規格です。

④ISO20121(イベントマネジメントシステム)

 2012年7月新しいテーマである国際規格が発行されました。
 附属書SLに基づいた2番目の規格です。

⑤ISO39001(道路交通安全マネジメントシステム)

 2012年10月に新しいテーマである国際規格が発行されました。
 附属書SLに基づいた3番目の規格です。

⑥ISO27001(情報セキュリティマネジメントシステム)

 2005年5月発行規格が最新版です。
 現在、附属書SLに基づいた改定版を開発中で、現在CD段階に
 あります。

⑦ISO22000(食品安全マネジメントシステム)

 2005年5月発行規格が最新版です。 
 現段階の「改正」は現場の混乱をまねくとして、現在のままで
 いく決定がされました(確認)。

⑧ISO20000(ITサービスマネジメントシステム)

 2011年4月が最新版の国際規格です。
 現在JIS化が進められています。

⑨ISO50001(エネルギーマネジメントシステム)

 2011年5月発行の新しいテーマの国際規格です。
 現在、周辺の規格の開発が進められています。

⑩ISO16949(自動車セクター規格)

 アメリカBig3が作ったInternational Autmobil Task ForceがISOと
 一緒に作成した規格です。
 附属書SLは規格ユーザーへの影響が大きいという背景から、
 採用しない案をISO/TMBへなげかけており、今後の展開が
 注目されます。

⑪ISO9100(航空宇宙マネジメントシステム)

 世界の航空宇宙関係の部品メーカー用のセクター規格です。 
 現段階では、附属書SLを採用しての「改正」を検討しています。

⑫ISO55001(アセットマネジメントシステム)

 2010年に英国BSIの提案で開発が進められ、現在CD段階にいます。
 附属書SLを用いて開発が進められています。

以上

マネジメントシステム規格共通文書4 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.55  ■□■

*** マネジメントシステム規格共通文書4 ***

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■□■ 共通テキスト化のポイント ■□■

 ISO/IEC Directive の附属書SLに組み込まれたMSSのポイン
トは5つあるとして、前回までにそのうち1,2,3について述べま
した。

1.どのMSSにもある普遍的な箇条の文章が共通化されたこと。

2.MSSの構造の統一と用語定義の共通化がなされたこと。

3.MSSを導入する前提を明確にすることが問われるようになっ
たこと。

4.要求事項をビジネスプロセスに統合することが要求されてい
ること。

5.リスクの考え方が導入されたこと。

 今回は、「4.要求事項をビジネスプロセスに統合することが
要求されていること」について説明をします。

■□ ×××要求事項をビジネスプロセスに統合する ■□

 今回の附属書SLの大きなポイントは、箇条5.1にある「組織の事
業プロセスへの統合」です。

 たった一行の文章ですが、この意味するところは経営の本質に
かわるものであり、今回のMSS共通文書によるシステム構築、維
持、改善に大きな影響を与えるものであると考えます。

 認証審査にも当然のこと影響を与えることになると思います。
 ここにおけるポイントは2つあります。一つは「事業プロセス
(business process)」であり、もう一つは「統合(integration)」
です。

■□ 事業プロセスとは  ■□

 箇条5.1の注記に「この規格で“事業”という場合、それは、組織
の存在の目的(purpose)の中核となる活動という広義の意味で解釈
することが望ましい」とあります。

“NOTE : Reference to “business” in this International
Standard should be interpreted broadly to mean those
activities that are core to the purpose of the organization’s
existence”

 ここにおける目的は前回で述べた目的、purposeであって、
objectivesではないことに注意が必要です。このNoteは、「組織の
存在の目的」という組織の根源的なことに触れています。

 ここでいう組織の目的は、まさしく前回ふれたドラッカーの著書
“Management”にでてくる企業の目的である「顧客の創造」であると
いってよいでしょう。 

 顧客の創造に関するプロセスとは、組織が毎日行っている活動であ
り、たとえば市場調査プロセスであったり、商品/サービス企画プロ
セスであったり、とにかく製品或いはサービスをお客様に届けるとい
うことに関係する活動はすべてがそうであるといえます。

 たとえば、研究開発プロセス、設計プロセス、技術プロセス、製造
/サービス提供プロセス、購買、品質保証プロセス、配送プロセス、
クレーム対応プロセス、アフターサービスプロセスなどは当然該当す
ると思います。

 組織が顧客にむいて、顧客のために、顧客の身になって行う活動は
すべて事業プロセスといってよいでしょう。

 すべての企業は、企業自身が作り出す「製品又はサービス(以下、
製品という場合もサービスを含む)」が市場で受け入れられ、その製
品の価値に見合う対価を受け取ることで継続的に存在することができ
ます。

 企業が事業を連続的に継承していくためには、常に企業の製品
が顧客ニーズと期待に合っていなければなりません。そして、そのた
めには、企業自身が「常に顧客ニーズと期待に合った製品」を提供し
ていくマネジメントシステムを構築、維持していくことが重要です。

 企業のマネジメントは、多様な要素から成り立っています。例えば、
事業モデルの確立、ビジョンと戦略の策定、収益構造の維持、研究開
発、安全、環境保全、社会貢献、従業員教育、福利厚生、財務管理、
リスク分析、非常事態への対応、顧客対応と顧客満足度向上、品質管
理、非常時対応、事業継承、内部統制、企業倫理、法例遵守などです。

 これらマネジメントの要素は当然のことながら、企業の性質、規模、
持っている製品によって異なります。しかもこれらは、お互いに影響
をし合い大きなシステムを作っているので、要素の重要性に順序は付
けがたいものです。

■□ CSRも事業プロセス  ■□

 直接顧客の創造につながらなくても、社会全般に向けての活動も間
接的には顧客創造につながるものですので、事業プロセスといってよい
と思います。
 
 たとえば、CSR(企業の社会責任)活動に関係するプロセスもそうで
しょう。CSRには7つの重要な活動があるといわれています。

①組織統治(Organizational governance)に関する活動
 社会正義に反することをしないよう組織を統治する。

②人権(Human rights)に関する活動
 従業員の人権をまもる、例えば差別、強制就業、いやがらせなどを
無くす。

③労働慣行(Labor practices)に関する活動
 就業規則、給与、福利厚生、残業、休日出勤などのルールを守る。

④環境(Environment)に関する活動
 環境保全をはじめ、もろもろの活動により環境への配慮をする。

⑤公正事業活動(Fair operating practices)に関する活動
 法を守る、業界ルールなどを遵守する。

⑥消費者課題(Consumer issues)に関する活動
 消費者保護の精神に則った企業活動をする。

⑦地域社会参画と発展(Community involvement & development) に
 関する活動立地している社会との相互関係を尊重し地域に貢献する。

 CSR活動以外の品質管理活動、環境管理活動、安全管理活動、情報管
理活動などのMSSに関係するテーマも、ほとんどが事業活動(プロセス)
であるといえます。

■□ 事業プロセスは日々の活動に分解される  ■□

 ISO9000規格では、プロセスを「インプットをアウトプットに変換
する、相互に関連する又は相互に作用する一連の活動」と定義してい
ます。

 この一連の活動というところがポイントです。設計というプロセス
を考えてみると、基本設計、構造設計、要素設計、設備設計、許容
交差計算、詳細設計などいろいろな活動がありえます。

 これらの活動は更に小さな活動に分解可能です。例えば、基本設計
を分解すると、素材選択とか、強度計算のようなより小さな、より具
体的な活動になります。
 
 このようにして分解をしていくと、最後は個人が仕事することがで
きる大きさになります。

以上

マネジメントシステム規格共通文書3 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.54  ■□■

*** マネジメントシステム規格共通文書3 ***

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■□■ 共通テキスト化のポイント ■□■

ISO/IEC Directive の附属書SLに組み込まれたMSSのポイントは
5つあるとして、前回までにそのうち1.2.について述べました。

1.どのMSSにもある普遍的な箇条の文章が共通化されたこと。
2.MSSの構造の統一と用語定義の共通化がなされたこと。
3.MSSを導入する前提を明確にすることが問われるようになっ
たこと。
4.要求事項をビジネスプロセスに統合することが要求されてい
ること。
5.リスクの考え方が導入されたこと。

1.2.で述べきれなかったこととして、より容易な文章で規格が
作成されたということを追加して説明します。

■□ 日常のビジネス用語で規格の要求を述べる ■□

例えば、箇条「6.2 XXX目的及びそれを達成するための計画策定」
には、次のような一節があります。

・ what will be done
(何がなされるのか)
・ what resources will be required
(どんな資源が必要とされるのか)
・ who will be responsible
(誰が責任をもつのか)
・ when it will be completed
(いつ終了するのか)
・ how the results will be evaluated
(どのように結果は評価されるのか)

このように、5W1Hを使用した要求事項は今までの
ISO規格にはなかったものでした。

同様な例が、「7.4コミュニケーション」にもあります。

・ on what it will communicate
(何についてコミュニケーションするのか)
・ when to communicate
(いつコミュニケーションするのか)
・ with whom to communicate
(誰とコミュニケーションするのか)
 
このように我々が日ごろの業務の中で使用している
用語を使用しての規格は、なじみやすく、従来よりも
多くの人に理解されるといってよいであろう。

■□ ×××MSSを導入する前提を明確にすること ■□

従来のISO規格にはなかったものとして、
「組織はなぜ×××MSSを導入するのか」
「組織を取り巻く状況はどのようなものか」というようなことを
明確にするように規格は要求しています。

まず問われているのは、組織の目的に関連した外部、
内部の課題を明確にすることです。

ここで気を付けなければならないことは、目的の原文は
“purpose”であり、”objectives”ではないということです。

ちょっとややこしいが、今回の日本規格協会の翻訳では、
“purpose”も”objectives”も同じ「目的」と翻訳されています。

国内審議で幾多議論された結果であるが、今後の出版物には
背景と注意を喚起するとしています。

以下は今回の翻訳(日本規格協会、ホームページ)について、
日本規格協会が原文にない部分として追加した3.08注記4です。

(規格開発者への注記 この文書はマネジメントシステムの中での
統一した用語の使用を推奨していることから,この文書内における
目的(objective)には,一貫して“目的”という訳語をあてています。

他方,既存のJISでは,日本語と英語の語彙の違い,
各マネジメントシステムにおける分野固有の背景及び
規格内の文脈との関係などの理由から,
目的(objective)に対して分野固有ごとに異なる用語が
使用され,広く一般化しているという現状もあります。

<例>
JIS Q 9001では“(品質)目標”,JIS Q 14001などでは“目的”が
それぞれ使用されています。

このため, 各分野固有のJISにおいては,分野固有の背景,
文脈などを踏まえて,“目的”又は“目標”のいずれかを
選択することが望ましい。

また,その選択の背景などについては,JISの解説に記載し,
規格利用者に対して説明することが望ましい。)

「4.1組織及びその状況の理解」、「5.2方針」、
「5.1 リーダーシップ及びコミットメント:注記」の3か所にある
「目的」は原文がpurposeです。

他の所、例えば「5.2 方針」2番目の「目的」、
「6.2 XXX目的及びそれを達成するための計画策定」などの
個所にでてくる「目的」の原文は“objectives”です。

■□ ドラッカーは“purpose”と”objectives”を
              このように説明している ■□

ドラッカーは、目的(purpose)について次のように述べています。

“To know what a business is we have to start with its
purpose.
Its purpose must lie outside of the business itself.
In fact, it must lie in society since business enterprise
is an organ of society. There is only one valid definition
of business purpose: to create a customer. P.F.Drucker
“Management : Tasks, Responsibility, Practices、1973年”

「企業とは何かを知るためには、企業の目的から
考えなければならない。
企業の目的は、それぞれの企業の外にある。
企業は社会の機関であり、その目的は社会にある。
企業の目的の定義は一つしかない。
それは、顧客を創造することである。
上田惇生編訳、ダイヤモンド社、2001年」

purpose とobjectivesの関係については、ドラッカーは次のように
言っています。

“From the definition of its mission and purpose a business
must derive objectives in a number of key areas; it must
balance these objectives against each other and against the
competing demands of today and tomorrow.”

“Defining the purpose and mission of the business is
difficult, painful, and, risky. But it alone enables a
business to set objectives, to develop strategies, to
concentrate its resources and to go to work.”

「事業の“ミッションとpurpose”の定義から、主要な幾つかの
領域におけるobjectivesを導き出さなければならない。
今日と明日とでは競合する要求及び相互のobjectivesについて
バランスを取らなければならない。」

「事業の“purposeとミッション”を定義することは、難しく、
苦痛で、リスクを伴う。
しかし、“purposeとミッション”のみが事業のobjectivesを設定し、
戦略を展開し、資源を集中し、活動することを可能にする。」

このようにドラッカーは、“purpose”とは
組織の外にあるものであり
“objectives”の上位に位置するものである、と説いています。

以上