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ISO45001の開発状況 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.138 ■□■
*** ISO45001の開発状況 ***
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■□■ ISO45001 ■□■
労働安全衛生マネジメントシステムのISO化が進んでいます。
来週はマレーシアで、ISO/PC283(ISO45001:OH&Sマネジメント
システム)の国際会議が開催されます。

■□■ DIS2/45001の承認■□■
ILO(国際労働機関)とISOの長い確執により労働安全衛生マネジ
メントシステムのISO化は25年ほど止まったままでした。
労働安全衛生マネジメントシステムをISO化しようという議論が
最初に起きたのは1994年のISO/TC207(環境マネジメントシステ
ム)の議論においてでした。

しかし、その当時からILOが労働安全衛生issueは自分たちの領域
であり、ISOで扱うことには反対という立場を表明していました。
以来BSIは2回労働安全衛生マネジメントシステムのISO化を提案
しましたが、結果はいつも否決でした。

そうこうするうちに、1999年にBSIが主導してOHSASグループ
(自主的なグループ約30機関が参加、日本からはJSA、JISHAも
参加)が、OHSAS18001という規格(労働安全衛生マネジメント
システムのコンソーシアム規格)を発行するになりました。

■□■ ILOとISOの覚書 ■□■
2013年、ILOとISOは相互の壁を乗り越えて労働安全衛生マネジメ
ントシステムのISO化を協働して推進しようという画期的な協定を
結びました。

これはOHSAS18001の認証数が世界で約150カ国、90,000件にまで
拡大し、ILOとしても自主的な民間国際規格を無視できなくなったと
言われています。

しかし、もともと理念が異なる2つの国際機関の間では多くの見解の
違いがあり、当初見込みの日程では国際規格が開発できず大幅に遅れ
た状態でISO45001関発が進んできました。

見解の大きな違いは、マネジメントシステムの概念についてです。
ISOは規制当局が行う、例えば「法律を守らなければならない」と
いうような直接的なパフォーマンス要求を規格の中に入れるという
ことはしません。

ILOは「法律を守らなければならない」という要求を規格の中に入
れるべきであると、開発当初主張していました。

■□■ DIS2からFDISへ ■□■
ISO/PC283は、参加国84か国、リエゾン約20機関というTC176
(品質)、TC207(環境)に次ぐ大きな専門委員会ですので、提出さ
れる原案に対するコメントも半端な数ではありません。

前回のDISに対するコメント数は約3,000件ありました。今回の
DIS2に対するコメント数は約1,600件あります。

DIS2は2017年7月の投票で採択されたのですが、これだけ多くの
コメント付きでの採択でした。

今回のマレーシア会議でDIS2原案を1,600件のコメントに基づいて
修正すべきかどうか議論しなければなりません。

■□■ 議論の機会 ■□■
筆者の経験から1週間の議論で消化できるコメント数は内容にも
よりますが、いくら頑張っても約1,000件です。ということは今回
の国際会議だけではコメント処理が終わりそうにありません。

今週の会議の後、もう1回国際会議を開催してISO45001の成立を
期するということになりそうです。

ISO45001労働安全衛生MSS | 平林良人の『つなげるツボ』

■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.103 ■□■
*** ISO45001労働安全衛生MSS ***
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■□■ ダブリン会議 ■□■

6月28日~7月5日までアイルランドのダブリンでPC283の国際会議が開かれ参加してき
ました。

労働安全衛生マネジメントシステムは、国際的には長い間OHSAS18001というOHSASグ
ループが作成した規格に基づいて審査が行われてきました。OHSASグループとは、イ
ギリスのBSIが中心となって設立した労働安全衛生OHSAS18001規格を運用するために
設立した組織です。日本からは日本規格協会などが参加しています。


■□■ 日本国内は中災防などの規格がある ■□■

しかし、日本国内には中災防(中央労働災害防止協会)、建災防(建設業労働災害防
止協会)などが運用しているOHSAS18001とは異なる基準があります。

それはILO(国際労働機構)が定めた労働安全衛生マネジメントシステムガイドであ
り、中災防、建災防などはこれに整合した自分たちの基準を作成し、それに基づいて
審査を行ってきました。

ILOは、1919年に、ベルサイユ条約第13編(後のILO憲章)によって設立された国際機
関です。労働条件の改善を通じて、社会正義を基礎とした世界平和の確立に寄与する
ことを目的としています。ILOは、スイスのジュネーブに本部があり政府、労働者、
使用者の三者構成で運営されています。

ISO(国際標準化機構)も1926年に設立された国際機関でやはりスイスのジュネーブ
に本部があります。ただし、こちらは国連の一部ではありません。


■□■ なぜ、ダブルスタンダードなのか ■□■

その背景は、2000年ころに戻ります。当時、ISOはBSIが提案してきた労働安全衛生規
格を国際規格にするかについて、何回もNWIP(New Work Item Proposal)の審議、そ
れにつづく採択するかの投票を行いましたが、そのたびにILOが反対して国際規格制
定の実現が図られませんでした。

ILOが反対した理由は、労働安全衛生はILOの専管事項であり、それに関係する規格も
またILOが主導すべきものである、というものです。


■□■ ILOの方針転換 ■□■

2013年2月、ILOはISOとMOU(Memorandum of Understanding:行政機関等の組織間の合
意事項を記した文書であり、通常、法的拘束力を有さない;了解覚書といわれる)を
結びました。これは、労働安全衛生マネジメントシステム規格の新規作成に関するも
のでした。

両機関が協力して一つの国際規格―労働安全衛生マネジメントシステムに関する―を
作ろうというもので、従来のILOとISOの関係からすると画期的なものでした。


■□■ PC283の設立■□■

2013年10月、このMOUに基づきISOに新たにPC283が新設されました。PC(Project
Committee)というのはTC(Technical Committee)と異なり、一つの規格だけを扱う
規模の小さな技術専門委員会のことです。

初回の会議はイギリスで行われました。以来、モロッコ、ドバイ、トリニダートトバ
コ、そしてアイルランドと国際会議が開かれてきました。

現時点、ISO45001 はDIS(Draft International Standard)にいくことが承認された
状態にいます。ダブリンでもDISに向けての規格作成への基礎検討がされました。当
然のことですが、CD(Committee Draft:委員会原案)がベースとなって検討がされ
ましたが、次回9月の会議までに、各国は規格内容の検討をしていくことが要請され
た状況になっています。

次回は、規格の中から重要と思われる懸案事項をお話ししたいと思います。