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附属書SLパネルディスカッション-最後 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.81■□■

*** 附属書SLパネルディスカッション-最後 ***
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■□■ 附属書SLは世界戦略の中にある ■□■

 フォーラムのお話に最後までお付き合いいただき
ありがとうございます。

 今回が一連の話題の最後になります。
(昨年テクノファ年次フォーラムでは附属書SLに関して、
有識者の方に集まっていただいてパネルディスカッションを行いました)。

 フォーラムの時の様子をお伝えしますが、
出席者の方の発言は平林の責任で編集させていただいております。

平林:
 トップは、ISOマネジメントシステム規格を使わずとも品質や環境、
 情報セキュリティなども含めた企業経営を実践しています。

 ただ、ISOは世界の知識や知恵、経験を集めてすべての組織に対して
 提案するマネジメンシステムを示しています。

 先ほど野口さんは「IS031000も附属書SLも組織を
 良くしていこうという方向ではまったく同じ」とおっしゃっていました。

 ISOマネジメントシステム規格は、いいものである。

 「これを使うことにより経営に対して貢献できる」ということを
 分かってもらうための知恵、アイデアについてお聞かせください。

野ロさん:
 本日のISO関係者のお集まりの中では言い難いのですが、
 経営がうまく回っていく自信があるなら、
 トッブはISOを意識しなくていいのではと考えています。

 ただし、これからグローバル企業を目指すなら話は別で、
 是非とも参考にすべきでしょう。

 個人の経験とは限れたものに過ぎない、
 これは企業経営にもあてはまります。

 日本国内ではどんなに優秀な企業でも、世界に出て行ったときに、
 日本でのやり方や感覚が通じるとは限らないはずです。

 ここでISOマネジメントシステム規格は、
 非常に参考になるのは間違いないでしょう。

 例えば海外進出を進める企業においては、
 自分たちの考えを実践するにあたって、
 マネジャー職位の強力なツールになると考えています。

 確かにISOは、かなり政治的な色合いが濃く、
 また国家地域問の利害が絡んだパワーゲーム的な要素はありますが、
 こうしたことを差し引いても、
 世界中の視点や知恵を集めたものという点でリスペクトすべきものです。

■□■ 本当にトップの関与が必要か? ■□■

野口さん:
 トップの関与という先ほどからの話については、
 私自身の考えは少々異なります。

 マネジメントは、マネジャーがやるのが当たり前で、
 トップの関与をわざわざ強調すること自体、疑問があります。

 「マネジメントをマネジャーがやらずに誰がやるのか?」
 という発想です。

 トップの関与が乏しいと見なされる背景には、
 おそらく二つ問題があるからではないでしょうか。

 まずは分業化がキーワードでしょう。

 産業革命が起きて工業化がはじまってしばらくの間、
 例えば物づくりでは一人ひとりが独立して
 作業を進めていました。

 その後、分業化の流れが出てきました。

 さらにはその分業化自体を、
 例えば、品質や環境などとテーマでより細かく分けて、
 ある程度の規模以上の組織なら専任の担当者を
 据えるようになりました。

 ただ人間の特性として、
 管理されたくないとの意向は必ずあるはずです。

 リソースがあり余っていて、
 テーマ別に細かく分かれたままで関係性が薄い状況なら、
 管理されずバラバラでも業務は回っていくでしょう。

 ただ、それぞれの活動のレベルが高くなっていき、
 例えば、品質とか環境のやっていることがお互いに
 干渉したり関係性が出てきたりするとそうはいかなくなります。

 予算一つ決めるにしても、
 品質と環境の要素をそれぞれどんな割合にするのか、
 限られた資源をどう割り振るかといった問題が
 必ず生じるはずです。

 こうした場面で、マネジメントが必要になり
 マネジャーの関与が必須となるはずです。

 そして、その役割は必ずしもトップでなくてもいいのです。

■□■ 事務局はトップ関与を嫌う? ■□■

野口さん:
 さらもう一つ、
 今の状況を生んだ背景には事務局の
 トッブに対する接し方も関係してきたと思います。

 言い方はきついかもしれませんが、
 事務局がトップマネジメントの関与を
 むしろ嫌ったのではないかということです。

 「余計なことを言われたくない」と思えば、
 「ISO用語でいえば
  これをやればいいことになっているので問題ありません」

 などと説明すれば(トップへの)社内対策は
 済んでしまったのでしょう。

 すべての経営者は、ISOを理解すべきか、
 というとこれもなかなか難しい間題です。

 先ほどグローバル化を進めるにあたっては
 マネジャークラスでは参考になるといいました。

 ただすべての経営者に必要かというと、
 そうとも言い切れないでしょう。

■□■ 世界標準準拠の弊害 ■□■

野口さん:
 むしろ弊害を生みかねないことが気になっています。

 トップは企業マネジメント全般に関して
 今の世界の趨勢など知っておく必要があるでしょう。

 ISOで議論をしていることを踏まえて
 マネジメントシステム規格の中身を理解して
 採り入れるのはいいことかもしれません。

 一方でマネジメントの手法からすれば、
 先駆的な企業から10年の遅れが生じかねないのです。

 新規格が開発される場合、
 例えば欧米企業が実際に運用経験を積んだ上で、
 その経験した内容がISOに提案されて専門委員会が立ち上がります。

 その後の規格策定作業には数年間要します。

 欧米企業が実際に成果を出してから、
 そのやり方が国際規格になって、

 その後、日本企業がISOマネジメントシステム規格を通して
 採り入れようとすると、もの凄い遅れがでてしまうのです。

 ですからこの流れを逆に利用することを含めて、
 いろいろ検討して日本として手を打っていく必要があると
 考えています。

平林:
 トッブが関心を示さないのは事務局が
 放っておいたのではないかと辛ロのご指摘がありましたが
 同感するところもあります。

 現行版のIS09001やISO14001は、
 トップマネジメントにいろいろ相談したり
 決めてもらったりしないと仕組みができない中身で
 なかったことも一因かもしれません。

■□■ 附属書SLは経営の流れ ■□■

平林:
 今度の附属書SLでは、
 「組織の目的」「意図した成果」「組織の能力」「事業ブロセス」等々、
 事務局だけでは決められない要素が数多く含まれており、
 自ずとトップマネジメントの関与が欠かせなくなると期待しています。

奥野さん:
 附属書SLの箇条4から箇条6の流れは、
 世の中の経営レベルの意志決定の流れを参考にして
 今の構造になっています。

 この点をトップマネジメントにご説明したら、
 おそらくトップにはピンとくる当たり前のことなので、
 すぐに分かっていただけると思います。

 その際のキーワードの一つになるのが、
 「意図した成果」だと考えています。

 実はJTCGやSC1では、さまざまな国のエキスパートと
 ディスカッションをさせていただきましたが、

 こうした会合の場で、最初によく議論の対象に挙がるのが、
 附属書SLでいえば
 「4.1組織及びその状況の理解」関連する内容です。

 「意図した成果を達成する組織の能力に影響を与える」
 とありますが、ここでの「意図した成果」とは

 裏を返せばXXXマネジメントシステムに組織が取り組む
 理由になります。

 ですから附属書SLの箇条4の本文を作る際、
 そういう意図した成巣が達成できるのか、

 どのようにすればいいのか、
 この点は柑当意見を交えています。

 その後、箇条6にも出てきますが、
 意図した成果が達成できるのかということに対して、
 問題となっている(リスク)、

 あるいは課題となっている(機会)ことに、
 組織がどう取り組むかを計画していきなさい、

 という考えで、
 今回、箇条4から箇条6の構造ができたことを強調しておきます。

おわり

附属書SL策定における議論 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.79■□■

*** 附属書SL策定における議論***

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■□■ 各専門委員会にその権限はある ■□■

 フォーラムの続きです
(昨年テクノファ年次フォーラムでは附属書SLに関して、
 有識者の方に集まっていただいてパネルディスカッションを
 行いました)。

 フォーラムの時の様子をお伝えしますが、
出席者の方の発言は平林の責任で編集させていただいています。
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平林:
 次に奥野さんに、TMB/TAG/JTCGで附属書SLの策定作業に
 直接携わったことを踏まえて、今までの一連の話に対する
 コメントをお聞きします。

奥野麻衣子さん(三菱UFJリサーチ&コンサルティング):
 皆さまから附属書SLに対していただいたお話が
 あまりにも的を射ていることもあり、
 策定に関わった身としてどう言えばいいのかちょっと
 戸惑っています。

 基本的に規格の中身の作成については、
 各専門委員会にその権限があります。

 その専門委員会に参加している各国エキスバートの
 合意による決定に対して、単なる諮問機関であるJTCGには
 待ったをかける権限などは一切ありません。

 そういうことを踏まえた上でご紹介します。

 まず附属書SLとは、ISOマネジメントシステム規格の
 共通の土台になるものです。

 逆に言うと、それぞれの分野の固有の規格を作ってもらうために
 柔軟性をもっています。

 分野ごとの要求事項を追加できるよう
 柔軟性を確保しているわけですが、
 どうしても適用できない分野固有の規格要素、
 あるいは附属書SLの共通要求事項がある場合には、
 JTCGにリポートしていただきその扱いを検討するという
 プロセスを設けています。

■□■ JTCGにはISO14001の代表として参加 ■□■

奥野さん:
 私はJTCGにはISO14001の代表として参加してきました。

 実はこのJTCGにおける附属書SLの作成過程は、
 要求事項の本文と用語とでは逆の発想で進められました。

 まず本文は共通化について最大限の達成を図ることを念頭に
 策定が進められました。

 具体的には、各分野の規格本文に共通にするものだけを
 残していくやり方をとっています。

 逆に、先ほどから話に出ているリスクを含めた
 用語の定義に関しては、できるだけ幅広く
 取り込んでいこうという考えで進められました。

 そのためもあって附属書SLには
 使い勝手が悪いところも少しはあるかとは思います。

 ただ基本的にはそれをどう使うのかという権限、
 その際の柔軟性などは、すべて個別の専門委員会に委ねており、
 各委員会が判断して策定作業を進めることで、
 より使いやすいようにしていただくことになっています。

 なお、2013年夏、
 ISO中央事務局がTC207総会で報告した内容によると、
 附属書SLを使って各専門委員会がそれぞれの規格を改正、
 策定作業をしているが、著しく逸脱したケースは
 見られないとのことです。

■□■ コンセンサスレベルの低い理由 ■□■

奥野さん:
 次に附属書SL策定についてですが、
 先ほどの吉田さんがご指摘したとおり、
 途中段階のコンセンサスのレベルが低いのは確かですね。

 JTCGで附属書SLの策定したグループには、
 lSO9001やISO14001からはそれぞれエキスパート4人が
 参加していますがISO/IEC27001やISO22301など他からは
 一人か二人でした。

 附属書SLを作っていく過程でのブロセスは、
 試行錯誤の続くジグザグプロセスでした。

 ドラフトを各段階で各エキスパートが
 専門委員会に持ち帰って議論してもらい、
 その内容をJTCGに戻して検討するといった
 丁寧なコンセンサスブロセスです。

 しかし、スタートからしばらくの間、
 また中間でも作業がなかなか進まなかったこともあり、
 プロセスを増やす案はTMBに受け入れられませんでした。

 むしろ逆にプロジェクト期間が5年ということもあり、
 急かされて作ったという印象が残っています。

■□■ リスクに関しては相当議論した ■□■

奥野さん:
 皆さんからご意見をいただいているリスクに関しても、
 コンセンサスレベルが高かったとは言えないのは事実です。

 もちろんさんざん議論は重ねてきてはいます。

 このリスクについては、世の中ではリスクマネジメントや、
 その他新しいコンセプトが次々と現れてきており、
 その定義についてはいろいろな考えを検討する必要が
 ありました。

 企業ガバナンスの分野においては、
 コーポレートレベルでリスクという概念が既にあるが、
 附属書SLにおいて馴染むのかという指摘もその一例です。

 また、旧態依然としたISOのマネジメントシステムから
 経営に本当に役立つ仕組みに昇華させるためには、
 リスクというコンセプトをしっかり入れるべきだという
 意見も出されました。 

 さらには、リスクの意昧についてユーザーの間で
 相当な開きがあるが、この認識の一致はどうやるべきか。

 このように、リスクに関しては
 長い時間をかけていろいろ検討を重ねたことを覚えています。

以上

※注)JTCGとは
 2006年、ISO本部にJTCG
(Joint TechnicalCo-ordination Group = 合同技術調整グループ)
という委員会が設置され、マネジメントシステム規格の整合性向上の
手順などに関して、改定・作成を含めた作業が行われています。

附属書SLとISO27001,次期45001 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.77■□■

*** 附属書SLとISO27001,次期45001 ***

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■□■附属書SLとISO27001■□■

 フォーラムの続きです。
(昨年テクノファ年次フォーラムでは附属書SLに関して、
 有識者の方に集まっていただいてパネルディスカッションを
 行いました)

 フォーラムの時の様子をお伝えしますが、出席者の方の発言は
平林の責任で編集させていただいています。

平林(テクノファ):
 次は高取さんにISO/IEC 27001についてうかがいます。
 附属書SLに基づいて既に改正版が出ていますね。

高取敏夫さん(JIPDEC:日本情報経済社会推進協会):
 ISO/IEC27001の改正版はもう発行されていますが、
 まず中身についてはですが、ほとんど附属書SLに準拠しています。

 ただし、吉田さんがご指摘したように、「リスクと機会」を
 どう扱うのかは非常に悩ましいところでした。

 結論から申し上げますと、2005年版にあるリスクマネジメントや
 リスクアセスメントの考え方で、既に世界中で数千もの組織が
 現実に仕組みを構築し運用していることを重視しました。

 この事実を受けて、今回出たISO/IEC27001の2013年改正版においては、
 あくまでも2005年版の考え方は変えないというスタンスで改正を
 進めてきています。

 もちろん改正作業では他にもいろいろ議論になりました。

 2005年版のセクター固有の扱いについてどうするかですが、
 会合でのメンバー間の意見は非常に揺れました。

 例えば「リスクのアセスメント対応に関する要求事項の位置付け.」は、
 箇条6、箇条8のどちらにするのか。

 2005年版のマネジメントシステムでは、最初のいわゆるシステムの
 確立のところでリスクアセスメントを求めており、
 この点との整合性が議論されました。

 最終的には議論を重ねて、附属書SLの4.1、4.2、6.1、8.1が、
 一連の関係性がある構造を持っているということで合意しています。

 附属書SLによる改正作業の関連資料として、ISO/IEC27001に関して
 固有の要求事項を整理して分かりやすくするために、
 「要求事項のマッピング」という資料を作っています。

 ISO/IEC/JT1/SC27として作成したもので、
 これを参考に附属書SL規格の要求事項に対応していける、
 あるいは包含されているとご理解いただければと思います。

■□■附属書SLとISO45001■□■

平林:
 私からは、労働安全衛生マネジメントシステム規格
 IS045001に関して紹介します。

 これも附属書SLに準拠して開発が進められることが決まっています。
 IS045001規格はOHSAS18001に変わるOHSMS規格です。

 ISOは、1997年ころから、労働安全衛生の国際規格への
 英国BSI提案の採用可否の投票を行いましたが、
 ILOの反対により10年以上採択されてきませんでした。

 今回(2013年)、OHSAS18001に代わる新しい労働安全衛生の
 国際規格を制定するための専門委員会ISO/PC283が設立されました。

 これはILOがISOの労働安全衛生の国際規格を支持することに
 なったからであるといわれています。

 ILOが賛成に回ったのは、
 OHSAS18001の認証数が世界で10万件にものぼり、
 世界の労働災害を減少させるにはこのISOの認証制度を活用することが
 有効であると考えたからであると思われます。

■□■OHSMS規格とローベンス報告■□■

平林:
 OHSAS18001労働安全衛生マネジメントシステム規格は、
 1970年代に英国のローベンス卿が提唱した
 (ローベンス報告として有名)コンセプトが有名です。

 当時の行政は、労働安全衛生はもっぱら規制によって
 コントロールしようとしました。

 それに対して、当時としては画期的な発想として
 組織の自主的取組を採用するという概念が発表されたのです。

 英国では18世紀にはじまった産業革命に端を発して、
 急激に近代産業が発展したが、それに伴い産業界における事故、
 災害の増大が大きな社会問題となっていきました。

 当時は、この労働災害を減少させるには
 強制的に労働環境を規制することが最も効果的で、
 19世紀~20世紀前半には次から次へと新しい法律が作られました。

 しばらくはこの方法で災害を封じ込めたが、
 法律があまりに多くでき、行政も効果的に管理をすることが
 できなくなり、20世紀に入ると上述したローベンス報告が
 提唱されるようになったのです。

■□■やはりリスクと機会が焦点■□■

平林:
 2013年10月、lS045001を担当するPC283の初回会議が
 ロンドンで開かれました。

 ここでは早速「リスク」の定義がいろいろ議論されました。

 結果から申し上げると、附属書SLの3.09リスクの定義は
 「不確かさの影響」となっていますが、

 これとは別に「OHSリスク」という定義を追加することで
 合意しています。

 今後、この考えで規格本文の作文に入っていきますが、
 このOHSリスクに関しては、古典的な定義として、

 例えば、Severity(事象の起こった結果の大きさ)と
 Possibility(起こる確率)との組み合わせで、
 掛け算や足し算をするリスク評価方法を採用しようとしています。

 まだ1回目の会議なので最終的にどうなるかは分かりませんが、
 PC283ではこのリスクの定義を使っていこうとの話になっています。

 ISOでは、各専門委員会の独立性が強く
 他の委員会の動きは気にしないといった雰囲気はあるものの、

 IS045001の発行予定が2016年となっているので、
 IS09001やISO14001の2015年版の内容を見て、
 という雰囲気もあります。

以上

附属書SLと次期の改正 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.76■□■

*** 附属書SLと次期の改正***

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■□■附属書SLとISO14001■□■

フォーラムの続きです
(昨年テクノファ年次フォーラムでは附属書SLに関して、
 有識者の方に集まっていただいてパネルディスカッションを行いました)。

フォーラムの時の様子をお伝えしますが、
出席者の方の発言は平林の責任で編集させていただいています。

平林(テクノファ):
 ではISO14001について吉田さんに附属書SLの影響をうかがいます。

吉田敬史さん(グリーンフューチャー社長):
 まず、ISO14001改正の進捗状況ですが、ISO9001より先行していたはずですが
 現状では追い抜かれています。

 その理由は附属書SLにあります。

 実はISO14001改正の議論の場には、当初附属書SLの正当性に対して
 疑問を抱くメンバーが相当数いました。

 意図的に逸脱を入れ込もうといった雰囲気さえあったのです。

■□■附属書SL成立の正当性■□■

平林解説:
 逸脱とは「附属書SL」に定められている「MSSの箇条タイトルと
 順番(規格構造)」、「用語定義」、「文章」を順守しないことをいいます。

 用語定義、文章を追加することは許されています。

 ただし、文章追加についてはいろいろなやり方がこれまで行われています。

 例えば、追加規模の大きい順に説明すると次の通りです。

 (1)細分箇条(例えば、4.1の下にある4.1.1をこう呼ぶ)を
  タイトルも含めて追加する。
 (2)ビュレット(・とか -とか a)とか をいう)を追加する。
 (3)デフォルト(既に書かれている)文章の中に単語などを追加する。

吉田さん:
 こうしたいわば反対勢力と附属書SLを認めるメンバーとの
 議論のせめぎあいが続き、時間が掛かったのが真相です。

 日本は欧州と歩調を合わせて認める立場をとり、
 2013年2月のスウェーデン会合でようやく認める勢力が主導権を
 握れる状況にこぎ着けました。

 正当性を疑問視することには理由があって、
 今同附属書SLは28ヵ国の投票で、賛成19、反対6、棄権3で、
 棄権を除くと、反対が24%です。25%以上だとlSOガイドとして
 成立しなかったので「ぎりぎり」承認されたわけです。

 ISOの投票では、Pメンバーとして参加している国数によりますが、
 通常50~60ヵ国くらいが参加します。

 今回はその半分の28か国ですので、この投票総数の少なさも
 理由の一つです。

平林解説:
 こうした規格の投票ルールは、ISO/IEC Directivesの中で
 決められていますが、例えば、ISO9001を議論する主要メンバー国が
 約90か国あることを考えると、投票した国が28か国と言うのは
 いかにも少ないといえます。

吉田さん:
 さらに今回の一連の経緯は、従来のボトムアップのコンセンサスを
 ベースとしたISOの議論プロセスとはまったく異なるもので、
 ガイドとして作られたものがコンセンサスのプロセスを経ないで、
 突然附属書SLになりました。

 そして、すべてのマネジメントシステム規格の要求事項のパートに
 入れ込むという非常に影響力のある存在になったのです。

 ただ、日本は決まった以上は従うべきであり、逸脱しないほうがいいと
 判断して、欧州と足並みを揃えて動いてきてはいます。

平林解説:
 附属書SLは2006年にTMB(ISOのマネジメントボード)直轄として
 設立され、JTCG文書という名で検討がされてきました。

 その後、ISO/IECガイド83として一旦制定されたのですが、
 ある時突然にISO/IEC Directivesの中に組み込まれるという経過を
 辿っています。

■□■附属書SLリスクと機会■□■

平林:
 遅れている背景にはどんな課題がありますか。

吉田さん:
 一番の課題は、やはり今回導入された「リスクと機会」が上げられます。

 IS014001にはこれまで15年以上にわたって「著しい環境側面」という
 コンセプトを重視してやってきた歴史があるので、
 両者の関係をどうするかということです。

 そもそも著しい環境側面とは、
 「環境に著しい影響を与えるまたは与えうる側面」ですから、
 環境に対しての影響の大小によって決まってきますし、

 「与えうる」ということでは、ある種の不確実性つまり
 リスクも含みます。

 また、環境影響は100%完全には解明されない複雑な世界ですから、
 ここも当然リスクとしてとらえる必要があります。

 このように環境側面の中には従来からリスクの考え方も
 含まれていたのです。

 IS014001関係者の間ではこうした理解が定着しており、
 今回、新たに「リスクと機会」が入ってきたので、

 この点について現段階では、IS014001の方で修飾語をつけて
 「組織リスク(Organizational Risks)」として区別できるように
 しています。

平林解説:
 ここでいう「組織リスク(Organizational Risks)」とは、
 ISO14001CD2の箇条6.1に出てくるものです
 (箇条8, 9などにも出てくる)。

 附属書SLでは、
 「環境マネジメントシステムの計画を策定するとき,組織は,
  4.1に規定する問題及び4.2に規定する要求事項を考慮し,
  次の事項に取り組む必要のあるリスク及び機会を決定しなければ
  ならない。」と規定しています。

 ISO14001CD2では、附属書SL文中の「リスク」という用語に
 「組織」を追加して「組織リスク」に修正することにより、
 「環境側面が内包するリスク」と区分しようとしたということです。

■□■リスクと機会とSWOT分析■□■

吉田さん:
 また「リスクと機会」に関しては他にも気になっていることがあります。

 それは、IS031000やリスクマネジメントの用語集である
 ガイド73における使い方と矛盾しており整合性がない点です。

 そもそもIS031000ではリスクと機会をandで結ぶ表現ではありません。

 実はこの点について2013年に出た
 ISO31004(リスクマネジメントーISO31000の実践の手引き)でも、

 「Risk can expose the organization to either than a threat
  or an opportunity」、すなわち、リスクとは脅威もしくは機会、

 もしくはその両方を生み出す、もしくはそういうものに組織をさらす、
 つまりパラスマイナス両方ある、と説明されています。

 ちょっと分かりにくいのでSWOT分析を参考にご紹介します。
 
 SWOT分析では企業の外部環境や内部環境を、

 「強み(Strengths)」「弱み(Weaknesses)」「機会(Opportunities)」
 「脅威(Threats)」の4カテゴリーで要因分析し、

 事業環境変化に対応した経営資源の最適活用を図る経営戦略を考えます。

 目標を達成することによって重要な内外の要因を特定しますが、
 この際、重要な要因を、

  「内的要因一強み(Strengths)と弱み(Weaknesses)」と
  「外的要因―機会(Opportunities)と脅威(Threats)」の
 2つに分けて考えるのです。

平林解説:
 SWOT分析は、事業環境変化に対応した経営資源の最適活用を図る
 経営戦略策定方法の一つです。

 フォーチュン500のデータを用いて1960年代から70年代に
 スタンフォード大学において、研究プロジェクトリーダーであった、
 Mr.アルバート・ハンフリーにより構築されたといわれています。

吉田さん:
 こうした広く認知された考えをベースに、
 附属書SLも「Threat and Opportunity」となるなら理解できますが、
 「Risk and Opportunity」とつなぐのは非常に分かりにくいと思います。

 この点については、野口さんが参加されているISO31000のTC262においても、
 「附属書SI.の理解は正しくない。ISO31000とも整合しない」と
 指摘があったと聞いています。

 附属書SLはこういう根本的な問題を抱えており、
 著しい環境側面とどこが違うのか、
 この辺の議論はTC207/SC1では実はまだ決着していません。

 この点をクリアしないと、いつまで経っても根本的な合意形成が
 できないので、議論も今後進まなくなる事態もありうると思っています。

以上

附属書SLと次期9001の改正 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.75 ■□■

*** 附属書SLと次期9001の改正 ***

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■□■附属書SLとISO9001(つづき)■□■
 フォーラムの続きです(昨年テクノファ年次フォーラムでは
附属書SLに関して、有識者の方に集まっていただいて
パネルディスカッションを行いました)。

 フォーラムの時の様子をお伝えしますが、出席者の方の発言は
平林の責任で編集させていただいています。

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中條先生(中央大学教授):
 箇条8については、単純に言うと、2008年版で書いてある内容を
 2015年版に全て引き写すのが基本的な考え方なので、
 附属書SLにないところは全部プラスになっています。

 もちろん2008年版自体に足している部分、新たに追加になっている
 要素もあります。

平林良人(テクノファ):
 箇条8に追加要素がたくさんあるということですが、例えば、
 附属書SLの8.1では6~7行しかテキストがありません。

 ここに現状のIS09001の箇条7関連の2~3ページ分のテキストが
 ずらずらと人ってくるわけですね。

 では全体のボリューム感については2008年度版と比べると
 どの程度でしょうか。

中條先生:
 全体としてみると、2008年版にあったものの8~9割は
 入ってきそうです。

 ただ部分的な増減はあります。

 また、2008年版で相当細かかった記述は、
 若干抽象化される可能性があると思ってください。

 先ほどCD版では2008年版をそのまま引き写してくると言いましたが、
 設計の妥当性確認や検証に関してはかなり抽象化した内容で
 持ってきたので、その分かなり薄くなっています。

 例えば8.5 「商品・サービスの開発」では、
 単純に「設計でやるべきこと」といってずらりとリストが書いてあって、
 そのリストの中に設計の妥当性、検証、デザインレビューなどが
 含まれています。

■□■箇条8への追加■□■

平林解説:
 箇条8は品質のオペレーションの部分で、他のMSSがそうであるように、
 ISO9001もこの箇条8には品質に固有のことを記述しています。

 主な所を抜き取ってみます。

 8.2.2「商品・サービスに関連する要求事項の明確化」は、
 2008年版7.2.1「製品に関連する要求事項の明確化」とほとんど同じ
 内容の要求事項となっています。

 「組織は,該当する場合には,
  必ず次の事項を明確にしなければならない。

 a) 顧客が特定した要求事項。これには引渡し及び引渡し後の活動に
   関する要求事項を含む。
 b) 顧客が明示してはいないが,指定された用途又は意図された用途が
   既知である場合,それらの用途に必要な要求事項
 c) 商品・サービスに適用される法令・規制要求事項
 d) 組織が必要と判断する追加要求事項のすべて」

 しかし、お気づきのように「製品」が「商品・サービス」に
 変わっています。

 今回、サービス業への配慮の視点から、productという用語は
 goods and servicesに変わりました。

 多くの方から、やはり「product:製品」という用語が
 いいという意見を聞いております。

 今後DISに向けてどのような検討がされるか注目したいと思います。

 
 8.2.4 は「顧客とのコミュニケーション」となっています。

 「組織は,次の事項に関して顧客とのコミュニケーションを図るために
 計画された方法を決定し,実施しなければならない。

 a) 商品・サービス情報
 b) 引合い,契約若しくは注文の取扱い。それらの変更も含む
 c) 苦情を含む顧客からのフィードバック(9.1 参照)
 d) 該当する場合には,顧客の所有物の取扱い
 e) 関連する場合には,緊急処置の特定の要求事項」

 附属書SLの箇条7.4「コミュニケーション」には次の要求があります。

 「組織は,次の事項を含む,品質マネジメントシステムに関連する
  内部及び外部のコミュニケーションを実施する必要性を
  決定しなければならない。

  - コミュニケーションの内容(何を伝達するか。)
  - コミュニケーションの実施時期
  - コミュニケーションの対象者」
 

 7.4と8.2.4には重複感がありますが、
 8.2.4は顧客に焦点を絞っています。

 顧客とコミュニケーションすべき項目を具体的に要求しています。

■□■箇条8への追加―つづき■□■

平林解説:
 規格は現在CDの段階ですので、まだいろいろ変わります。
 ただし、附属書SLの部分は変わりません。

 CD段階でどのような項目が箇条8にあるのかを見てみましょう。
 以下が箇条8の細分箇条も含めての項目立てです。

 8 運用
  8.1 運用の計画及び管理

 8.2 市場ニーズの明確化及び顧客との相互作用
  8.2.1 一般
  8.2.2 商品・サービスに関連する要求事項の明確化
  8.2.3 商品・サービスに関連する要求事項のレビュー
  8.2.4 顧客とのコミュニケーション

 8.3 運用計画プロセス

 8.4 外部から提供される商品・サービスの管理
  8.4.1 一般
  8.4.2 外部からの提供の管理の方法及び程度
  8.4.3 外部プロバイダーに対する文書化した情報

 8.5 商品・サービスの開発
  8.5.1 開発プロセス
  8.5.2 開発管理
  8.5.3 開発の移行

 8.6 商品製造及びサービス提供
  8.6.1 商品の製造及びサービス提供の管理
  8.6.2 識別及びトレーサビリティ
  8.6.3 顧客又は外部プロバイダーの所有物
  8.6.4 商品・サービスの保存
  8.6.5 引渡し後の活動
  8.6.6 変更管理

 8.7 商品・サービスのリリース

 8.8 不適合商品・サービス

 8.5商品・サービスの開発 から「設計:design」という用語が
消えていますが、これについては82号あたりで触れたいと思います。

以上