—————————————————–
■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.186 ■□■
*** 品質不祥事に思う ― 文書化10 ***
—————————————————–
企業においては、文書が修正されたり、廃止されているにもかかわらず、
関係者がその事を知らなかったという状況はまずないでしょう。
先々週、そんな状況に関係すると思える問題が厚労省から発表されました。
すでに大きく問題になっていますが、国民の生活に関係する基礎的な統計
データが不正確であったということです。
その後、総務省からは類似の問題が厚労省以外の省庁の統計データにも
見られると発表がありました。
■□■ これも品質不祥事問題 ■□■
これは昨今の製造業における品質不祥事と同根の問題であると思います。
しかし、どの新聞も国が不適切な統計作業をしたことを品質不祥事として
扱わず、もっぱら国の責任を追及するだけという姿勢に不満を感じます。
もちろん、責任の追及は必要ですが、なぜ起きたのかの原因追究が優先され
ないことが不満です。品質不祥事問題と位置づけられ是正処置が議論されない
と、単なる官僚の不作為な行為として処置されてしまい、再発防止がきちんと
できないと思います。
■□■ 厚生労働省の「毎月勤労統計」 ■□■
今回のニュースで初めて厚生労働省が「毎月勤労統計」なるものを集計して
いることを知りました。「毎月勤労統計」は国の基幹統計の一つにすぎず、
国が特に重要と位置付ける基幹統計は56あることも知りました。
先週には基幹統計を統括する総務省が、56基幹統計の内半数に近い22統計に
不適切なミスが見つかったと発表しました。
例えば、「毎月勤労統計」は雇用保険額算出の統計データですが、500人以上の
規模の全事業所を調査対象にしなければならないルールを2004年以降、3分の1
程度の事業者調査でよしとした、いわばルールを変えてしまったことが今回の問題です。
■□■ ルールを変えると影響が出る ■□■
真偽の程は分かりませんが、全数統計調査するルールを3分の1程度の統計調査で
よいとルールを変えたのは、作業する人員が足りなかったと報道されています。
長年行ってきたルールを当事者だけで変更したようですが、その結果、賃金などの
統計数値が実態より低くなってしまいました。
統計数値を基に計算される雇用保険の支給金額などが実態よりも低く設定され、
過少支給の対象者は推定するに実に1970万人、過少金額は540億円に上るという
びっくりするような影響になっています。
■□■ 厳格なルールを変えたい ■□■
前号メルマガでもお話ししたように、長年行っている業務には世代交代と共に、
厳しいルールを緩やかなルールに変えたいという誘惑が常に働きます。
厳しいかどうかはその結果によって判断されるべきですが、場合によっては
ルールを緩やかにしてもよいという判断が下される可能性もあります。
しかし、その判断へ至るまでには合理的な道のりがあり、最終判断までには
多くのステップと課題があるはずです。
厚労省のケースでは、職員の人員不足がこの問題を発生させたということですが、
人員不足が問題であるならば、当然そのことを明らかにしてルールを検討する
必要があります。
しかし、勝手に調査対象数を少なくするという今回の出来事は、顧客の特別採用が
あるから緩やかなルールに変えたという民間の品質不祥事と全く同根の問題です。
■□■なぜルール変更のステップを踏まないのか■□■
500人以上規模の事業所を全数調査することが、もはや人員不足で出来ないので
あれば、国民に説明して統計調査のやり方を変更すればよいのですが、その
ステップには多くのエネルギーと強い意志が必要で簡単に問題は解決しません。
ルールを変えるにはそれなりの高いハードルがあるのです。
民間の検査工程で人手が足りないということで検査を省いたと同じで、ここでも
ルールを勝手に変えたが関係者はそのことを深刻な問題であると理解していなかった
ということになります。
■□■ 16.廃止文書の取扱い方法の確認 ■□■
厚労省にも業務の規定文書は当然あったはずですが、その規定文書は在っても無い
同然の扱いになっていたということです。
今回の厚労省の問題に直接関係しませんが、企業では文書を廃止せず、いつまでも
文書を有効な状態にしている例があります。
文書の整理整頓がされていないということになりますが、廃止文書の考え方は明確に
しておく必要があります。
また、廃止と決めた文書の処理はどのようにするのかも決めておかなければなりません。
■□■ 17.廃止文書の識別方法の確認 ■□■
日常の仕事で、人々が廃止文書を「廃止されている」と判断できるようになっているか
というのも大切な要素です。
廃止文書を保管してあるならば、それらをどのような方法で区別するのかも決めておく
ことが必要です。