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ISO9001が9月23日に改正された | 平林良人の『つなげるツボ』

■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.106 ■□■   
*** ISO9001が9月23日に改正された ***
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■□■ 今回は4回目の改正 ■□■
ISO9001が2015年9月23日に改正されました。ISO9001 の初版は1987年に発行されましたが、1994年に第1回目の改正、2000年に2回目の改正、2008年に3回目の改正、そして今回は4回目の改正になります。

■□■ 今回は画期的な改正 ■□■
 多くの人が言うように、今回の改正はISO9001改正の歴史の中で一番大きな改正です。2000年改正では、ISO9001が取り組む対象が品質保証から品質マネジメントに変わり、大きな改正であると言われましたが、今回の改正はISOマネジメントシステム規格(MSS:Management System Standard)すべてを網羅することに関係しての改正であり、大きな変化をISOマネジメントシステムの世界に及ぼすものです。

■□■ 外部品質保証 ■□■
ISOが最初に発行したMSSは,1987年発行の品質保証の規格ISO9001 / 9002 / 9003です。
その1980年代,イギリスにおいてはBS5750(ISO9001のベース規格の一つであるといわれている)を審査基準とした認証制度が既に実施されていました。
この制度は、イギリス国内規格BS(British Standard)が国際規格ISOに格上げされると、順調に発展し今日の世界的な第三者認証制度につながりました。当時、世界各国の製造メーカは製造工程における品質保証について熱心に取り組んでいましたが、この取組みのことを総称して「内部品質保証」と言っていました。

それに対して、「外部品質保証」という言い方で、顧客からの視点で品質保証をすべきであるという考え方が広まりました。

■□■ 組織の能力 ■□■
顧客は現在の品質だけでなく今後とも同様な品質、できればなお向上された品質の製品、サービスを欲しいと期待しています。そのような顧客の期待に応えるためには、現在の状態を良くするとともに、今後もその状態が維持できるようにしておかなければなりません。
そして、このような意図で構築した仕掛けを「組織の能力」として社会にアピールするとよいという考えが出てきました。1987年に発行されたISO9001規格には、規格の骨子としてどのような仕掛け(システム)を構築すればよいのかが規定されていました。それは次のような考え方に沿ったものでした。

(1) 良い状態を明らかにする。
(2) 関係者に見えるようにする。
(3) 関係者が守るようにする。
(4) 途中で確認する。
(5) 成果を確認する。
(6) よくない成果については直す。
(7) 以上を繰り返す。

 筆者は1986年から1992年までイギリスの製造メーカの工場長をしていましたが、当時のヨーロッパのメーカの実態を知る者として、この考え方は大方の産業人の同意を得るものでした。

■□■ 二者監査の代替 ■□■
当時、多くのメーカは部品購入において二者監査を頻繁に行っていました。この二者監査は、する方もされる方も時間、要員及び書類作成などに多くの負担を組織に強いるものであり、その効率化の推進は当時の多くの企業の要望でした。
その二者監査に代わりうるとして登場したのが当時の認証制度でありました。
第三者がメーカに代わって客観的な目でサプライヤーを評価し,その結果を証明する認証制度はイギリスを中心にヨーロッパに広まり,次第に世界に浸透していきました。この制度が世界的に確立したのはこの1995年くらいですが、以来、世界中でISOマネジメントシステム規格に基づく第三者認証制度が急速に広まりました。

筆者はイギリスの工場長時代、1,000人くらいの工場でISO9002の認証を取った経験があります。
その時に戸惑ったのが「品質マニュアル」の作成でした。当時のISO9002規格には品質マニュアル作成の要求事項はありませんでしたが、認証機関の要求で言われるがまま品質マニュアルの作成に取り掛かかりました。

■□■ 品質マニュアルとは ■□■
しかし、品質マニュアルのコンセプトがよく分かりませんでした。
審査員に質問すると返ってきた回答は次のようなものでした。

「御社はプリタの製品取り扱いマニュアルを作成していますが、それと同じ要領で御社の品質取扱いマニュアルを作成してください。それは詳細なものではなくて考え方でよいですよ。」

その後のやりとりを纏めると次のようなものになるでしょう。
・ISO9002はフィクションである。きれいごと、すなわち理想のストーリーを書いている。
・リアリティが存在するのは御社のプロセスであって、そのプロセスに理想のモデルであるISO9002要求事項を入れ込んでもらいたい。
・設計に関する要求事項は、御社の設計プロセスへ入れ込むことでよいが、コミュニケーション、力量などに関することはすべてのプロセスに入れ込んでもらいたい。
・ただし、全てのプロセスで実施するということは、どこのプロセスでも実施しないことにつながるので、特に必要であると思われるプロセスに入れ込むことがよいであろう。

このような経験をした3年後には筆者は日本に帰任することになりますが、当時工場で発生していたクレームが激減したことを覚えています。

附属書SLの理解4 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.93 ■□■
*** 附属書SLの理解 ***
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■□■ 形に囚われるな ■□■

附属書SL、それに伴うISO9001:2015改正版は、
「形に囚われるな」と言っています。

現在組織が実践していることを中心にルールを見直し、
実態に合わせて改善し、今後とも継続して
良い製品・サービスを提供する組織の能力を実証することを
求めています。

組織が日常使用している用語も大切にするように言っています。

規格が用語を変更したからといって、盲目的に組織が使用する
用語を直すことはしないで下さい、とまでいっています。

品質マニュアルの章立てを規格に合せることも
考え直さねばなりません。

そのような形式を考えるよりは、
組織の要員にマニュアルの内容が理解され、
実施者がルールに則り活動することを最優先に
規定を考えなければなりません。

つまり、事業推進の中で規格要求事項がお互いに
つながりを持って活動されることに注意して
マニュアルを作成しなければならないのです。

■□■ 品質マニュアル ■□■

もっとも、ISO9001:2015年版には品質マニュアルの要求は
ありません。

品質マニュアルは、組織全体の品質管理のやり方を簡単に
説明する文書ですので、存在してほしい文書です。

しかし、規格の丸写しや観念的な要件記述だけの形を
整えただけの文書では、実施者に価値を与えません。

附属書SLは品質マニュアルがそのような形式だけの存在で
あるならば、要求として規定しない方がよいと判断したのでしょう。

本来、マニュアルとは「手を意味する言葉」であり、
そこから手作業、手順を意味し更に説明書も意味するように
なりました。

組織が顧客に提供する製品・サービスの品質をどのように
保証するのかを説明した文書が「品質マニュアル」です。

組織の提供する製品・サービスにはいわゆる「製品説明書」が
付いています。

この製品説明書は製品をどのように取り扱うのか、
取り扱う際に気を付けなければならないこと、
その他に関してユーザーに様々な情報を与えています。

■□■ 品質マニュアルに書かれること ■□■

製品マニュアルと同じように、品質マニュアルは
「品質をどのように取り扱うのか、取り扱う際に
気を付けなければならないこと、
その他に関してユーザーに様々な情報を与える」ものです。

ここでいうユーザーは利害関係者になります。

すなわち、(1)顧客、(2)組織の全員、(3)関係する組織、
例えば関連会社、サプラーヤー、パートナー、
(4)規制当局などでしょうか。

したがって、次のことが書かれていない品質マニュアルは
読む価値がないことになります。

製品マニュアルと対比して羅列してみます。
(1) 製品マニュアル:製品仕様
品質マニュアル:マネジメントシステム適用範囲

(2) 製品マニュアル:製品の使い方
品質マニュアル:ISO9001規格の活用の仕方(how toの記述)

(3) 製品マニュアル:製品の使用時に気を付けなければならないこと
品質マニュアル:ISO9001規格の活用時について気を付けなければならないこと

■□■ ISO9001規格の活用の仕方 ■□■

前の項で「ISO9001規格の活用の仕方」と表現しました。

ISO9001規格には多くの要求事項がありますが、
その要求に対して組織がどのようにして(how to)応えようと
するのかについての記述を意味しています。

すなわち、どのような方法で要求事項が求めていることを
実現させるのかを書くという意味です。

例えば、ISO9001規格箇条7.3 設計・開発には
「7.3.4 設計・開発のレビュー」の要求があります。

この要求に対しては、だれが、いつ、どのように、
(なにを、どこで)設計・開発のレビューを実施するのかが
記述されていることが必要です。

設計・開発のレビューの実施手順にはいろいろな項目が
ありますから、それらのことすべてを品質マニュアルに
書き込むことはお勧めではありません。

品質マニュアルには概要を書けばよいのであって、
詳細は下位文書に書きその文書番号を品質マニュアルに記載する、
という方法が一般的にとられています。

■□■ 管理責任者 ■□■

ISO9001:2008版、箇条5.5.2 管理責任者に関する要求も
2015年版にはありません。

管理責任者の責任には大きなものがあり、
本来組織に必要な人材だと思います。

しかしながら、特に海外においては形骸化している例が
多いようです。

すなわち、組織の正式な人事発令がなく機能組織図にも
記載されておらず、実績としてもISO9001が意図したような
下記のことを行っていないと例が目立ったようです。

【ISO9001:2008 5.2.2 管理責任者】
トップマネジメントは,管理層の中から管理責任者を任命すること。

管理責任者は与えられている他の責任とかかわりなく次に示す
責任及び権限をもつこと。

a) 品質マネジメントシステムに必要なプロセスの確立,
実施及び維持を確実にする。

b) 品質マネジメントシステムの実施状況及び改善の必要性の
有無についてトップマネジメントに報告する。

c) 組織全体にわたって,顧客要求事項に対する認識を高めることを
確実にする。

以上