タグアーカイブ: 利害関係者のニーズ

システムは繋がっている2 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.120 ■□■   
*** システムは繋がっている2 ***
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■□■ 繋がっている他の要求事項 ■□■

「組織の目的」、「意図した結果」以外にも繋がっている要求事項
があります。

それは「組織の能力」です。ISO9001:2015 には11か所に「組織
の能力」という用語が出てきます。

今回は「組織の能力」について話をしたいと思います。

■□■ 組織の能力の初出 ■□■

「組織の能力」はISO9001:2015箇条4.1に初めて出てきます。従
来の9001のバージョンには無かった用語として重要視すべき用
語です。

「4.1 組織及びその状況の理解

組織は,組織の目的及び戦略的な方向性に関連し,かつ,その
品質マネジメントシステムの意図した結果を達成する組織の能
力に影響を与える,外部及び内部の課題を明確にしなければな
らない。」

ここで問われていることは「組織の能力」を一般的な言葉として
ではなく、組織に特有な言葉として捉えることです。

自分の会社(組織)にはどのような能力が必要であり、存在して
いるのかを明確にすることです。組織の製品の質を管理、保証
するには、それなりの能力が要求されるはずですが、それは組
織の事業、人、設備、材料、規模などによって異なります。

例えば、組織の製品・サービスによって次のように異なったもの
が考えられます。

 ・溶接を実現する能力(人、設備、材料など)
 ・光学技術を応用する能力(理論、設計、要素など)
 ・運搬を安全に実施する能力(運転技能、設備など)
 ・クリーンな環境を保持する能力(設備、人など)
 ・冷凍室を管理する能力(設備、管理、人)
 ・雰囲気をよくする能力(音楽、緑化植物、接遇、人)

このように製品ごと、例に見るように、重工業、運搬サービス、半
導体製造業、食品製造業、レストランなど異なる産業において、
異なる能力が求められています。

当然ですが、求められる能力にはそれぞれの特徴があるはず
です。

■□■ 箇条4.2組織の能力 ■□■

箇条4.2 「利害関係者のニーズ及び期待の理解」にもさっそく
「組織の能力」が出てきます。

「次の事項は,顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事
項を満たした製品及びサービスを一貫して提供する組織の能力
に影響又は潜在的影響を与えるため,組織は,これらを明確に
しなければならない。」

ここで言う「組織の能力」は箇条4.1で具体的に明確にした能力と
同一なものです。

ここで異なる内容の能力が出てくることはありません。

■□■ 箇条4.3組織の能力 ■□■

箇条4.3 「品質マネジメントシステムの適用範囲の決定」には最
後の段落に出てきます。

「組織は,品質マネジメントシステムの適用範囲を定めるために,
その境界及び適用可能性を決定しなければならない。

(中略)

適用不可能なことを決定した要求事項が,組織の製品及びサ
ービスの適合並びに顧客満足の向上を確実にする組織の能力
又は責任に影響を及ぼさない場合に限り,この規格への適合を
表明してよい。」

ここでいう能力は箇条4.1で具体的に明確にした能力と同一なも
のです。

■□■ 箇条5.1.2(組織の)能力  ■□■

箇条5.1.2 「顧客重視」にはb)に中に「向上させる能力」として出
てきます。

「トップマネジメントは,次の事項を確実にすることによって,顧
客重視に関するリーダーシップ及びコミットメントを実証しなけれ
ばならない。

a) 顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項を明確に
し,理解し,一貫してそれを満たしている。

b) 製品及びサービスの適合並びに顧客満足を向上させる能力
に影響を与え得る,リスク及び機会を決定し,取り組んでいる。

c) 顧客満足向上の重視が維持されている。」

ここにおける能力は、向上させる能力ですから、今までの能力と
は異なるものが追加されるかもしれません。

しかし、箇条4.1で要求されている組織の能力は「品質マネジメン
トシステムの意図した結果」を達成する能力ですから、「b) 製品
及びサービスの適合並びに顧客満足を向上させる能力」はほぼ
同じ能力でしょう。

附属書SLの理解1 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.90 ■□■
*** 附属書SLの理解 ***
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■□■ ISO9001を例として ■□■

 箇条4.「組織の状況」は、附属書SLの特徴とし特記されるべき部分で、
組織がどのような背景でXXXマネジメントシステムを構築するのかに関する
要求です。

XXXを「品質」としてISO/DIS9001を例にとって解説したいと思います。 

■□■ 4.1「組織及びその状況の理解」■□■ 

 「その品質マネジメントシステムの意図した成果を達成する組織の能力に
影響を与える、外部及び内部の課題を決定しなければならない」という
要求事項が出てきます。

このあたりはリアリティである実態の組織ではどこでも分析していることです。

課題のない組織はありません。
もしあれば、そのような組織はきっと長くは存続できないでしょう。

ISOはマネジメントシステムなので、
現在の良いレベルを今後も続けていくことを目的としています。

ISO9001の意図する成果とは、組織全員で製品の質をベストの状態に保ち、
お客様へ提供する製品の質に取り組むことにあります。

意図した成果は、不良率を減らす、お客様からのクレームを減らす等、
組織の事業年度で決めているものと一致するはずです。

つまり、「4.1」では、組織がいま進めていることを
そのまま書けばいいということになります。

■□■ 4.1「外部、内部の課題」■□■

 外部や内部のさまざまな問題を明確にしておくことも要求されています。

共通テキストには、「組織の能力」という用語がでてきます。
能力は、組織の人々、あるいは機械、エネルギー、建物、
マネジメント等にあるものです。

プロセスも能力を持っています。
この能力に影響を与える要因を決めておくことが要求事項にはあります。

人が変わる、機械が古くなる、劣化する等、いろいろな意味で
能力に影響する課題を決めておく必要があるのです。

ISOでは、外部及び内部の課題は、
組織が目的とする範囲内でかまわないと定義し、
それを越える課題を取り上げることは要求していません。

組織の能力に影響を与える外部課題としては、
法令規制などを上げることができます。

いろいろな法律、例えば建築基準法が変わり耐震性が強化されますと、
いままでの能力では対処できないことが出てきます。

内部課題では、組織変更、教育、予算、人材の入れ変わり、
レイアウト変更、要員の力量、技術力劣化、検査検出力、
お客様満足の把握、欠勤、処遇、定年等、いろいろなものが想定できます。

■□■4.2「利害関係者のニーズ及び期待の理解」■□■ 

 いままでの要求になかった利害関係者を
はっきりさせることが求められています。

これも、
お客様が何を期待しているのかをはっきりさせればいいことなので、
新たに文書を作る必要はありません。

利害関係者には、例えば直接のお客様と最終利用者、
下請けや部品メーカー、規制当局等が考えられます。

ISO14001では、顧客、地域住民、供給者、規制当局、非政府組織、
投資家、従業員が含まれるかもしれません。

このなかでは、
働いている人々が一番身近な利害関係者かもしれません。

その方々が質を担保するのだから、従業員がモチベーションを
保てなければ成果は上がらないということになります。

■□■4.3「 品質マネジメントシステムの適用範囲の決定」■□■ 

 適用範囲は、いままでなら○○株式会社、○○工事、
○○建設○○事務所、全社等、カバーする範囲が
証明書に書かれているだけでした。

それが今回から、「4.1」で規定する外部及び内部の課題と
「4.2」で規定する利害関係者のニーズを考慮して適用範囲を
組織が自身で決めることが求められているのです。

自ら組織の目的に照らし、あるいは利害関係者に
配慮して決めるわけですから、限定した部署だけに
適用させてもいいのか、迷うところです。

ISO9001は法律ではなく、民間の自主規制、仕組みと
考えられますから、まずは組織が自分の状況に基づいて
必要であると考える範囲に適用することでよいのです。

その後、継続的に改善していけばよいと考えましょう。

4.3には
「その境界及び適用可能性を決定しなければならない」
と書かれています。

ある要求事項に該当することが組織に存在しなく、
適用しなくても目的を保証できるならば規格は
該当する要求事項を自身の判断で外すことができます。

ただし、意図的に外すことは認められません。

「4.1」と「4.2」を考慮すれば当然恣意的な不適用は
できないはずでしょう。

■□■4.4「 品質マネジメントシステム」■□■

 「組織は、この規格の要求事項に従って、
必要なプロセス及びそれらの相互作用を含む」という内容は、
現行の規格にもあります。

ISOの規格は使い手次第ともとれる内容だが、
他社との差別化を目指すのであれば、
この部分を戦略的に考えるべきでしょう。

プロセスアプローチを具体的にどのように展開するのか
次期ISO9001規格の一つの大きなポイントです。

規格はQMSに必要なプロセスにa)~h)を決定することを
求めています。

以上

マネジメントシステムには良い設計が必要2 | 平林良人の『つなげるツボ』

■□■ 平林良人の『つなげるツボ』 Vol.24  ■□■

  *** マネジメントシステムには良い設計が必要2 ***

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テクノファ代表取締役の平林です。

今回も「マネジメントシステムには良い設計が必要」について
その2のお話をしたいと思います。

■□■ 多様なニーズによって影響を受ける ■□■

ISO9001:2008序文の2番目にある“b)多様なニーズ”とは、
経済状況、社会的要求、利害関係者のニーズ、顧客の嗜好など、
まさしく多様なものを指します。

経済状況とは主に景気の変動により経済がいろいろ変化しますが、
そのおかれた状況をいいます。

社会的要求には2つタイプがあります。1つは法律のような
強制的な要求です。社会はいろいろな要素により進化していきます。
例えば、技術進歩、思考変化、年齢構成変化などです。
もう1つは、自主的な要求です。これはゆるやかな規制ともいう
べきもので、要求に従っても従わなくてもいいのですが、従わないと
仲間はずれにされてしまうようなものです。

利害関係者のニーズは、顧客、株主、従業員、行政、住民の
ような利害関係者から期待される事柄をいいます。

市場における顧客の嗜好は、把握することが難しいものですが、
組織の製品の販売に即影響を及ぼす重要なものです。

■□■ 経済状況 ■□■

組織を取り巻く状況は刻々と変わっていきます。特に経済状況は
ちょっと目を離すと、もう変化しているということがよくあります。

景気変動は必ず起きます。しかも先を見越すことはかなり困難
です。それは景気変動が人々の気ままな行動の総合として起こる
ため、経済理論すなわち理屈では説明がつかないためである
といわれています。

景気変動には短期と長期があります。短期的な変動は政府の
政策に影響を与えます。政府の予算などその年ごとどちらかと
いえば細かな調整が行われます。それによって組織の販売戦略
なども影響を受けます。

長期的な変動は、ここでは5~10年位の変動を意味していますが、
経済学では30年変動説が有名です。変動の年数は別として組織は
長期的変化を意識しなければなりません。

■□■ 社会的要求 ■□■

社会的要求で最近強いものが環境への配慮です。ISOで作成中の
CSR(Corporative Social Responsibility)規格ISO26000の中でも
環境への戦略は重要な位置付けとなっています。

特に物作り組織においては環境配慮はいまやトップマターで、
長期的な製品戦略に欠かすことにできない要素です。

次いで最近要求の強いものが「社会的倫理」であろうかと思い
ます。社会が落ち着き、成熟化してきますと皆あまりガツガツ
しなくなり、倫理に基づいた行動が要求されます。

話しは変わりますが、先週所用でモンゴルへ行ってきました。
モンゴルはちょうど30~40年前の日本と同じ社会事情ですので、
社会的要求も現在の日本とは全く異なるものを感じました。

■□■ 利害関係者のニーズ ■□■

これには行政からの規制、労働界からの要請、金融市場のニーズ、
大学・学会などからのリクエスト、地域社会・NGOなどの意見、
海外からのプレッシャーなど種々雑多なコンテンツが混ざり
合っています。

これら多くの中から組織は自分たちに必要なもの(ニーズ)を
選ばなければなりません。

常日頃どのような利害関係者の動向をチェックしておくべきか
決めておき、それらを定期的にフォローすることも必要なこと
です。

■□■ 顧客の嗜好 ■□■

顧客は気ままです。決してあなたの組織から物を買ったり、
サービスを受けたりしたいと思っていません。どこの組織の物、
サービスでもよいのです。要は自分の欲しい物がある組織、
会社から買うだけのことです。

しかも、顧客は自分の買いたいものを明確に分かっていない
場合が多いのです。勿論漠然とは分かっているのですが、供給者側
からいわれて始めて買うつもりになるケースが多いのです。
このことは自分自身のことを考えてみれば直ぐにわかることです。

では顧客に自分の会社の製品、サービスを買ってもらうには
どうすればよいのでしょうか。それへの結論は、自分の製品を買って
もらうことを考えるのではなく、顧客のニーズに合った製品を供給する
ことを考えることです。

よく言われているように、プロダクトアウトからマーケットインに
考え方を変えていかなければなりません。

■□■ ISO9001:2008の要求事項 ■□■

ISO9001:2008の要求事項には、「多様なニーズ」にフォーカスして
QMSを設計する場面が幾つかありますが、例えば、「7.2.1
製品に関連する要求事項の明確化」においては、次のような
要求がされています。

“組織は,次の事項を明確にしなければならない。
a)顧客が規定した要求事項。これには引渡し及び引渡し後の
活動に関する要求事項を含む。
b)顧客が明示してはいないが,指定された用途又は意図され
た用途が既知である場合,それらの用途に応じた要求事項
c)製品に適用される法令・規制要求事項
d)組織が必要と判断する追加要求事項すべて”

ここで要求されているa)~d)は、経済状況、社会的要求、利害
関係者のニーズ、顧客の嗜好などに関係するものばかりで、
まさしく組織の品質マネジメントシステムに影響を及ぼす多様な
ニーズから導き出されるものといっていいものです。