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品質不祥事に思う ― 文書化 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.177 ■□■    
*** 品質不祥事に思う ― 文書化 ***
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不祥事の背景には、標準化してもその標準が守らないということがあります。
組織には守らなければならないルールがたくさんありますが、それらを守ら
なかった(守れなかった)ことが不祥事の要因にあります。

ルールは口約束ではすぐに消えてしまい、長い間多くの人に共有されません。
当然何らかの消えない方法で可視化しなければいけません。
ISO9001:2015は「文書化した情報」という新しい概念を持ち出して、紙に書かなくても、
電子情報でも、壁・床などに貼っても、或いは音でも現物でも、あらゆる方法で可視化
すればよいと要求事項を工夫しました。組織に自由度を持ってもらい、紙に書かれた
文書を要求されるのには抵抗があるというアレルギーを少なくしました。

■□■ ITによる文書管理 ■□■

今の時代、組織にいるわれわれには、ITは欠かせないツールになっています。
今日われわれの仕事は、メールをはじめとしたITツールに何らかの形で頼っており、
ITをいかに上手に使うかが組織の競争力の源泉の一つになっています。

ISOの要求である文書化した情報についても、多くの人にルールを徹底させようと
したら、社内でのITの活用は欠かせません。
いまや多くの企業は、組織の文書類を社内サーバーにダウンロードしておき、
社内LANによって従業員からアクセスしてもらい、関係者全員に標準書類を周知徹底
するようになっています。

かって、一般的に起こる文書管理上の問題は、文書の紛失、廃止文書が使用場所に
置いてあって廃止文書と認識されない、承認者が不明、古いままで適切な見直しが
されない等でした。
文書管理をIT化することで、かってのような問題はなくなったかというと、今日でも
同じ問題が起きています。

■□■ 文書数の目安 ■□■

文書の種類、数などが少なくなれば、これらの問題は解決しやすくなります。
問題の多くは、文書の数及び文書を変更しなければならないことから生じます。
文書の変更は、経営環境の変化スピードが速いか、遅いかで随分と変更頻度に違いが
出てきます。

まずは文書の種類、数についてです。随分と乱暴な話だと思われるかもしれませんが、
文書の数については目安があります。文書は組織規定である一次文書、部門規定である
二次文書、業務要領である三次文書に大別されますが、それら総てをひっくるめての
目安です。何を根拠にそう言えるのか、ですが私がイギリスに駐在していた時の経験
からいって次のようなものです。

・小企業 250種類以下
・中企業 250~1,000種類
・大企業 1,000~種類以上

これはBSIが1990年代に私にコンサルしたときの数字ですので、この数字は目安で
あって、企業の製品・サービス、分野、規模、展開地域、適用範囲によってばらつきます。
欧米は契約社会ですので、基本的にすべての約束事、ルールは文書にします。
そのような文化の国がいう文書数の目安は、日本人の目から見たらMAXなものだと考えて
間違いないと思います。

■□■ 変更の文書の数 ■□■

起業当時は少なかった文書が、10年、20年経つうちにその数がどんどん増えていくのは
私自身が経験していることです。文書量が増える過程を見ていると、置かれている事業領域に
よって増える要因が異なることが分かります。
経営環境の変化スピードの速度により文書数の増加スピードが変わります。
変化スピードが遅ければあまり増えません。小企業ではスピードが余り早くないのですが、
中企業、大企業になるにしたがって変化スピードは速くなり、文書数が1,000を超えるように
なると、文書管理システムを確実に維持するために1名の文書管理者が必要になってきます。

■□■ 文書数が1,000を超えると ■□■

文書数が1,000を超えると文書管理者には難題が持ち上がります。初期の段階では管理しやす
かった文書は、次から次へと文書がシステムに追加されるにつれて、管理が難しくなります。
まず新たに制定された文書と従来からある文書の重複の管理が難しくなります。
旧文書と新文書の重複の管理は文書管理者には無理で、文書発行責任者が追わなければならない
仕事です。新しい文書を追加するだけでは適切な文書管理とはいえず、旧文書との重複を管理
するという課題を管理しなければなりません。

■□■ 文書管理者の仕事 ■□■

文書管理者は、次のようなことに関して適切に応えなければなりません。

1.新しい文書は文書体系のどこに位置づけるか。
2.旧文書との重複はないか。
3.廃止文書はあるか。
4.文書発行責任部署はどこか。
5.配布先はどこか。
6.配布先に新文書が発行されたことはどのように知らせるか。
7.配布先に親文書を読ませる方法はどのようなものか。

品質不祥事に思うー標準化について3 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.174 ■□■    
*** 品質不祥事に思うー標準化について3 ***
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品質不祥事は今に始まったことではありません。
最近では、確か2000年から2005年くらいに懸けて大手企業で頻発しました。
なぜその時の教訓が活きなかったのか、これは深刻に捉えなければならないと
思います。
それにしては、日本社会の捉え方は軽すぎると感じるのは私だけでしょうか。

品質保証の基本に標準化という概念があります。
今回はA銀行という仮想の組織を例にして、標準文書の削減に取り組む方法を
考えてみたいと思います。

■□■見直しされたものを標準として規定 ■□■

標準化された仕組みでしばらく業務を推進すると、改善したいことが出てきます。
見直しをどの位の期間を置いて実施すればよいかは組織によって異なりますが、
3,4年に一回は全面的な見直しをしたいものです。

まず、既存の標準文書をチェックしましょう。
そしてさまざまな帳票類の見直しにまで踏み込んで業務そのものを見直しするのが
大切です。

たとえばスタッフの仕事は、一般に定期業務と不定期業務とに分けることが
できますが、まずは定期業務の見直しからスタートするのが常套です。
職場の全員に、まず担当している仕事を分解してもらい、それぞれの単位業務に
ついて次の質問をしてみます。

a.その仕事はやめられないか。
  やめたらどんな影響が出るか。
  形式的にやっているだけではないか。
  相手はそれをちゃんと利用しているか。
b.やり方を変更できないか。
  もっと簡単にやることはできないか。
  効率化する方法にはどんなものがあるか。
  IT化することができないか。
c.重複していることはないか。
  他部門でも同じ仕事をしていないか。
  統一することはできないか。

■□■ 見規定文書の見直し ■□■

組織のなかには、定款、株主総会、取締役会規則、あるいは就業規則などを定めた
基本規定に始まって組織規定から部門規定まで、経営、労働組合、関連会社、
安全衛生、処遇(賃金、退職金)、福利厚生、開発、品質と組織活動のあらゆる面での
規定が存在します。まず、これらの諸規定の見直しから始めます。

そのためには基本規定は別として、組織規定、部門規定について既存の標準文書を
一覧表にまとめてみたらよいでしょう。
まとめ方はいろいろありますが、文書類をすべて一箇所(例えば、体育館のように
広い場所)に集めて関係者で再認識してみると、10年も前に制定されたまま
放っておかれたり、既に現実には不必要になったものが出てきて驚かれると思います。

■□■ 帳票の見直し ■□■

効果のあるのが帳票類の見直しです。帳票類が増加する理由には次のようなことが
考えられます。

a.部門ごと類似の帳票が存在する。
b.製品の機種ごとに別の帳票になっている。
c.プロセスごと、部品ごと別の帳票になっている。

では、どのような対策をとればよいのでしょうか。
いろいろ対策になることは考えられるのですが、次のようなことを基本に帳票類の
種類の削減をはかったらどうでしょうか。

a.部門ごとに類似の機能をもった共通帳票に統一する。
b.製品機種、プロセス、部品などに共通の帳票にする。

■□■ 事業再編に伴う見直し ■□■

標準文書の整理で忘れてならないことが事業の再編です。
事業の縮小に伴い不要となる標準文書は沢山あります。
事業を拡大する時に標準文書が増えることをポジティブとすると、ネガティブな
局面での規定類の整理について考えなければなりません。

事業の再編という大きな変化ではなく、商品ラインアップの変更という日常的な
変化においても規定類の整理は忘れられています。
組織の運営を20年位のスパンで見ると,商品ラインアップは随分変わっている
はずです。
過去の商品に関する標準文書をそのままにしておくと、文書体系はあってない
ようなものになってしまいます。