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ISO 9004:2018の概要1 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.152 ■□■
*** ISO9004:2018の概要1 ***
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■□■ 箇条4 組織の質と持続的成功 ■□■

この箇条の原文では、”quality of organization”と言う英語が
使われています。qualityは、「製品・サービスの品質を意味する」と
言われてきましたが、組織にもquality(質)という概念は当然
あるわけです。他の使用例としては、「quality of life 人生の質」
などがあります。

人生とか組織とかは製品ではないので、“品”は取って“質”と
訳すのがよいかと思います。

さて、箇条4ではこの組織の質が持続的成功のカギであると
言っていますが、そのカギが何かは書かれていません。
それは組織が決めることです、と説明しています。

ただ、要素の一つとして利害関係者への対応が上げられており、
直接の顧客にとどまらず、それを超えて広く利害関係者を捉える
ことがよいとされています。

■□■ 箇条5 組織の状況 ■□■

箇条5は「組織の状況」というタイトルで、持続的成功を達成するための
組織の能力について触れています。組織の状況の意味するところは、
組織の能力に影響を及ぼす経営環境の変化です。

利害関係者のニーズと期待を考慮することは重要ですが、個々の
利害関係者のニーズと期待は異なりますので、整合を取ることが
必要です。

また、利害関係者のニーズ及び期待は対立したり、整合したり
あるいは急速に変化する可能性があります。

そのような変化を含んで長期にわたり利害関係者のニーズ及び
期待を一貫して満たすには、短期的及び中期的目標を持ち持続的成功を
達成する長期的戦略を構築することが必要です。

また、組織は外部及び内部の課題が明確にして、組織の持続的成功への
リスクを減少させ、又は持続的成功を強化する機会をもたらす活動を
する必要があります。

■□■ 箇条6 組織の個性(identity) ■□■

組織の個性の原文は、“identity of organization”です。
ここでは“identity”を上記タイトルのように「個性」と訳しましたが、
辞書を見ると「正体、素性、身元、同一」などの日本語が並んでいます。

組織の個性は、ミッション、ビジョン、価値観、文化に基づいて
その性格が決まります。
ミッション、ビジョン、価値観、文化は相互に依存しており、
それらはダイナミック(動的)なものと理解することが望ましいと
しています。

ここでは“culture”という英語が使われていますが、文化は次のものから
醸成されると説明しています。

・beliefs : 信念
・history : 歴史
・ethics : 倫理
・behaviours : 行動
・attitudes : 態度

トップマネジメントは,経営環境の変化に応じて、ミッション,ビジョン,
価値基準及び文化を見直すことが望ましいとしています。
持続的成功を達成する組織の能力にこの見直しは影響を及ぼす可能性が
あります。

■□■ 箇条7 リーダーシップ ■□■

リーダーシップは次の4つの細分箇条に分かれています。

 ・一般
 ・方針及び戦略
 ・目標
 ・コミュニケーション

当然のこととして、持続的成功を達成するにはトップのリーダーシップが
必須です。

ISO9004:2018に特徴的なことは、CSRのような社会的責任(SDGsを含む)、
就業生活の質、顧客体験価値などにポイントを置いているところです。

トップマネジメントの戦略について次のように書かれています。

「トップマネジメントは,例えばコンプライアンス(compliance),
品質,環境,エネルギー,雇用(employment),労働安全衛生,就業生活の質
(quality of work life),革新(innovation),セキュリティ(security),
プライバシー(privacy),データ保護(data protection)及び
顧客体験(customer experience)などの側面に対処することが望ましい。」

ここに、顧客体験(customer experience):カスタマーエクスペリエンス
という聞きなれない言葉が出てきます。”customer experience value”
とも言われ、顧客は商品・サービスの利用において、さまざまな「体験」を
価値としています。

VOC(Voice of Customer)よりもさらに進んだ顧客満足を向上させる戦略をいいます。
顧客は、単に商品・サービスを購入するだけでは満足しない、いまや店舗の雰囲気、
販売員の対応、ブランド商品を試着する、最高アイテムを身につける喜びなどの
体験を通じてその企業の価値を感じとります。

カスタマーエクスペリエンスこそが競合他社との差別化要因になるという戦略です。
VOCは顧客の生の声を聞いて一定水準の企業価値を目指す活動ですが、カスタマー
エクスペリエンスは「顧客の期待を上回る満足度」を提供する戦略です。

「箇条8 プロセスマネジメント」については、メルマガ次号で概要を
説明したいと思います。

附属書SLとトップのリーダーシップ | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.80 ■□■

*** 附属書SLとトップのリーダーシップ ***

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■□■附属書SLのおけるトップの役割■□■

フォーラムの続きです
(昨年テクノファ年次フォーラムでは附属書SLに関して、
有識者の方に集まっていただいてパネルディスカッションを
行いました)。

フォーラムの時の様子をお伝えしますが、
出席者の方の発言は平林の責任で編集させていただいています。

平林:
 次にトップマネジメントについてご意見をうかがいます。
 
 トップの存在なくしてマネジメントシステムの構築・運用は
 難しいとよく言われます。

 その一方で現実にトップが参画しているケースは
 どれくらいあるのか?、という話も聞きます。

 附属書SLにおけるトップマネジメントの位置づけも踏まえ、
 このトップ参画に関する課題に対してご意見をお願いします。

中條先生:
 まず、マネジメントシステムが成り立つ前提として、
 トッブの参画は当たり前でしょう。

 ただし、実際の運用では十分とはいえないケースが
 少なくない事実もあるようです。

 そういう中で、今回の附属書SLの中で
 トップマネジメントについてキーとなってくるのは、

 「4.1組織及びその状況の理解」と
 「4.2利害関係者の二一ズ及び期待の理解」だと考えています。

 ここでは「組織の状況や二一ズをしっかりと把握する」ことが
 明確に要求されています。

 箇条5のリーダーシップでは、
 「方針・目的を確立するときに、
  戦略的な方向と整合させるように作りなさい」と
 明確にトップが関わることを求めています。

 ですから今回の附属書SLの登場によって、
 現状よりよい方向に動くのではないかと期待しています。

■□■トップの関与はほっておけばよい■□■

中條先生:
 組織側の悩みとして、トップに参画してもらうのが難しい、
 といった声があるようです。

 こうした状況に対してどんな手を打つのか、
 いろいろ対策はあって、その一つとして、

 「トップが品質マネジメントシステムに関心を寄せず
  よそを向いているなら、そのまま放っておけばいい」と
 いう考え方もあります。

 トップが品質マネジメントに関心を寄せないなら、
 お客さんのニーズに応えていくことはできないので、

 そう遠くないうちに経営が破たんしかねない状況に陥る、
 その時になってようやくトップは気づく、という筋書きです。

 これはちょっと乱暴すぎるかもしれませんが、
 マネジメントシステムに関わることがいかに大切なのか、

 このテーマについてトップを教育すると言うとおこがましいですが、
 知ってもらう仕掛けや努力が重要だと思っています。

 トップの関与が浅いために不祥事や事故を起こしている
 企業の実例がいろいろあることは、マスコミ報道などで
 皆さんご存知でしょう。

 そういう話を挙げるなどして、トップに自身が関わることの
 重要性をまずは知ってもらえればと思います。

■□■ 附属書SLはすばらしい ■□■

吉田さん:
 トップが関心を寄せないなら「放っておけばいい」という
 今のお話に全く同感です。

 トップが関与しないと、ろくな成果が出るはずはないのです。

 附属書SLをどう活用するかですが、
 先ほど正当性に疑問があると言いましたが、
 それは規格開発の手続き論についてであり、
 中身に関しては、正反対の評価です。

 私は、1990年代前半から規格の共通化問題を
 日本代表として見てきており、

 いろいろな場の議論にも参加した経験がありますが、
 実際に附属書SLができて読んだときには、
 「よくぞここまでの内容が作れた」とたいへん感動しました。

 とりわけ、トップマネジメントの関与を
 強く求めている点にも惹かれました。

 組織の状況を踏まえてきちんと「戦略レベル」で意志決定を行い、
 「リスクと機会」という認識の下に、トッブが積極的に関与して
 組織をうまくマネジメントしていく一連の考え方、
 
 これは経営の基本的なことですが、まさに今の時代に
 最も適したフレームワークだと感じたのです。

 このようなしっかりしたフレームを与えられた中で、
 EMSやQMSを運用できるのはとてもハッピーなことだと思います。

■□■トップが自らやることは何か?■□■

平林:
 現状のISOマネジメンシステム規格においても
 「マネジメントにおいてはこのあたりが重要なことですよ」
 として、要求事項として明確にしているにもかかわらず、
 なぜトップは興味を示さないのでしょうか。

高取さん:
 難しい質問ですね。

 トップマネジメントがやるべきことは、
 ISO要求事項にあることだけではないからです。

 企業が存在していること自体が、
 トッブとしてやるべきこと、日頃を企業経営を通して
 日々実践してきた証といえるはずです。

 このトップマネジメントの関与の重要性については、
 附属書SLの第5章のリーダーシッブで

 「トップマネジメントはこうしなさい」と書いてあり、
 「組織が何とかしろ」とは言っていません。

 ここはトップが、自らやりなさいという要求事項になっています。

 従来のマネジメントシステムの構築・運用の問題としては、
 仕組みを作る際、マネジメントレベルまでは、

 何となく関与してもらい作成はできるのですが、それをうまく
 現実の企業経営に反映できていないことが上げられます。

 逆にいうと、運用面で日々の業務プロセスにいかに組み込むか、
 ここを強く意識する必要があるわけですが、
 トップの関与がここではキーになってくると思います。

 トップマネジメントの関与に関係しますが、
 第三者から指摘されても、「規格は○○を要求しているが、
 自分たちはこういうふうに解釈して作り込んだ」と、
 トップ自身が言えるような仕組みにすることが大切でしょう。

以上