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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.123 ■□■
*** ISO37001 ***
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■□■ 企業の人権侵害を世界が監視 ■□■
海外ビジネスの現場で企業の人権侵害に関する圧力が強くなっ
ています。人権団体は「途上国での過酷労働を助長している」と
して、先進国の企業を相次ぎ批判し、不買運動も起きています。
国連は企業の人権侵害に関する責務への指導原則を策定しま
した。一般にこのテーマに関する日本企業の危機感は低く、専
門家は東京オリンピックを控え経営を揺るがしかねない事態も起
こりうるとして警告しています。
■□■ 国連「ビジネスと人権に関する指導原則」 ■□■
国連は2011年ハーバード大学ジョン・ラギー教授が中心となっ
て「企業には人権を尊重し保護する責務がある」として「ビジネス
と人権に関する指導原則」を纏め、人権理事会において全会一
致でこの原則を採用しました。
人権はかっては国家の問題でしたが、多国籍企業の影響力が
高まり、今では企業も責任を負うべきであるという国際合意が出
来上がっています。
■□■ 欧米の法規制 ■□■
欧米では、企業活動による人権侵害を防ぐための法律が次々と
生まれています。アメリカでは、カリフォルニア州で2012年「サプ
ライチェーン透明化法」が施行されました。これは、企業が一次
取引先に対して過酷な労働を強いることがないように求めていま
す。
イギリスでは2015年「過酷労働防止法」が制定され、現代の奴
隷防止法であると言われています。これは、一定規模以上の企
業に対して、人権侵害の予防策を取締役会で承認することを求
め、それをウエブサイト上で公表することを義務づけしたもので
す。公表を怠った企業には罰金を科す規定も盛り込まれていま
す。
■□■ 日本での企業の人権問題 ■□■
2015年「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングは、中国に
おいて下請けの過酷労働を人権団体から批判されました。
「人権の尊重は指導してきたが、人権団体は我々の気が付かな
い点までも調べていた」と同社の新田幸弘執行役員は話してい
ます。
2011年には日立製作所が東南アジアの下請け工場での過酷労
働を問題にされています。
また日産自動車は2012年ブラジル企業との間での調達で企
業責任を問われています。
■□■ 日本における法的規制 ■□■
日本には、まだ企業の人権問題に特化した法律はありませんが、
2015年に導入された、コーポレートガバナンス(企業統治指針)
では、株主以外のステークホルダーとの適切な協働を求め、グ
ローバルな社会・環境問題への対応に注意を促しています。
その他、サービス残業、最低賃金、男女差別、同一労働・同一
賃金など企業の従業員、下請けへの一層の配慮を求める動き
が強くなっています。
■□■ 贈賄防止マネジメントシステム規格 ■□■
表題に掲げたISO37001は企業の人権問題に関係するものとし
て注目されます。この規格は企業の贈収賄を防止するためのも
ので、「贈賄防止マネジメントシステム規格
(Anti – bribery management systems standard )と呼ばれるも
のです。
日本ではあまり知られてきませんでしたが、海外では頻繁に起
きる贈賄事件に対して、企業への法的規制が各国で打ち出され
てきています。ISOではそれらに関連して自主的に贈賄防止のマ
ネジメントシステムを構築する基準を作成する活動を開始し、現
在ではDIS(国際規格原案)の段階まで規格の開発が進んでい
ます。
■□■ 各国の贈賄防止法的規制 ■□■
海外における贈賄防止に関する法規制で代表的なものは、アメ
リカの不正(腐敗)行為防止のための法律「米国海外腐敗行為
防止法(FCPA)」です。
またイギリスにおいては「英国贈収賄防止法(UKBA)」が成立し
ています。
日本企業は、グローバル展開に伴いこれら海外の贈収賄防止
法を知っている必要があります。ただ、知るだけでなく、海外従
業員を含め、贈賄行為を決して行わない倫理を組織内に継続的
に徹底させていく必要があるでしょう。